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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第47話:グレートワイバーン

 ふと考えた。

 米はできた。麦もできた。

 酒もできた。味噌・醤油もできた。

 足りぬ食材はもうないだろうかと。


 そして思い出す。

 牛乳がまだない。

 卵もない。

 山羊やヒツジはいるのに、大事な大事な完全食系がまだ揃ってない。


 とはいえ、栄養は今のままで充分揃っている。

 足りないのは「食感」「味」だよなあ、と考えてると。


 かつて野鶏のようなものがいたことを思い出した。

 肉を食ったが、その卵は目にしていない。

 その卵をまずは探すべきではないのか。


「いや、無理です」

 提案したら、ハイエルフのサラチが青い顔で言った。

「『ボウショクヤケイ』ですよね? あのでかい野鶏ですよね。卵は確保無理です。私たちが死んでしまいます。それほど危険な存在ですよ。私たちでもあの蹴爪で一発でやられます。本格的に戦うなら協力はできますが、卵、それも無精卵系ですか? それを確保しろと。この森を破壊するおつもりですか?」


 ボウショクヤケイ。暴食野鶏か。

 確かに何でも食ってそうだし身体はでかいし、名前通り「暴食」なんだろうなあ、と思ったが、その点ではこっちもあんまり大きい顔はできないかもしれない。


 そんなことはともかく。

 ハイエルフやハイドワーフの全員が「無理」という顔をした。

 サラチの「無理です」という言葉に全員が頷いた。

 そうか、無理か。

 巣を探してたまに狩りに行こうか、ぐらいのことは考えてたのだが。


 そのボウショクヤケイが自分からやってきた。

 十数匹程度の集団だ。

 ハイエルフ、ハイドワーフの全員が身構えた。

 エルダーアラクネたちも警戒した。

 大蜘蛛もシャドウウルフもいつ攻撃しても良い態勢を崩さない。

 キュバスは避難している。

 呑気な顔をしているのはノルデースとクラッヘぐらいだ。

 それほどに唐突な訪問だった。


 十数匹はボロボロの姿でやってきた。

 羽のあちこちが取れているし、そこから覗く肌は傷だらけだ。

 いかにも痛々しい。

 そして「クエーーーー」と弱々しい声を放った。


「何と言ってるんです?」

「『かくまってくれ』だとさ」

「ボウショクヤケイがですか?」

「あのボウショクヤケイがですか?」

「まあ、見れば分かる。縄張りがかぶって群れ同士で乱闘になったんだろうな。そして負けてこっちに来た、と。なぜかつて狩った俺のとこに来たかは謎だけど」

「来るのはあんまり謎じゃないですねえ」

「大蜘蛛もシャドウウルフも本来は懐く存在じゃないんですけどね」

「そういうのをすでにかくまっているのですから、来ること自体は不思議じゃないです」

「で、村に引き入れますか?」

「引き入れざるを得んだろう。俺の村は来る者は拒まず、去る者は追わず、だ。乱暴しないのを条件に、ここで生活してもらう。ただ……」


 そう言うと、一匹のボウショクヤケイがくるり、と後ろをむいた。

 そして踏ん張る。

 ムリムリムリ、と総排泄口から見る間に卵が出てきた。

 そしてそれをくちばしで転がすと、俺のところへ持ってきた。

「これを提供しますんで」

 そう言っているようだった。

 「コケーーー」と一言唸った。

「何と言ってるんです?」

「『肉は勘弁してください』だとさ。『もちろんお望みなら何とかしますが』とも言ってる」

「その翻訳能力、いつも思うんですが、便利ですよね」

「スライムの言葉も分かるくらいですからね。どういうしくみなんでしょうか」

「その辺はあまり深くツッコまんでいるとありがたい、でだ、かくまうのは構わんとして、世話人をどうするかが問題なんだが……」

