第41話:龍姫クラッヘ その1
「頼もーーーーーーーーーーう!!!」
またでかい声を出された。
ちんちくりんの娘が村の入り口に立っていた。
もうちんちくりん枠は埋まっているぞ?
そんなことを思いながら外に出てみると。
ほとんどの種族が声の主に対峙していた。
剣呑な雰囲気だ。
シャドウウルフがじりじりと距離を取っている。
大蜘蛛も似たような態勢だ。
ハイエルフたちが弓矢を構えている。
エルダーアラクネたちも脚を高く上げて警戒している。
「何だ何だ何だ何だ」
俺がその前に出る。
「村長、危ないです!」
村人たちが叫ぶ。
いや、それは雰囲気で分かる。
だが、ちんちくりん枠の娘に敵意や害意は感じられない。
何となく気圧される雰囲気はあるが。
言うなればかつてノルデースを前にした空気。
そして、ノルデースが皆の前に立っていた。
彼女が大きな声を出した。
「よくも妾の前に顔を出せたな」
「おう、お前がダンジョンを出られたという情報をワイバーンたちから聞いてな」
「妾の魔気を辿ってきたというわけか?」
「そういうわけだ。しかし何だここ、やけに拓けてるじゃねえか」
娘はあくまでもカラカラと明るい。
不敵な笑顔でノルデースと話している。
しかしノルデースは警戒の構えだ。
非常に危険な獲物を前にした様子に似ている。
この森で彼女にかなう動物は数に限りがあるので、恐らく、目の前の娘も只者ではないのだろう。
「ノルデース」
「村長!」
「こいつは誰だ? 穏やかならぬ間柄っぽいが」
「クラッヘンド……通称クラッヘじゃな。またの名を『龍姫』という。妾とはことあるごとに衝突してた奴じゃ。こいつにいろいろされたことは忘れてはおらん」
「もしかして、お前に呪いをかけたって奴か? ダンジョンに閉じ込めたとかいう」
「その通りじゃ。こやつは危険じゃ。村長、油断してはならんぞ」
「おう、随分な言い方だな。まるで俺が危ない奴のようじゃねえか」
「実際危ないじゃろ! 1000年前の戦いは忘れてはおらんぞ」
「何かあったのか?」
「1000年前に戦いをした。その結果、妾は敗北し、ダンジョンに封じられた、その相手じゃ」
「戦いの理由は?」
「……言わねばならんか?」
「是非」
「キャラかぶりじゃ!」
……。
……ホワット?
……イズイットキャラかぶり?
つまりこいつと似てるから、戦った?
「いや、ずいぶんな言い方じゃね? 俺は『龍姫』、お前はアンカーネーター。生まれも違えば種族も違う。それに、強いと言っても、龍や熊や蛇もいる。少々傲慢とか思わねえか?」
「妾の家を吹っ飛ばしておいて何を言う!」
「いやそら悪かったっていつも言ってたじゃねえか。その後いちいちケンカを売ってきたのはお前じゃね?」
「妾は静かに暮らしたかっただけじゃ! そしたらお主が『似たような姿は2人必要ないな』と妾を執拗に攻めてきた! 妾もアンデッドの意地がある! この傲慢な口を塞がぬと静かに暮らせないと思っただけじゃ!」
「そうだったっけ?」
「忘れるな!」
あー……。
キャラかぶり、というのはノルデースの方じゃなくて、『龍姫』さんの方の台詞なのか。
そんな莫迦らしい理由でノルデースは封印され、そしてダンジョンで1000年過ごす破目になったってわけか。
なるほど、『龍姫』が悪いな、この場合。
俺は『龍姫』の前に立つ。
そして睨む。
「お前は何だ?」
『龍姫』が胸を反らして傲然と尋ねる。
ただし身長が俺に届かないので、見上げる形だ。
外からは大人と中学生が眼を飛ばし合う状態に見えたことだろう。
俺は大きくため息をついた。
「それは俺の台詞だ。静かに暮らしていたノルデースを訪問した理由は何だ? 内容によっては撃退するぞ?」
