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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第5話:トイレ

 角牙ウサギの可食部は少なかった。

 1匹当たり2、3食ほど。

 大きさからすると少ない。


 やっつけたのは4匹なので、鉄臭い肉を含めておよそ10食分の肉があるということになる。

 つまり、3日以内に新たなメシが手に入らなければ、俺は詰む。


 塩も何もないので、残った肉は焼いておくことにした。

 燻製だって焼いて保存する方法だ。

 少なくとも生よりかは腐りにくいだろう。


 保管方法としては、土に埋めることも考えたが、周辺を探った時にちょうど木のうろがあった。

 高さが2メートルくらいある。

 垂直に登らなければならないが、熊なり背の高い人間なりがいなければ、取られる心配はないだろう。

 このうろがいっぱいになる前には、手軽な保管庫はどこかに作っておきたい。


 それよりも拠点というか、家の建設か。

 倉庫があれば木のうろよりそっちの方がいい。

 ただ、木は倒しても年単位で乾燥させなければ、建材として使えないと聞いたことがある。

 俺は広場の隅に山と積んでいる木々を見てため息をついた。

 切ったばかりの木々で家を作っても、割れたり曲がったりカビが生えたりして、住みにくい家ができてしまうのだ。


 ウサギの頭や内臓は思いっきり遠くへ投げ棄てた。

 数百メートルくらい飛んでいっただろうか。

 『巨人の力』さまさまだ。

 人間の力ならこうはいかない。

 この距離なら、棄てた人間がここにいると悟られることはないだろう。


 さて、小一時間ずつでも、重なれば時は経つ。

 気が付いたら少しずつ空が暗くなって、暮れ始めていた。


 倉庫どころか家も何もないので、焚火を移動して、木の根っこを枕に、完全野宿だ。

 敷地と水とメシを最優先させた結果なので、しょうがない。

 ただ、これが明日以降も続くと問題だ。

 早々に住居問題をどうにかしないと、詰んでしまう。


 幸いなことに、その夜に襲ってくる動物などはおらず、身体も痛くならず、ぐっすりと眠れて次の朝を迎えることができた。

 懸念された筋肉痛も全くなかった。


 朝になったので、さっそくテント作りに入る。

 細めの木々を組み合わせて筋違すじかいを入れて、草を積み上げてできあがり。

 思ったよりも簡単にできた。


 広さも高さも、俺ひとりで眠るのなら充分だ。


 ここで初めて気が付いたのだが、テントを作ろうと思った途端に、あやふやだったイメージがかっちり固まり、作業もとどこおりなくできた。

 多少押しても揺れもせずにガッチリしている。

 これは何だろう。

 もしかしたら、『奇跡』か『巨人の力』が俺を作業名人にしているのだろうか。


 そう言えば、手刀狩りの時もウサギ解体の時も、失敗せずに巧くできた。

 たまたま巧く行っただけ、と思ったのだが、もしかして神様付与のチート(ずる)能力が影響している?

