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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第49話:俺と神々

 救荒植物というものがある。

 「飢えた時に食うモノ」の総称だ。

 有名どころではサツマイモ。

 非有名どころでは彼岸花や木の皮などがある。


 平常時に食べるものではない。

 普段は毒性があったり、酷く不味かったり、食った実感がなかったりと、どこかに欠点がある。

 エルダーアラクネが半年間森の中で彷徨ってた時に食ってたドングリなんかも救荒植物の一種だ。

 あれは不味かった。

 もう一度食おうという気にはなれない。


 サツマイモも本来は不味いものだった。

 戦時中や戦後に不味いサツマイモを山ほど食わされたので、その後サツマイモが美味くなっても嫌いだ、という人は多かったらしい。

 俺は品種改良されて美味くなった焼きイモ用のサツマイモしか知らないので、そんなものか、と思ったのだが、トラウマになるほどに不味いのなら、それはそれは本当に不味かったのだろう。


 その救荒植物を育ててみた。

 すでにサツマイモは育ててたので、追加でイタドリやノビルやナズナなどを育ててみた。

 すぐに育ったので食ってみたが、評判は上々だった。

 上々だと困るんだけどな。


 雑穀も育ててみた。

 アワ、ヒエ、キビ、エンバク、ハトムギ、ソバなど。

 こちらも俺にとっては「たまに食べるのならいいが、常食するものではない」という感じだったが、村人の評判は上々だった。

 だから、上々だと困るんだってば。


 ハトムギは煎って水と混ぜるとハトムギ茶になるので、その辺の需要を喚起したい。

 カフェインが含まれてないので、カフェインに酔う虫系住民に良いだろう。


 いきなりそんなものを育てた理由。

 俺が何かの理由で村を留守にした場合、食べるものがないと困る。

 一応保存はしているが、長期離脱した時に、それを食い尽くしたら困る。


 そうでなくても、俺がこの村に永久にいる保証はないのだ。

 村人が居続けるならばできるだけその世話をしたいと思うが、俺はこの世界に新たな文明・文化をもたらすという神から与えられた目的がある。

 「その時」が来たら、世界中を回らないといけないかもしれない。

 それに備えて、できるならば森の中という奧地でも育てられるものを育てたいのだ。


 俺の育てた作物はすぐに育つが、そこから種を取って育てたらどうなるんだろう。

 結果は、こちらもすぐに育った。

 なので、村人に植えさせて育てた。

 そうすると、普通の生長速度になった。


 やはり、『奇跡』持ちの俺が育てるかどうかがトリガーになるらしい。

 村人が育てたものは害虫も普通に湧く。

 一方俺の育てたモノはほとんど害虫がつかない。

 こちらも『奇跡』か、『救世主メシア』の育てたものゆえか。

 まあ、害虫退治はスライムがどこにでもいるので良いけど。


 と言ったら、村人に「そんな都合の良いスライムなんて、この村ぐらいにしかいませんよ」とか言われた。

 そもそも野生のスライムはコントロール不能。

 害虫よりも美味そうな木の実や落ち葉などを好んで食うらしい。

 積極的に害虫を食うスライムはこの村に来て初めて見たそうだ。

 そうか。


「そう言えば、飢えた時にお前らは何を食ってたんだ?」

 皆が集まってた時に、疑問をぶつけてみた。

「あたしらはドングリです、というのは前にも言ったと思いましたけど」

「それは聞いてるな。ハイエルフやハイドワーフはどうなんだ?」

「基本、似たようなものですけどね。流石に焼いたりアクを抜いたりしますが」

「不味いのか?」

「そりゃあもう。なので、割と必死に農業をしますね。村長には雑草にしか見えないモノばっかりだと思いますが」


 後日、例に出した「雑草」とやらを提出してもらった。

