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最終話.クリスマスの兄妹




 多くのソリが空を舞うという、今まで誰も見たことのない情景を見届けた人々も落ち着きを取り戻し、またいつもの賑やかなクリスマスの深夜に戻っていきました。


 まだ外で騒いでいる人々、疲れて眠りにつく人々、静かに語らう者もいます。


 この時期珍しくも無い雪の舞い振る空を見上げる者はもう居ません。




 そんな静かな空を一匹のトナカイと一台のソリがゆっくり、フラフラと飛んでいました。


「やっと終わったねー」


「ああ」


 トジは相変わらず肩に力を入れて手綱を握っています。いまだ安定した走りをしてくれないアルですが、なんとか目的に向かって進むことと、止まることが出来るようにはなりました。


 そして、ミウが届け係になり、出遅れたサンタクロース達は予定通りの数だけの贈り物をすることができました。


「お届けがこんなにかかったのは、史上最おそ(・・)だね、きっと」


「ま、今年は朝日が出るまで『イブ』ってことでいいんじゃないか」


「うん、そだね。でも、全部、配れたよ……」


「……よかったな……」


「うん」


 トジは相変わらず後ろを振り返る余裕はほとんどないようです。ミウはその必死な後ろ姿をソリの一番後ろに座り、静かに見つめています。その手に握られた空っぽになったプレゼントの入っていた白い袋が風になびいていました。


 ソリの下を覗くと、はるか下……真っ白に雪化粧した針葉樹林の間にぽつぽつと窓の明かりが見えています。


「……ほんとに飛んでいるんだ……」


「あ、なんか言ったか?」


 ミウのつぶやきはトジの耳には届きませんでした。


「……ね! お兄ちゃん!」


 ミウは前を向いているトジにも聞こえるように、今度は精一杯の声を上げました。


「なんだ?」


 トジも負けずに大きな声です。


「ソリ、飛ばしたことなかったんだよね! よく出来たね!」


「ああ、やったことなかったよ。でも、やったことなければ今日から始めればいい……だろ?」


 なにかへたくそに気取ったトジの言葉に思わず『ぷっ』とミウは吹き出してしまいました。


「な! なんだよ、ミウ!」


「……お兄ちゃん、それもラーセが言った?」


「あれ?……なんで分かった?」


「お兄ちゃんが絶対そんなこと思うわけないもん!」


「……へいへい」


 トジはそう言いながら肩をすくめました。


「ふふふ」


 なにもないこの空中で、しばらくはアルの息遣いだけが響いていました。


 雪もいつの間にかすっかり止み、それを降らせていた灰色の雲も姿を消していました。代わりに雪の白さにも負けない多くの星が空を覆っていました。それは地平線まで続き、いつの間にか街の明かりが星を演じています。白と黒だけでこれだけ綺麗な絵が書けるものでしょうか。


 ミウはソリに揺られそれを見ているうち、なにか段々こみ上げてくる物がありました。今、こうしていることが信じられないことに感じてきました。心のどこかで願っていたことですが、それは諦めと言う殻の中のはずでした。


「やっぱり今日はクリスマス。どこかで信じていれば、願いは叶うね」


「ん? なんだ、ミウ!」


 急に出たその言葉は、トジには聞き取れなかったようです。


「ううん。なんでもない」


 そう言いながらミウは操縦しているトジの真後ろまで四つん這いになって移動しました。


「わ! な、なんだよ」


 突然肩を触られたトジはびっくりした様です。


「へへへ」


 ミウはそうハニカミながら狭いソリの最前席で手綱を握るトジを右に押し、その僅かな隙間に肩をすくめて膝を抱えて座りました。やっとお互いの表情が見えるようになりました。


「せ、せめーよ」


 トジは寒さのせいか、顔と耳が真っ赤です。手綱を持つ手とアルのお尻と左に座るミウの顔と、忙しく目を動かしています。


 ミウはそれを見ながら……


「……ね、なんでやろうと思ったの? やっぱり、ラーセの言葉?」


 その問にトジは視線を前に向けたまま首を傾げました。暫くそのまま……答えをまとめているようでした。


 ようやく首を戻したと思うと、淡々と話し始めました。


「ま、なんだ。ラーセの言葉だけじゃない。あの時のミウ、お前の手紙も結構引っ掛かってたんだぜ、ずっと。……それをラーセとミウが切っ掛けを作ってくれただけだ」


「……私の手紙って?」


「あ? ほら、父さんがケガした次の日だったか?! 俺の上着にこっそり入れておいただろ? あれ、結構考えたぜ。あの時は、無理矢理ソリに乗せた上に、言いたいこと書きやがって、なんて思ったけどな」


「……私、手紙書いてない……」


「え?」


 しばらく、静寂が訪れました。


「「あー」」


 トジとミウ、同時に声をあげました。


「「ラーセだ!」」


 二人は静かな夜空の真ん中で大笑いをしました。


「あははは」


「はははは、くそー、ラーセのやつめ。やりやがったな。はははは」


「ラーセが私達のサンタクロースだね」


「はははは、そうかも知れないなぁ」


 ミウは笑いながら心の中で『私のところにあったお兄ちゃんの手紙もきっとラーセの仕業ね』と思いましたが、差出人は誰でもいいです。今はトジの操縦するソリの荷台に乗って夜空を飛んでいるだけでいい、そう感じていました。




 トジとミウが家に帰ってきたのは、東の空がうっすら白けてきた時でした。


 今日は晴れるでしょうか。二人はその日、病院で話すことをいっぱい考えながら短い眠りにつきました。それは父へのクリスマスプレゼントなのです。




☆おわりなの☆






ラハサティ物語~イブの兄妹~、最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。


ラハサティ物語は、第2部、~ミウの初恋~に続く予定……。


see you...

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