第54話:祭りの相談
初夏がやってきた。
再び空気が徐々に暖かくなり、夏の日差しになってきている。
風呂や水浴びは人気だ。
風呂小屋や水浴び用の池を増やしているが追いついていない。
そして、元いた集落が女性ばかりだった者が多いので、いちいち彼女たちが裸のまま、もしくは裸同然の姿でうろつくことが多く、目の毒だ。
そのたびに「服は着るように」と注意するのだが、あんまりはかばかしい効果は上げられていない。
「まあ旦那様にだったら見られて減るもんじゃないしね」
「最初の住民」たるエリシアはそう言ってカラカラと笑う。
「今さら恥ずかしがる住民なんていませんよ」
「男が多かったら流石に隠しますよ。隠す必要が感じられないので隠さないだけですね」
他の者も似たような意見だ。
ただ、今後男が増えた時、子供が来た時などにいろいろマズい結果になりそうなので、いちいち注意して回っている。
今後、俺以外の異性が増えない保証はないのだ。
「そうは言っても女ばっかり増えてますからねえ」
「男がいると言っても虫やケモノ相手だとあんまり恥ずかしくないというか……」
「割とこの姿で出歩くの、気持ちいいですね」
アカンセリフを聞いたような気がしたのは気のせいか。
このままでは性癖が曲がった形で固定されかねない。
男性の募集は喫緊だ。
来れるようなら真っ先に来てもらおう。
男1人に女100人近く、という構造はどう見ても健全とは言えない。
そうでなくても、男性陣はこの森では稀少で貴重だ。
橋の村のように極端なケースはないが、それでも有翼族やハイドワーフのように男女比が10倍違うという種族もいる。
ハイエルフさえ2倍以上の差があるのだ。
そろそろ確保しないと、ますます男女比が拡がって修正できなくなるかもしれない。
この村の関係者唯一の人型男性と言っていいクライルヴァードは、裸同然の住民が多いのをあんまり気にしてない。
同じく関係者が女性ばっかりというよりも、彼の正体がドラゴンだから、という部分が大きいのだろう。
人の姿である必要があるから人の姿でいる。
それ以外に人型でいる必然性はない。
ちなみに人以外に変身するのか? と訊いたら、彼はこくりと頷いた。
「エルダーアラクネやシャドウウルフのようにもなれるぞ」
そう言ってドロンドロンと変身してみせた。
それはいいのだが。
人型の男の時はちゃんと服を着てるのに、女性の姿に変身すると裸なのは何でなんだろう。
ハイエルフやハイドワーフの姿にもなったが、その時は服を着ない姿だった。
もしかして、俺を弄ってるのだろうか。
流石に男相手に欲情するほど俺は節操ないつもりはないが。
もしかすると、向こうが節操ない側なのかもしれない。
長く生きてるしな。
彼との距離を少し考える必要がある。
ちなみにクラッヘも男に変身できる。
本質はドラゴン、正確にはドラゴンハーフなので、自由自在に人型の性別、頭身は変えられるらしい。
頼んでみたら高身長の美女の姿、老身の姿、長身の男の姿、と次々と別の姿に変身してみせた。
それでいて、クラッヘとしての特徴は大きく外していない。
器用なもんだ。
ちなみに普段がちんちくりんの姿なのは「それが一番自分の性に合ってる」かららしい。
神龍の係累としては子供も子供。
ゆえに子供の姿。
実際は俺の何十倍も年長。
それはいいが、それなら夜はちんちくりんのまま来ないでほしい。
最近は慣れたが、それでも罪悪感は拭いきれない。
俺の周りにいるちんちくりん全員が俺より年長なのは知っているが、子供の姿はやはり見ていて健全とは言えない。
反応できてしまうのは俺に節操がないからだ。
反省。
「そう言えば、この村にお祭りってないんですか?」
ある日、とあるハイエルフに、そのようなことを言われた。
考えてみれば、そんなこと念頭になかったなあ。
