第30話:収穫とレジャー
倉庫には秋口にすでに育ちきっていたリンゴや梨が山と積んである。
美味いが食い切れないのでは? という量が収穫できた。
ただ、秋に一気に人口が増えたので皆に行き渡らすことができた。
一度育ちきると他の収穫物と同じく2週間ごとに収穫できるので、大蜘蛛の多くに配っても食い切れない。
余った分はいつの間にか200匹を超えていたスライムにも配っている。
ちなみに収穫しないとどうなるかを試してみたが、そのまま2週間サイクルから外れるようになった。
腐ったものは畑に鋤き入れたり、スライムに食わせたりしているが、そのまま新しく生えることはない。
俺の耕作、収穫、願望といった行動がトリガーであり、そのサイクルを外すと通常の作物の生長速度になるらしい。
まあ、俺の起こした奇跡だからな。
俺が充分と考えると起こらないようになるのかもしれない。
世話を再び始めると2週間サイクルが復活する。
願望でも同様だ。
前の腐った作物を押しのけて新しく生えてくる。
なので、森の食物連鎖が大きく崩れることはない。
畑の作物を狙って森の動物がやってきて食ったりしているが、俺たちはそれをしばしば見逃す。
あくまで見逃しているだけで、目の前に出てきた時には肉になってもらっている。
森に恵みを与える一方で、俺も森から恵みを得る。
バーターだ。
食い切れないものを独占しても何も良いことはない。
それに、作物を食わせることで、様々な動物やモンスターがここにやってくるようになっている。
その肉を得るためにも、ある程度撒き餌は必要だ。
肉食の住民は多いので。
もうすぐ冬がやってくる。
冷たい風が吹いて、大蜘蛛も巣や建屋にこもり始めるようになってきた。
虫は寒さに弱いからな。
冬の蓄えは充分だ。
夏秋にひたすら農業サイクルを回したお蔭で、今の人口が倍になっても大丈夫なくらいには在庫を確保している。
冬が長くなることを見込んでの収穫だ。
秋は意外と早くやってきていた。
灼熱の季節は予想より短かった。
その分、冬は長いと踏んでいる。
高原気候だからな。
冬、ということで思い出したのがミカンの存在だ。
生やすのを忘れていた。
次の春が来たら植えるつもりだが、正直そこまで覚えていられるか自信がない。
そもそも、この深山幽谷で思い通りの作物を作るのがイレギュラーなわけで。
まさか俺の望みがそのまま反映されるとは思ってなかったわけで。
冬に育てるとどうなるか、という部分が気になったが、あえて育てないことにした。
冬は不毛な時期。死の忍び寄る季節。
そこを大きく崩しても何も良いことはない。
現状が「不自然」な状態なのだから、せめて冬ぐらいは「自然」のままでいさせたい。
森のサイクルを崩したくないというよりかは、俺自身のイメージだ。
そうでなくても作物的には季節感が全くない状態なのだから、冬ぐらいは季節相応に暮らしたい。
あまり何もせずに籠もっていたい。
一年中働いても何も良いことはない。
なので、退屈せずに籠れるように、娯楽用品を冬に向けて作ることになった。
まずは異世界定番のリバーシ、そして次の定番、サイコロ。
サイコロは流石にエリシアのいた国にはあったが、立方体のサイコロは初めて見るという。
彼女の見たことがあるのはいびつな多面体であり、数字も偏る。
ゆえにそのサイコロは祭礼に使われる。
偏ることを利用して、「世の中が正しく回っていること」を示す道具に使われるのだそうだ。
遊びには向かないタイプだったらしい。
ゆえに、初めて遊びに使えるサイコロを手に入れたエリシアが真っ先にハマった。
特にチンチロリンにハマった。
当然、賭けることは強く禁止している。貸し借りもだ。
村人が借金で首が回らなくなるのを見たくはない。
そうでなくても私有財産はノルデース以外ほとんど持っていないわけで。
数字だけの遊びにとどめさせているが、それでも大きく数字が下がるとショックらしい。
大きく負け越した時には3日ほど引き籠って出てこない時もあった。
その辺は自重しつつ、ほどほどに遊んでもらいたい。
リバーシは盤上遊びを初めて見るエルダーアラクネがハマった。
たちまち村のチャンピオンの座に登り詰め、トップ層もエルダーアラクネたちが代わる代わる入れ替わる。
勝率が一番高いのはレノだ。
将棋も作ってみた。
こちらは本将棋と回り将棋の両方がよく遊ばれる。
本将棋で強いのは、何と大蜘蛛だ。
リバーシには強いエルダーアラクネや、人型のハイエルフが束になってもかなわない。
チャンピオンの座を見事射止めたら名前をつけてやろう、と言ったら、大蜘蛛たちの中で勝負が白熱した。
「リュウオウ」「メイジン」「オウイ」「オウザ」「キオウ」「エイオウ」「オウショウ」まではすでに決まっていて、今は最後の「キセイ」の座が争われている。
ネームドは名前札を作り、それを誇らしげに掲げている。
他の大蜘蛛の目標は、チャンピオンたちを負かして名前を奪うことらしい。
ドラゴンがいる世界で「リュウオウ」は流石に怒られるかな。
まあ、怒られたら怒られたで別の名前に替えるだけだ。
なので、本格的な冬が来る頃には、俺は特に将棋を作ることに追われることになった。
リバーシは同じコマを作るだけで良く、プレイヤー数もさほど多くないので楽だが、将棋はコマ数もプレイヤーも群を抜いて多いので大変だ。
なぜ彼らは将棋が強くなってしまったんだろうな。
チェスも作ってみた。
こちらはコマが咥えやすいからか、村にいるシャドウウルフたちが好んだ。
ただし他のゲームほどに群を抜いてるわけではなく、大蜘蛛がやはり彼らに次ぐ。
シャドウウルフたちは何とかチャンピオンの座を明け渡すまいと、日々必死に腕を磨いている。
流石に狩りをおそろかにして遊びにふける個体はいないらしいが。
……いないよな?
俺の腕か?
それは……あまり訊かないでほしい。
何で一番ルールや戦術を熟知してる俺が村で最弱クラスなんだろうな。
リバーシも将棋もチェスも、すでに村人にはかなわない。
エリシアやハイエルフたちが俺と同じく最弱クラスなのが救いだ。
何でゲームに一番慣れてる人型が揃って弱いんだろう。
ちなみにノルデースは俺たちよりもっと弱い。掛け値なしの村最弱だ。
負けてはしばしば癇癪を起こし、そのたびに村人を魔気で弾き飛ばすので、俺の命令で各ゲームのプレイを禁止した。
誰もが公平に勝てて負けられる回り将棋をひたすらプレイする日々だ。
この状況で麻雀を作ったら誰が一番強くなるんだろう。
意外にノルデースかもな。
流石に細かい技術が必要とされる上に、コマ数が半端ないのでまだ作っていない。
ただ、遊びがこれほど広まるのならいずれは作らねばならないだろう。
いつになるか分からないが。
冬の間は、村人はもっぱらそれらの遊びで明け暮れた。




