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竜の花婿『獣のようだと殺されかけたら運命の番に出会いました。』

作者: 小埜我生
掲載日:2026/09/18

※BLです

※兄弟格差、暴力、差別、異種婚などの表現があります。

本の中の英雄たちは、力強く、全ての男の憧れで。

俺も憧れる人間の一人であった。

そしていつしか自分も英雄のようになりたい。

幼き頃の夢だ。


けれど夢は夢で終わらなかった。

毎日血が滲むほど振った剣と兵に混じり鍛えた身体。

伯爵家の嫡男として学んだ兵法。

全力で英雄への道を駆けた。

けれど俺は気付いていなかった。英雄達は力強いだけではなれないと・・・


「団長は参加しないんですか?」


それは国主催の騎士剣術大会の警備中、観客の背後の壁際。

部下の一人が尋ねた言葉だ。


「あぁ、ここの警備もあるしな。それにハロルド殿下も参加される舞台に俺は相応しくない」


「俺ら平民は分かりますけど団長は伯爵家出身なんだから相応しくないなんて事ないでしょ?」


「ハハッ、俺のことは良いから警備に集中しろ」


「ウッス!」


部下は、姿勢を正した。

口は悪いが素直な奴だ。

会場の中心では、騎士達が戦っている。


俺ことダンテ・サリージャは、伯爵家の第一子として産まれた。

自然豊かな土地の領地でのびのびと育った。

そんな俺の夢は、物語の英雄たち。

弱きを助け、悪に立ち向かうその姿は男の子なら誰でも憧れるものだろう。

俺ももちろん例外ではなく、剣に身体に頭にできる限りの努力を積んだ。

かつて騎士であった祖父に似たのか力も体格も同年代から頭一つ飛び出たのも運が良かった。

気付けば15歳で周辺の大人には負けない力量を手に入れた。

その時の俺は、英雄に近づいていると喜んで、周りが見えていなかった。


『サリージャの黒熊』


そんな俺についたあだ名だ。

黒い髪と目に筋肉隆々の身体と豪腕からそう噂された。

強すぎる力は、実の母さえも恐れさせた。

家族仲が悪かった訳ではない。ただ貴族女性として生まれ育った母からするとゴツい見た目とこの力は恐怖を感じるには充分だったのだろう。


また一方で10離れた弟のヨハンは、母に似て大人しく年相応の子供だった。

髪や目の色こそ同じだが愛らしい見た目で俺とは正反対。

年離れた弟は可愛かったし、勘違いでなければ弟も俺を慕っていたと思う。


けれど母は、俺たちが共にいる事を嫌った。

いや、恐れていたのだろう。愛する 息子(ヨハン) が 化け物(俺) に殺されるとでも思って。


父は、俺にも優しかったが母と俺の微妙な関係に困っていた。

だから成人の前年に父に領地を離れ、王都で騎士になりたいと伝えた。

最初、父は驚いていた。

それはそうだろう。国の騎士になるということは、後継者の座から退くということだ。

つまりサリージャ伯爵家でいえば俺ではなく、ヨハンを次期当主として据える事になる。


本来なら次男以降の者が選ぶ道。

正当な後継者であった嫡男の俺が選ぶとは誰も思っていなかったのだろう。

いくら夢が英雄といってもそれは子供の頃の話と。

けれど自分が家にいると母を苦しめてしまう。それが申し訳なく、辛かった。

板挟みの父と弟にも穏やかに過ごして欲しい。

自分が居なければ理想的な家族なのだから。


父はすまないと言って、申し訳なさそうに俺の希望を叶えてくれた。

弟は別れの日、泣きながら行かないでと言ってくれた。

母は何も言われなかった。


そうして俺は、グランシア王国騎士団に所属する運びに。

色んな経験を経て十年経つ現在では、第三騎士団団長の役職を得ていた。

忙しくはあるが気の良い部下に囲まれ不満はない。

夢見た英雄にはなれなかったが・・・。



「続いては我らが太陽 ハロルド王太子殿下の出場です!!」


アナウンスに観客たちは、大いに盛り上がる。

