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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第55話:有翼族の長

 有翼族23名がやってきた。

 2週間あまりで全員揃った。

 1か月あまりかかるというのは何だったのか。

 マリンによれば、弁当やお土産に持たせた作物が大好評だったとのこと。

 作物を口にした途端、「村を棄てましょう!」「ただちに移住しましょう!」との言葉が頻発したそうだ。

 そのまま無言で荷物の取りまとめに入った者もいたようだ。

 人気があって何よりだ。


 治癒魔法に関しては、「エリシアほどではないが、そこそこ使える」程度。

 ただ、薬学の知識があるようで、エリシアを村医者の立場からは解放できそうだ。

 頭抜けているのはエリシアなので、相変わらず難しいのは彼女頼りになるけど、この森のある程度の薬草は把握できているので、その辺でエリシアの研究が進められるらしい。

 難しいケースにのみエリシアに来てもらい、普段は有翼族に常駐してもらうのがいいかもしれない。


 有翼族の羽は非常に大きく、そして真っ黒だ。

 「テング」という異称にも納得だ。

 真っ白だったら「天使族」と呼ばれていたんだろうな。


 ちなみにその羽はしまえない。

 魔法的なサムシングを期待していたが、そういうのはないらしい。

 畳むぐらいのことはできるが、それでもかなり目立つ。

 それゆえに、服の構造が独特だ。

 基本的に衣服は左右2つに分かれており、それを腹側と背中側で結ぶ形にしているらしい。


 それが彼女たちの普段の衣装らしい。

 前に出逢った時には鎧を着込んでいたので分からなかった。

 鎧と言っても軽装の、冒険者みたいなのが着るような何かだったが。

 戦闘しないのならそういう形なのかもしれない。

 あるいは初夏で、これから夏に入るから、そのような恰好になるのか。


「冬もその恰好なのか?」


 一応訊いてみた。


「流石に冬は厚着になりますよ。今は夏に入るからこの恰好ですね」


 それはいいが、薄着な上に胸の辺りが大きく開いているので、割と目の毒だ。

 服の向こうに体型がシルエットとしてもろに映ってしまっている。

 女性が多いと羞恥心はあっちの方に行ってしまうのかもしれない。

 男を捕まえるために魅力を全開にするという。

 この村独自の村人衣装を考える必要があるのかもだ。


 ちなみに2週間というのは、ほぼ行き帰りの時間だったとのこと。

 現場では即断即決で説得に1時間もかからなかったらしい。

 それほど俺の作物が衝撃だったようだ。

 麾下の村の管理もほぼ放置して、まっすぐこっちに向かってきたらしい。

 それは良くないな。

 時間がかかってもいいから、ここに居着いてしばらく経っててもいいから、一応声はかけておくように。

 そう言うと「はあ~い」と気の抜けた返事が返ってきた。

 「そこまでするものでもない」という認識が強いようだ。

 そう言えば「管理を抜ければまた自立する形に戻るだけ」と言ってたしな。


 この23人にシュリンは入っていない。

 今のところはマリンが便宜上仮のリーダーになっている。

 シュリンは「パパ」を説得するのに時間がかかってるらしい。

 そりゃそうだろうな。

 男が1人の、他は異種族だらけの村に、23人もの娘が一気に移住するのだから。


 それから数日後にシュリンが戻ってきた。

 その後ろに、男の有翼族が数人ついてきていた。

 誰だろう。

 尋ねると。


「お主が村長とやらか。我は有翼族の取りまとめをしておるイロンと言う。このたびは娘たちの受け容れを快諾して感謝している」


 ひときわ立派な衣装の身の丈2メートル以上ある大男が代表して声をかけてきた。

 これがシュリンのパパというやつか。

 偉丈夫という表現がぴったりだ。

 テングというには普通のおっさんの外見で、鼻に特徴はないが。


「で、この村長とやらがお前たちの婿か」


 シュリンに声をかけると、彼女の顔がぽっ、と赤くなった。


 いやいやいやいや。何を言ってる。

 シュリンは受け容れを許諾しただけで、別に嫁に迎えるとかそんな話は一切してないぞ。


「パパったら、婿なんて、もう、気が早いんだから!」


 バシッ、とシュリンはイロンの尻を叩く。

 なるほど、諸悪の根源はお前か。

 否定しないで「気が早い」と言ってるところで正体が見えた。


 そんな会話を聞いて、一斉に村人たちが俺の身体をホールドした。

 ギュウギュウになって押し潰されそうだ。

 それを見ると、イロンが「む」と唸った。

 流石に状況を把握して、娘を叱るつもりか。

 そう思ったら。


「なるほど、ライバルがこれくらいいるのだな。その意気や良し! 有翼族は総ての種族の上に立つべきだ! 頑張って出し抜け! 応援するぞ!」


 いやいやいやいやいやいやいやいや、お前さん何を言ってる。

 わざわざライバル宣言とかしないでください。

 ホラ、俺をホールドする力がますます強くなった。

 皆が怖い顔をしているぞ。

 有翼族が総ての住民の敵に回りかねないぞ。


「総ての種族の上とは聞き捨てならんなあ」


 クラッヘが声をかけてきた


「あ、クラッヘ様。この村にご滞在してたのですね。ごきげんうるわしゅう」


 いきなり下手に出た。

 クラッヘとイロンは知り合いなのか。

