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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第18話:水路作り

「川があるのか?」

「はい、東の方に」


 エルダーアラクネたちは余裕のある時は探索に出しているが、ある日レメからそういう報告を受けた。


「かなり広いです」

「東の方と言えば、お前たちのやって来た方向では?」

「洞窟で倒れてわやくちゃになったのと、ここに来て助かったーーーーーーーーーーッ!!! と思うのとで、ついつい報告するのを忘れておりました」


 よくあることである。


 ちなみにエルダーアラクネの徒歩で2時間ほどの距離らしい。


 彼女らの歩幅は広い。

 体格が俺の倍以上ある上に、6本の脚は非常に長い。

 ジョロウグモの形だ。

 その脚が差し渡し、2つの脚を伸ばした状態で3メートルくらいある。

 なので彼女らの歩行速度は非常に迅い。

 時速10キロから15キロぐらいはいつも出せるらしい。


「なるほどな、俺の歩幅じゃ見つからないわけだ」


 俺の時速はせいぜい4~5キロ程度。

 川に行こうとすれば最短でも片道5時間はかかる。

 探索に出られる時間は午前中から夕方にかけての5~6時間程度だが、それには復路も含まれる。

 半分の距離で引き返していたなら、いつまで経っても辿り着かない筈だ。


「行ってみます?」

「是非」


 彼女たちは怪力だ。

 俺を乗せて普段と変わらないスピードで移動ができる。

 薪を切ったり狩りをしたりする姿を見て怪力なのは知ってたが、体格が俺の2倍程度しかないのに、俺の体重を片腕で持てる。

 脚ではなく、細腕で持てるのである。


 なので、俺を乗せて移動する程度なら、彼女たちに言わせれば余裕らしい。

 実際、何度か乗ったことはあるが、俺を乗せてスピードが全く変わらないのに驚いた。

 敵に回さなくて良かったと思っている。


 レメとエリシアの他に何人か連れて、川に移動してもらった。

 言うとおり、2時間程度で到着した。


 報告にあったとおり、確かに川幅は広い。

 正確に測ったわけではないが、目視で300メートルぐらいありそうだ。


 一部が滝のように落ちて、かなりの勢いになっている。

 エルダーアラクネたちはそれを見て引き返そうと言った者もいたようだが、多数欠の結果、越えることになった。

 9人全員が1人も欠けることなく無事渡れた時には、感涙にむせんだという。


 しかし、そこで進行が止まった。

 ただでさえ半年の旅で疲労困憊だった彼女たちにとどめを刺したのが、この川の存在だったという。

 何とか雨露をしのげる洞窟まで来て、完全に足が止まった。

 そして3人が死に、1人が死にかけ。

 衰弱して右往左往してるところに、忽然と生まれてた俺の集落を見つけ、肉を盗み、そして保護されて今がある。


「こんだけあると水が補給できそうだな」

 俺は独りちる。


 もちろん、俺の『奇跡』で貯水池はいくらでもできるので、無理して引き込む必要はない。


 ただ、飲み水と汚れ落とし以外にも、水の使いどころはある。

 たとえば魚を育てる貯水池。

 たとえば風呂。

 たとえば冶金やきんに使う水。

 水車も作れるし、大きな水路なら舟で行き来もできる。

 水車や舟があれば、やれることが格段に増える。


 流れのない今の貯水池でそれらをやることは難しい。

 飲めなくても、いくらでも使える流水があれば、それがあるに越したことはない。


 それに、今のままだと、俺が他に移る必要があって、村を去ることになった時に、残された者が困る。

 今のところ離れるつもりも移動するつもりも毛頭ないが、仮の話だ。

 将来を見据えて水路はあった方がいい。

 それに導水路や排水路があれば、村としてもそれっぽくなる。


 技術開発の側面もある。

 俺はこの世界に文明をもたらしに来た。

 それが、肝心の水力は使えません、では、前世の沽券にかかわる。

 手さぐりでもノウハウが作れれば、他の場所でもそれを再現することが可能になる。


 皆で相談した結果、全員一致で水路作りが始まった。


 ただ、急ぎはしない。

 年単位、場合によってはそれ以上かかっても良いと思っている。

 滝の上側から導水路を得て、下側に排水路を流す。

 さっそく調査が始まった。


 水平器という上等なものはないので、コップに水を入れ、印をつけて代わりとした。

 それでいちいち確認しながらアタリをつけてゆく。

 縄張りの縄はエルダーアラクネたちが出してくれた。


 掘るのは俺ひとり。

 他の者は非力か、力があっても技術がない。

 『巨人の力』が存分に振るえるので、俺ひとりでも問題ない。

 さっそくスコップもキックも活用して、一気に掘っていった。


 こういう時に金属器が欲しい。

 金属の鍬やスコップがあれば、エルダーアラクネたちも掘ることができる。

 そういった意味でもどこかと取引が欲しいが、あいにく当てはない。


 ただ、俺だけで言うのなら、『巨人の力』『奇跡』が木の鍬でも木のスコップでも金属器以上の能力を発揮するので、今はこれでいいのかもしれない。