その歓声を浴びながらハロルド殿下が登場された。

同時に歓声は、さらに大きくなる。


金髪に碧眼の麗しいハロルド殿下は老若男女問わず人気だ。

しかも騎士剣術大会に特別枠として出場するほどの強さも兼ね備える。

まさに物語の英雄そのものだと皆が口を揃えて噂している。


殿下の相手は、第一騎士団の副団長。

結果は、殿下の勝ち。

力強き、王太子殿下に民衆の興奮は頂点に達していた。

殿下もそんな民衆に手を振っている。

その瞬間であった。


ドカーンという爆発音とともに会場の中心に現れた黒い四つ足の獣。


「魔獣だっ!!」


それは誰の叫びだったのか分からないが歓声は悲鳴へと代わり観客達は混乱と恐怖で出口へと逃げ出した。

警備の騎士達も突然の事態に民衆を誘導出来ずにその勢いに呑まれていた。

だから誰も動けなかった。

今まさに殿下に獣が襲いかかろうとしているにもかかわらず。


彼以外は。


きゃーという観客の悲鳴と獣の咆哮、そしてダンテが殿下に襲いかかる獣を斬り伏せたのは同時であった。

会場はシンと静まりかえる。そして先程よりもさらなる歓声。


「なんと一撃で獣を倒すなんて」


「誰?誰?あの人は」


「騎士なのか?大会出ていなかったよな」


浴びたことのない歓声。今までは黒熊として恐れられるばかりの人生だった彼にとっては初めてであった。

とっさに殿下を助けただけの彼はその出来事に正直戸惑うばかりで気付けなかった。

助けた殿下からどのように見られているかなど。



「第三騎士団 団長 ダンテ・サリージャ」


「はっ」


「先の魔獣は調査の結果隣国のハロルドを狙う暗殺であったと判明した。そなたは息子を救ってくれた。感謝する」


それは大会から約一ヶ月後。国王陛下に拝謁を賜った。

王都の警備中心で平民騎士ばかりの第三騎士団に所属している彼にとっては王族の前に出ることはほとんどなく。

今回の王太子殿下の暗殺を阻止したという大義から褒賞を与えるというものだった。


「ありがとうございます。殿下にお怪我無きことと陛下のお言葉だけで幸甚の至りにございます」


「いや、そういう訳にもいかぬ・・・そちを第一騎士団の副団長に据えよう」


「へっ陛下!」


声をあげたのは第一騎士団の副団長。大会で殿下の相手を務めた人物だった。


「何だ?息子の最も側に居ながら動けなかった者がその座を譲るのが不服と申すまいな」


「ッ!.....いえ、ご無礼申し訳ありません」


「ダンテも良いな」


「は、はい....感謝いたします」


第三から第一騎士団への突然の異動は誰の異論を挟む暇もなく。

団長から副団長へと役職こそ落ちたがこれはとんでもない栄転だった。

この国の騎士には、それぞれの役割がある。


俺が所属していた第三は、王都の警備や治安維持が主な仕事で平民を中心に構成されている。次に第二は、貴族や城内の警備に務め、下位貴族が多く在籍している。

そして第一は、王族直属の近衛兵だ。

家柄、力に優れたエリートのみが入れ、他の騎士団とは一線を画している。

その副団長だ。


「....まさか俺がか」


新しい宿舎の部屋でやっと一息つきながらそうこぼしてしまった。

かつて憧れた英雄。第一騎士団は、まさにソレと言っても問題ないだろう。

騎士団に入るまでは憧れていたが俺には無理だと分かって諦めていた。

それがまさか突然副団長に任命されるなんて。



「私の護衛として着いてきてくれ」


それは副団長に就任して数ヶ月経った頃であった。

ハロルド殿下より呼ばれ、そう告げられた。


「承知いたしました。どこへの視察でしょうか?団長と編成を組みます」


「いや、団長には既に通達済みだ。今回はお忍びで王家の森へ行く」


「王家の森ですか?」


「ああ、最近その付近で魔獣を見たという管理者からの連絡があった為の確認だ。あの森は、私達王族の霊廟もある。そんな場所に魔獣がいるなんて許されないからな、その為のお忍びだ」