 まあ、クライルヴァードとクラッヘはこの森を管理してたというからな。

 そんな関係もあってしかるべきか。


「いやいや、龍を差し置いて上に立つなんてことは言いませんよ。我々は龍に忠誠を誓っておるわけですから、いわゆる言葉のあやという奴で」

「言葉のあやというには、少々傲慢が過ぎるような気もするがな」

「はっはっは、我々有翼族が龍に逆らった事実がございますかな? ございませんでしょう? 龍であるならば、その辺の言葉の意味というものを読んでいただけませんとな」


 呵呵大笑してイロンは傲然と言ってのけた。

 なるほど、パパぎみとやらはこんな性格なのか。

 娘があんな性格に育つのも納得だ。

 龍を言いくるめて、ついでに自分たちをアゲるのにも余念がない。

 ゆえに「管理種族」なのだろう。

 好きで中間管理職を引き受けてるような。

 もっと言えば、龍と各種族の仲立ちをして利益を得てるような。


 クラッヘは「むぅ……」と唸って言い返せずにいる。

 「龍であるなら」という言葉には弱いようだ。

 俺だったら普通に言い返すけどな。

 ただ、他人のことなので口を差し挟まないだけだ。

 龍には龍の都合もあるだろうし。


「シュリンよ! そして有翼族の皆よ! この村に仕えて、有翼族ここにあり、と知らしめるが良い!」


 そう言ってのけると、彼は腰に吊り下げておいた袋を外して、俺に差し出してきた。


「これは手付けにございます」


 俺をホールドしていたエルダーアラクネのひとりが受け取ると、中身を見て、怪訝な顔をして、そして俺に渡してきた。

 見ると、キンキラに光る何かが袋一杯に詰まっていた。

 砂金か。

 しかも、色と重さからして相当な量だ。


「これは?」

「手付けですな。今後お取引よろしくお願い申し上げます」


 イロンは頭を下げてそう言うと、さっさと仲間とともに去って行ってしまった。

 何だったんだ。

 台風のような男だな。

 そんなのはクライルヴァードだけで充分なのだが。


「で、これは何の手付けだって?」


 残ったシュリンに訊く。


「作物を取引したいとの意図だそうです。取引分に関しては都度支払いするそうです」

「直接言わないのは何故だ?」

「さあ……昔っから父はあんな性格なもんですから」


 なるほど。基本的に言いくるめで肝心かなめの意思表示を周りに押しつけるタイプか。

 しかも半ば強制的に事後承諾させるように、こちらの意図はあえて読まない、という。

 確かに中間管理職にはうってつけのタイプだ。

 たぶん返しても「一度受け取ったではござらんか」「その道理は通りませんぞ」とこっちを言いくるめて結局押しつけ返すんだろうな、という予想が簡単にできた。

 前世を思い出して、痛まない筈の腹が何となくギュリッ、と捻られたような気がした。


 それにしても、この世界に来て初めての金のような気がする。

 やはり、この世界でも金銀は価値あるものなのだな。

 今までは働きや卑金属とばかり取引していたので分からなかった。


 ハイドワーフに訊くと、やはり金銀は特別というか、他の金属よりも高値で取引されるようだ。

 ただ、ハイドワーフの間では青銅や鉄と言った「役に立つ金属」の方が、価値というか、役割は上なので、それほど積極的には掘らないらしい。

 金銀鉱を掘ることもあるが、それは有翼族のような、金銀を必要とする種族との取引のためのようだ。

 あるいは彼らの庇護を受ける時に、そういうのを渡す的な。

 そういった貴金属の保証も有翼族ら「管理種族」の役目なのかもしれない。


 そう言えば魔鉄鉱とか魔晶石といったものもあったような。

 唐突に思い出した。

 ハイドワーフにそれを振ると、意外そうなものを見る表情で見られた。


「失礼だが、村長は魔法をお使いで?」

「いや、使えないが、そういったものなのか?」

「そうだ。基本的に魔法を使える者専用の、特別な金属という感じであるな。普通の鉄鉱に混ぜて魔剣魔刀を作ったりとか、魔力の伝導率が違うので、罠感知のための魔法陣を作る時に、その導線に使うとかいう使い方であるが……」


 なるほど。

 基本的に村人たちは素が強いので魔法で撃退する方法をあまり使わない。

 一方でエリシアは攻撃力がないのでそういった魔金属(?)の使いどころがない。

 黙っていたのではなく、単に使う機会が限定されるから、言いそびれていただけなのだろう。


 ただ、若干数は欲しい、と告げてはおく。

 いつ必要になるか分からないから。

 そう言うとハイドワーフたちは精錬までやってインゴットの形で持ってくると言ってくれた。

 ありがたいことだ。

 取引レートを少し上げてもいいかもしれない。

 基本は向こうの言い値で必要な分を渡してるだけなので、それに少々オマケをつけるだけだが。


 今はまだいいが、そろそろレートを決めても良いのかもしれない。

 インゴット一つ、常駐1日につき、任意の作物いくつ、とか。

 酒は高く取引できそうなので、その分の働きを期待するとか。

 ただ、基本は俺が勝手に作ってるだけで、それに村人の希望が載っているだけなので、急ぐ必要はないだろう。

 「外」とコンタクトを取れるようになった時に初めて決める形でいいのかもだ。


 23人の有翼族にリーダーのシュリンが加わり、そして彼女の父たちとの取引が始まった。

 合計24人の移住だ。

 頑張らねば。

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