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第9話.ランプの下の手紙




 次の日は久々によく晴れた比較的暖かい日になりました。しかし雪が全部溶けるほどではありません。日の光が直接当たっているところだけ、ちょっと雪が溶けますが、日陰になるとすぐまた凍ります。そのためよく滑るようになるのです。


 でも、晴れているとか、暖かいとか、滑りやすいとか、ミウには関係がありませんでした。なぜならまだ部屋で寝ていましたから。




    コンコン


「お姉ちゃん、起きてる? 『フリクの家』に行ってくるよ」


 その声を聞いたのは多分、朝です。小さい声の主はラーセです。


「うん、気をつけて」


 ミウは声だけで応答しました。


 窓にかけられたカーテンは、だんだんと明るくなってきた外の色を隠すことはできません。まだ、ミウは起きていました。眠っていなかったのです。昨日のことが引っ掛かって眠れなかったのです。


「お兄ちゃんに謝るべきかな。それとも……誤解だけでも、ううん、誤解、じゃないよね。私の作戦通り……だもん。どうしたらいいんだろう」


 ミウは昨日からベッドの中で一人で答えの出ない問題に頭を悩ませていました。疲れて眠ってしまったのは、日が完全に昇ってからでした……。




 ミウが起きた時、外はもう暗くなり始めていました。この時期、日の出ている時間は結構短いです。結局日が出ている間、ずっと寝てしまっていたようです。


「あれ?」


 ミウの部屋のランプが灯されていました。寝る前は消しておいたはずです。


「ラーセ?! もう帰ったの?」


 ミウはまだ眠気が残る目をがんばって開き、体を起こしました。


 そして、ランプを消そうと近づくと、下に昨日はなかった紙が挟まっていました。ミウはその紙を手に取り見た途端、一気に目が覚めました。


「お、お兄ちゃん……?!」


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ミウへ


 昨日の晩はゴメン。ちょっとやり方がいやに感じたから。でも、


届けた時、喜んでくれた時の気持ち、あのソリの楽しさ。まだ一


部だけど、まだ時間がかかるかも知れないけど、なんとなく父の


やっていることを理解していけるかも知れない。


一応御礼を書いておく。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -




「お兄ちゃん……よかった」


 手紙を両手でぎゅっと抱き締めている上に涙がこぼれました。なぜ? 嬉しいから? 多分、それ以上のなにか……。




 ミウが何度もその手紙を読み返している間に、すっかり夜になってしまいました。静かすぎるこの家には誰もいないのでしょうか?


「ラーセ? 帰ってないの?」


 ミウはそう言いながらラーセの部屋、リビング、台所を見回ります。誰もいません。まだ帰っていないようです。トジも出掛けているようです。


「静か……」


 その静けさは、寂しさとなり、手紙の喜びの感情を打ち消し、あり余るものでした。そして寂しさは、嫌な予感を呼び起こし、……それは、当たることになるのでした。




 ラーセの帰りが遅いようなので、ミウは久々に夕食を作ろうと準備を始めました。ラーセのスクールは家から近いこともあり、平日はいつも家事を任せてしまっています。


「休みの日ぐらいは、やらないとねぇ」


 静かな家の寂しさを吹き飛ばす様に、独り言を多く発し、明るく準備を始めます。


「あ、さすがラーセ、下ごしらえしてあるのもあるー。うんうん。なるほど、あれを作るつもりだったのね。お姉さんに任せて置きなさいっ」


 台所の隅の床下には、地面を掘り抜き周りをレンガで固めた小さい地下室があります。レンガは直接土に接しており、十分冷える冷蔵庫になるのです。そこへ通じる階段は少し厚手の床板で閉じられています。


「よっこいしょ」


 その厚手の床板を持ち上げ、壁に立てかけます。冷蔵庫には窓もなにもないので、空気の流れはありませんが、さーっと足元から冷気があがってくるのがわかります。


 急いで短い階段を下り、必要な材料を持って上がります。そして、すぐ重い床板を閉めます。そうしないと部屋は冷えますし、冷蔵庫の中も温まってしまいますから。


「ふふん」


 料理はいつもは妹にまかせっぱなしですが、ミウも出来ないわけじゃないのです。昔はミウのほうが手伝っていたのですから……。




 料理も進み、さて、メインディッシュを……という時、ミウの手が止まりました。そのミウの手の先には、鳥のもも肉でしょう、それが四つならんでいます。ミウ(自分)の分とトジ()の分とラーセ()の分と、そして……。


「お父さん! お父さんは!?」


 その次の瞬間、玄関の重い扉が開きました。玄関を開けると風が変わるので、台所にいてもすぐ分かるのです。


 ミウは慌てて玄関が見える位置まで走りました。


「お父さ……、お兄ちゃん!?」


 その玄関にはミウの期待とは違う人がいました。兄のトジでした。しかし、ガッカリする間はありませんでした。そのトジの疲れきった表情、粗い息遣い。そしてその言葉……。


「はあ、はあ、はあっ。ミ、ミウ。父さんが……」


 ミウは、そこまで聞いた時にふとなにかを思い出しました。




 この感じ、この展開……。




 その記憶がミウの気を奪い去るように、その瞬間ミウはその場に倒れ込んでしまいました。




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