第38話:ハイドワーフ
不意に竹を思い出した。
畑のように耕せば生えるのだろうけど、どこまで根はやってくるのだろう。
竹は便利だ。
資材に良し、生長速度良し、軽さ良し。
前世には竹筋というものもあった筈だ。
コンクリートの鉄筋が竹に代わったもの。
「すぐに崩れそう」とよく言われるが、状況によっては鉄筋並みにかなり耐えるのだという。
鉄が足りない、あるいは高価な地域では竹筋がよく使用されたという話。
もちろんコンクリートはないので、ここで使うならば資材か道具の材料か二択だ。
タケノコは別枠だ。
ただ、食べることも含めて、選択肢が増えるのはでかい。
根がどこまで拡がるか、実験も含めて、竹をイメージして耕してみた。
3日ほど経ったら立派な太い竹が生えていた。
やはり生長速度の迅いものは、俺の生やしたものの中でも群を抜くのか。
タケノコは1日ごとに見ておいた方がいいな。
ちなみに竹の生える範囲は、見事に耕した範囲に固まっていた。
余計な場所には拡がらないらしい。
『奇跡』に感謝だ。
竹を初めて見たハイエルフたちが興味を覚えた。
「何です、これ?」
「竹だな」
「どういう植物なんです?」
「持ってみるか?」
「いいんですか? あ、軽いしたわみますね」
「けど丈夫だぞ。そのまま使っても良し、薄く切って何かの材料に使っても良し、そのまま幹で切り取ればコップにもなる優れものだ」
「いきなり生えてたのでびっくりしました。また村長何かやったな、って」
「あって不便なものじゃないからな。勝手に切り取ってもどんどん生えてくる」
「村長の力でなくて?」
「そうだ、植物そのものの力だ。芽をそのまま食うのも美味いぞ」
「こんな硬いものを食べるんですか?」
「これは育ちきった状態だな。まだ柔らかい芽のうちに食べるんだ。地面に埋もれてるから、芽が少し出た状態を探って食べるといい。まずは試行錯誤からだな」
「了解です」
数日しないうちに、ハイエルフたちは竹素材を使って器用に籠を編み始めた。
製品は軽いと評判だった。
ただ、この村は力持ちしかいないので、あんまり顕著な効果がなかった。
ミニマムたちも普通に岩持って歩くしなあ。
もっとも、この村に籠状のものは少なかったので、細かいものを拾うのに便利と言われた。
大蜘蛛も器用に編み始めている。
収穫物を受けとめるのに使うらしい。
普及は迅いかもしれない。
ハイエルフのサレレが青銅鉱を発見した。
ここから1日の距離だという。
青銅鉱、というものは厳密に存在せず、銅鉱石がベースで、そこに錫が混じって青銅になる。
その、錫が混じった銅鉱山を発見した、というのがより正解に近い。
個人的には純粋な銅も欲しいが、青銅でも作れるのなら製品の幅が拡がる。
たとえばポンプ。
鉄と水の組み合わせは錆びやすくて流すのには向かないが、青銅なら耐水性がある。
作れればいま簡易水車や人力で運んでいる水が、直接水路から得られるようになる。
是非導入しておきたい。
他にも、武器や鏡が作れる。
前世では貨幣の材料にもなっていたが、村ではお金の流通はないので、その目的に使われることはないだろう。
将来的には分からないが。
もちろんハイエルフたちは青銅の作り方を知っている。
だからこそ青銅鉱なるものも発見できたわけで。
他の何もさておき、彼女らにはその精錬を委すことにしたい……と思っていたのだが、その発見に際して客がいた。
「頼もーーーーう」
でかい声を出された。
サレレの後に子供のような者が6人ほどくっついていた。
また、子供にしては手のひらや足先が異常に大きい。
「ハイドワーフです」
サレレが説明した。
噂には聞いていたが、これがハイエルフの対になる種族か。
しかし、手足はともかく、背格好、顔などはまるっきり子供だ。
いいとこ中学生、場合によっては小学生に見える。
そして、こと悪しきことに、全員女性だった。
女の子、というのは失礼だろう。
全員成人済みの大人だったのだから。
「ここに美味いものがあると訊いてな。そのサレレ殿か、彼女のメシを食わせてもらって、非常に興味が湧いてここにやって来た。我々にもその食べ物を与えてもらいたい」
「ここに棲むつもりか?」
