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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第28話:大蜘蛛

 さて、フラグというものはだいたい続くもので。


 今度は大きな蜘蛛がやってきた。

 ジョロウグモ系のエルダーアラクネとは違って、彼らはハエトリグモ系の形をしていた。

 『七凶』の一角である大蜘蛛というやつだろう。

 ここは『七凶』を惹きつける何かがあるのだろうか。


 ハエトリグモは正直好きだ。

 見た目が可愛いし、害虫を食べてくれるので、前世でも家で見かけると「お疲れ様」と声をかけていたほどだ。


 ただ、数と大きさが半端ない。

 ひときわ巨大なものが1匹、それを中心に、俺よりでかい種が数匹、大型犬ほどあるものが数十匹、そして仔犬程度の大きさのが数百匹はいた。

 その下の地面が蠢いてるような気がしたので、恐らく無数の子供たちもいたのだろう。

 それらが村の入り口で待機している。


 案内してきたのはシャドウウルフのパープルだった。

 哨戒中に群れというにはあまりに大群すぎる彼らと出逢い、半ば強引に案内させられたようだ。

 俺もいきなり来られたので、大概のことにはびっくりしないつもりだったが、今回の訪問にはちょっとビビったところがあったのは秘密だ。


「ここに村があると聞きました。我々も是非棲まわせてもらいたい」


 彼らはジェスチャーでそう言っている、ように見えた。

 流石に声も出せない蜘蛛の言葉は分からない。

 が、俺だけはなぜか意思が読めた。

 彼らもシャドウウルフと同じく、偶然ここを見つけてやってきたのだろう。

 ただ、一族総出で来た理由は謎だ。


「お前たちは肉を食うのか?」


 俺は尋ねた。

 肉を食うとなると、シャドウウルフと食性が衝突するので、食糧の絶対数が足りなくなる。

 すると、彼らはぶんぶんぶん、と手(?)を振って、否定した。


「我々は肉をほとんど食べません。虫なり木の実なり落ち葉なりを主に食べます。虫でお困りなら、我々がお役に立てるかと思います」


 森には巨大な虫がかなりの数ほどいる。

 しばしば俺たちもそれに脅かされている。


 中には俺を食おうと襲いかかってくるものもいた。

 無敵の手刀でことごとく斃したが、巨大な虫はエルダーアラクネもハイエルフも、森の中の生活では苦労させられたという。

 そういう虫から守ってくれ、食ってくれるなら、生活が少し楽なものになる。


 それにしても、斃した虫は彼らが食ってた可能性もあるのか。

 ずっとスライムが溶かして食していたとばかり思ってたのだけども。


 もちろん全員を受け容れる余裕はない。

 ただ、シャドウウルフのように、勝手に森の中でエサを食って、そのごく一部だけが村に滞在し、便宜を図るならば、断る理由はない。

 畑にいてくれれば、唯一と言っていいほどの作業である虫取りも、彼らに委せることができる。


「やっぱ名前をつけないといかんのかな」


 移住に当たって、俺が一番気にしたのはその辺だ。

 流石に群れを一緒くたに扱うわけにもいかない。

 特徴のある個体も混じっている。


 結局、一番巨大な蜘蛛を「ヒュージ」、俺より大きい個体を「ビゲスト」、大型犬ほどの種類を「ラージ」、仔犬ほどの大きさを「ミドル」、それ未満の大きさを「ミニマム」と呼ぶことにした。

 個体識別というよりかは体格ごとに名前を分類したような感じだ。


 「ヒュージ」だけが純粋な個体名だ。

 いずれは識別ができるようなら、シャドウウルフのグレイ、アイリッシュのように、いちいち個体名をつけてもいい。

 その候補にもすでにいくつか目星をつけている。

 流石に先んじるわけにはいかないが。


 ヒュージは嬉しそうに踊っている。

 8本の脚を器用に動かして。

 特別扱いされたのがそんなに嬉しかったのか。


「それにしても、村長って不思議ですよねえ」


 その様子を眺めていたレメが半ば感心、半ば呆れ返ったように言った。


「普通、『七凶』は人間に懐かないんですけどね。どちらかと言えば人間の敵ですよ。縄張りに入ってくる者は基本赦しませんし、別の種族が入ってきたらまず殺し合いですよ。同じ場所に入ってケンカも殺し合いもせず、共存するなんて、あたしは初めて見ます」

「お前たちだって、エリシアやハイエルフたちと共存してるじゃないか。『七凶』なんだろ? 部族によっては人間と取引もするし、お前が言うなって反駁されるんじゃないか?」

「それは、その……他の人たちはいい人ばっかりですし、あたしらは村長に大恩がありますし、その村長が否と言わなければ、たとえ普段は殺し合いをする相手でも、仲良く暮らす準備はありますんで」

「ちょっと苦しい言い訳だな」

「もう!」


 ぱん、と肩を叩かれた。

 照れ隠しなのか、ちょっと強い力だった。


「しかし、棲む場所はないぞ? どうする気だ?」


 ヒュージたちに聞くと、その中の1匹が木の上を指し示した。

 見ると、無数の木々の枝に、糸と小枝で作ったような巣があった。

 目立たなく作ってあり、そこに何かあると分からないと景色と区別がつかないだろう。


 ヒュージの家もあった。流石に彼? 彼女? どっちだろ?

