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第5話.トジの快諾?




『い・や・だ! ざけんな!』


 ラーセが台所で食事の準備の続きをしていると奥から大きな声が聞こえてきました。トジの声です。


「今の、トジ君、ですか? 何か怒ってないですか? ミウさんだけに任せないでやっぱり私も直接頼みにいった方がいいのでしょうか」


 ノリおじさんは、邪魔にならないようにキッチンの隅っこに椅子を置き、そこに小さくなって座っています。リビングでくつろいでいてと言ったのですが、ここでいいと、遠慮します。


 食事の準備をしているラーセは、心配そうなノリおじさんに抑揚無く答えます。


「らいじょうぶ。ひつものほほなのー」


「二人は……仲悪いの?」


「ううん。仲いいよ、しゅっごく」


「……そ、そうですか」


 ラーセは手際よく料理しながら、つまみ食い……味見しながら、オロオロするノリおじさんと会話をしています。ノリおじさんはその手際の良さと、楽観的な会話と、そして奥から聞こえてくるどなり声に、意識はどっち付かずでオロオロし続けていました。


「らいじょうぶ。はひ、おほとふ」


 そう言って料理途中の芋を煮込んだもの一つを串に刺してノリおじさんに渡しました。


 ノリおじさんは小さくため息し、ホッと微笑んでそれを受け取りました。




「なんで。いいじゃん。お父さんまだ帰って来ないんだし、あのソリ操れるかもしれないのはお兄ちゃんしかいないし、明日バイトも休みなんでしょ?」


「俺はソリを一人で動かしたこと、ねえんだって! だ、第一、なんでその孤児のために俺がそんなことしなきゃいけないんだ!」


「だから孤児じゃないんだってば、お母さんが生きてたの、見つかったの!」


「あー、だからなんでそいつのために俺が面倒なことしなきゃいけないんだって言ってだよ」


「その孤児の為に出来ることがあるのが、今は、お兄ちゃんだけなんだってば!」


「孤児じゃないんだろ?!」


「言い間違いー。そんな言い間違い、どうだっていいでしょ」


「いやいやいやいや、その子にとって孤児かそうでないかは大きな問題だろ」


「だから今はそんな問題を言っているんじゃないの! お兄ちゃんしかいないんだってば」


「あのなぁ、お前だってソリの操り方は知っているだろ」


「だって、あんなシカのコントロールなんて私には出来ないよ!」


「シカじゃねえ、トナカイだろ」


「なによ、同じ偶蹄類(ぐうているい)じゃないの」


「なんかむちゃくちゃだなお前。俺だって一人じゃ動かしたこと無いって言ってんだよ」


 トジはベッドの上で横になったまま、ミウは部屋に入ったところで始まった会話は、やっぱり口ケンカになっていました。


 いつの間にか、ミウはいつも通りトジの目の前まで移動していました。ミウの頬はパンパンです。


「で、行ってくれるのくれないの?!」


 ミウは寝そべっているトジを上から見下ろすようにそう大きな声で言い放って、しばらくの硬直、しばらくの静寂が訪れました。


「……あーわかった、わかった。責任はお前が取れよ! はぁ、もう、わがままなんだからよー」


 トジはそう言いながら、ムクッと起き上がりベッドから下りました。そして並んで立つミウと、少しの間にらみ合いが続き、「ふん」と鼻で息を吐き、扉の近くの衣類の積んである棚のほうにドシンドシンという足音を立てながら進んで行きました。


 ミウはそちらのほうを見ずにアゴを上に突き上げ、


「へーん、わがままで、わるいぃ~~~」


 『い~』という顔のままミウが振り返ると、トジの横にはノリおじさんも立っていました。


「あ」


「……えっと……」


 ノリおじさんの困った行き場の無い視線と踊る手が、ミウには妙におかしくみえました。


「ご、ごめんなさい。フフ」


「ど、ども」


 ふて腐れながらも外出の用意をするトジを見ながら、ミウはノリおじさんに報告です。


「ご覧のとおり、快諾してくれました」


「あ、ありがとうございます……」


「はーっ」


 トジの聞こえるように大きなわざとらしいため息。ノリおじさんはちょっと不安に感じました。


「どうなったって知らねぇからなぁ。一人で動かしたことねぇんだからな」


 かなり大き目の独り言はノリおじさんの不安を更に高めました。




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