確かに王家の森は、国民にとっては聖域に近く立ち入りも制限される場所だ。

そんな森に魔獣がいるなど王家としては知られたくないのだろう。

しかし・・・。


「ハロルド殿下が同行しなくてはなりませんか?お忍びですと人数が制限されてしまいますので万が一を考え、私達騎士のみが良いかと」


「・・・私が足手まといとでも申すか」


ハロルド殿下の表情が明らかに曇った。


「ち、違います!ご気分を害した発言申し訳ありません。しかし先の事件もありま「王太子たる私の命だ」


「・・・承知いたしました」


そしてハロルド殿下、俺、第一騎士団から五名で王家の森へと向かった。

王族の護衛としては、少なすぎる編成ではあったがこれ以上になるとどうしても人目をひいてしまう。

なんとか無事に終わって欲しいと願いつつ馬を走らせた。


「久しぶりに来たがそう雰囲気はおかしくないな」


王家の森は、王都からそう離れてはいない。

森の入り口に到着し、馬から下りた殿下が見渡しながらそう言った。

森と言いつつも霊廟もあるため入り口には管理人が在駐し、森の中も整えられている。

魔獣というのは身体から瘴気を発し、草木を枯らす。

殿下の言ったとおり、入り口付近にその気配は見られなかった。


「ご足労頂きありがとうございます。管理人のリーです」


俺たちの到着に気付いたであろう管理人が殿下のもとへ挨拶にきた。

彼が魔獣の連絡をしたのだろう。


「ああ、それで君が魔獣を見たのはどのあたりだ?」


「森の中央付近です。霊廟からは少し外れだったと思いますが」


「承知した。では向かうぞ」


殿下の指示のもと俺たちは森の中へと入っていった。

万が一を考え先頭に俺と騎士一名。中央に殿下。その周囲を残り三人で警戒しながら進んでいった。

けれどそんな警戒を余所に森の中に異変はなかった。

やはり管理人の見間違えかとホッとした瞬間だった。


背中に鋭い痛みが走ったのは。


「ッ...!!で、殿下!?」


警戒を怠っていたわけではない。

いや、警戒相手を間違えていた。俺の背を切りつけたのは守っていたはずのハロルド殿下だった。

そして周囲の騎士達も抜刀し、その剣先は俺へと向けられていた。


「ふんっ、やはりサリージャの黒熊。背を切られても倒れぬか」


「そんっ...どうしてこのようなことを」


そんなわけあるかと叫びそうになった。背からはとくとくと血が滴り落ちている。


「ハハッ、どうしてだと?貴様があの日私を辱めたからであろうが!民の前でお前のような獣に救われるなど恥でしかないわ!!」


結局こうなるのか。俺の心の中はその言葉で埋め尽くされた。

俺が英雄を諦めた理由。

剣の腕前も力も第一に入れるくらいには入団当初からあった。家格も伯爵なのだから問題なかった。

それでも俺が第一どころか第二にも入れなかった。

ただ俺が醜いから。

力や家柄というのは建前で美しい者の方が優遇されているのが実情だ。


この国の貴族は、母のように俺のような見た目を忌避する人間が多い。

気付いたのはある程度育ってからだがどこか英雄ならそんなこと関係ないと幼心に思っていたのかもしれない。

第三で団長になれたのは団員が平民中心なのとそんな場所に配属される俺を嘲りたかったからだろう。

気の良い部下も多かったし、不満はなかったがな。



つまりこの王太子殿下は、あの暗殺から守った俺に感謝どころか怒りを持っていたのだろう。

自身が見下していた醜い俺に良いところを奪われたから。

くだらねぇ。

だいたいあの大会で勝てたのだって忖度だろうに。プライドだけは超一流だ。

王が建前上、俺に褒美をやらないわけにはいかなかったら第一にしたが自身の側に俺みたいな奴がいるなんて耐えれなかったのか。

ここ(王家の森)なら俺の死体もさっきの管理人に適当に処分させるのだろう。


殿下や部下達は、俺に罵詈雑言を飛ばしているがどんどん耳は遠くなって、目もかすむ。

明確な死が忍び寄ってくる。


「・・・・かったな」


「かかれぇぇぇぇ!!」


殿下の言葉とともに全員が俺に向けて斬りかかる。

どうせ死ぬならいっそ一太刀でもと一瞬剣の柄に手をかけたがやめた。

もう疲れた。

ふぅーっと息を吐き、目を瞑って最後の瞬間を待ち構えた。

しかしその剣が俺に触れることはなかった。


「ん?」


いつまで経っても切られないと目を開けてみればその場には先程まで斬り掛かってきた殿下と騎士が地面に転がって、恐らく気を失っている。


「どういうことだ?」


キョロキョロと見渡したが周囲に人はいない。


「...くっ」


血を流しすぎたらしい。

せっかく逃げられるのに足が言うことを聞きやしない。

俺もその場に倒れ気を失ってしまった。




夢を見た。青空をゆらゆらと飛ぶ。

何にも縛られない、そんな夢を。

これが死後の世界かと思っていたが随分風が強いな。


「....ん?んん?んーーーーー!」


これ現実だ!?何故飛んでるんだ、俺!?

