大爆発の伏線
控え室の札のかかる部屋。確か昨日は没収品即売会の札。
緊張の面持ちでエポナは審議開始時刻に備る。
「エスス判事補、資料だ」
ガルムがファイルを抱えて入室。うなずく。ガルムがファイルを開く。
「昨日説明した通り、三件審議を行う。一件目は架空の審議、芝居だ。只作業の確認。二件目は」
「既決審判の判決文の朗読と文書作成だけ」
細い肩にガルムの重い手が載る。
「そう、巡回判事は記録も独り。他の五人は記録官上がりだしエスス判事補は、記録官兼務は体験済みだ、問題ない」
「三件目が本番」
「今までの経験、活かせ。だが慌てるな」
「はい」
なにか悪戯か冗談を言うと思っていた。
「行きなさい。君の掴むべき明日が待っている」
「……はい、副主任」
「先輩でいい、この刹那は」
ガルムが常時こんな調子なら、もしかしたらグラっと来るかもしれない。しかし、
「旦那様、ポポちゃ大変っでぇすで」
ノックなしの闖入者。ガルム子爵家使用人のサッロペが血相を変えて駆け込んだ。
「お前、言葉がおかしいと以前から言ってるだろ……で?」
「緊急でかっっつじゃなくて」
噛みカミ。
「自分の言葉で報告しろ。緊急“且つ”か?」
「それですぅ。『緊急かつ匿名の審議に変更されたし』と。これ、指令書でぇ」
その文面提示すれば良くない?
「貴賓判事の署名があっては拒否できないな。ポポ、第四小法廷に移動だ。時間がない、急ごう」
少しだけ安堵。緊急で担当する案件の資料が今手元にないのは不安だけど。
「ああポポちゃん、荷物は俺が」
「お願いするね」
「ポポ、走るぞ。抱っこしようか」
「蹴りますよ、先輩」
「副主任だ」
ロマンスとは随分高い障害らしい。僅かな間で普段のエポナとガルムに戻った。後は全力疾走。
第四小法廷到着。
サッロペから荷物を受け取ったエポナとガルムが入廷すると、既に着席した判事たちの視線を浴びる。昔エポナの指導教官だったカペラ・キース高等判事以外は見知らぬ人。もちろん全員黒衣、法服、判事。
傍聴席に座る年季の入ったーーカペラ以外ーー先輩たちと目前の手摺にーー実際は被告や証人を守る柵だがーー『村人・見物人』の張り紙がある。 あくまでも巡回判事としてエポナが独りで審議を進行決裁する手際を採点するために居る。
「まったく十一歳で司法院研修所試験を合格して三年で卒院した天才だと聞いていたが、こんなチビだとはな」
ある“村人”。司法に身体の大小は関係ない。
「一同、被告入廷します」
法廷警吏が声高に告げる。急いでエポナは裁判長席に。ガルムは、ナゼか村人たちの奥に立つ。
ほぉっ。
迂闊にため息が漏れる。息を飲み込んだ沈黙が緊張感なく続く。