 トゥクトゥク草とかバラミオ草とかエランゾ草とか、といったものが出された。

 流石にその名前は聞いたことがない。

 トゥクトゥク草は穀物を得る時に育てるもの。

 バラミオ草やエランゾ草はそのまま葉っぱを食うらしい。


 ただし、総て毒性がある。

 余裕がある時は慎重に毒抜きをして食うが、かなり乾燥させたりアク抜きしたりしないと抜けないので、そうでない場合はそのまま食う。

 当然、腹痛になる。

 だが、食う。

 腹痛以上の症状は起きないので、そんなものなのだそうだ。

 俺の世界の彼岸花ポジションだな。


 乾燥させたトゥクトゥク草の実を料理してもらったが、何と言うか、評価に困る味だった。

 雑穀以下の味。

 ただし食えないわけではない。

 工夫すれば食えるかもしれない。

 蕎麦の実を蕎麦がきにしたり、細麺にしたりすると美味くなるように、こちらも麺状にすると美味いかもだ。

 試してみる価値はある。


 しかし、この森での食生活が相当貧困なのがうかがえた。

 そら美味いものがもたらされたら真っ先に飛びつくよな。

 俺の世界の植物の育て方は俺もそんなに詳しく分かるわけではないので、種をあちこちに持っていってもらって、そこで育てる工夫をしてもらおう。


 乾燥バラミオ草は醤油に漬けるとなかなか食える味になった。

 大葉や紫蘇のポジションか。

 俺の畑で紫蘇代わりに育ててみるのもいいかもしれない。

 当然、大葉そのものや紫蘇そのものも育ててみる。

 食べ比べて美味いものが揃えば、他の村にも広めたい。


「しかし、村長って不思議ですよね」


 ハイエルフのサラチが感慨深く言った。


「普通、不味いそんなものを育てようとは思いませんよ。村長の畑のものだけではいけないんですか?」

「俺が留守になって食糧が足りないと困るだろ? そういう時に備えたいだけだ」

「留守にする予定があるんですか?」

「今のところはないな。ただ、予定は未定というやつだ。いつ留守する用事ができるかとも限らん」

「長くこの村にいてくださいよ」

「努力はするが、保証はできん」

「その時は村長についていきますからね?」


 うんうん、とその場の全員が頷いた。

 価値は村よりもやはり俺の方が上らしい。

 普通は開拓した場所に愛着や意地が湧くものだが、食べ物の美味さや栄養には替えられないようだ。

 まあ、俺がいればどこにも村はできるからな。

 水場も作れるし、畑は言わずもがな。


 そこではた、と農薬の存在に思い至った。

 今まで農薬に頼るシチュエーションがなかったので失念していた。

 ハイエルフやハイドワーフはどうなんだろう、と思って訊いてみたが、「そんなものあるんですか?」「そんな便利なものがあるんですか?」という話だった。

 薬学的にも貧相らしい。

 怪我や腹痛用の薬草はあるらしいが。


 エリシアは毎日、頑張って薬草を探しているが、結果ははかばかしくないようだ。

 それほどまでにここは未知の土地であり、謎の草が多く、溶媒も少なく、薬研究するには不毛の土地らしい。


 ただ、それでも少しずつ薬は増えてきている。

 風邪薬や傷薬などはだいたい揃ってきている。

 足りないのは栄養剤。そもそも栄養という概念がエルフの世界でも薄かったので、俺に指摘されて初めてそういったものを研究するようになったらしい。

 ただ、彼女にとって未知の栄養素なので、苦労はしているようだ。

 ビタミンという言葉も概念も俺に聞いて初めて知ったらしいし。

 都市部の、薬学研究家としてはかなり先進的だった彼女からしてそんなものだから、他はお察しである。


 エルダーアラクネの「女王」はどこまで知ってて、どこまで研究してるんだろうな。

 ふと、同じ話ができる仲間が欲しくなった。


 「女王」もそうだが「先駆者」も気になる。

 彼(彼女?)はどこにいて、どこまで世界を進めて、どのようなものを残しているんだろうか。

