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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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29/50

第29話:屋敷作り

 改めて指摘された。


「村長の家が狭いです」

「狭いです」

「狭いですねえ」

「小さいぞ」

「旦那様ならもっと広い部屋に引っ越したら?」

「わふ」

「(バッ)」


 何故かシャドウウルフや大蜘蛛も並んでいる。

 キミら新参者で俺の家のことよく知らないでしょうが。


 仕方ないだろう。

 最初は俺とエリシアしか住む奴がいなかったんだから。


 仕方ないので、夜は言われるがままに、ハイエルフの空き部屋やエルダーアラクネの家に行かされている。

 エリシアが不満そうだ。

 数か月間、俺を独占してたわけだからなあ。


 しかし、村長がいちいち村人の家を訪問するのも、何か不健全な気がする。

 「この村は俺の村だ、村民はことごとく俺にひざまずけ」と言ってるようなイメージだ。


 それを口にしたら。


「え? この村は全部村長のものでしょ?」

「旦那様が開拓したんだから、旦那様のものよ」

「私たち、手助けぐらいしかしてませんよ? しかも、それ全部村長の村あってのことじゃないですか。今さら『俺のじゃない』と言われても、私たち混乱しますよ?」

「お主の村なのだから、住民がひざまずくのは当たり前のことぞ?」

「わふわふ」

「(ババッ)」


 だから、シャドウウルフや大蜘蛛も乗らないように。


 結果、俺の家を別に作ることになった。

 「村人総員の意思」ということから、今回は俺はノータッチで、村民が独自に建てるそうだ。

 材料もふんだんにあるし、建築技術は元々彼女らのものだし、俺にあるのは力だけだ。普通にできるだろう。


 その間の諸々はシャドウウルフや大蜘蛛たちが頑張っている。

 特に狩りはシャドウウルフの独擅場どくせんじょうだ。

 まあ、この森で普通に生きてきたわけだしなあ。

 身体もでっかいし。

 体高が俺の肩ぐらいまであるので、俺のサイズならばひと噛みでぺろりと食べることができるだろう。

 俺はあまり美味しくないと思うので、できることなら食べることは勘弁してもらいたい。


 20日後、俺の家の近くに、でかい屋敷ができあがった。

 幅は100メートルぐらいある。

 そして二階建てだ。

 奧行きはそれほどでもないが、形がコの字になっていて、中庭があって、貴族の屋敷を髣髴とさせる。


 それにしても作業が迅い。

 俺のイメージでは、住宅建設というものは通常数か月かかるものだった。

 それが、わずか20日でできあがった。

 まあ、俺も1日で家を作ったりしてたので、あんまり人のことは言えないが。


 もちろん基本はログハウスで、コンクリや漆喰を使わないから、というのもあるのだろうが、村人の持つ怪力が大きいかもしれない。

 建設には高所作業に慣れている大蜘蛛たちも参加していた。

 喋れない筈なのに、エルダーアラクネやハイエルフと連携を取って巧く作業していた。

 やはり彼らは見た目以上に知能が高い。


「こんなにでっかいと持て余すんじゃ?」


 俺が疑問を口にすると。


「この村の中心なのですから、これくらいないと」

「村長の屋敷ですから、これくらい立派でないと」

「不満はないわね」

わらわの部屋も当然あるんじゃろうな?」

「わふわふわふ」

「(バババッ)」


 だからシャドウウルフや大蜘蛛は……もういいや。


 扉は正面と裏口にそれぞれ2か所ずつある。

 森の外には3メートルぐらいの種族がいるから、それらがかがまず入れるようにすると良い、というエリシアの言葉により、大きな扉が通用口とは別に設けられた。

 なので、正式な入り口がそっちに見える。

 何となく「この正面扉を開けられる者だけがこの屋敷に入ることを赦される」と言わんばかりだ。

 実際はすぐそばの通用口を使えばいいだけだけど。

