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第14話.トレーニング

 次の日、ミウはいつもより早く起きました。そしてロウソクの明かりを頼りに、パジャマに一つ羽織っただけで朝食の用意を開始しました。


 その内起きて来るだろうトジの分も一緒に用意します。でも、台所で用意しながら先に自分だけ食べていまいました。


「どこまで出来るかわかんないけど、ううん、どこまで出来るか練習しておかなきゃ……」


 そう、干し肉を戻してパンに挟んだだけのサンドイッチをほおばりながら気合の入るミウです。


 この時期、日の出ている時間は短いです。日の出日の入りにあわせて生活してたら、何も出来ません。


「お兄ちゃんは、太陽にあわせているみたいだけどね」


 そう鼻息荒く、一人分の朝食を台所に残し、ミウは再び自分の部屋に戻りました。


「よーし!」


 気合いを入れて、パジャマを脱ぎ捨てます。家の中とはいえ、下着だけでは少し肌寒く感じます。でも、今のミウには暑くすら感じていました。


 まず、薄手のスウェットのような生地で作られた室内用の服を着ます。これなら動きやすいですが、これだけではまず外の寒さに耐えられません。


 その上に、細かい目の生地に目地に、針葉樹の種を詰まらせて植物の粘液で定着させることで、まったく風を通さないようにした布で作られている、ちょっと高い服を重ね着しました。


「ダイエット用に買ってもらっててよかった」


 ちょっと味気のないデザインの服ですが、女の子用ということで淡い赤が基調の服です。下に室内着を着ているので、ちょっとモコモコ感はありますが、動き安さと防寒対策を考えると、これが最善の服装でした。




 のっしのっしとミウは玄関に向かいます。途中のリビングの暖炉でちょっと上の服をめくり、室内着に少しでもと熱を蓄えます。


「うん、ちょっと熱くなって来た」


 そう暖炉の火に向かって呟いた時、家の奥の方から『ドスン』という音が聞こえてきました。おそらく、トジが起きて勢いよく立ち上がった音。


 ミウはさっきまでの気合いの入ったやる気満々の顔から、ちょっと不機嫌そうな顔になります。


「だめだめ、お兄ちゃんは関係ない」


 そう自分に言い聞かせ、また、気合いを入れ直し、服を元に戻しながら、玄関に向かいました。


 玄関にかけてあった細長い厚手の布を手に取り、それを首に巻きます。そして靴を履き、玄関の扉を肩も使いながらゆっくり押し開けます。少し開いた扉の隙間からは予想通り、一瞬で水が氷になるのではと思うような冷たい風が入り込んできます。思わず声も出ます。


「さふ」


 最低限扉を開けその隙間からスルリと外に出ました。玄関が開いたことはおそらくトジにもわかったはずですが、特に反応はありません。




 ミウが外に出るとちょうど朝日が目の前の通りを右から照らし始めました。真っ白で平坦なキラキラした道に早変わりです。雪は止んでいるのですが、少しの風で、まわりの針葉樹に積もった粉雪がキラキラと舞って落ちてきます。


「わあ」


 この現象はこの辺でも毎日見れるものではなく、『小雪の妖精』と呼び、縁起のいいものとされています。


「小雪の妖精が応援してくれている!」


 ミウの出した声は一瞬で白くなりそしてすっと消えていきます。その白い中に舞い落ちてきた『小雪の妖精』はスッと飲み込まれて一緒に消えていきます。




 まず、アルに挨拶のため、『小雪の妖精』が現れない、日の当たらない、裏へ向かいます。


「出来れば、アルと一緒に行きたいんだけどなぁ」


 ちょっと甘えた声でお願いしながら、アルの小屋の鍵を開け、上部の扉を開きました。


「アル~」


 そうやさしく呼んでみましたが、アルは薄暗い小屋の一番奥、家からの熱が伝わってくる小さい通路の目の前のわらが敷いてあるところで横になり、顔だけもたげてミウを見ています。動く気配はありません。


「……だめかぁ」


 言うことを聞いてくれる雰囲気はありません。なぜか『女』にはなつかないことはわかっているのですが、それでもやっぱり残念でありません。


「お邪魔しました~」


 男のトジでさえあの程度しか扱いしか出来なかったのです。ミウはアルの顔と態度、そうそうに諦めるしかありませんでした。




 アルが無理と言うことは想定の範囲内。そうミウは切り替えます。直ぐ隣の扉のもの入れを開けます。


「荷物を運ぶためにソリは必要となんだけど、アルのソリはやっぱりでかいなぁ……あ」


 アルのソリは、ノリおじさんら、大人三人乗ることが出来ましたが、その分ソリ自体の重さも相当なものです。それを引っ張ることは難しいと思っていました。しかし、大きなソリの奥にふた周り小さいソリを見つけました。


「昔、お父さん、お母さんに引っ張ってもらって遊んでたやつ……」


 今回は人が乗るわけではありません。ミウが引き、プレゼントを乗せるために使用するのです。乗せられる量は相当少なくなりますが、元々父と同じノルマは無理なのはわかっているのです。なので「これで十分」、そうミウは頷きました。


    ギ~~~

 

 その時玄関で扉の開く音が聞こえました。雪が音の大部分を吸い込んでしまいますが、その音はすぐにわかりました。


 道の方を見ているとトジが出掛けて行くところでした。厚手の上着を着て、目の直ぐ下まで細長い厚手の布でグルグル巻いているのがチラッと見えました。バイトのはずです。


「はぁ~~~~~」


 ミウは気にしないようにしながらも、トジの姿を見ると、どうしてもため息をついてしまうのでした。





 さて、荷物を運ぶソリは何とかなりそうです。もう一つの問題は、どうやって煙突から入るか、です。


 父は空飛ぶソリでそのまま煙突に近づきます。ミウに空飛ぶソリはありません。




 まずは自分の家で練習です。




 家に必ずある煙突。その煙突には、二つの特徴がありました。一つは煙突検査用に煙突の外部に付いたレンガの突起です。つまり、家の外から壁を登って行こうと言うのです。


「普通は爪の付いた専用の階段をかけて登るんだけど、そんな階段、持ち歩けないしねぇ」


 そう言いながら持ってきたのは、ピッケルのような道具。それを両手に持ち、突起物に引っ掛けゆっくり登っていきます。落ちてもいいように足元には周りの雪をかき集めておきます。


「お、いけそう」


 両手のピッケルのようなものを交互にレンガの突起に引っ掛け少しずつ登っていきます。足もレンガの突起に引っ掛けます。


「ふう」


 自分でもびっくりするぐらい、簡単に登ってしまいました。


「これならなんとか!」


 ミウは煙突に立ち両手を上げ伸びをしながら、『小雪の妖精』と一緒に小さくガッツポーズです。




 後は煙突を入り、真下からの炎に多少ビビりながら、煙突の途中の管理用……クリスマスの時はサンタ用ですね……の小扉で家の中に入れます。これが煙突の二つ目の特徴です。


 恰幅のいい父でも通れる通路なので、小柄のミウには問題はありません。


「これで、なんとかなるかな」


 何度も繰り返し練習しました。やっているうち、煙突を出て降りる時用に足元の雪は多めにするほうがいいこともわかりました。


「本番の日まで、何回も練習しておかなきゃ……少しで多く回れるように……」


 そう言うミウを、開けっ放しだった小屋から顔を出したアルが不思議そうに見ていました。




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