表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/58

第57話:シャル姉 その1

 いきなり龍がやって来た。

 全身銀色の龍だ。

 しかも、訪問でなく「襲来」だ。

 何度も口から炎を吐いている。

 その炎は、屋敷の近くで、パッ、パッ、パッ、と消えるが、このままだと畑に、屋敷に火がつくかもしれない。


 屋敷付近からバリアのようなものが出ているから、火が消えるのは守護神像の効果か。

 それを見て龍はボォーーーーーーーーッ、と長い炎を吐くが、やはり守護神像の近くで消えている。

 凄い効果だ。


 村人が恐慌に陥っている。

 森の『七凶』が、ボウショクヤケイが、村の中で右往左往している。

 牛や豚も山羊たちもヒィィィィィィ、と悲鳴を上げている。

 ハイエルフやハイドワーフたちもなすすべなく逃げまどっている。


 何が起こったのか。

 クラッヘが飛び出して、龍に向かって叫んだ。


「シャル姉!」


 姉、ということはきょうだいか、それとも親戚か。

 というか、聞いたことのある名前だ。

 クラッヘの叔母がそんな名前だったような。

 「神龍」のなりかけ、8人目の有力候補という奴だ。


 それにしては、いかにも攻撃的過ぎる。

 来ていきなり炎を吐いて、この村を焼き尽くさんばかりの勢いでブレスを吐いている。

 有無を言わさずの攻撃だ。

 俺は神剣を取り出して、その龍に立ち向かった。


「ちょっと待ってくれ! 俺が説得してみる!」

 クラッヘはそう言うと、龍に変身して飛んでいき、銀色の龍に迫った。

 そして身体を衝突させ、相手を揺らす。


 しかし、銀色の龍はひるむことなく、クラッヘに炎を吐いた。

 顔を灼かれて、クラッヘは驚いたかのように、空中で体勢を崩した。

 落下しそうになるのを、精一杯翼を広げて、ギリギリで落ちないように羽ばたく。

 劣勢だ。

 説得も何もあったもんじゃない。


「シャル姉! 俺だ! クラッヘンドだ! 大人しくしてくれ! 何の目的がある!? この村を攻めるのはやべえ! オヤジも認めてる村だ! これ以上攻撃するな! 総ての神龍を敵に回すぞ!」


 クラッヘはなおも説得するが、相手は暴れるのをやめない。

 まさに「狂乱」「蹂躙じゅうりん」という言葉がぴったりくる暴れようだ。

 バリアも必死にブレスを禦いでいる。

 ビリビリと屋敷が、大地が、木々が揺れている。


 本格的なピンチだ。

 この村始まって以来かもしれない。

 それまで脅威をもたらした勢力はいくつかあるが、それでも村人総勢の前についえた。

 だが、目の前の龍はそれすらも圧倒しそうである。


 俺は神剣を構えて、刃を横にし、立ち向かう体勢を整えた。

 そして大きくジャンプした。

 数十メートル級の大ジャンプだった。

 そして、銀龍の上に飛び出して、その勢いのまま、神剣を龍に叩きつけた。


 斬るつもりはない。

 はたくだけだ。

 銀龍の正体がクラッヘの叔母であるというのが本当なのであれば、殺すのはマズい。

 しかし、このままではクラッヘか銀龍かのいずれかが死ななければならない状況に陥る。

 ゆえに気絶させる。

 思いっきり頭を叩いて落ち着かせる。


 神剣を叩きつけられた龍は、クラッ、と空中でよろけたが、気絶までには至っていない。

 ならば、素手だ。

 俺が直接パンチを見舞うだけだ。

 なぜそう思ったのかは分からないが、神剣よりもそっちの方が効くと思ったのだ。


 クラッヘの背中に降り立つと、そのまま頭まで駆けていって、そのまま銀龍の方に飛び出し、思いっきりパンチを繰り出した。

 見事、命中し、銀龍はグラッ、と大きく揺れてそのまま地面に落ちた。


 そこで、俺は地面から数十メートルの高さを漂っていることに改めて気が付いた。

 どうやって着地しよう。

 そう思ってると、落下しつつあった俺の身体を、クラッヘが空中で受けとめた。

 そして、彼女と俺は地面に降り立った。


「シャル姉!」


 人間に戻ったクラッヘが地面に背中から落ちた龍のそばに駆け寄った。


「しっかりしろ! 何があった! この村から何かされたのか? それとも誰かから命令されたのか?」


 銀龍は、きゅう、と目を回して気絶している。

 そして、その姿が急に光ったかと思うと、銀色のドレスの娘に、姿を変えた。


 大の字でのびている。

 顔の真ん中に俺がつけたと思しきパンチの跡が残っている。

 目を回しているが、胸が上下しているので、死んでるわけではなさそうだ。


「ううん……」


 しばらく経つと、頭を振って、銀色のドレスの娘が起き上がった。

 村人全員が警戒を崩していない。

 スライムもアントケンタウロスやボウショクヤケイの中に混じって、いつでも押さえられるような体勢を整えている。

 場合によっては全員で飛びかかるつもりなのだろう。

 剣呑な雰囲気が辺りに漂った。


「……あら? あたし、どうしたんだろ」


 言葉を喋った。


「シャル姉!」

「あら、クラッヘ、おはよう」

「おはようじゃねえよ! 何で突然暴れたんだよ!」

「……」


 銀色のドレスの娘は黙っている。

 そしてばつの悪そうな顔で、クラッヘを上目遣いで見ている。


「聞きたい?」

「是非!」

「いや、村の噂を聞いてね」

「うん」

「そこを攻めたら、どうなるのかなーって」

「へ?」

「いや、おじさまが来たって話じゃない?」

「ああ」

「その実力を試したくって。本気で戦ったらどんな形になるかなーって」

「「……は?」」

 クラッヘと俺と、同じセリフが口から出た。


 とりあえず、俺は彼女の頭をつかんだ。

「何?」

 そして、思いっきり力を入れた。

 ギリギリギリ、という音が鳴るくらいに、思いっきり締め上げた。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