 大扉のすぐ横にあるので、遠目からは侏儒こびとの使う扉のようだ。

 通用口と言ってもエルダーアラクネが楽々入れるくらいにはでかい。


 ちなみに大扉はヒュージも使える。

 彼女が細かく指示して作らせたそうだ。

 自分が入れるサイズを目指して、窮屈にならないように、と。


 大扉の表面には入る種族のサイズに合わせて把手とってが複数ついている。

 いずれ来るであろう大きな種族が使う用、大蜘蛛たちが使う用、ヒュージが使う用、などだ。

 状況によってはそれよりも多くの種族が使えるように、いくつか把手設置用の穴があらかじめ開けてある。


 大扉の真上には細かい小窓がいくつか空いている。

 大蜘蛛たちの糸が入る場所だ。

 ここを通じて、何かあれば、家の中に仕掛けられた鳴子が一斉に鳴る。

 鳴らさない場合はミドルやミニマム、スライムたちが家の警備や家事のために入る入り口になるそうだ。

 隙間風がそこから入らないように、普段は木の蓋やカーテンで塞がれている。


 ちなみに。


「さ、村長どうぞ」

「いいのか?」

「どうぞどうぞ」


 俺は家に力いっぱいのキックをする。

 ズドン、と大きな衝撃音が走り、家全体が揺れたが、どこも崩れない。

 成功だ。

 盛大な拍手と歓声が巻き起こった。

 大蜘蛛たちも大きく脚を鳴らしている。

 シャドウウルフも「わおおおおおん!」と一斉に遠吠えをしていた。

 キミらは何もしてなかったんじゃないかな。

 まあいいけど。


 最近はこの儀式をするのが建設の時のお約束になっている。

 俺が家を建てる際にしているものを参考にしたそうだ。

 キックでどこかが崩れれば失敗。

 崩れなければ成功。

 梁にミドル辺りが乗ってそれが落ちないくらいが良いとされている。

 ラージたちもわきわきしている。

 ほどほどにした方がいいぞ。


 そんなことをしなくても、俺が触るだけでだいたいの構造は分かるのだが、「目に見える儀式は必要です」と、建屋を建てる時にいつもする羽目になった。

 安心が欲しいらしい。


 地震はたぶん来ないだろう。

 来ないといいなあ。

 ここに来て数か月になるが、一つも地震らしい地震は感じていない。

 地盤が固いのだろう。

 油断は禁物だが。


 屋敷には部屋が十数個ある。

 規模に比して意外と少ないが、うち、2部屋がエリシアとノルデースの部屋だ。

 ハイエルフやエルダーアラクネの反対に遭ったが、先行者利益、専門家利益ということで押し通したようだ。


 俺の部屋は4部屋ある。

 プライベートルーム。

 執務室。

 作業部屋。

 そして巨大なベッドの入った寝室。


 プライベートルームは他の部屋よりかなり広めに作ってある。

 正直、モノがないので、持て余し気味だ。

 俺の作ったモノは前の家の私物室にまとめて置いてある。

 なのでプライベートルームにあるのは、机や椅子、簡易的な棚に、俺用の食器やコップぐらいだ。

 徐々に生活が豊かになるにつれて狭くなっていくのだろうが、今は茫漠としている。


 執務室も今は机と椅子しかない。

 書棚がいくつか設けられたが、しまう書類がないので、がらんどうになっている。


 作業部屋はコの字になった屋敷の奧まったところに作られている。

 俺の場所は1階で、2階にはエルダーアラクネやハイエルフの作業部屋が作られた。

 エリシアの研究室兼作業部屋もその正反対側にある。


 寝室はエルダーアラクネが全員集まっても大丈夫なようにひたすら広く作られた。

 正直、ここで1人で寝ろと言われれば、寂しくて泣いてしまうかもしれない。

 それほどまでに茫漠としていて、巨大なベッドしかなく、そして部屋が途轍もなく広い。


 トイレも1階と2階の双方に作られた。

 構造は俺の作った公衆トイレ風を参考にしたそうだ。

 スライムたちが嬉しそうにそこへ入っていった。


 俺が強く希望したのがキッチンだ。

 料理に専用の場所、ということの概念がエリシア以外薄く、皆が頭を捻っていたが、エリシアの説得により無事イメージ通りの部屋が完成した。


 冬に備えて冬用布団の制作も併せて行われた。

