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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第44話:ケンカの話とミツバチの訪問

 キュバスは主に屋敷のメイドとして務めることとなった。

 一部が山羊や羊の世話で、交替して同じ仕事ばかりが続かないようにするとのことだった。

 メイドの仕事を飽きさせないための工夫のようだ。


 ちなみにキュバスのリーダーはイリュガという名前らしい。

 サブリーダーがイルヘとイリアの2人体制。

 2人いるのは、イリュガの負担軽減の側面が強い。

 病気や怪我で動けない時の対策も兼ねているようだ。


 彼女たちは名目上はクラッヘの部下だが、俺を「村長」と呼んで、クラッヘよりも上に扱ってくれるようだった。

 それは嬉しいが、そうなるとクラッヘが自動的に俺の「下」に就くことになる。

 その辺はどうなるんだろう。


「龍姫様がそのように扱えとおっしゃっておりますので、私どもはその通りに動くだけです」

 訊いてみたら、そのような答えが返ってきた。

 なるほど。


 こっそりクラッヘの方が俺よりも偉いと思っていても、慇懃いんぎんに扱ってくれれば問題はない。

 俺に仕えてくれるのも、クラッヘが屋敷に詰めているというのが大きいのだろう。

 屋敷を勝手に差配してくれればそれでいいと思っている。


 どちらにしても、俺としてはただ敷地を拡げ、農業をし、村人を受け容れて暮らしているだけだ。

 スタンスは最初から全く変わっていない。

「世話はするが、総ての村人に君臨しているわけではない」

 それが俺の立ち位置だ。


 たとえ皆が俺を持ち上げても、それに甘んじるつもりは毛頭ない。

 総てに超然とした立場ではなく、「村人総員がトラブルを起こさないように、起こしてでも仲裁できるように差配できる立場」でいいと思っている。

 村長というのはそんなもんだ。

 領主だのボスだのと、皆より偉い立場だのの思ったことは、村を開いてから一度もない。

 それでいい。


 幸いなことに、村人たちもシャドウウルフも大蜘蛛も目立ったトラブルを起こしたことはほとんどない。

 もちろん言い合いぐらいはあるが、かなり迅い段階で終わってくれている。


 ただ。

 皆、大人しすぎるきらいがある。

 集まっている時に、その辺を訊いてみた。


「お前さんたちはケンカをするか?」

「しないわね」

「あんまりしませんね」

「砂糖を煮て作ったり、油を絞ったり、小物を作ったり、狩りをしたり、水路を見て回ったり、料理をしたり、収穫の手伝いをしたりして、結構忙しいので、ケンカをする暇もない、という感じですね」

「我々もケンカをしてる暇はないな。ケンカをするくらいなら、少しでもいいものを作れ、という感じだ」

「それでも小さなトラブルやいさかいはあるんだろう?」

「そりゃありますよ。ただ、基本はコレですね」


 そう言うと、ハイエルフの2人が顔を見合わせた。

 ごん、と額をぶつけ合った。

 理由を知らないと、そのままキスするのではないくらいに近い距離だ。

 そのまま、むむむむむ、と目を合わせること数秒。

 片方が、ふい、と目をそらした。


「とまあ、こんな感じですね」

 2人ともにっこり、と笑顔を作った。

「睨み合いか」

「睨むというか、ガンの飛ばし合いですね。普通は数秒で終わることなく、数分、数十分、場合によっては何時間も続くことがあります。どちらかが耐えきれなくなれば、それで終わりです。だいたいそれで済ませますね」

「ただ、仕事はそれで止まるんだろう?」

「ええ、だから長くなりそうな時は、仕事が終わってからやります。仕事中は、イラッ、と来ても目線を交わすぐらいですね。後でヨロシク、みたいな」

「仕事中にどうしても赦せないいさかいがある時は?」

「その時は……コレですね」


 そう言うと、バチーーーーーン! とハイエルフの1人がもう1人の頬を強く張った。

 しかし、叩かれた1人は笑顔のまま、叩いた方を再びバチーーーーーン! と叩いた。

 いきなり何をするんだ、と焦ったが、2人ともにっこりとしている。


「瞬間で終わらせたい時はコレですね」

「どちらが悪くても悪くなくても、コレで一発解消です」

「暴力は良くないぞ」

「だから暴力ではなくて、ただのツラの張り合いですよ。暴力だったら、どちらかがボロボロになるまでやりますから」

「お前たちの顔が時々腫れているのは、そういうこともあったからなんか。てっきり狩りの時に怪我をしたりしたと思っていたんだが」

「そういうことです」

「そういうことですね。遺恨はありません。むしろ遺恨を残したくないから、お互いに顔を張るんですよ。どちらも一発ずつ張ってスッキリです」

「別に遺恨がなくても、イラッとしなくても、単に気合を入れたい時にもナチュラルにしますね」

「流石に村長の前では自重しますが。びっくりされるのは本意ではないので」

「エリシアもやるのか?」

「やるわよ。流石にあたしの場合は、ピシッ、ぐらいでかなり手加減されるけど」

「私たちの力だと首がアレな方向に向きますからね。その辺の手加減はちゃんとわきまえております」

「治癒魔法ぐらいなら私たちでも使えますので、食事時前にこっそり治したりしますけどね。顔が腫れたままだと村長が心配しますので」

「そんなことをしてたんか……」

「本当は秘密にしたかったんですけどね。あたしたちの間での、あくまでも気合を入れたり、イラッとした感情の解消だったりするんで、それに、いつもしてるわけじゃないですから。せいぜい、1、2週間に1回ぐらいかな」