 娘が悲鳴を上げた。

「痛い痛い! 何よこれ! 全然外れないじゃない!」

 頭を振って逃れようとするが、俺の手は彼女の顔から剥がれない。

「痛い痛い痛い痛い! ちょっと待って! やめて! 痛い痛い痛い! 外して! 止めてやめて赦して! ごめんごめんごめんごめん! 後生だから締めるのやめてぇ!」

 悲鳴を上げるが、なおも締め上げる。

 何? この村の実力を試したかった?

 そんな理由で村を、屋敷を焼こうとしたのか?

 クラッヘをぶちのめして落とそうとしたのか?


 いたずらにしてはタチが悪すぎる。

 本気でやってるならこの村の敵だ。


 クラッヘの知り合いだというから、これで済ませているだけだ。

 半ば本気で怒っている。

 もう少し怒りが大きければ、クライルヴァードの神剣で真っ二つにしているところだ。

 俺の怒りが臨界点に達してなくて良かったな。

 この村に甚大な被害が出ていたのなら、本気で殺していたぞ。


 ギリギリギリ、と締め上げる俺の手に耐えかねて、彼女はぶくぶくぶく、と泡を吹いて気絶した。

 本当はこの顔にもう2、3発ぐらいパンチを見舞いたかったが、それは自重した。

 クラッヘが「シャル姉!」と叫んでその様子を見ている。

 このアイアンクローは彼女も味わっているから、その威力のほどを知っている筈だ。


 通りいっぺんのパニックが治まるのに小一時間かかった。

 村人の一部は森の中に逃げ込んでいる。

 グレートワイバーンが総勢で飛んできた。

 景色が右往左往する住民で埋め尽くされている。

 そして気絶し続けてる娘を見やっている。


 娘が復活したのはそれからさらに1時間ほどだった。

 ロープでぐるぐる巻きにされて、その端を俺がつかんでいる。

 それに気付いたのか、力をかけてそれを破ろうとしているが、びくともせず、彼女は頭を捻った。


「どういうこと? 何で破れないの? こんなロープ一瞬で……あれえ?」

「シャル姉、無駄だよ。村長がつかんでる。そうなったら俺でも破れねえよ」

「え、村長? この人間が?」

「そうだよ。何でいきなり暴れたりしたんだよ」

「そりゃあ、試してみたくって……痛い!」


 俺はロープの端を握ったまま、再び娘の頭をつかんだ。


「これ以上舐めた真似をするなら、もう一度気絶してみるか?」

「あ、ごめん! すいません! やめて! もうやらないから! 赦して!」


 ロープで縛ったまま、村の広場に正座させて、問い詰めた。

 そして攻撃してきた理由を聞いた。

 それは驚くべき、そして呆れるべき内容だった。


「やー、おじさまとクラッヘが村に来たって言うから、その村の実力を試したくってさー」

「いや、シャル姉、そのきっかけからしてよく分からんのだけど」

「……本当のことを聞きたい?」

「是非」

「えーと、あたしら龍って本気で暴れられないじゃない?」

「うん」

「神龍クラスとなると、本気で暴れると辺りいっぺんが焦土と化すじゃない?」

「ああ」

「で、この村の噂を聞いてさ」

「うん」

「一度本気で暴れてみたくってさ」

「はい?」

「えーとね、人生一度は本気で暴れてみたい時期があるじゃない?」

「意味が分からんのだけど」

「おじさまとあたしが本気で戦ったらあたしの方が死ぬじゃない?」

「まあ、神龍は死なねえけどな」

「だから、ヒトじゃなくて村に攻撃してみたんだけど」

「は?」

「いやー、流石だわね。あたしの本気の攻撃を全部耐えきったわ。村にほとんど被害が出てないわ」

 はっはっは、と娘は悪びれもせずに笑った。


 なるほど?

 人生一度は本気で戦いたい。

 しかし、真龍や大龍クラスだと勝負にならない。神龍や龍姫の方が圧倒的に強い。

 同じ神龍クラスだとガチの殺し合いになる。

 それは彼女としても望むところではない。


 ゆえに村を全力で攻めてみた。

 なるべく住民には被害を出さない形で。

 いや、被害が出てもいいから、人生ただ一度の本気を出してみたくて。

 そういうことなのだろう。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~」

 俺は大きく長くため息をついて、そして彼女の顔をもう一度(つか)んだ。

 本気で力を入れると、ばきん、と何かが割れる音がして、彼女は「痛い」と言う間もなく、再び泡を吹いて、ずるずると滑り落ちて、気絶した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