「そうしてもいいが、貴殿らは鉱山で働く者が必要なのであろう? 鉄鉱山でも働いているハイエルフが何人もいると訊いた。我々は鉱山での働きに長けている。ハイエルフに代わって鉱山を差配させてもらえれば、勝手に掘削し、勝手に精錬する。それを納めることで食べ物と引き換えにしてもらいたい。同族が結構いるのでな。たまにでも良い。相応分の納入はする。とりあえず、これだけ持ってきた」
彼女らはどさどさどさ、と精錬済みの青銅を荷物から降ろした。
子供っぽいということで数キロ程度のそれを予想していたのだが、全部で100キロぐらいあった。
でかいインゴットがいくつも降ろされたのでびっくりした。
これをたった6人で持ってきたのか。
「とりあえずこれは試しだ。いつもならこの数倍は持ってこれる。我々は自分たちで言うのもなんだが、そこそこ力はあるからな。100キロぐらいなら1人でも持ってこれるぞ」
100キロを1人は凄い。
しかし……。
「たかが弁当ぐらいでこの量は持って来すぎじゃないか? 二、三口食べたくらいなんだろう?」
「確かに二、三口食べただけだな。しかし、そのたった二、三口が凄かった。すぐに弁当を1つ譲ってもらって、我々の集落に持っていって、村長と相談してきた。そして全権を得てここに来た。食べ物を卸してもらえれば、定期的に金属を精錬して持ってくる。加工や製造もできるから、ここに常駐させる者も派遣する。というか、派遣させてほしい。弁当が希望者で奪い合いになった。行かせなければ叛乱でも起こされる勢いだった。慌ててそのサレレ殿に、我々を先遣隊として連れていってもらった。今回だけでも得られなければ立場がない。後生なので、いくつか取引させてもらえぬか? それだけでも、我々が来た役目は果たされる」
胃袋を攫んだか。
流石に『奇跡』の食べ物だ。
ハイドワーフの言葉も最初は営業だったが、最後の辺りはほとんど懇願だった。
それだけ革命的な味だった、ということなのだろう。
素材だけでも群を抜いているというのに、料理までしているわけだから、それはそれは驚きの味だった筈だ。
断る理由もないので、ある程度の農産物を持たせることにした。
そして定期的にハイドワーフの村に卸す契約を結んだ。
何と契約に際し、彼女たちは血判状を持ってきた。
俺も血判状を与えないと気が済まないタイプか?
指先を軽く切るだけなので忌避感はないが、いちいちチクッとするのもなんなので、次からは勘合符で取引することにした。
木板同士を持ってきて、形がぴたっと合えば取引OKというなるアレだ。
「ありがたい。我の名前はウルルという。村の交渉担当を務めさせていただいている。他の者はウララ、ウリア、ウクリロ、ウサムネ、ウレイラという。取引にはだいたい我々が来る。その他に十数人、この村に代わる代わる滞在することを赦してもらいたい。報酬は食べ物だけで充分だ。それだけでこの村に貢献することをお約束する」
技術者、鉱山関係者の滞在。
それは願ってもない提案だ。
だが。
来るのは全員女性だという。
ハイドワーフは女性だけの種族なのか?
訊いてみたが。
「我々ハイドワーフは女性の比率が異常に多くてな。だいたい9割の確率で女性が多く生まれるのだ。男性はそれを何人養うかで甲斐性が決まる。と言っても差配するだけで、働くのは主に女性だがな。その代わり、男は戦闘は強いぞ。グレートワイバーンとでも一対一で戦える。その分、普段の仕事は女性への指図だけになる。基本、我々は女性だけで、稀に戦闘主体に男性がいるぐらいと思ってくれたら良い」
種馬兼指揮官兼戦闘担当かあ。
急に親近感が湧いてきた。
たぶん結婚も男性側に拒否権はなく、女性側が一方的にアプローチして、そのハーレムに組み入れられるのだろう。
男性を褒めておだててその気にさせて、妻たちが一方的に家庭内や村内の実務を握るのかもしれない。
俺に似てるな、と思った。
さっそく取引が始まって、向こうの村から十数人のハイドワーフが派遣されてきた。
いきなり女子が増えた感じだ。
もちろん全員成人済みなのは分かってる。
分かってるのだが、「子供みたいなもの」のイメージが強い。
力は当然半端なかった。
120から130センチの体格で、子供のように細身だというのに、その何倍もの大岩を軽々と持ち上げる。
畑を拡げるために村を800×800メートルから4倍の1600メートル×1600メートルに増やしたのだが、その時に大いに役立った。