 本来ならば羽毛や綿などが入るのだろうが、今はそのどちらもないので、森で取ってきた草が敷き詰められている。

 これは森に詳しいハイエルフたちが総勢で集めてきた。

 もちろん箇々の家の布団にもすでに使われている。

 布団のガワ自体はエルダーアラクネが作ってたし、大蜘蛛も制作できるので、資材に事欠くことはない。

 冬用ということで、布よりも皮が多く使われている。


 ちなみに裸で生活していたエルダーアラクネは冬はどうしていたかというと、熊などを狩ってきて、その毛皮を身体に巻いて寒さをしのいでたようだ。

 なので、俺が服を着るべしと主張した時にも、着ること自体には戸惑いはなかった。

 これから暑熱がやってくる季節に無理に着させたことが反対の理由だったそうだ。


 屋敷の中央、扉付近には、ヒュージが来ても大丈夫なくらいに広い大広間が建設された。

 吹き抜けであり、天井が非常に高いところに見える。

 どこでどうやって作ったのか分からないが、絨緞じゅうたんまで敷いてある。

 たぶん今まで狩りに狩りまくった獲物の皮をふんだんに使ったのだろう。


 その広間には冬でも安心なように、巨大な暖炉がしつらえられてある。

 夏は何もないが、冬に入るときは薪が多く用意され、ここで燃やされる。

 その薪倉庫も屋敷の近くに併せて作られた。


 ちなみに暖炉自体は各部屋にも設置された。

 中央の暖炉は広間に集まる者のためだ。


 その大暖炉の裏に、中庭に通じる裏口がある。

 大きさ自体は正面扉とそれほど違いはないし、こちらも本扉と通用口の2つがあるが、正面扉の方が細工が多い。

「やはり正面と裏口とは区別をしませんと」

 そうサラチが説明してくれた。


 部屋は吹き抜けを中心に左右に散らばっており、俺の部屋群は1階だ。

 エリシアやノルデースの部屋は2階にある。

 それ以外に複数の部屋が作られたが、そこは基本空室だ。

 いずれ誰かが入ってくるのだろう。

 ちなみにエルダーアラクネやハイエルフに入るか? と訊いたら大きく首を横に振られた。

 その辺は「村人」としてののりを超えたくないらしい。


 灯りは基本魔法だ。

 その場所が廊下に、天井に、部屋の中に無数にしつらえられている。

 知らなかったが、エルダーアラクネやハイエルフたちも灯り魔法は使えるらしい。

 ハイエルフはそういったイメージもあったが、エルダーアラクネも使えるのか。

 意外だ。


 ちなみに天井付近の灯りは大蜘蛛たちが点灯させるらしい。

 大蜘蛛も魔法を使えるのか……。

 俺は魔気を感じられるが、魔法を使ったことはない。

 今度エリシアに訊いて使えるかどうか試してみよう。


 屋敷の中にはキャットウォークならぬスパイダーウォークが縦横無尽に張り巡らされている。

 ミドルやミニマムたちは普段はそちらを活用して、俺の歩きの邪魔をしないようにするらしい。

 部屋にも入れるように、箇々の部屋には彼らが入れるサイズの穴が開けてある。

 スライムも基本、そちらを使うようだ。


 なお、俺の4部屋にはいざという時のために脱出路が設けられているらしい。

 普段は棚に隠れているが、その棚を動かすと、廊下には繋がっていない通路が現れる。

 誰にも見られずに外に出られるらしい。

 慎重なことだ。

 そこまでしなくても、俺は俺で大丈夫なのだが、「やはり村長の屋敷なのですからこれくらいないと」と押し通された。

 そうか。


 屋敷ができあがったことで、一気に村というよりも「貴族の領地」っぽくなってきた。

 森の中に忽然とそんなものが現れると、びっくりするだろう。

 大蜘蛛も原生林の中にひらけた場所が現れたから、びっくりして一族総出で来たらしいし。


 こんな立派でややこしいものをわずか20日で作った彼女らは何者なんだろう。

 設計はたぶんに迅いうちからしていたのだろうが、この構造はとても短期間でできるものではない。

 改めて訊きたいが、俺は俺でチート(ずる)なので、お互いノーコメントで通した方が良さそうだ。

 機会があったらお互い話すぐらいでいいだろう。


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