と混乱していたらまた気を失った。


「大丈夫か?」


「ん、んん」


声かけとともに身体を揺さぶられ、目を開けると美しすぎる青年がいた。


「だっ、誰だ!!....ッ!!」


つい強めに声を出すと身体に痛みがはしった。


「これこれ、まだ背が治りきってはないのだ。落ち着いておくれ」


その青年は、オロオロとしながらそう言った。

上半身を起こし、自分の身体を確認すると手当したのか布が巻かれていた。慣れていないのか随分不格好ではあったが。

俺が寝ていたのも恐らく彼が用意したであろう草木や布の簡易ベットの上だった。

つまり彼が死にかけた俺を助けてくれたのだろう。


「・・・すまない、助けていただいたのに」


俺は、彼に頭を下げた。


「よいよい、気を失っていたのだ。突然目の前に知らぬ者がいたら驚くは当然よ」


年は、俺より若く見えるが言葉遣いがえらく年寄り臭い。

言葉は通じるようだが訛りが所々強く、まるで爺様達の世代ぐらいのものに近い気もする。


「すまない・・・ところで君は?」


「我か?我はハクリュウ、貴方の番だ!」


青年が嬉しそうにそう言った。ハクリュウというのは名前か?番?

戸惑っていると青年が「そうか!これだと分からないな」と呟く。

そして同時に彼の身体が一瞬光に包まれ、眩しさに目を瞑る。


「これで分かるだろう?」


「なっ!?」


目を開けるとそこには真っ白な竜が突然現れていた。

とっさに距離をとろうとベットから飛び出した。


「お、驚かせてすまぬ」


「・・・本当にさっきの青年なのか?」


「ああ、だがやはりこれだと視線が合わせにくいな」


オロオロする様な竜の様子に先程の青年と同一人物なのだと納得した。

竜は先程より淡い光に包まれると再び青年の姿へと変わった。

竜の大きな身体がみるみるうちに縮んだ。

とは言っても俺よりでかい体格だ。なのに美しいからだろうか、可憐さのようなものさえ感じる。


「え、と、ハクリュウ殿?騒いですまない」


「・・・そう何度も謝らないでおくれ。貴方は、私の番なのだから」


彼は少し悲しそうな顔をした。

憂いを帯びたその表情に同性なのにドキッとしてしまう。


「すまなっ///いや、ありがとう」


「うむ。それとハクリュウは名ではない。白き竜で白竜、ただの呼び名だ」


「なるほど、では名はなんと言われるのですか?あ、名乗り遅れました。私はダンテ・サリージャと申します」


「我に名はない。それは番に与えられるものだからな。そうか、『ダンテ』か」


白竜は、俺の名を嬉しそうに繰り返した。

その姿はまるで恋に浮かれていたかつての部下のような表情。

いや、その時はこんな風に心臓が脈打たなかったはずだ。


「その・・・番とは?」


「そうか、人の子には分からぬよな。浮かれておったわ・・・少し長い話になるゆえ横になって休みながら聞いて欲しい」


「・・・わかった」


お願いされるように言われて拒否出来なかった。実際、身体はまだ痛い。

俺がベットに戻ると彼は、あからさまにホッとしていた。

