表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/31

第4話:ウサギ肉

 念願の肉が手に入った。

 その前に焚火だ。

 枯れ枝を集めて火を付けなければならない。


 火付けは、分かりやすく、木と木をこすって摩擦で火をおこすタイプを選んだ。

 結構コツがいると話だったが、俺の場合、一発で火がついた。

 『奇跡』がそうしてくれているのかもしれない。


 次に、ウサギの死骸を持ってきて、解体する。

 そこで、はた、と俺の手が止まった。


「ウサギの解体ってどうやるんだっけ?」


 ナイフはない。

 食肉の解体経験もない。

 ウサギどころか、牛豚も、鶏すら〆た記憶もない。


 食中毒も怖い。

 『奇跡』が、『巨人の力』があるから、そこまで不安になることもないのかもしれないが、ここは理性を優先させたい。

 矛盾を何でも俺の力でねじふせては面白くない。


 理屈の基本は守ってこそ文明だ。

 俺が良くても、周りが良くないだろう。

 『奇跡』といえども、限界はあるのだ。


 仕方ないので、手刀で切った。

 この場合、大切なのは、イメージの方。

 さっそく理屈に反してるような気もしたが、「理屈とイメージを合致させる」というやつだ。

 そう言って無理矢理自分を納得させた。


「俺の手はナイフだ、俺の手はナイフだ」


 そう呟きながら、ウサギの腹に手を当てると、ぱかっ、と開いて、血が噴き出してきた。

 成功だ。


 内臓の中身を散らさないように、慎重に肉と内臓を取り分けてゆく。

 特に内臓は、彼らが何を食ってるか分からないので、できるだけ開けないように慎重に切った。

 ぐちゃぐちゃとした感触が気持ち悪かったが、これは森で生きていくのなら、慣れてゆくしかない。


 抜き出した内臓はかたわらに置いた。

 頭も手足も食わないので、分解した後、同じくそばに置いた。

 絵面が酷いことになったが、そこは浪漫でごまかせない部分だ。

 ガマンしよう。


 内臓を見ると、胃と心臓の間に謎の器官がついていた。

 肺ではないし、第二の心臓っぽくもなかったので、恐らくは毒腺。

 つまり、こいつは猛毒持ち。

 攻撃が当たっていたら危なかった。

 まあ、当たったとしても、『巨人の力』が何とかしてくれていたのだろうが、気を付けるに越したことはない。


 毒腺とは別に、心臓付近に謎の石がくっついていた。

 引き剥がして、かじってみる。

 硬い。まるで石のようだ。

 体内にどうしてこんなものがあるんだろう。


 いずれにしても、食べる部分ではなさそうだ。

 念のため、取っておくことにする。

 何かの役に立つかもしれない。


 ウサギ肉の調理方法は知らないので、内臓と骨、皮を取り除いたら、後はほぼぶつ切りだ。

 結果として得られたのは、血なまぐさい肉だった。


 焼けば食えないことはない。

 ただ、口に入れると鉄臭さが半端なかった。

 一食分平らげたところで、音を上げた。

 この鉄臭い部分をどうにかしないことには、これ以上食えない。


 食えないものを無闇に狩るつもりはない。

 森には森の食物連鎖がある。

 それを崩しても、俺が詰むのが早まるだけで、得になることは少ない。

 そうでなくても、手足や頭などの不食部分はこれからどうにかしなければならないのだ。


 2匹目を解体しようとしたところで、唐突に「血抜き」という言葉を思い出した。

 そう言えばそんなものもあったような。

 食べられる魚でさえ、血抜きして活け締めをしなければ、食えないものになると聞いたことがある。


 2匹目からは充分血抜きをしてから食った。

 すると、鉄臭さがかなり抑えられ、独特の風味はあるがかなり食える味になった。

 塩っ気が欲しいところではあるが、このままでも充分食べられそうだ。


 塩っ気は『奇跡』ではどうにもならないので、解決策が向こうから来るのを待ちたい。

 『奇跡』の使いどころとしては、岩塩鉱が近くにあるとか、海が意外に近くにあるとか、動物が勝手に塩になるとか、そういったことだが、そればっかりは確認してみないと分からない。


 内地なら岩塩鉱や塩泉なんだろうが、それがどこにあるかは知らない。

 塩っ気がやってくるまでは、創意工夫でどうにかしよう。

 熟成方法や処理方法をいろいろ替えて、様子を見てみよう。


「しかし、こいつらどう見ても肉食だよなあ」


 胃腸の中身を見たわけではないが、俺はあの睨んでいた目を思い出した。

 そこにあったのは、純然たる敵意。

 あるいは食欲に類するもの。


 現地ウサギの恨みを買った覚えはないので、そこにあったのは、敵意と害意のぶつかり合いではなく、単なる食物連鎖。

 つまり、向こうはただただこっちをエサだと思ってただけ。

 そうでなければ、広場を作っただけで責められるいわれがない。

 腸を見たら短かったので、肉食という部分はそれほど大きく外してはなさそうだ。


 それでもそこそこ美味かった、ということは、この世界の肉食獣は「食える」ということ。


 基準が分からない。

 ただ、腹はまだ痛くなっていない。

 食肉として優秀なのかは分からないが、この世界の角牙ウサギ(俺命名)の肉は、少なくとも俺にとって大丈夫と認識していいようにも思える。


 ただ、ビタミン不足は怖い。

 肉以外にも、木の実や野菜など、ビタミン補給の手段は作っておかないと、『巨人の力』持ちでも衰弱するような気はする。

 一番手っ取り早いのは、肉を焼かずに内臓ごと生で丸ごと食べることなのだろうが、食中毒が恐ろしい。

 本来焼くべき肉を焼かずに提供してしまったために、食中毒を起こして閉店してしまった店の数は枚挙にいとまがないのだ。

 気を付けるに越したことはない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