 そう言うと、大蜘蛛の一匹がサッ、と手を上げた。

「我々に委せてください」

 そう言っているように見えた。


 住民にボウショクヤケイの一団が加わった。

 オスが2匹、メスが9匹の全11匹態勢だ。


 卵は無精卵だった。

 しかし、その大きさがダチョウの卵と思うほどにでかい。

 彼らの身長が俺の3倍くらいあるので、それでも小さな方なのかもしれないが、料理するとしたら、料理が少し大変かもしれない。


 問題は、村に来たボウショクヤケイをかくまったことで、この村が他のボウショクヤケイに目を付けられるようになったことだ。

 完了形ではなく、現在進行形。

 そう、この数日で明らかに、頻繁にボウショクヤケイの群れを目撃するようになり、その包囲網が日に日に、明らかに狭まってきている。

 村に来た集団は特殊で、他の一般的な野鶏に異端視されていて、それが村に来たことで、この村が目を付けられることになったのかもしれない。


 それに、本質的な問題もある。

 この村が基本、「豊かな農作物」のある村だということだ。

 そこに行けば無限にエサがある。

 元々ボウショクヤケイどもはそれに目をつけており、それが今になったのかもしれない。


 そう言えばそうだな。

 ここに来ればエサには困らない。

 野菜は食い放題。

 米や麦もできたことから、そういった穀類も食えるようになった。

 目を付けられないと思い込んでいたのがそもそも不思議だったのかもしれない。


 それにしても、困った。

 野鶏そのものは俺やクラッヘやノルデースがいるからいいとして、それ以外のハイエルフ、ハイドワーフ、キュバスたち一般村人がほぼ恐慌状態に陥ってることだ。

 彼女らはベアボアやホーンラビットは狩れるが、ボウショクヤケイは無理。絶対死ぬ。そう視線が言っている。

 どうしたもんかな、と思ってると。


 いきなり100匹以上の竜に囲まれた。

 ピンチが終わってないのにまたピンチだ。

 「クワーーーーーーーーッ」と村に来て吼えている。

 このままでは村が大混乱に陥る。

 そう思っていると。


 囲んでいた方のボウショクヤケイとその竜の間で大乱闘が始まった。

 大蜘蛛やシャドウウルフが「ここは危険です、避難してください」と言いに来るほどの凄い乱闘だった。

 あっという間に野鶏側が駆逐されていった。

 村にいるものを除いて、ボウショクヤケイの集団が村を離れていった。


 そして竜たちが数匹、村の広場に降りてきて、「クワッ」と軽く唸った。

 ハイエルフたちが俺に耳打ちした。

「グレートワイバーンですね」

「『七凶』のか」

「そう言えば、彼らが村に立ち寄らないことを不思議に思ってましたが」

「意外とチャンスをうかがっていたのかもしれませんね。大蜘蛛もシャドウウルフも、何気にここへ来て、何気に居着いていたから、麻痺してましたが、本来はここ、脅威なんですよね。『龍姫』はいるわ、アンカーネーターはいるわ、シャドウウルフは100匹以上入れ替わるわ、大蜘蛛も同じくらいいるわ」

「彼らも怖くて近づけなかったのかもしれません」

「しかしボウショクヤケイと戦う名目なら居着けると」

「何と言ってたんです?」

「『危険は去りました』とだけ、だな」

「別の危険が寄ってきたようにも見えますけどね」

「で、どうします?」

「どうする、とは?」

「グレートワイバーンを受け容れるかどうかという話ですよ」

「もうその段階なのか?」

「彼らの様子がそわそわしていて、落ち着いてませんね。村長の一言を待っているようです」

「一言?」

「受け容れるか、受け容れないか、ですよ。『ようこそ』か『来るな』か、どっちかが来るかを待ってる感じです。さあ、村長、前に行って彼らにどちらか告げてください。その返事の仕方で、ボウショクヤケイの脅威が去るか、継続するか、あるいは別の脅威を受け容れるか、別の脅威に晒されるかが決まります」