そして彼はまるで子供に寝る前の読み聞かせするような優しい声で語り始めた。



竜族は、生まれ持っての色でその格が決まるのだという。

それは遺伝などではなく。

その者の定めともいえるものだそうだ。

一般的な竜は茶や橙などが多く。その者達は、竜の姿には変化できず。

竜人と呼ばれ、身体の一部に鱗がある程度で、見た目は人間とそこまで変わらないそうだ。

力や魔力にはやはり人間より優れているらしいが。


そんな彼らとは違い、七色の色を持つ竜は『原竜』と呼ばれているそうだ。

彼の白を含む、赤・青・緑・黄・紫・黒の色を持つ竜。

原竜は、竜人達と祖先は同じとされ、竜の身体に変化する力を有している。


当然、その力も竜人と比べようもない程。

その寿命も長く、竜の里にとって原竜は王であり、神聖視されていると。


そんな彼らには唯一の存在がある。

それは『運命の番』と呼ばれ。

自分で番を選べ、子を成せる竜人と違って原竜は一生のうち一人『運命の番』と呼ばれる相手としか番えない。子も番相手のみだけ。


番と子以外の生き物に愛や情という感情を持てなく。

そして運命の番は出会った瞬間に分かり、性別や種族など関係ないらしい。


「つまりその運命の番が俺だと?」


「ああ!間違いない!」


また嬉しそうな彼に心臓が高鳴る。

この感情が番によるものなのだろうか。


「じゃあ白竜ってのは」


「ああ、我ら原竜は名はなく色で呼び合うのよ・・・番から名を貰えるまでな」


「俺が名を?」


「まだよい。今は休んでおくれ。正式に番となるとき贈って欲しい」


「・・・騎士達を倒したのは?」


返事は返せなかった。けれど彼は気にはしていないようだった。

騎士の事を尋ねると一瞬、その瞳に殺気を感じた。


「ああ、本当に間に合ってよかった。やっと出会えた番が死にかけているなど・・・声だけで気絶したから放ったが・・・許せぬ」


「・・・・・」


「おぉ、怖がらせてすまぬ!」


「い、いえ」


怖くなかったと言えば嘘になる。けれどそんな俺を察したのか殺気を引っ込め、またオロオロする彼はどこか可愛らしかった。


「紫竜は占いが得意で我の番を探して貰ったんだがあの森で出会えるとしか教えてくれなくての。もっと早く出会えれば傷つけなかっただろうに・・・」


彼は、俺の背をそっと撫でた。

とても申し訳なさそうに。


「あの森にはいつから居たんですか?」


「・・・300年ほどだったかの?最初は森にいたんだがあの墓が出来てからうるさくての。気配だけ探りつつこの外れの洞窟にいたわ」


「さ、300年」


「原竜にしたらあっという間よ」


ケラケラと笑っているがという事は、彼はグランシア王国の建国当初からいたということになる。

子の頃に見た絵物語にこの国の建国者、王族の祖先は竜から土地を譲られ、加護を得た英雄というのがあったが。

まさか番を待っていた竜が譲ったのでなく、うるさいから隠れていたというのが真実じゃ・・・。


などど考えつつ俺と白竜の生活は始まった。

といっても俺は身体を治すまでは何をする事も禁止された。

まるでお姫様扱いとでもいうのだろうか?