 他の作業も同様にできるのを祈るのみだ。


 さっそく倉庫も作って、木のうろから肉を移す。


 トイレは苦労した。

 いや、質を重視したためにあえて苦労する作り方をした、というべきか。

 トイレはQOLに直結するため、テントや倉庫のように「いい加減な作りで良い」というわけにはいかない。

 なので、かなり凝った作りにした。


 まず大きめの穴を掘る。

 真上からではなく、斜めの穴だ。

 俺の入れるほどの大きさだった。


 流石にこの穴は手掘りやキックだけというわけにはいかないので、スコップを作った。

 木の板に木の枝をくっつけた簡素な出来だ。


 このスコップが大活躍した。

 まるで本物の金属スコップのようにスルスルと土が掻き出せる。

 構造的にすぐ壊れると思ったのに、想像以上に耐久力がある。

 もしかして、『巨人の力』は、俺を作業名人にさせるだけでなく、道具を俺の手足の延長にしてくれるのだろうか。


 続いて排泄物を溜めるための部屋を作る。

 これは広めに作った。

 掻き出し作業のことを考えて、俺ひとりが立って入れる場所にした。


 壁を連続キックして固める。

 あっという間にコンクリのような質感になった。

 再び蹴ってもヒビ一つすら入らなかった。

 これで水質的にも安心だ。


 そして真上からの穴を掘る。

 これが落とすための穴だ。

 これも適当な太い枝を拾ってきて通した。


 この枝もまるで泥に通したかのように、スルスルと土の中に入る。

 貫通したのを感触で察知したら、一応トイレらしきもののできあがりだ。


 もちろんこれで完成ではない。

 便器だって必要だ。


 積んである木材の中から手刀で切り出して、根っこ部分を調達する。

 その余計な根っこをスパスパ切って、便器のような形にする。

 そして中をすり鉢状に手刀で彫る。

 こっちも呆気なくできた。


 それにしても手刀便利、超便利。

 力もいらず、イメージ通りに彫れるとか、どんなしくみなのか。

 こんなチート(ずる)能力があれば流石に何でもできるか。

 「上のヒト」たちの「苛酷な環境でも何とかなる」が、実感として理解できるような気がした。


 完成した便器を穴の上に固めて、キックを落とす。

 ガッチリ固まって動かなくなった。

 便座となる板をくっつける。


 そして掻き出し穴を板で塞げば、トイレの完成だ。


 次いで建屋の建設に入る。

 このままでは雨風が降った時にトイレに行きにくくなってしまう。

 住むわけではなく、多少歪んでもカビが生えても問題ないので、積み上げている木材を使うことにした。


 細めの木々を集め、ぐるりと左右、後ろのの三方を囲む形でくい打ちする。

 前面を開けるのは匂いがこもらないようにするためだ。


 ただし目隠しは警戒上必要なので、建屋の少し前に、壁と同じく細めの木々を立てる。

 いわゆる男子向け公衆トイレのような構造だ。

 脇からはすんなり入れるが、トイレの内部は直接見えない、というやつだ。

 後は屋根を重ねれば建屋の完成である。

 これで雨が降ってもトイレとして使えるようになった。


 トイレにこだわるのは俺がトイレで苦労したことがあったからだ。

 洋式派なのにある時引っ越したアパートのトイレが和式だったので、する時には非常に苦労した。

 物件としては良かっただけに残念だった。


 なので、俺はトイレにだけは手を抜かないつもりでいる。

 改善できる部分があれば今後も手を入れ続けていくつもりだ。


 トイレットペーパーはそれらしい葉っぱが森に大量にあったので、それを摘んできた。

 感触も悪くなかったので、かぶれなければ問題ないだろう。

 同じく手刀で彫ったバケツに水を汲めば、安心して使うことができる。


 トイレが建屋としてできたことで、文明度が一気に上がったような気がした。


 もちろんトイレだけを豪華にするつもりはない。

 いずれはテントや倉庫も建屋式にしたいと思っている。

 ただ、トイレは最初から建屋式じゃないと無理だった、というだけだ。

 それが作業量の偏重に繋がってることだけは強く主張しておきたい。

 「寝る場所なんてテキトーでいいや」と思ってるわけではないのだ。


 寝る場所と倉庫とトイレができたことで、当面の生活に不安はなくなった。

 焚火はテントの中に移す。

 煙は覆っている草の間から自動的に抜けていくので、窒息する心配もない。


 それにしても、俺の手が足が大活躍している。

 キックをすれば木が倒れ、土壁を蹴れば蹴ったところ以外もコンクリやアスファルトのように固まる。

 手は手刀以外にのみたがね、ヤスリ、ハンマーのような役割を果たした。

 しかも細かいところは自動的に動いて、イメージ通り、いやイメージ以上のものを作り上げてくれる。

 これが『巨人』のチート(ずる)能力のお蔭ならば、まさに巨人さまさまだ。


 逆に言えば、手指よりも小さなものを作るには向かない。

 でっかいものを積み上げるにも、俺の身長はいかにも小さすぎる。

 やはり道具は必要だ。


 なので、スコップに続いて、枯れ枝を使って道具も作った。

 作業道具としては鍬、ナイフ、彫刻刀、ハンマーなど。

 日常用具としてはコップ、フォーク、スプーン、皿など。


 特に日常用具のコップや皿に関しては、時間の赦す限り、ありったけ作った。

 ヒマに飽かせて作ったので、たちまちテントがそればかりで埋まってしまった。

 しょうがないだろう。

 作れば作るほど完成度が上がるんだし、基本やることが狩り以外にほとんどないので、気が付けば作ってしまっているのだ。


 流石に寝場所に置いておくのは邪魔なので、もう一つテントを作ってそこに収納した。

 これが役に立つ日はやってくるのだろうか。


 鍬やナイフは完全に木製だ。

 普通であれば、そんなもの作っても何の役に立つのやら、である。

 ただ、今は俺の手が奇跡を乱発してるし、その延長上にある道具も同様の能力を発揮できる。

 なので、問題はない。

 ないといいなあ。


 作業道具を作るのは、もちろん木製であっても俺が使う限り役に立つから、というのもあるが、いざ金属器を手に入れた時に、その扱いに慣れておくといった目的もある。

 「自分の手足が便利なので、一切道具は使わないし、使えませんでした」では、他の文明人がやって来た時に前世の沽券にかかわる。俺自身だって恥ずかしい。


 大切なのは「俺の延長上に道具があること」を考えること。

 そして強いイメージ。

「俺のナイフは木製であっても、金属器以上に切れる」

 そう考えることで、本来構造的、硬度的に切れないであろうものをスパスパ切れるようになっている。

 何なら、樹木さえもそのナイフで一刀両断できる。

 木材で木を倒すのは自分が見ても不思議な光景だ。

 いくら何でもチート(ずる)過ぎる気がしないでもないが。


 道具兼武器として、鉈や大きめのナイフ、斧なども作った。

 あくまで過渡期の道具でしかないが、揃えることに意義がある。


 木々だけでなく、石も活用する。

 鍋は流石に木製とは行かず、石で作った。

 流石に手足が万能だからと言って手を直接火にかけるわけにはいかない


 万能な手足とて、鍋の代わりはできない。

 「イメージが大切」と言っても限りがあるし、肌を直接直火にかけたら、「これは鍋だから火傷しない」というイメージより、「思いっきり火傷するよな」のイメージの方が勝る。


 傷薬も火傷薬もない。

 いま、俺がここで大怪我でもしたら、生活に支障が出る。

 生活に支障が出たら、苛酷この上ない今のサバイバル生活では、呆気なく詰む。

 怪我や火傷をしないというのは、生活する上でも大切だ。


 なるべく迅く「本物」を揃えたいものだな、と改めて思った。


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