設備を整えるのに精いっぱいだったし、次から次へと住民が増えてきてるし。
もちろん住民独自に自分たちだけで祭礼をするなら邪魔をするつもりはない。
そういうわけではなく、「この村独自」「村で統一された祭」が欲しい、ということなのだろう。
アイデアを募集してみた。
「武闘会」
却下。
戦闘力の差が大きすぎる。
それに、医者もろくに揃ってないのに村人たちが怪我して動けなくなったらどうする。
今のところ、シュリンたち有翼族は管理下の全村を回って引き払う最中だ。
彼女らが揃わない限り、その治癒魔法の実力のほどが知れない限り、迂闊に村民同士で戦わせるわけにはいかない。
ただ、今後は分からない。
「踊り」
これは俺のアイデアだ。
イメージ的には盆踊り
こっちは村人たちから首を傾げられた。
「全員一致で踊るんですか?」
「箇々で狂ったように踊るわけじゃなく?」
「乱痴気騒ぎは私たちのところでもありますが、お酒も飲まないのに、麻薬を服用もしないのに、静かに踊るんですか?」
「巫女のような踊りは確かにありますが、それはその人が巫女だからですね。それに、どっちかって言うと、私たちの踊りは踊りたいから踊る、ってわけじゃなく、奉納の踊りというか、その踊り自体に意味があることが多いですねえ」
「奉納踊りは男の役目だよね、どっちかっていうと」
「祭司長が奉納して、巫女役の女性がそれに続く形が普通というか」
「村長の祭りはそういうところが多かったんですか?」
民族舞踊も一応世界観的に考えたのだが、それも頭を捻られた。
そうか。
男女比が極端に傾いてるとそういうところもあるのか。
確かに俺の知ってる民族舞踊は男女ペアで踊るケースが多かったからなあ。
森が危険でそういう踊りを発達させる余裕がなかったのかもしれない。
「食べ物を使った祭り」
チーズ転がしとか、トマト祭りとか。
こっちは即座に全員に却下された。
「そんな勿体ないことできません!」
うん、正論だ。
この村の住民は俺の食材を高評価している。
むしろ「与えてくださっている」というほどに崇敬している。
俺はそんなつもりじゃなく、生えるから食べる、食べられないなら食べない、でいい、俺の作るもんなんだから、という感じでいるのだが、多少腐っても食べるつもりではいるらしい。
俺の命令でそういうのはスライムに与える一辺倒にしているが。
そもそも森で新鮮なものがほとんどないので、多少腐ったものでも平気で口に入れることが多いらしい。
「毒でなければいい」「死ななければ安い」みたいな。
この森の食生活の貧困さが窺い知れる。
「とりあえず守護神像の前で奉納祭」
これは多くの賛成を得られた。
ただ、行う時期はなるべく皆が揃うあたりにしてほしいとのこと。
橋の村以外でも訊いてみたが、今の季節は食べ物を集めるのに忙しい時期なので、できることなら夏が過ぎて冬前か、もしくは冬が明けて春の陽気が漂い始めてからにしてもらいたいらしい。
なるほど。
思いついたのが昨日今日なので、ギリギリでタイミングを外してしまった感じか。
有翼族もまだ集まりきっていない。
参加させるなら彼女らにも参加してほしい。
ちなみに森の祭りで多いケースは「奉納祭」か「乱痴気騒ぎ」のほぼ二択であるとのこと。
奉納祭は神前で粛々とやる。
乱痴気騒ぎはお酒や麻薬を飲んで無茶苦茶に暴れる。
奉納祭は1年に1回か2回ぐらいなのに対し、乱痴気騒ぎは5~6回ぐらいやるらしい。
その時に仕込まれた子供は丈夫に育つ、との言い伝えがあるそうだ。
奉納祭はともかく、乱痴気騒ぎは、流石に俺はそれに賛成しかねる。
麻薬は問題外として、お酒もそんなことに使ってほしくない。
酒は微酔に限る。
麻薬は言わずもがな。
美味しく食べて、正しく食べて、粛々としてるのが一番であります。