拡げる際に巨大な岩盤があったのだが、それをパンチだけでばらばらにした。
しかもハンマーではなく、素手でだ。
俺の『巨人の力』に似てるかもしれない。
もはや村がヘクタールではなく平方キロメートルで計算できるようになった。
正確には、村の外が大蜘蛛の巣、シャドウウルフの縄張りの一部になってるので、恐らくマクロな意味での「村」が指し示すエリアは途轍もなく広くなっているのだろうが。
それはともかく、村本体の面積を拡げたのは酒用作物の準備のためだ。
最初、栽培は夏の予定だったが、4月のうちに本格的に始めることになった。
拡げた範囲をそのまま畑に当てることになった。
酒用ブドウ、酒用リンゴ、大麦、小麦、米、サツマイモなど。
すでに迅いものについては栽培は終わっている。
そして仕込みが始まっていた。
熟成はまだまだ先だろうが、
酒用作物の準備を急いだのは、ハイドワーフの好物が酒だと聞いたためだ。
その辺は一般ドワーフと変わらないんだな。
と思ったところで、本人たちから意外なことを訊いた。
彼女らは比重が半端なく、その体質を維持するために濃縮されたエネルギーが必要なのだという。
そのために、酒は必須。
蒸留酒であればなお良い、のだそうだ。
濃密なエネルギーを必要とするために、石も食う。
比喩でなく、石をぼりぼり食うのだという。
そうでなければ保たないらしい。
もちろん石は不味い。
酷く不味い。
しかし生きるためには食うしかない。
食事は苦痛この上なかったそうだ。
そこに現れたのが、俺の畑で作った作物で作った料理。
出逢った時に試しに食べさせてもらったのだが、脳に衝撃が奔ったらしい。
世の中にはこんな美味いものがあるのかと。
サレレから弁当の1食を譲ってもらって、村に持ち込んで、ほぼ全会一致で交渉推進決定。
俺の村にやって来た、というのが実情らしい。
酒は彼女らの間でも蒸留酒をすでに造っているしその技術もあるが、材料が乏しいために不味いものしか作れない。
正直、石とそんなに変わらぬ「匂いも風味も何もないもの」らしい。
ほぼエチルアルコールという奴だな。
しかし、この作物なら美味いものができる筈。
ゆえに俺の作物が欲しい、ということで取引を持ちかけてきたのだそうだ。
しかし、やっぱり来るのは全員女性なのか。
そろそろ男性が欲しいのであるが。
彼女たちも俺の寝床にいずれやってくるのだろう。
助平と言われれば何も反駁できない。
結局、何のかんの言って、全員相手してしまっている。
エリシアだけでなく、ノルデースもだ。
一応、俺は一度は拒否したが、という言い訳はつけておく。
こっちから誘ったケースは一度もない。
小柄な種族を相手にするのは問題ないが、絵面が流石に犯罪っぽいのは否定できない。
前世だと確実に捕まっていること必定だ。
他人にはあまり見せられない構図だ。
流石に自分はロリコンではない、とは思いたい。
しなを作って全裸で迫る女性に抗いきれない、というだけであり、そういうのにも反応してしまうだけだ。
少なくともノルデースに関してはそうだった。
どちらにしろ、外見だけで言うなら、ほとんどの者が俺より年下風だ。
実年齢で言えばその逆だ。
そうでなければ、抱けない。
大人と分かりきっているからこそ、反応できるのだ。
そういうことにしてほしい。
イモーラルに傾くつもりはない。
年上風もイケるつもりはあるので単なる助平なのだと思うが、世が世なら「そういうの」が好きな層に血涙を流されて刺し殺されてもおかしくない。
あまりのラッシュに俺の方が先に枯れると思ったのだが、最近は何とかなっている。
何とかしてしまっている。
むしろ女性陣の方が保たないと、少しローテーションを変えて控えめになってるくらいだ。
俺の方が保たないのは、心の方。
いつも最後の方は罪悪感でいっぱいになる。
昔のマンガに「心に棚を作れ!」というのがあった。
「まずは罪悪感など置いておけ、そして周りのせいにしろ」という奴だ。
26人を相手に単騎で相手しているのだから、そうでないと自分が潰れてしまう。
自己防衛は大切だ。
予想通り、すぐに十数人のハイドワーフも寝床にやってきた。
流石に体力はあるが、俺の方が勝った。
体力おばけのハイドワーフを上回る精力は果たして健全なのだろうか。
自問自答したくなる。