「村長の様子を見ると一択のようにも見えるけどね」

「あたしたちを軽く受け容れたもんね」

「そこまで分かってるなら、お前たちが受け容れる方で進めたらいいんじゃないか?」

「あたしたちにはそんな権限ありませんよ」

「村長、さあ、一言」


 俺は大きくため息をついて、首を振って、グレートワイバーンの前に出た。

 そして手を差し出す。

「ようこそ、橋の村に」

 クワーーーーーーーーッ!!! と大きな遠吠えが、森の中に響き渡った。


 また村人が増えた。

 しかも今度は『七凶』だ。

 グレートワイバーン。「森竜しんりゅう」の名前でも呼ばれる、森の脅威。森の強者。

 しかし、ここに来た彼らは素直で、とても脅威には見られない。


「いや、我々も特殊ですから」

 大蜘蛛がジェスチャーで俺に言った。

「我々ヘルスパイダーもひとまとまりではありません。マザーに率いられた一団が我々ですし、この森には似たような集団がまだまだあります。敵対してる一団も多いです。そんな我々がいて、近づけなかったんでしょうね」

 酷く錯綜したジェスチャーだが、まとめて言えば、そんな感じだった。

 読める俺もアレだとは思うが、彼らのジェスチャーりょくも相当なものなのかもしれない。


 それにしても、今サラッと衝撃発言しなかったか。

「似たような大蜘蛛の一団がいくつかあって、敵対してるものも多い」

 そんなこと、聞いてなかったぞ。

 聞かれなかったから言わなかっただけなのかもしれないが。


 考えてみれば、この森は広い。

 シャドウウルフたちも含めて、いろいろな一団があって、それぞれが独自の思惑、思考、目的で動いていて、その一端のみがこの村に来て棲み着いて、他はこの村には懐疑的、もしくは眼中になし。

 もしかすると、今回のボウショクヤケイのように、許容的な一団もいれば、敵対的な一団もいるのかもしれない。

 逆に言えば、それは今回の一件のように、トラブルの種を抱えるということ。

 潜在的な敵を生み出すということ。

 この村は豊かだ。

 虎視眈々と狙っている者も、想像以上に多いのかもしれない。


 ただ、そう言ってると限りがない。

 総てに好かれる存在というのは不可能だ。

 箇々が意思を持つ限り、思惑で、利害で、趨勢で、勢いで、あるいは単なる偶然で、敵対したり宥和したり日和見ひよりみしたりする集団はたくさんある。

 一人一人すら、そうした関係をコントロールできるとは限らないのだ。

 その意味で、誰も種族間でトラブルを起こさないこの村の方が、この森においてはむしろレアなのかもしれない。

 俺を怒らすと総てがご破算になるので、怒らせないようにしているとも見えるが。


 ボウショクヤケイ対策として、そしてこの村の住民として、新たな一団がこの村に加わった。

 しかも、今度は森の『七凶』の一角だ。

 これで4種類が村に揃ったことになる。

 エルダーアラクネ、シャドウウルフ、大蜘蛛、そしてグレートワイバーン。

 残るはアントケンタウロス、ヴァインズ、ジンガイの3種。

 彼らもこの村に加わるのか。

 あるいは敵対するようになるのか。


 できることなら敵対しない方がありがたい。

 食う食われるの間柄ならしょうがないが、そうでないなら敵は少ない方が、生活する上でも楽だ。

 そして俺はこの地に来た目的を思い出す。

「文明を屹立きつりつせよ」

 そう言われて、森の深いところに送られて、そしてキック一発から村づくり、開拓が始まった。


 蟻人間アントケンタウロスは何となく宥和できそうに見えるが、残りの2種類はどうなるのだろうか。

 そもそも名前からも想像がつかない。

 何が蔓性ヴァインズなのか、ジンガイはそのまんま「人外」なのか。

 あるいは他の意味があって、その意味に準じた性質を持っているのか。

 出逢わないと分からないことは多い。

 1年経っても出逢ってない存在だ。

 そろそろ、この村から捜索隊を編制して、こちらから新たな住民を迎えに行くべきなのかもしれない。


 ただ、出逢いは偶然であり、必然でもある。

 そして偶然は無数の必然の集合体だ。

 フラグは着々と立っているのかもしれない。

 こうして、俺が他の住民に出逢いたく思い、受け容れるかどうかを考えてること自体も、森に何らかの影響を与えてるのかもしれない。


 村に、グレートワイバーンの一団が加わった。

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