 まあ、いずれにしてもその家となると、大木をまるまる占領する大きさだ。


 分布は、村の開発を予想してたのか、特定方向だけだ。

 なるほど、これなら拡張する方向もコントロールできる。

 彼らも頭は良いようだ。


 蒼い顔をしたのはハイエルフたちだった。


「大蜘蛛が……こんなに……いっぱい」


 彼女たちは森の住民なので、当然『七凶』たる大蜘蛛を知っている。

 ちなみに「大蜘蛛」は通称であって、正式には「ヘルスパイダー」と言うのだという。

 巨大な蜘蛛は森の中にたくさんいるが、彼らはその中でも最大級らしい。


 しかも、通常ヘルスパイダーは大きくてもラージサイズが1~2匹、ミドルサイズが数匹、ミニマムが若干数、という組み合わせが大半であるのが普通で、ごくまれにビゲストクラスに率いられる一団を見かけるくらい。

 ヒュージクラスの巨体を見るのも初めてならば、彼らに連れられてこんなに来るのを見るのも初めてらしい。

 巣の存在も長らく謎とされていて、自ら指し示したのが恐らく史上初、とのことだった。


「気絶しなかった私たちを褒めてください」


 ハイエルフたちはそう言いながら俺を詰める。

 その様子を見られてヒュージたちが気を悪くしないかな、と心配したが、彼らはそんな不安をよそにどこ吹く風で、村の中でも村の外でも、ハイエルフを見ると「やあ」とばかりに気軽に脚を上げてくるらしい。

 そのたびに彼女たちはびくっと身体が撥ねた。

 記憶の中の恐怖トラウマは払拭しきるには時間がかかるようだ。


 そのうちに慣れてくるだろう。

 慣れてもらわなければならない。

 彼らを受け容れたのは俺なのだから。


 さて、残る『七凶』はグレートワイバーン、アントケンタウロス、ヴァインズ、ジンガイか。彼らはどのような順序でやってくるのだろう。

 もっとも、好意的な個体が今回の3種類だけで、他は人間に敵対的である可能性はある。

 油断しないに越したことはない。


 村を拡張することにした。

 現在の400×400メートルから、4倍の800×800メートルへ。

 爆発的に人口が増えたので畑を拡げたいのと、シャドウウルフや大蜘蛛の行動できる場所を増やしたいのと、後は何かあった時に予備として拡げておきたいのと、複数の目的がある。


 特にシャドウウルフや大蜘蛛の待機場所は設けておきたい。

 拡げた場所へひときわ大きな建屋を作り、その屋根の下に、村に滞在してもらう個体を入れることになった。

 イメージとしては体育館。

 その平屋的なもの。

 牛舎にもちょっと似てるかもしれない。


 大蜘蛛向けとシャドウウルフ向けの双方をそれぞれ作った。


 ドアは手のない彼らでも開けるように、簡易的なものを設置した。

 内と外、両方に動く、西部劇でもよくあったあのタイプを全面ドアにしたものだ。


 大蜘蛛は予想通り、体格に比して非常に怪力であった。

 ミドルサイズの個体でも俺の体重を軽々と片脚で持てる。

 ラージサイズになると大岩を持つことさえ可能になるようだ。


 人口と労働力が飛躍的に増えたので、さらに水路作りがはかどるようになった。

 俺が掘って、村人が土を持っていく。

 俺が固めて、村人が水路を整備していく。

 そのペースが明らかに迅くなった。

 俺が全力を出してもその速度に追いつくようになった。

 この分なら冬が来る前にだいたいは完成するだろう。


 ただ、冬は未経験で、辺りがどうなるか分からないので、春になるまで開通は一旦停止ペンディングだ。

 たとえ最後に堰を切るだけでも完成はさせられない。

 それだけ、冬の様子は心配だ。

 雪解けの様子を見て、水路や調整池の形を修正し、それに合わせて工事の進捗を変えていく。


 水に困っているわけではないので、あくまでも水路は技術開発を兼ねた実験だ。


 俺もそろそろ風呂に入りたい。

 充分に温めたお湯を張って、その中でのんびりしたい。

 そのためには、今ある貯水池だけではダメで、流れがあり、潤沢に水が使える水路でなければならない。

 そのモチベーションだけで正直やっている。

 村人に言うと「それだけ?」と言われそうなので、広言はしていないが、彼女たちにも利のある話だ。

 後で話しても理解してくれるだろう。


 大蜘蛛のミドルやミニマムの一部は、俺や人型住民の家に常駐して警戒に当たるようで、天井や廊下を行き交う彼らの姿を見ることができた。

 そこは身体の小さい彼らだからこそできるわざだ。

 ヒュージやシャドウウルフはそうしようとしても、身体の大きさがかえってあだとなる。

 警戒に当たるのは、家に入れないヒュージの意向が強かったようだ。


 彼らは糸でコミュニケーションを取れるので、家と外とを糸で繋ぎ、かくて、外で何かあればすぐに知らせてくれ、一方で家で何かあった時に外へたちまち伝えてくれる、便利な連絡システムができあがった。

 まさに情報「網」だ。大蜘蛛だけに。


 ただ、夜ごとに俺と人型の住民がどったんばったんしてるので何をしてるんだろう、と質問された時に、それをごまかすのが難しかった。

 まさか、正直に答えるわけにもいかない。

 その辺はおいおい、ヒュージに理解してもらって、そこからじっくり説明されるのを待ちたい。


 それにしても、気になるのはヒュージの性別だ。

 ある日、意を決して聞いてみた。


「え、私? メスですよ?」


 ジェスチャーであっさり答えが返ってきた。

 ……また女住民か。

 まさか彼女は人型に変身して俺のとこに来ないよなあ。

 来ないといいなあ。


 性別を聞いて真っ先に心配になったのがそれだった。

 流石にそこまではない、と思いたいし、不安になる俺も病気だと思った。


 ……安心できないのは何故だろう。


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