 掘るのはどちらにしても俺が一番迅いのだし。


 実際、想像以上のスピードで掘れている。

 ある程度掘っては、足で踏み固めれば、コンクリ並みの強度になる。

 そうして作っていって、1キロ単位で調整池も作る。

 洪水の時にそこで水をせき止めるためだ。


 掘った土はエルダーアラクネたちに頼んで持っていってもらった。

 調整池の周りに積み上げればさほど距離はない。

 無理はしないように言い含めている。


 畑の世話も狩りも同時進行でやっているので、水路作りだけにかかずらってるわけではない。

 食糧確保が最優先だ。

 もっとも、作物は勝手に育つし、狩りはエルダーアラクネたちもやってくれているので、あまりそちらの方で苦労するといったことはない。

 畑はたまにつく虫を駆除するのと、水をたまにやるだけだ。

 駆除はスライムもやってくれているので、本当に目についたものを取り除くだけだ。


 すでに育ちきっているレモンの木以外の木はまだ実を付けるにまで至っていない。

 ただ、それももう少し。

 大きく育って、花が咲いて、実の元型らしいものができはじめている。

 秋前ぐらいには本格的に収穫できそうだ。


 畑を拡げたので、柿の木や桃の木なども植える。

 果物はあればあるほど良い。


 通常の野菜に加えて、規模は小さいが、トウガラシ、クミン、ウコン、コリアンダー、ガラムマサラなどの調味料も育てている。

 もちろん目的はカレーだ。

 俺はカレーが食いたい。

 材料は総て知っているのだから、作らない理由がない。

 ちなみにウコンはターメリックの別名だ。


 新たに加わった3人の家の建設も急務だ。

 それまでは6人用の家を9人で使ってもらっていた。

 6人でもそこそこ余裕のある作りで、そこに3人が加わっても楽に暮らせるが、俺とエリシアの部屋があるのだから、皆にあってもいい。村人に較差をつけたくない。


 家は6人の建屋を拡張する形であっという間にできた。

 すでにある建屋に密着する家を作り、その間の壁を取り払う。

 建築名人の能力のせいか、どれを取り払えば構造的に無駄がなく、またバランス良く安定するかが触るだけで分かる。

 便利だ。


 これで皆みな大喜び、と思いきや、文句は意外なところから出た。


「村長の家が狭いですね」

「狭いです」


 思わぬところから俺の家の拡張が決まった。

 エルダーアラクネたちがエリシアと勝手に話をつけて、俺に計画を告げた。


「今の家ですと、あたしたちが入るにはかなり狭いですので」

「エリシアさんだけが同衾できてるのはズルいです」

「ドアも小さいですね。今の大きさでも入れないことはないですが、もっと大きくしてもらわなきゃ、あたしたちが気軽に入れません」

「私たちも村長と添い寝したい!」


 そういうことらしい。


 無理に添い寝する必要もないと思うのだが、彼女たちが添い寝しようとするなら、俺が彼女たちの家を訪問するしかない。

 強靱な精神力で今も何とかガマンはできているが、日に日に「攻勢」が強くなっている。

 彼女たちの強い要望で週1でエルダーアラクネの家で寢泊まりすることになっているが、それを2日に増やすように強く主張されている。


 どうにかしないといけない、ということになったらしい。


「俺が頑強に反対したら、叛乱を起こすつもりか?」

「そこまではやりませんけど……まあ普通に拉致ですね」

「2人とも寝ている間に、村長だけそーっと連れて行くとか」

「そーっと連れてかれた結果が、今の週1でのお前たちへの訪問だよな」

「村長が2人いれば困ったことにはならなかったんですけどねえ」

「3人くらいいてもいいんじゃない?」

「いや、やっぱ10人くらいがちょうどいいです。村人1人に1村長!」

「俺の身体はひとつなんだが」

「だから困ってるんですよ」


 最近は俺の水浴び姿も見られている。

 堂々と池の近くまで来て、ガン見されている。全員揃って。

 最近はエリシアも調子に乗って見に来ている


 普通は逆じゃないかな?

 お蔭で最近は目隠し布を張らねばいけないくらいだ。

 落ち着いて水浴びができない。


 「そういう欲求」がないと言えば嘘になる。

 ただ、一度でものりを越えてしまえば、際限がなくなりそうで怖いのだ。


 本音を言えば。

「1人2人ならまだいいが、10人も相手できるか!」

 そういうことだ。


 女性がこれ以上増えたら、俺は確実に搾り取られる。

 ゆえにエルダーアラクネたちには手を出してないし、公平を期すために、エリシアにもまだ「そういうこと」はしていない。

 身体は特別製でも、精神は普通の男性並みのつもりなのだ。

 不老不病の可能性があるとはいえ、全部を満たせられる自信がない。


 そして事態は着々と悪化する方向へと進む。


「敵が攻めてきました!」


 エルダーアラクネリーダーのレメがある日息せき切って、俺の部屋に飛び込んできた。


「人数は」

「15人ほど……なんですが」

「なんですが?」

「全員、女性なんです」


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