慣れてはいない手つきだが白竜が嬉しそうにせっせと世話をしてくるので無碍には出来なかった。

唯一飯だけは丸焼きばかりで耐えれなかったので手伝わせてもらった。


「野営の時に作ってただけだからたいした物ではないが・・・」


「ダンテの手料理!!」


想像以上に喜んでいた。嬉しいような気恥ずかしいような。

感涙しながら食べる白竜をフッと笑ってしまった。



「人間というのは異性と番うのであろう、我もそうするか?」


「は?」


とある日ダンテは、そう言うと久しぶりに光った。

もとから中性的ではあったが胸が膨らみやや背が縮み、女性的に変化した。

真っ白の長髪と金の瞳は同じまま。

美しさは変わらなかった、変わらなかったが。


「・・・いつものほうがいい」


「そうなのか?では戻そう」


あっという間に元の見た目へと戻った。

俺は、ホッとした。

別に同性が好きな訳ではない。ただ壊れてしまいそうな女性というものが怖かった。

俺が壊してしまったらと。

そんな俺の思いを理解してか白竜はフフッと笑っていた。


「雌だろうが我が壊れるわけがないがそんな優しい所が愛おしい」


「・・・揶揄うな/////」


距離は、次第に縮まっていった。

最初は敬語だった俺の言葉は崩れ、白竜も時折軽口を口にする。

けれどまだ名を贈れてはいなかった。


白竜は、愛の言葉をたくさんくれる。

俺も既に彼が特別になっていた。

けれど彼と同じだけ気持ちを返せるのだろうか、愛なんて知らない俺が彼を愛せるのか。

あと一歩が踏み出せなかった。

けれど白竜は、そんな俺をただ待ってくれた。



傷が治った頃、洞窟に招かざる客が現れた。


「ほう、本当に生きていたのだな黒熊よ」


「ハロルド殿下!?」


騎士の軍勢を連れた王太子だった。

困惑する俺の前に白竜が立った。


「招かざる者達よ、我が番の同族として今回のみ許してやる・・・去ね」


空気がシンと静まりその言葉は重く響いた。

騎士達は、白竜の威圧によろめきざわついた。

倒すべきか、引くべきか、きっと彼らも竜とは思ってなくても異形な存在と気付いてはいるのだろう。


「なんと美しいのだ」


皆が恐れる中殿下だけは、まるで興奮しているかのような恍惚とした瞳を白竜へと向けていた。

なぜだろう・・・とてもそれが・・・。



「殿下!ここは危険です!お下がりください!」


騎士の一人が殿下へと避難を進言した。

それはそうだ。自分が現在国にどういう扱いか分からないがおそらくそういいものではないだろう。

そんな危険人物と不気味な威圧感のある男。

殿下を守るという観点からすれば当然の選択だ。


ザシュッ


鮮血が散る。それは殿下が側に寄った騎士の腕を切り落としたから。

騎士は、一瞬固まった後血が滴る片腕を抱えて叫び声をあげる。

周囲の騎士達も予想だにしなかった殿下の行動にどよめいている。


「チッ、我らの家を汚すな」


「申し訳ない麗しき君よ・・・貴方の御前を汚らしき血で汚してしまいました」


「・・・・・」


「あぁ、その見下す瞳も美しい。貴方様の様なお方を私は待っていたのです。どうか私とともに来て頂きたい」


それはまさに愛の告白なのだろう。

片膝をつけ白竜に片手を差し出し乞うその姿はまるで絵本の王子様。まるででなく本物の王子なのだが。

白竜と王子は世界から切り取られたように美しい。

それに比べて俺は。


「ダンテ?」


白竜は王子の言葉を無視して俺を心配そうにのぞき込んできた。

先程までの威圧も不機嫌さもなく、そこにあるのは俺への思いやりだけだった。


「くっ、黒熊!またしても私の邪魔を!!」


告白を邪魔されたと感じたのだろう殿下は剣を再び構えこちらへと向かってきた。

白竜は、俺の心配をするばかりで背を向けたまま。

仮に切られたとて竜に傷一つつけられないだろう。

殿下も白竜には剣を向けないだろう。


キンッ


「俺の番に近づくな!!」


例え傷つかなくても、痛みを感じなくても、黙ってなどいれなかった。

側にあった剣を握り、白竜の脇をすり抜け、斬り掛かっていた殿下の剣を弾いた。


「くそっ!お前の様な獣が戯れ言を!!」


「そうだな・・・俺のような人間は相応しくないのかもしれない」


殿下に殺されかけたあの日、最後に思った愛されたかったという俺の想い。

けれどそうじゃなかった。


「ダンテッ!」


「ふふ、不安にさせてすまない。けれど俺はやっとこの気持ちを認めれたんだ・・・愛している『ルミナス』」


俺は愛し合いたかったんだ!


「なんだっ!この光は」


俺が名を贈った瞬間、白竜はこれまででもっとも強い光を発した。

殿下も騎士達もその光に目を背けた。

けれど俺だけは彼のその姿をしかと目に焼き付けた。



「ここは?」


気付けば竜の姿になったルミナスに抱えられ空にいた。

先程までは洞窟にいたはずだ。


「我に名を贈ってくれただろう?我らは正式に番と成ったのだ!あのような者達の目に触れさせたくなくてな」


ルミナスは、嬉しいという感情に溢れていた。まるで子供のようなはしゃぎ様に俺も嬉しくなる。

なるほど上空へと瞬間移動したのだろう。

とんでもない事象だが人ならざる者である彼には容易な事なのだろう。


「ルミナス、君の顔の前にいきたい」


「ああ!」


ルミナスは俺を乗せた手のひらを顔の前にもってきた。

彼の顔が目前に。

竜の姿でもやはり美しい。


「俺は君と比べれば脆弱で醜く、生きる刻も違う、それは君を苦しめてしまうだろう・・・けれど俺の番としてともに生きてくれ!その苦しみも幸せも全てともに、永遠に・・・」


