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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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34/50

第34話:暦と風呂の話

 暦。

 この世界にも月がある。

 もちろん1つだ。

 そしてそれは正確に30日で満ちかけが一周する。

 前世のように29.5日という半端な数字にはなってない。


 そして1年も12か月、360日。

 ゆえに均等に30日の月が12か月。

 それがこの世界の暦のようだ。

 ハイエルフたちが教えてくれた。


「なるほど、1か月と言って通用するのが不思議だったが、そういうワケか」


 俺は「先駆者」に思いを馳せる。

 神様よりかは恐らく彼(彼女?)のしわざ。

 「いちいち計算するのは面倒くさい」と、自転公転を計算しやすいサイクルにしたのだろう。

 俺より無力、という考えは他に置いておいた方が良さそうだ。


 ちなみに週の概念は俺が持ち込んだ。

 7日サイクルだと360日では3日余るし、51週という半端な数字になるが、休みのサイクルだ。

 7日ごとに1日の休みを与える。

 そのためには週の概念がどうしても欲しかったのだ。

 とにもかくにも、エルダーアラクネたちがやってきた最初に教えたのがそれだ。

 ゆえに彼女らは週という概念を真っ先に覚えた。


 いずれにしても太陰暦太陽暦といったややこしいものを持ち込まずに済むのはありがたい。

 木板にカレンダーを作ってそれを周知することにした。

 今は4月の第2週辺り……らしい。

 そう決めた。


 いずれは春分の日を精確に観測して、その日を3月21日と制定したい。

 前世では3月20日の場合もあったようだが、俺の気分の問題だ。


 流石に春夏秋冬はその暦には合ってない。

 合ってる場所もあるのだろうが、高原地帯でかつ辺境地帯であるこの地方は、春秋がそこそこ、夏が若干短くて、冬が一番長いようだ。


 新しい暦がこの世界の暦と共通してるかは知らない。

 そもそも、真冬の何もない日がこの世界の第1月とは限らない。


 前世でも春分の日のある月が第1月だという暦は多かった。

 それが、9月、10月が「第7月(セプテンバー)」「第8月(オクトーバー)」という名前で、2月に暦の調整が来てた理由だ。昔の暦がローマ暦由来で、ラテン語の「7(セプテム)」「8(オクト)」から来ている、というやつだ。

 前世の3月が第1月だったからこそ、第12月の2月に暦の「オマケ」「調整」がやってくるのだ。


 今が「外」の暦の何年ということも知らない。

 一応、便宜的に、前世からやってきた年を第1年、元年として、今を「村暦2年」と定めた。

 他の暦と出合った時に一気にそれを修正する。

 あくまでも月数も年数も仮のもので、俺を中心に総ての暦を書き換える、なんて傲慢は避けたい。

 俺にそんな重大なことを決めさせても、正直困る。


 のちに、「外」にはいろんな暦が混在していて、その違いがあって、場合によってはそれを巡って戦争が起こっており、それらを止めるため統一する必要があって、「村暦」が正式に「外」の暦として採用されることになるのだが、今の俺はそれを知るよしもなかった。


