第36話:スライムの性質
最近は青緑色ばかり褒めることが多かったが、スライムにも様々な色があり、その色によって性質が違う。
たとえば青色は水分を貯める性質がある。
水を蓄えると青に近付き、放出すると薄い水色になる。
その性質を活かして、村が影も形もなかった頃から他の個体に補水していたのは彼らだった。
当然、数は一番多い。
緑色。主に排泄物やゴミや落ち葉などを食う。
この村で快適に暮らせるのは彼らの力が大きい。
数的にも青に次ぐ大勢力を築いている。
最近は排泄物組は他の個体と一切交わらないことを覚えたらしい。
スライムに清潔感を望んでないので、そんなことをしなくても平気で触れるのだが。
汚れがフィードバックされないのは俺の村なら周知の事実だし。
赤色。スライムの中の魔法使いだ。
炎、氷、風、雷、点灯、何でもござれ。
粘着力が特に強く、しばしば天井を逆に歩いている個体も見受けられる。
天井付近の灯りは、もちろん大蜘蛛も活躍するが、彼らによるところが大きい。
白色。スライムの中の回復魔法使い。
よく欠損した個体が近付いては、彼らにその身体を修復されているのを見る。
回復魔法は彼らの独擅場というわけではないが、特に得意としてるのが彼らのようだ。
黒色、灰色。スライムの中の攻撃部隊。
スライムは基本柔らかいものが多いが、彼らは例外的に硬い。
よく木にぶつかっては、ガツン、ガツン、と大きな音を立てている。
うっかりしているわけではなく、意図的にそうすることで身体をより硬くしているようだ。
最近では岩に擬態することも覚えて、獲物の足を器用に引っ掛けたりもする。
トゲの生えた個体もおり、モーニングスターを超えて、でっかい栗やウニと見まごうこともある。
流石にウニには間違えないが。
紫色。毒担当。
彼ら自身が猛毒の持ち主だが、踏んだだけでは中毒しない。
彼らが発動したい時に毒が放出される。
ホーンラビットなどの毒腺を主に喰らう。
まさに「どくせん(毒腺)をどくせん(独占)」だ。
うん、やかましわって?
失礼。
ピンク色。空気清浄係。
猛毒の空気などがあると、それを吸着して酸素を放出するらしい。
彼らがいる場所では怪我が治りやすいともっぱらの噂だ。
酸素は怪我を高速治癒させる効果があるので。
なお、酸素系なので火の用心なのは言うまでもない。
赤色の「ほのお」「かみなり」タイプは特に近付かないようにしているらしい。
自動的に燃えてしまうので。
しばしばダンジョン攻略や鉱山開発の時に、当事者が口鼻にくっつけて呼吸器代わりにするとの噂。
実態は知らない。
スライムは基本ものを溶かすので。
オレンジ色。主に生物の分解を得意とする。
特に脂肪分や体毛などが好みのようだ。
皮をなめす時にはこのタイプを使うらしい。
彼らを滑らせると、キレイに毛や皮膚などがなめされて、巧い具合の皮になるとのこと。
えんじ色。最初の頃にも出てきたが、吸血タイプというか、血抜き専門だ。
液体の扱い全般に長けるが、血液の味が特に好みらしい。
最近はキッチンにいたりすることが多い。
燻製所にも待機している個体がいっぱいいる。
紅色。骨や皮膚についた腱や内臓を好む。
あくまで「こそげ取る」ことを好み、肉そのものをバクバク食うわけではない。
骨を溶かさないので、彼らに食べられると、骨だけがキレイに残る。
骨格標本を残したいなら彼らに委せると良い。
黄色。消化力が高く、皮膚をかすっただけで肉をえぐれる、黒・灰色タイプとはまた違ったスライムの脅威だ。
その消化力は、昔、木にぶら下がって果物と間違えてやってきた獲物を一撃必殺にするくらいだったらしい。
今も黄色い木の実は彼らが化けているケースが多く、他の動物もあまり手を出さない。
かつてエルダーアラクネのビタミン補給が遅れたのは、ある意味彼らのせいであるとも言える。
紺色。全体的に消化力が高い。
骨も内臓もあっという間に溶かすのはだいたいこのタイプ。
よく他の色とエネルギーの交換をしている姿を見かける。
茶色。スライムの隠密部隊。
土に紛れて周囲と同化する。あるいは隠れて獲物を狙う。
俺も言われなければ「そこ」にいるとは分からない。
仲間に指摘されてようやく見つけられるくらいだ。
消化力は高く、虫や小動物など、動くものを主に食う。
意外に肉食のタイプだ。
そして青緑色が、中に菌や酵素を保有し、ものを醗酵させる。
もちろん他の色の個体も大なり小なり菌や酵素を持っていて、それで溶かしたりするのだが、彼らは一度覚えると特定の菌や酵素を消化せずに取っておくことが可能なようだ。
エネルギーを貯めると体色が濃くなり、コアが増殖する。
そして分裂する。
1回に増殖する数は2つか3つぐらい。
場合によっては4つか5つまで増やして、一気に分裂することもある。
分裂寸前の個体は分かりやすい。
コアが複数個あるので。
ちなみにスライムは周りの粘体を欠損しても死なない。
時間をかけて元の通りに復活する。
白スライムに治してもらうものも多い。
コアを斬られると消滅するらしい。
そこが彼らの本体のようだ。
これらの性質をすべて知っているのは、村では俺くらい。
数人の勘の良い者がわずかにその行動差に気付いている程度。
