1章:世界の仕組み―選定
1章:世界の仕組み―選定
…汝に今より世界の鍵を与える今度こそ成してみせよ…
「わっ、誰!?何!?」
「はいはいアスル、今日はどんな夢を見てたんだい?」
女性の一言で周りからドっと笑いが零れる、ふと周りを見渡すとみなれた光景が広がる、普段の古臭い一室に何人もの人が学んでいる。
「夢…なのかな」
そう呟きアスルが席につくと間もなくして終業を告げる鐘が鳴る。
「はい、それではここまで。明日は狩り日だから各個準備を怠らないようにね」
そう女性が言うと、子供らは一斉に部屋を飛び出して行った。
「はぅー…今日もやっと終わったわ…なんで私が子供たちの先生なのよ、私には王子様に連れ去られて…」
女性はそこまで言って我に変える、まだ1人部屋に残ってる子がいた、アスルだ。
「へえー、先生…いやリサーナさんはお姫様にでもなりたかったんだ」
そう嘲笑うかのようにアスルが言うと続けてリサーナは答えた。
「わ、悪かったわね!あたしにだって夢とかあるんだから!」
すでに恥ずかしさで煮えたぎってるリサーナは普段と違う空気に気付くのに少々時間がかかった、いつもなら終業の鐘の音と共に部屋を飛び出し遊びに行くアスルが独り部屋に残ってるのである。
「あなたこそこんな所で何してるの?先生に何か相談かしら?」
リサーナは恥ずかしさをアスルへの疑問と不安で押し殺した。
「べ、別になんでもねーよ!じゃあな先生、明日は俺が特大の獲物獲ってやる!」
そう叫ぶとアスルは荷物をまとめて窓から飛び出していった。
「アスル…」
少しの不安がよぎったがリサーナはその場を後にした。
「おいアスルおせーじゃねーか!」
燃えるような真紅の短髪を風になびかせながら長身の男が声をかけてくる
「え、お前誰だっけ?」
「おいおいこのモシャ様の事を忘れたのかい?」
「もうモシャもアスルも茶番は良いからさっさといつもの所いこうよ」
またそれか、と言わんばかりにモシャと一緒に待っていた子が止める。
「ったくウィズは黙ってれば可愛いのにな」
一瞬の間、アスルがその場から離れると綺麗な蒼い長髪を逆立てたウィズがいた。
「モシャ…」
アスルはモシャの命を社交辞令程度に案じながら距離をとった。
鈍い音と落雷のような轟音が鳴り響く、静まり返った後少し時間を置いて元いた場所に戻ると案の定ウィズの足元に倒れるモシャがいた。
「ウィズ、手加減してやれよ」
「ふんっこの馬鹿が悪いのよっこのっこのっ!」
可愛くないと言われたのが感に障ったのか横たわり痙攣するモシャをウィズは何度も足蹴にした。
「ふたりともそろそろ行こうぜ」
見飽きたアスルが二人を置いて歩き出すと、ウィズはすぐにアスルを追い、モシャはゆっくり立ち上がると二人の後を追った。
学校を東に少し行った所、普段は狩り日に人が入る程度の場所で誰もいない、小道を少し歩いた先にある小高い丘、普段その上は狩りの拠点にする事も多い。
しかしアスルたちは探検と称して丘の反対側に行ってみる事にした、その時見つけたのが丘の上からだと木々で確認できないこの小さなほら穴だった。
「ねー、アスル、モシャ今日は奥までいくの?」
「なんだウィズ怖いのかー?ビビってチビるなよ?」
「な!?なによ!!こここ、怖いだなんて言ってないでしょ!」
「ウィズ声震えてるって」
「ちょっとアスルまで!ふざけただけだってば!」
ほら穴に足を踏み入れた3人は会話の内容とは裏腹にそれまでより足早に奥に向かっていく。
入口の前を覆っている木々の影響か、少し歩いただけで当たりは一面の黒世界となった。
「ウィズ、チビるなよ?」
ボワッ
「あっつあっつあちちちち!ちょっとウィズふざけんな!」
「アスル行きましょここに運良く自動歩行型のたいまつがあるわ」
必死に髪に付いた火の粉を払う、完全に燃えうつる前に消化したが、後頭部の毛先は完全に縮れていた。
「ウィズおまえな!」
「なによ、あんたが余計な事ばっか言ってるからでしょ」
「ただの冗談じゃねーか!」
「そうだね、そんな冗談でも言ってないとダメなぐらい怖かったんだ?」
ガサッ
「ガサッじゃねーよ何言ってんだよお前」
「何よ"ガサ"とか言ってないから!」
言い合うモシャとウィズ、お互いににらみ合う。
「…アスル?」
少しの沈黙、それを破ったのはモシャだった、ふと気付けばアスルがいない。
ガサガサッ
「え…何の音?」
さっきモシャの聞いたであろう音、今度はウィズも気付いた、急に不安が込み上げる。
「アスル…?」
小刻みに震えながらウィズが問いかけるも音から返事はない。
「安心しろ、お前は俺が守る」
いつの間にかモシャに張り付くウィズ恥ずかしくて少し距離を取るもすぐにモシャに抱き寄せられてしまった。
「だ、誰かいるのか?」
モシャの声も震えている、もちろんその事に気付いてる。ふと恐怖の影にここが暗いほら穴の中で良かったとウィズは思った。
その時だった。
「ヒャッ!?」
ウィズが突然甲高い悲鳴を上げる、恐怖におびえてたせいか悲鳴もすでに声になってない。
「どうした・・・!?」
ウィズを見たモシャは固まった、暗闇の中でウィズがはっきりと見えるそれはウィズが発光してる事を意味した。
「なんだこれ!?」
モシャがウィズに問いかけたとき、ふと気付いた、ウィズの身長が高くなっている、否宙に浮かんでいる。足が地面からすでにはっきり分かる程浮いていたのだ。
「ウィズ!!」
叫んだ瞬間にモシャはウィズを抱き締めた。
「モシ…」
口を開いた瞬間、二人の体は完全に光に包まれた。