 そういうのがいてこの有様なので、いなかった時代は「お察し」だったようだ。

 「先駆者」は何とか猿を人間にして、そして俺が来た状態なのかもしれない。

 そう考えると、あまり「先駆者」に大きな期待をするのも酷なのかもだ。


「ドラゴンはどのくらい文明に寄与してるんだ?」


 クライルヴァードはあの後も1週間に1度くらいは来て、俺の村の料理や酒で舌鼓を打っている。

 その彼に食事中、訊いてみた。

 彼は意外そうな顔になって、もぐもぐする口を止めた。


「文明は俺らの管轄外だからなあ。あまり寄与してるとは言えんなあ」

「ドラゴンがこの世を作ったとか、文明を築いたとかじゃないのか?」

「そんなことあるかい。元から文明があって、俺らは山にいて、その余録にあずかってるだけさね」

「あんたはこの世界にどのくらい関わってるんだ?」

「せいぜいが森の獣たちを外に出さないようにしてるくらいだな。文明とか世界のありかたなら、龍神様や神々の方じゃねえか?」

「神々がいるのか?」

「龍神様のように、『いる』ことは分かっているが、どこにいるのかは知らん。数もどのくらいいるのかも分からん。ただ、『頂上神』と『汎神』と『土着神』がいる」


 新しいキーワードが出てきた。

 「頂上神」「汎神」「土着神」。

 てっきりドラゴンがこの世界の頂点だと思っていたが、そんなものがいるのか。

 しかも『いる』とはっきり言われた。

 ハイドワーフの話では、神々は概念神のようなもののような感じだったが、ドラゴンが感じられるのだったら本当に『いる』のだろう。

 大地神や火の神は頂上神に属する存在なのだろうか。

 その下に実際の信仰を司る汎神がいて、その御使いとして土着神がいる感じだろうか。

 すでに出てきていた『主神しゅじん』と『傍神ぼうしん』は「頂上神」のジャンルだろうか。


 『いる』のなら是非逢ってみたい。

 俺に触れられるか分からないが、俄然興味が湧いてきた。


「神々と仲介はできるか?」

「そりゃあ無理だ。俺らも『感じる』ことしかできねえ。ただ龍神様から、神々は『いる』と聞いてるだけだから、俺はそのまま伝えただけだ」

「龍神様とコンタクトは?」

「俺らもときたま『声』が届くぐらいだからなあ。こっちからは声を届けることはできん。ただ、お前さんなら意外となるんじゃねえか?」

「過大評価だぞ」

「俺はその過大評価が本当になればいいと思っている。意外とお前さんが今のところ、神々や龍神様に一番近いかもしれんぞ。何となく、龍としての予感だが、そんな感じがひしひしとするというか、お前さんに『神』の気配を感じている。神気が渦巻くというだけでなく、あんた自体に俺ら龍を超える何かが見えるというか、感じるというか」


 「上のヒト」の話だろうか。

 そう言えば『救世主メシア』としての存在ははっきりしてるし、その力も存分に利用させてもらっているが、『巨人』は何なんだろうなあ。

 てっきり『救世主メシア』に並ぶ何かぐらいの印象だったが、もしかするとそれ以外に何かあるのかもしれない。


 前世でも巨人が神々や人類の始祖に繋がることは多かった。

 そういった「何か」なのだろうか。

 ならば、「先駆者」も何かしらの意味での「巨人」である可能性は高い。

 人類の祖先、あるいは神々に連なるもの。


 「先駆者」に逢いたくなった。

 それには、迅くこの森から「外」に出なければならないだろう。

 そして、70余名の村人と、村に集まっているスライム、大蜘蛛、シャドウウルフ、グレートワイバーンを何とかしなければならない。

 俺を求めて集まってきてくれているのだから、その責任は果たさないといけない。


 神々がむしろこっち側に近付いてくれればいいのだが。

 そんなことをぼんやり考えつつ。


 そんな俺を、クライルヴァードは怪訝な目で見ていた。


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