他の圧倒的多数は「いろんな色がいるなー」程度の扱いのようだ。
なぜ俺が詳細に把握しているかと言えば、主に「自己申告」だ。
彼ら自身がこんなことをできます、と、ことあるごとに主張してくる。
彼らの意思を正確に理解できるのは俺だけだ。
村人は「共存する同輩」という程度のふれあい方。
ただ、仲は良い。
言葉は理解できないが、指示すればその通りに従ってくれてるので、重宝しているようだ。
撫でることもできるらしい。
「いやー、でも彼ら、森の外では結構獰猛だわよ」
エリシアが皆で集まっている時に、彼らの性質を説明した。
「そうなのか?」
「森では『掃除屋』『片付け屋』とか呼ばれてるらしいけど、あたしのいた場所の彼らの別称、知ってる? 『糞食い』だかんね。トイレにしかいない、基本、唾棄すべき存在って感じ。ここに来てガラリとイメージ変わったけど」
「お前さんも『糞食い』と呼んでたタチか?」
「そこまで悪いイメージはなかったし、普通にスライムと呼んでたけど、トイレ以外にはゴミために多く棲息してたぐらいの印象かなあ。基本、人間に馴れないかんね、彼ら」
「ここでは人の言葉に従うっぽいが」
「それが不思議なのよ。ここだと従順で温厚なのよね。普通は懐かせようとしたら、手をぱくり、とやられて皮膚がずる剥けになるわ。個体によっては骨まで溶かすから、基本危険生物扱いだわよ、彼ら」
「普通に撫でさせてくれてるけどなあ」
「スライムをテイムする、という言葉が、あたしたちの間では『不可能を可能にする』を意味するからね。そんだけで把握してもらえれば分かりやすいと思う。スライムテイマーは『夢想家』と同じ響きを持つわ」
「森でもそんなイメージか?」
「流石に、そこまでは悪いイメージはないですね」
ハイエルフたちが発言した。
「基本、森やダンジョンの掃除屋というイメージです。私たちの間だと。腐ったものを食べたり、屍体を片付けたり、ゴミを処理したりと、割と私たちと仲良く共存できてる感じです。そこまで危険な印象はなかったです。直接触ると危険なのはエリシアさんのと一緒なんですが」
「森の中と外じゃ、エサの量が違うんじゃないか?」
「まあ、『外』自体が、あんまりスライムいない場所だかんね。こんなにたくさん数を見るの、あたしはここが初めてだったから」
「森では結構見ます」
「なので、私たちは違和感なかったですね。流石にこの村は個体数が多すぎかもしれませんけど」
「ノルデースはどうだ?」
「なんぞ、妾に訊く?」
「いや、何千年も生きてたなら、さぞスライムにも詳しいだろうなあ、って」
「スライムは専門外じゃからなあ。『糞食い』は妾の時代から言われておった悪口じゃが、そこまで身近でもなかったのう」
「長くいたらスライム研究家ぐらいいたんじゃないか?」
「そりゃいたじゃろな。何人かいたのは知っとる。ただ、そいつらはスライムに食われて死ぬケースが多かったと聞いた。エサがなければあっさり叛逆する感じじゃな」
「エサの多寡が獰猛さに比例するって感じかな」
「そんな感じですかねえ。エサがあれば大人しく、エサがなければ暴れるんじゃないでしょうか」
「その意味では、この村はスライムにとっては天国でしょう」
「食べるものには不自由しないですからね。ただ、自主的に床掃除、天井掃除やゴミ処分する個体がいるのが不思議です。普通はエサ以外見向きもしない筈ですから」
「村長の人徳?」
「それ、アリかも」
「それはないだろ」
「いやー、意外とアリかもしれませんよ。彼ら、割と計算高いですから」
スライム談義に華が咲く。
ただ、エサが多いとて、俺に特別懐くのは謎だ。
エサの量は、特に真冬の不毛な季節なんかは総量が限られてるわけで。
美味いエサが作用していようとも、いささか従順すぎるきらいがある。
それは特に恩を売ってるわけではないシャドウウルフや大蜘蛛にも言える話だ。
『奇跡』が影響してるのだろうか。
前世でも聖人が獰猛な怪物を慰撫する話は多かった。
それが、「外」では獰猛、森では気ままな彼らの性質に影響している?
だが。
村人の話によれば、スライムは「外」でも森でも、それほど知恵がある生物ではない、という感じだ。
ハイエルフ含め、彼女らの観察からは、本能的な部分を強く感じる。
しかし、この村にいる個体は利口だ。
俺の言葉もきちんと理解する。
村人とも会話が成り立つわけではないが、言葉で指示すれば、ちゃんとその通りに動いてくれる。
邪魔をしないように歩いてくれ、自主的に働いてくれ、積極的にコミュニケーションを取ってくれる。
だから、彼らも「村人」の一員として認められてるわけで。
あまり深く考える必要はないのかもしれない。
この村にいる個体は利口な奴が多い。
そうでない場所は本能的な奴が多い。
それでいいのだろう。
つつきすぎて台無しになるのはゴメンだ。
シャドウウルフや大蜘蛛も含めて、そんな感じがひしひしとする。
探りすぎてわやになる話はいくらでもあった。
自縄自縛には陥りたくない。
正体の分からない存在はこの世界にいくらでもいる。
俺の悩みは身近な彼らよりも、そういうものに取っておいた方が無難そうだ。
まだ出逢えてない存在の方が圧倒的に多いわけだしな。