「お? 俺様にそんな口利いていいのか?」
俺は『龍姫』を睨み、『龍姫』は俺を睨んだ。
視線がバチバチバチと交差する。
「村長! そいつは危険じゃ! お主の力でもかなわんぞ! 妾と何百年にも渡って戦ってきた奴じゃ! 強いぞ!」
ノルデースが外から声をかけてくるが、ノルデースと互角ぐらいなら何とかなる。
なぜか分からないが、その時はそう思った。
がっ、と俺は『龍姫』の頭を攫む。
そして、思いっきり力を入れた。
「いでででででで!!!」
『龍姫』が大きな声を出した。
アイアンクロー。
遥かに年上だろうが何だろうが、舐めたガキにはこういうのが効く。
「畜生! こんなものすぐに……いでででででで!!! 何だこれ! 離せねえ! 俺の『龍気』が効かねえ! どういうわけだこりゃ! 痛い! 痛い! 痛い!」
彼女は俺の手を取って離そうとするが、俺の手は『龍姫』の頭をガッチリホールドしている。
そして彼女の力にびくともしなかった。
「駄目だ! 畜生! 痛ェ! 離せ! 俺様にこんな舐めた真似するとか、龍族が黙って……いでででででで!!!」
「ノルデース」
俺はホールドしたまま、泰然と声をかける。
「こいつはこんな奴なのか?」
「……まあ、そんな奴じゃが、お主、そいつを攫んで何ともないのか? 『龍気』を感じないのか?」
「まあ、何となくそよ風が吹いてるな、と思うが、何ともないな」
「……流石じゃな、村長。妾が見込んだだけのことはある」
「畜生! いでででででで!!! 離せ! 離して! 離してください! 後生だから! いでええええええ!!! ガッチリ嵌まってびくともしねえ! どういうワケだこりゃ!」
ぱっ、と手放すと、彼女は地面にぺたん、と尻もちをついた。
相当痛かったのか、まだこめかみを押さえている。
「いってェ~~~~~!!! てめえ、何者だ! この俺様をここまでコケにしやがって!」
そう言うので、一歩踏み出して、俺は再び彼女の頭を攫んだ。
「二度同じものが必要か?」
「やめ! やめて! ごめん! ごめんなさい! 二度と同じことしないから! すいませんでした! 舐めた真似してごめんなさい! だから、だからまた握るのやめてェ!」
いろいろ泣き言を言われたが、俺は手を離した。
彼女は頭を押さえている。
涙目だ。
悪かったかな、と思ったが、子供に容赦してもいいことは何もない。
おしおきは厳しい方がいい。
「で、お前は何者なんだ?」
「……『龍姫』、クラッヘンドだ。クラッヘと呼んでくれ。お前は何者だ?」
「汎田一成、ここの村長だ。ノルデースもここの住民だ。俺は住民に害をなそうとする奴を赦さない。シャドウウルフや大蜘蛛も一応ここの住民だから、手を出さないでくれるとありがたい」
「……ハンダカズナリと呼べばいいのか?」
「ハンダもしくはカズナリ、だな。どっちも呼びにくければ村長、でもいい。カズナリの方が分かりやすいかもな」
「分かった、カズナリ、できることならその手のひらを引っ込めてくれるとありがたい。これ以上お前たちの邪魔をするつもりはない。ノルデースがダンジョンを出たから様子を見に来ただけだ。どういう理屈で出たのか、という確認も含めて。『龍姫』だから、そこを確認しないとオヤジにどやされちまう」
「オヤジ?」
「クライルヴァードだ」
「……聞いたことあるような?」
「『神龍』って知ってるか? その1人だ。そいつが俺の父親だ」
なるほど。
思い出した。
ハイエルフたちが確かそのクライルヴァードを崇めていた筈だ。
エルダーアラクネも7人まとめて崇拝していた。
その『神龍』7人のうちの1人が、この娘の父親なのか。