麻薬は薬の材料となるので決して育てない、というつもりはないが、それは充分に、厳重に管理できる上での話だ。
今のところ、それができる人材がエリシア1人しかいない。
ただでさえ忙しい彼女にそこまで押しつけるわけにもいかない。
勝手に持ち出されても困るし。
乱痴気騒ぎは「暴れ祭り」と呼ばれることが多いらしい。
その時ばかりは無礼講ありあり。
目当ての男性や村長祭司長に迫ることもある。
とにかく日々の鬱憤を晴らすために記憶を失うまで酒や薬を服用し、女性が大暴れするらしい。
もちろん男性も大暴れするが、死人や怪我人も後を絶たないようだ。
危険だ。
却下だ却下。
村人をそんな危険な目に遭わすわけにいくか。
最善は奉納祭。
次善は武闘会。
季節によっては記念祭、収穫祭。
ただ、収穫は大半の場合2週間に一度できてしまうので、俺の中では季節感がないし、特別感もない。
そう考えると、いろんな「理由」のあった前世の優秀さが際立つ。
そして文明度が低いと、祭りの理由にも事欠くんだなあ、と実感することになった。
「武闘会」ならぬ「舞踏会」、舞踊祭なんかはそういう習慣をこれから根付かせておいおいやっていく形で。
とりあえず、今のところは宴会の延長上の「季節祭」「記念祭」などを逐次行っていく方がいいだろう。
何であれば料理の腕を争っても良い。
その辺なら種族差もほとんどないし、実力も伯仲している。
食うもの、食えるものに差があるのなら、種族ごと、部門別で決めればいい。
あとは運動会とか。
とりあえず時期を決めたい。
各方面に訊いてみた結果、奉納祭は冬前にやることになった。
橋の村に内外で大勢集まって、守護神像の前で壮大な宴会をやる。
その時に俺が奉納踊りをすることになったらしい。
そういうアイデアを出していないにもかかわらず、伝言ゲームでいつの間にかそうなった。
困った。
盆踊りならともかく、神前式の踊りなんて全然知らないぞ。
まあ、その辺は適当にそれらしいものができればいいのかもしれない。
どちらにしても半年以上先の話だ。
舞踊祭に関しては、各方面鋭意努力。
なるべく「それらしいもの」を用意して、その腕前を争えるようにしていてほしい。
そう言うと各処で踊りの練習らしいものが始まったが、ギクシャクしているというか、「踊り」よりかは「演武」「型」のような何かのように見える。
戦いだけしか知らなかったから、それもしょうがないか。
その辺も俺がかすかな記憶を頼りに「前例」を見せる他ないのかもしれない。
どちらにしても大勢の前で踊ることを避けられそうにないようだ。
恥ずかしいが、文化のためだ。
頑張らねば。
武闘会は有翼族の治療の腕が分かってから、村全体で相談することにした。
「予定は未定」
そう言ったにもかかわらず、すでに稽古が始まっている。
しかも舞踊の方より気合が明らかに入っている。
口頭で伝えたにもかかわらず、武闘会の雰囲気はシャドウウルフや大蜘蛛にもすでに伝わっていた。
いつもより機敏に動き、そして鍛錬の様子に余念がない。
人型にだけ伝えた筈なのにどうしてこうなった。
ハイドワーフの村々でも代表選抜の試合がすでに行われているらしい。
橋の村では前哨戦も始まっているようだ。
あちこちで睨み合いが行われている。
軽い取っ組み合いなども行われている。
流石に本格的なものは「本番」に取っておくのか、軽い組手や型の稽古、ゆっくりとした投げ合いなど、運動の範疇にとどまっているものが多いが、「未定」と言い切った筈なのに、どうしてこうなっているんだろう。
それだけ彼女らは戦いに飢えてるのか。
本能的に戦うことを義務づけられているのか。
そっち方面に喜びを見いだすたちなのか。
武闘会は全部が揃わなくても早めに行った方がいいんだろうな、と思ったここ最近の日々だった。