「当然だ!ダンテ!愛しておるぞ!我に名をくれて・・・番になってくれて・・・」


彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

俺はその口にキスをした。


「ルミナス・・・俺の光・・・」




その後俺は、ルミナスとともに竜の里へと向かった。

正式な彼の番として。

白竜が番と名を手にいれたことに誰もが祝ってくれた。

またこの国では強さこそ至上で俺の見た目より人間にしては強い事を賞賛された。

そんな事今までなかったからどこか照れてしまう。


他の原竜達からも祝われた。どうやらルミナスはもっとも長く番を得れずにいたそうで。

番を得れる幸せは原竜にしか分からない。

得られる前と後では性格が違うと言っても過言ではないそうだ。


そして俺は彼の血を受け入れ、竜神となった。

これにより俺の瞳は彼の色に変化した。


「美しい君の瞳が」


と不服そうではあったが、原竜の加護を受けることで竜人よりも長生きできる存在へとなれた。

つまりルミナスとともに生きていけるのだ。

最初、竜神になるという事を知ったときは彼が喜んでくれると思ったが予想に反して彼は少し渋っていた。

何故かと問い詰めれば彼は最初ごまかしていたがさらに追求すれば申し訳なさそうに。


「・・・人の理から外れればその分別れも経験しなくてはならない。それに竜神は我と命を共有する存在、我が死ねば竜神も死ぬ」


「・・・ふざけるな!」


「だっ、ダンテ!?」


それは初めての夫婦喧嘩だった。

俺の怒りように彼はオロオロしていた。


「俺があの日言った言葉を忘れたのか!苦しみも幸せも全てともにありたいと!永遠に!」


こんな気持ちのままに叫んだのは産まれて初めてだった。

幼き日から周囲に気を遣い続けた。

誰かに心から愛して欲しかったから。

けれどそれは間違いだった。

愛している者には意せず、全てをさらけ出してしまうものなのだ。


「すまぬ、いや・・・ありがとう」


そういった騒動もありつつ俺は竜神になった。

正直目の色以外は実感がなかったがどうやら力も魔力も増えているらしい。

そしてそのおかげかもう一つの変化があった。





私の名はヨハン。

かつてはグランシア王国で伯爵位を承っていたサリージャ伯爵家の次男だった。

今はただのヨハンとして兄が最後に目撃された王家の森の側の小屋で畑を耕しながら緩やかな余生を過ごしているただの爺だ。


年の離れた兄は、とても強い人だった。

子供なのに大人にも引けをとらないその姿は私にとって憧れだった。

そして同時にとても優しい人。

両親が兄とあまり仲良くないのは隠していてもどこか感じていた。


私にばかり甘い母、それを放置する父。

兄に愚痴をこぼしても「俺は大丈夫だから」と困ったように笑うばかり。

そんな兄は、嫡男なのに私にその座を譲り騎士になってしまった。


離れたくなかったが私に出来たのはただ泣くことだけだった。

兄を廃して手に入れたその立場が苦しかった。

兄がいなくなってまるで最初からそうだったかのように穏やかな家族が不気味だった。

けれど兄がこれ以上自分達のせいで苦しんで欲しくなくて、もう私達が関わってはいけないと領地でただ過ごしていた。


私が成人した頃、兄の噂が領地へと届く。

なんと王太子殿下の窮地を救い第一騎士団の副団長へと昇進したと。

やはり兄は英雄なんだ。

兄の栄誉に心から喜んだ。この家を出たあの日から帰ってくる事はなかった為唯一手紙でのやりとりを続けていた。


何か祝いを贈らないとと準備していた時だった。

再度王都からの知らせで兄が死んだと訃報が届いた。

王家の森で賊に襲われ、亡くなったと。


「やっと名誉ある立場になれたというのに・・・」


母がこぼしたのはそんな言葉だけだった。

我が子が亡くなったのに。


「それが母親が言うことか!!」


産まれて初めての反抗だった。

それと同時にもう私がここにいる理由はないと思った。

私の家族はもういないんだから。


父に絶縁状を叩きつけ家を出た。泣いて縋る母だった者、やっと取り返しのつかないコトに慌てる父だった者。

その両者を振り切り領地を後にした。


向かったのは王都。

どうか兄の亡骸を引き取らせて貰えないだろうかと懇願するために。

しかし返ってきたのは心無い嘲笑だった。


「あの黒熊の弟にしては随分と見目がいいな」


「やはりあの黒熊は血を偽っていたのだろう」


「王太子殿下の身を守って死ねたのが唯一の誉れだな」


「身の程知らずの職についたからだ」