屋敷に案内してもいいが、壊されてはことだ。
今は倉庫になっているノルデースの旧宅を借りて、そこで話をすることにした。
そして話を聞いた。
「……なるほど、ノルデースがダンジョンを出たから追跡したと」
俺は彼女の言葉を聞いて、いろいろ納得した。
「ああ、この森は『神龍』が管理している。全体的な管理が『神龍』で、実際的な管理は『真龍』や『大龍』だがな。その流れで俺も管理の手伝いをしてる」
「追跡した理由は?」
「危険だからだ。アンカーネーターは最強のアンデッドだ。他に始祖系吸血鬼とかオーヴァードバンシーとかもいるが、アンカーネーターは屍体系の最強格の存在だ。リッチって知ってるか? 別の場所ではそんな名前で呼ばれてたことがある。分からなければ、理屈はともかく、そんな奴がいると覚えててくれるだけでいい」
「リッチか、なるほど」
アンカーネーター、という名前はぴんと来なかったが、リッチと分かれば覚えやすい。
まあ、この世界ではアンカーネーターの方で通用しているので、アンカーネーターと呼んだ方がいいのだろうけども。
「2000年ほど前に、そいつがこの森にやってきた。オヤジはそれを感じた。そして、俺にそいつを追い出すように命令した。俺はその通り行動しただけだ。殺す必要はないから、とにかく追い出せ、と。あるいは無力化しろと。別にそいつ、アンカーネーターに恨みがあったわけじゃねえが、屍体どもがそいつの命令で動き始めたらことだってな。だから、封印した」
「攻撃してたって話だが?」
「オヤジの命令だかんな。俺は逆らえねえ。とにかく攻撃でも何でもして、追い出さんと俺が怒られる。真龍や大龍たちではらちが明かんと言われて、俺が直接封印することにした。そして無事封印して安心してたら、急にまた途轍もない魔気が森の中に立って、ワイバーンどもが騷ぎ始めた。それに加え、謎の存在がいやがった。魔気と神気と謎のオーラが混ざらん形で蠢いてる何かがいるとな。まさか、あんただとは思わなかったが」
「『龍姫』というのは?」
「『神龍』と人間とのハーフのいくつかがそう呼ばれる。男は『龍仔』だな。他にも何人かいる」
「ドラゴンに変身できるのか?」
「当然。ここで変身してみせようか?」
「いきなり変身したらこの建物が壊れる。広場があるから、そっちで変身してもらいたい」
「了解した」
広場に村人全員が集まって、クラッヘはそこで変身した。
なるほど、ドラゴンだ。
しかも相当立派な。
角が何本もあるし、羽は立派だし、体長が尻尾まで数十メートルあるし、漆黒の姿だし、ウロコは光っているし、この姿で来られてたら、俺は全力で相手しなければならなかった筈だ。
「そっちの方が強そうで威圧しやすかったんじゃねえか?」
「この姿は、龍気を消費するので、あんまりしっくり来ん。人間の姿でいた方が楽だな。洞窟に入られたら手を出せんし、ブレスも人間のままで吐けるしな」
人の言葉を話した。
魔法的なサムシングか。
しゅるん、と彼女はすぐに人間の姿に戻った。
ちなみに衣服はちゃんと着ている。
魔法で出せるようだ。
「そう言えば、人間とのハーフとか言ったな。普通に神龍同士の子供がいたりはしないのか?」
「いるが、まだ真龍扱いだな。幼龍とか呼ばれる。何度か『真の脱皮』を経て神気が奔るようになれば、神龍の仲間入りをする。義姉上がそうだが、まだ何百年もかかる」
「8人目の神龍がいると聞いたが、その姉がそうじゃないのか?」
「あー……その辺はややこしいので、ちょっと込み入った話になるが、いいかな」
「いいぞ」
再び、場所をノルデースの家に移して、話を続けた。
俺の指示で、エルダーアラクネたちの給仕によって、料理が運ばれてきた。