 どちらにしてもかなり先の話である。


 ハイエルフたちはすぐにそれを受け容れたが、エルダーアラクネたちは「はーーーーーーーッ」と感心したようにため息をついた。


「今は春ということは分かるんですが、4月なんですか」

「そうなると夏は7月8月ごろになりますね」

「分かりやすーい」

「でも1月が真冬のド真ん中なんですね」

「何があるんでしょう」

「村長の誕生日?」


 その辺はあまりツッコまないでおいてくれるとありがたい。

 俺も不思議なのだ。

 ちなみに1月が真冬なのは冬至基準ということしか知らない。

 冬至とズレている理由は分からない。

 今さら知る必要もないだろう。


「ハイエルフの暦はどうだったんだ?」


 俺は尋ねてみる。


「数字ではなかったですね。だいたい『春のサイクル』『夏のサイクル』とか呼んでました」

「年数は算えません。同じサイクルが繰り返される、という考え方でした」

「年齢は算えたけど、それだけかなあ」

「おおむね『春のサイクル』が3つで、『夏のサイクル』が2つだったよね」

「3つの時もあったけどね」

「その辺は部族長や祭祀長の判断によって決まってました」

「サイクルの始めが満ち欠けの始まりというのは私どもとも合ってます」

「そこは同じなんですね」


 なるほど。

 暦と季節のズレはお偉いさんの管理案件だったか。

 いずこも同じだ。


 ちなみに、畑の育つものがだいたい2週間前後。

 木として育って実がなるまで2か月前後。

 この辺はほぼ統一されている。

 もちろん、他には秘密だ。

 そんなチートな(ずるい)畑があるなんて知られたら、この村が襲われてしまう。

 まあ、チート(ずる)を起こしてるのは俺なので、俺さえ逃げれば何とかなるのかもしれないが。


 風呂小屋を作った。

 場所は俺の屋敷のすぐそば。

 俺のプライベートルームからその小屋が見える。


 そして水路のすぐ横。

 そこに導水路と排水路を作って小屋に引き入れ、温熱釜で湯を沸かし、浴槽に入れる。

 温熱釜部屋は結構広めに作った。

 水を引き入れる設備が大きくなったのもそうだが、シャドウウルフたちが入りたがったのだ。


「お前たちは風呂に入る習慣はないのでは?」


 そう言うと、グレイがやってきた。


「ばう」

「炎のブレスを吐く練習台にさせてください。しばらく吐かないと忘れてしまうので」


 あと、ハイエルフたちもエリシアも炎の魔法を操れるらしく、温める係に立候補した。

 魔法もしばらく使ってないと忘れるので、シャドウウルフたちとともに練習したいらしい。


 ……大量に積んだ薪はどうしよう。

 薪小屋も結構でかいのを風呂小屋のそばに作ってしまった。

 まあ、シャドウウルフも魔法組もいない時に自分で使うとしようか。


 浴槽と排水路を繋ぐのはいいが、水路が温まっては夏に大変そうなので、排水路と外の水路を繋ぐところに湯を冷ます冷却槽が作られた。

 垢やゴミなどを掃除するためにスライムが何匹かその冷却槽に入ることになった。

 ……大丈夫かな。溶けないかな。


 また、導水路と風呂釜の間にもゴミを取り除く調整槽を設置する。

 そっちにも何匹かスライムが入ってきた。


 風呂釜と浴槽の間は、手回しの、桶が無数についてる水車まがいで水を上げることも考えたが、それと併せてサイフォンの原理で繋ぐことにした。

 お湯が沸いたら、蛇口を捻ると自動的に入ってくる。


 そうそう、この村の初蛇口はこの風呂小屋だった。

 俺がしくみを知っていたので簡単だった。

 今まで使う機会がなかっただけで。


 後は桶や椅子などを設置すればOK。

 浴槽は結構でかく、10×20メートルくらい。深さは深いところで1.5メートルほど。

 一応エルダーアラクネの体格も計算に入れてのその深さだ。

 俺やハイエルフたちのように小柄な方は、浴槽に段差をつけることで問題ないことにした。

 何段階か作った。

 場合によっては湯に椅子を入れてそこに座ることも考えている。


 そうした設備を一か所に集めた結果、結構でかい場所になった。

 村でも目立つ。

 まあ、風呂は目立ってナンボだ。

 外が見えるように窓は広く取った一方で、丸見えにならないように周りに生け垣などを育ててみた。

 俺が強く望んだせいか、1日であっという間に育った。

 2週間かかるんじゃないのか。


 ちなみに生け垣は主に薔薇やキンモクセイだ。

 花が生える頃にはいい匂いを漂わせてくれることだろう。


 さっそく入ってみる。

 エリシアやハイエルフやエルダーアラクネの何人かが服を脱いできて一緒に入った。

 まあ、今さら恥じらう仲でもないか。


 もちろん、湯船に浸かる前に身体を洗わせることも忘れない。

 それが風呂のマナーだ、と教えた。

 覚えてほしい。


「いいですねェ~~~~~」

「あったかーい」

「気持ちいい~~~~~」

「身体が溶けるゥ~~~~~」


 皆が湯に浸かって唸る。

 エルダーアラクネは人間部分はいいが、虫部分はのぼせないのだろうか、と心配になる。


「汚れた時はどうしていたんだ?」


 それぞれに尋ねてみる。


 エリシア。

「あたしは水浴びか、魔法で湧かした湯に布をひたして、それで身体を拭うくらいね。それで充分だったわ。風呂なんて贅沢! と思ったけど、こんな気持ちがいいなら、毎日でも入りたいくらい」

「毎日入ってもいいんだぞ? 自分たちで湯を沸かすのに手間を惜しんだりしなければ。グレイたちに頼んでもいいし、薪を燃やしてもいいし、俺の許可なんざいらんいらん」

「マジ?! うーん、どうしよう。……考えとくわ。それにしても、気持ちいい~~~」


 エルダーアラクネ。

「あたしたちは普通に水浴びですね。村長が秋まで頻繁にしていたような。冬なんかは水を浸した布で身体を拭いてましたね。冷たいのでかなり大変でした。場合によっては凍っていたりしてましたし。ただ、汚れをそのままにしておくとかゆくなるし、放置してると病気が流行るので、必死でしたね」


 ハイエルフ。

「私たちも基本水浴びです。薪でお湯を沸かすこともありましたが、基本部族長や祭祀長の特権のようなものでした。周りの木々を無闇に伐ることは禁止されていたので。なので、エリシアさんのように、少し熱めのお湯を魔法で沸かして、それに浸した布で身体を拭うのが一般的でした。1か月に1回ほど、村のお湯をふんだんに使っていい日があったくらいですね。それでも私たち女衆はなかなか使えませんでしたが。旅してる間は水浴びか水に浸した布で拭うのはエルダーアラクネと一緒です」


 なるほど。

 この世界も大変だなあ。


 スライムも大蜘蛛ものんびりぷかぷか浮いている。

 スライムはともかく、大蜘蛛は脚から呼吸するから溺れるんじゃないか? と思ったが、「気にしないでください」と言わんばかりに脚を振ってきたので、気にしないことにした。

 シャドウウルフがドラゴンの仲間であるように、大蜘蛛も別の法則で生きてる可能性があるからな。


 そうしてのんびりしていると。


「ひゃっ!」


 俺は悲鳴を上げた。

 尻を誰かが触っている。


 見ると、皆が近くに寄ってきて、にやにやと笑っている。

 目が怖い。

 ハンターの視線だ。


「ダメよ」

「逃がしませんよ」

「せっかくの裸の付き合いですからね」

「こういう時に触らないでどうするんですか」


 それは俺ら男のセリフじゃないのかな。

 出ようとしたら、がっしりと肩をつかまれて、湯船に押し戻された。


 スライムや大蜘蛛に助けを求めようとしたが、彼らは空気を読んだのか、いつの間にか上がっていた。

 俺が風呂を満喫できた時間は短かった。

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