そんな聞くに堪えない言葉。

兄は家を出た後もこんな環境に居たのかと絶望した。

手紙の中では楽しそうだった。やりがいがあると。

何故、ただ見た目だけでここまで兄が苦しめられなければいけないのか。


この国なのか。人なのか。

それとも自分自身なのか。

恨む先さえ見つけられなかった。ただ兄に会いたかった。


ただ自堕落な日々を送っていたある日とある噂が流れた。

王太子が王家の森で出会った異形なる者に魅入られ気が触れたと。

そして同時期に王城で不審死が相次ぎ。

王太子は「竜だ!あの白き竜は私のものだ!」と繰り返すばかりだそう。


国が荒れ、治安が悪化していった。

それは王都も例外ではなく。

私も因縁をつけられ殴りかかられそうになっていた。


「第三騎士団だ!手を離せ!」


「チッ」


見回りの騎士が来たことでごろつきは、私の襟首を離し逃げていった。


「大丈夫ッスか?」


「・・・はい、ありがとうございます」


騎士を見ると兄を思い出す。それが嫌で私は、一礼してその場を後にしようとした。

しかし何故かその騎士に引き留められた。


「なにか?」


「あ、すいません!・・・違ったら申し訳ないんすけどお兄さんとかいないッスか?」


「・・・いません、いたら何だっていうんですか?」


もう兄はいないんだ。これ以上兄を軽蔑する言葉は聞きたくなかった。


「そう、なんすね・・・申し訳ないッス!」


そういうと彼は勢いよく私に頭を下げた。


「い、いえ」


「実は前の俺らの団長が貴方と同じ髪と目の色で・・・すっげぇ良い人でめちゃめちゃ強くて、認められて出世したんすけどちょっと前に亡くなったんッス。大事な弟がいるって言ってたからもし貴方がそうならと焦っちゃいました!って、なんで泣いてるんッスか!!」


「え?」


気付けば涙が溢れていた。

ホッとしたのだ。

兄の側が地獄だけではなかったのだと。


その後、彼に自身がダンテ兄様の弟と告白した。

彼はとても驚いた後、仲間の騎士に紹介してくれた。

第三騎士の全員は、兄との思い出を語り、ともに泣いて笑った。

そこには自分の知らない兄がいた。

僕の心の中にそうであるように彼らの中でも兄が生きていると実感した。


「ここだけの話ッスけどもしかしたら団長はまだ生きてるかもしれないッス」


どういう事だと問い詰めれば王太子が会ったという異形のものの側に兄がいたという証言が騎士から漏れているのだという。

その話をすると王太子が暴れるため情報統制が行われているらしい。


それから私は王家の森の側で暮らしている。

入って探そうとしたが入ってもすぐに出口に戻ってしまう。

試行錯誤したが意味はなかった。

いつか兄が出てきたとき迎えれるようにここで待とうと決めた。

管理人の小屋が放置されていたのでありがたく頂戴した。


本来なら管理人に追い返されていただろうがすでにもぬけの殻だった。

恐らく王太子の異常から森の異形を恐れて逃げたようだ。


まもなく国が崩壊した。王族の血が絶えたらしい。

国民も領土も周辺国に吸収された。

両親だった者たちも故郷も今ではどうなっているやら。

この森の側だけ呪われた土地として放置された。

いや、近づいた国もあったのだがその度に不審死が起きた。

今となっては、誰も近づかないこの森で私はただ兄を待った。


今日も小屋の外の揺り椅子に座りながら森を眺める。

何十年も見続けた景色だ。

けれど今日は違った。朝日が差すが霧につつまれた森から人影があられた。


「っ.....!!」


言葉も出せなかった、そこにはダンテ兄様が立っていた。

長い年月が経ったのに変わらぬ若々しい姿。

目の色は違ったが間違いなく兄だ。

優しいあの笑み。幼き日の思い出が蘇る。


「に、にいさ、ま」


私に気付いたのか兄は手を振って「ヨハン!俺は幸せだ!」と叫んだ。

兄の傍らには真っ白の美丈夫と黒と白の混じった髪の子供が二人いた。

そして目映い光に包まれた後四人はその場から消えた。


私は彼らが立っていた場所へ走り出した。

そこには何もなく。気付けば周囲の霧が晴れていく。


見上げた空には白い竜が大きな翼を広げており、森から飛んでいった。


私はその日森を後にした。

どこへ行くかは決めていない。

けれどもう心残りはない。あの兄の幸せそうな笑顔を見れたから。


隣国で暮らすかつての兄の部下に報告でもしてみるか。

私は鼻歌交じりに森を後にした。

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