第15話.遅く起きた日
昨日から降り続いた雪も、太陽が昇るころには止み、とてもいい天気になりました。この時期にしては温かく感じるぐらいです。
しかし、珍しくいい天気の日に、まだベッドで眠っている女の子がいました。ミウです。
ギギ
寝ている部屋からちょっと離れたところで木がきしむ様な鈍い音がしました。同時に部屋の壁も『ギッ』と少し鈍い音を立てます。
誰かが玄関の重い扉を開けたのです。玄関を開けると外と中の温度差から、空気が大きく動き、所々できしむ音をあげるのです。
その僅かな音でミウは目を覚ましてしましました。部屋にある小さい窓から眩しい光が部屋の中に入り込んで飛び回っています。もう寝ていられるはずがありませんでした。
「もう少し寝ていたかったなぁ」
そうあくびをしながら諦めて一度起きることにしました。
廊下に出てみると、トジの部屋は空っぽ……すでにトジの姿は家の中にはありませんでした。代わりに、戻して焼いた干肉、乱雑に棒状に切った野菜、ドライフルーツ、そして一人分にしてはちょっと大きいパンが台所に並んでいました。
「ふぁ~。これから、何か料理するって感じかなぁ?!」
あくびしながら、トジが用意した朝食を寸評しました。今日もバイトでしょうか……さっき玄関の扉を開けたのは、やっぱりトジだったようです。
「ふう。しょうがないよね」
その朝食を横目に見ながら苦笑いです。
パンを少し暖炉の火で焼き、そこに干肉と野菜を刻んで乗せ、軽くオイルを回しかけます。
「いただき……ます」
誰に言うでもないその言葉は非常に小さく寂しげでした。そしてリビングで一人立ったまま、それを頬張りました。もしかしたら昼に一度ラーセが病院から帰ってくるかも知れませんが、今は家にミウ、一人です。
「お母さんがいた時は、……今頃、五人でお父さんを手伝いしていたんだなぁ……あ、ラーセはまだちっちゃかったか……」
少し遠い目でリビングを見渡します。小さい窓からの光で十分に明るいリビングです。おそらく目を閉じると4人が目に浮かんでくることでしょう。そう思うだけで少し涙が出そうになります。
「よ、よし! もう、準備、始めちゃおうかな!」
まだ完全に開き切っていなかった眼を思いっきり開き、家に響きわたるように元気な声を出しました。その大きな声に暖炉の小さな炎はちょっとびっくりしたように揺らいでいます。
まず、リビングの小さい窓を押し開け、手を外にかざしてみます。
「うん。まだ、寒くないね」
次にパジャマの上から厚手のコート着込み、細長い厚手の布を首に巻き付けます。今はこれくらいの格好で大丈夫そうです。
「さてと」
そう言うと玄関に行き、靴を履き、重い扉を押し開け外に出ました。向かう先はもちろんアルの小屋です。
カチャカチャ
ギ~~~
「おはよう……アル!」
アルの小屋の扉の上半分だけを開きました。開くのがわかるのでしょう。開けるといつもアルの顔は目の前にありました。もちろん今日もです。
ふと小屋の中を覗くと、アルの足下に大きなボウルが落ちていました。
「ご飯は……あ、よかった。お兄ちゃん、ちゃんとあげてる……」
「ブフフフ」
アルは小屋から頭だけ出し、大きく上下にゆっくり振ります。大きな角がその動きをより大きく見せます。おかげでボウルを取ることが出来ません。
このアルの行動の意味がわからないミウは、とにかくアルの動きにあわせて膝を使って大きく頭を上下させてみます。でも……
「ブブブ」
鼻を鳴らし歯茎を見せてきます。その顔はちょっと怖く見えました。
「ひゃっ……。もう、アルったら……やっぱりダメだよね……」
毎日挨拶しても、ご飯をあげた時も、結局最後はなんかアルに怒られてしまう様に感じるミウなのでした。
「じゃ、また夕方ね」
そう言いながら投げキッスして扉でアルの顔を押し込むように閉めます。もちろん、扉以外にも窓があるので、中は真っ暗にはなりませんが、やっぱりこの閉じ込める感覚は何度やってもミウは慣れません。
アルの扉を閉めた後は、横の物置の扉を開けました。
普段は大きなソリも小さなソリも壁に立て掛けてあるので、中は広く感じますが、今日は、小さいソリをもう引っ張り出すだけでいいようにしてあります。そして、残りのスペースは大きな白い袋の山です。もちろん普段無いものです。
その山を見て、ミウは小さくため息をもらします。
「……ふぅ。これ、全部は無理……だよぉ」
ちょっとだけうなだれます。でも、次の瞬間、両手をギュッと握り、口をキュッと閉じ、その白い袋の山を睨みます。
「やれるだけやるしかない!」
そう言いながら、しばらく山とにらめっこをしていました。もちろん、双方笑わず、引き分けです。
その後、持って行く白い袋の整理と確認をしました。一度に持っていけるのはほんの僅か……。最後に大きなため息をつきながら物置の扉を閉め、鍵を確認しました。
少し伸びをした後、一度表の道に出てみました。
「うん、このままならソリは引きやすそう」
ほとんど足跡もなく、とても綺麗な新雪が道を覆っています。今が暖かいせいでしょうか、なんだか道がふわふわの綿で覆われているように見えとても暖かそうでした。
「大の字で飛び込んでみようかしら」
そう思いながらも、昨日までの特訓の成果を見せる時が刻一刻と迫ってきていること感じ、すこし、背中がプルっとしました。
「これが、む、武者震い?!……初めてかも」
ほんとに武者震いなのかわかりませんが、今は、そう思うようにして、一人照れながら、家に戻って行きました。
そして自分の部屋で上着を脱ぎ捨て、そのまま目に飛び込む光をさえぎるようにベッドにうつ伏せになりました。
少し息苦しいせいか、小さな胸のドキドキがなかなか止みません……。どこか、ほんの僅か、夕方までに父かトジが帰って来ることを願っているのが自分でもわかりました。でも……。
色々考えていたミウですが、幸い少しだけ眠ることが出来たようです。