「それでも回数が多い気もするが」

「村に来る前は毎日でしたよ。ここに来て忙しくなってから、数はずいぶん減りました」


 彼女たちがそういうことをしていたとは知らなかった。

 流石にびっくりだ。

 男同士ならそういうことをやるかもしれないが、女同士でそんなことをしていたのか。

 ……いや、男同士でもないな。


 ただ、苛めではないようで、少し安心はした。

 日本でも戦前戦中の軍隊や家父長制の強い家では、ことあるごとに上の立場が下の者にビンタを張っていることは知っていたが、彼女たちの場合、そういうことではないらしいし。


「ハイドワーフもそんなことをするのか?」

「するぞ」

「するのう」

「基本はハイエルフ殿たちのように、遺恨があるから、ではなく、遺恨を残すの防止するための側面が大きいな」

「ミスをした時に思わず殴りたくなることがあるんじゃないか?」

「だから、その時はミスをした者が先に叩くんじゃ。しかるのちに、怒る方が同じくらいの力で叩く。それでおあいこじゃ」

「ま、我々も頻繁にするわけじゃないが。そこまで対立することが少ないでな」


 なるほど。

 彼女たちには彼女たちの解消法があるのか。


 しかし、やはり途惑うところはある。

 俺が見ていないところでの暴力、いや、はたき合いか。

 もちろん、この世界の文化であり、無闇に止めてもいいことはない、というのは分かる。

 分かるのだが……スッキリしない。

 スッキリしないのは自分が異文化圏からの来訪者からだろうか。


「はたき合いは俺の前ではなるべく自重するように」


 いろいろ考えたが、最終的にはそれで終わらせた。

 最初から「そうしてる」と言及されてはいるが、それを強調した感じだ。

 それに、時間があったり程度が軽かったりすると、睨み合いで済ますらしいし、そこすら禁止にして変に遺恨を残されても困る。

 基本は「みんな仲良く」であってほしい。


 シャドウウルフや大蜘蛛はどうなんだろう、と思ったが、彼らは上下がはっきりしているようで、その立場を基本守るらしい。

 ただ、イラッときたらその場で軽めに噛み付き合ったり叩き合ったりすることは彼らもするようだ。

 遺恨のため、ではなく、遺恨を残さないため。

 いずこでも同じか。


 それはともかく。


 村の一角にいつの間にか蜂が巣を作っていた。

 女王蜂が1メートルもある、巨大な蜂だ。

 巣の大きさはちょっとした小山ほどもある。

 そんなものを、俺が見ていない間に、あっという間に作っていた。


 働き蜂は通常のミツバチ程度の大きさだが、攻撃部隊が30センチほどとやたらでかい。

 流石に慌てるが、ハイエルフによれば「キラービー」という「ミツバチのたぐい」ということで、危険度は少ないらしい。

 少ない、であって、皆無ではない。

 この世界のミツバチは獰猛なのだそうだ。


 場合によってはドラゴン相手でも一歩も引かないらしい。

 数に委せて怒濤の攻撃を仕掛けるとのことだった。


 むろん、それでもドラゴンの方が強い。

 戦えばミツバチたちは死屍累々だ。


 だが、恨みは残す。

 子々孫々に至るまで残す。

 いくらドラゴン相手とはいえ、全員が死ぬわけではないので、どういうわけだか、子孫にその恨みを継承するらしい。

 近付けば、自動的に攻撃する。

 近付かなくても、わざわざ遠征してまで攻撃する。

 クラッヘもその攻撃にやられた1人だった。


「あいつら、延々と子孫に恨みを残すから、厄介なんだよな。別に攻撃が特別痛いわけじゃないが、鬱陶しいったらありゃしねえんだ。あと、他の巣にも恨みを伝える。だから、一度目をつけられたら、そこを離れるか、全滅させるかの二択しかねえ。俺は良くてもキュバスたちがやられるからな。俺の義兄弟きょうだいにもそれで巣を移さざるを得なかった奴らが結構いる。俺も2、3回引っ越しを余儀なくされた」


 それでも、この世界の蜂の中では、脅威度は少ない方らしい。

 脅威度の高い奴らは「ヘルビー」の名前で呼ばれ、ミツバチとしての性質とスズメバチの獰猛さ、強さを兼ね備える。

 攻撃部隊だけでも1メートルくらいの大きさがある。

 針も通常のミツバチのように一度刺せば終わりということはなく、何度でも刺せるスズメバチ仕様。


 一度目をつけられたら、集落が全滅するまで徹底的にやられる。

 1匹でも逃がそうものならその後に何千匹がやってくるので、見つけたら帰さないように徹底的にやるしかないのだという。

 そんな恐ろしい蜂がいるのだと、エリシアから聞いた。

 しかもスズメバチでなくミツバチの方に。


 幸いなことに、キラービーはそこまで恐ろしい蜂ではないが、蜜を得る難易度はそこそこ高いらしい。

 「キラービーの蜜を得る」という言葉が「相手の宝物を手に入れる」「持ってはいけないものを手にする」の意味で通用するとのこと。


 なお、キラービーは基本人型ヒュームを恐れ、人里から遠く離れた場所に巣を作る。

 村の端の方とはいえ、実際に巣を見るのは、ハイエルフでもまれだったらしい。

 どういう理由でこんな場所に来たのだろうか。

 シャドウウルフや大蜘蛛が来たのと似た理由なのだろうか。


 わけが分からない。

 分からないが、今に始まったことでもない。


 ちなみに蜜はキラービーの方から献上された。

 わざわざハイドワーフに頼んでガラス瓶を提供してもらい、そこに自分たちで詰めてきた。

 攻撃部隊が家の前に来て運んできてくれた。

 知恵は高いようだ。


 蜂蜜が村の産品の1つに加わった。

 ほぼ自動的に。

 俺の知るよしもないところで、勝手に。


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