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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第16話:アラクネ事情

「失礼しました」

 レティ、レミ、レサが頭を下げた。

 ここでも謝罪の印は頭を下げることだった。

 否定で首を横に振ることといい、謝罪のポーズといい、前世と共通しているのは、「先駆者」のお蔭なんだろうなあ。


「まさか救世主様であらせられるとは」


 「救世主様」と彼女たちも呼んだ。

 その呼び名はこそばゆいから別のにしてくれないかなあ。

 敬語も普通でいい。

 むしろタメ語で充分。

 そんなことを口にしないが考えつつ。


 他に適当な名前も思いつかないので、今は俺を好きに呼ばせているが、いずれはその辺をはっきりさせないといけないのかもしれない。

 できれば本名の「ハンダ」「カズナリ」と呼んでほしいが、それを口にしたら「そんなそんなそんなそんなとてもとても」と慌てて拒否された。

 そっか。


「レメ姉たちを助けていただき、レアの生命を助けていただき、まことにありがとうございます」

 レティがそう言うと、レメたちも含めて9人全員が頭を下げた。


 さっそく3人にも野菜を食べさせる。


「……美味しい!」

「凄く甘い!」

「……こんなのが集落にあったらなあ」


 それぞれの反応が返ってきた。

 皆、満面の笑顔だ。

 飢えてる様子はないが、食べさせておくに越したことはない。

 嬉しそうに次々と食ってるので、評判は上々のようだ。


「今までお前たちはどういうモノを食ってたんだ?」

「ちょっと待ってください」


 レメが立ち上がり、外に出て、森の中に入っていった。

 そしてすぐに戻ってきて、握っていたものを見せた。


「これです」


 彼女はドングリのような実を見せた。

 ドングリに似ているが大きい。

 どんな味なんだろうか。

 予想はつくが、実際に食ってみるのが一番手っ取り早い。


 食べると、渋い味が口いっぱいに拡がった。

 思わず吐き出した。


「やっぱ吐き出しちゃいますよねえ」

「焼けば少しマシになるんですが」

「それでも不味かったよねえ。ギリ食える食えないの境界辺り?」

「こんなのでも食べないと保たないから、無理矢理食べてたんですが……私らが肉ばっかり執拗に食べてた理由、分かっていただけましたか?」


 俺は大きく頷いた。

 流石にこれを常食しろ、とか、すぐ手に入るから食え、と言われても、積極的に食う気にはなれない。

 皆もうんうんと頷いている。

 エルダーアラクネもこういうのを美味いと感じてるわけではないらしい。


 なるほど、こういうのしか見つからないなら、勝手知ったる肉ばかり食うよな。

 しかも自分のところと違った植生ならなおさらだ。


 俺は知っている。

 この不味さの理由はアクにあるのだと。

 ドングリでもこのアクを充分に抜けば、そこそこ食べられる味になるのだと。

 ただ、ドングリのアク抜きには大量の水と鍋が必要だ。

 荷物もなく、追っ手から、敵から逃げて、水場もない、となれば、それに頼るのはキツいだろう。


 陸上なのに壊血病になるのもむべなるかな。


 それにしても、人数が増えた。

 畑は何度か耕し直しているので、足りないということはないが、その回数を増やす必要があるかもしれない。

 人口が2人から11人と5.5倍に増えたので、その分を確保しておく必要がある。

 あるいはこれからもっと増えるかもしれない。

 畑作業、頑張らねば。


 むろん、今のままでも全員が食うに困らない程度には在庫を確保している。

 むしろ余った作物をスライムにやってるくらいだ。


 農業の回数については、エルダーアラクネたちが来なかったら早々に手じまいするつもりだった。

 深く考えずに無闇矢鱈に耕していては、森の中の食糧事情が変わってしまう。

 調和しているものを崩しても何もいいことはない。

 その辺はおいおい、在庫などを計算した上で回数を調整する必要があるかと思ったが、このペースで人口が増えるのなら自重はしなくていいかもしれない。


 作物は種類を増やしたいので、一気に倍の作付けをした。

 量も欲しいがバリエーションも欲しい。

 トマトやキュウリは美味いが、そればっかりだと飽きる。


 なので、普通の野菜の他に、サトウキビ、トウモロコシ、胡椒、甜菜、オリーブ、アブラナなどを植えた。

 調味料などの原料だ。

 油や砂糖があれば味にバリエーションが出る。

 胡椒は言わずもがな。

 フライパンができるようになれば、ニンニクなども育てていいかもしれない。


 エルダーアラクネは人蜘蛛アラクネらしく、糸を吐いて布を織る能力があった。

 なので、スライムたちがなめした動物の皮を組み合わせて服を作ってもらい、それを着てもらった。

 服を着る習慣はなかったらしいが、俺が気にした結果だ。


 服の構造については、エリシアの着替えがあったので、それを参考にしてもらった。

 上半身だけ覆う形であり、下半身には何も着ていない。

 彼女たちの下半身は蜘蛛なので、そこは着る着ない以前の問題だ。

 仮に作れたとしても、脚が6本あるので、着るのが面倒くさいだろうし、動きも制限される。


「そう言えば、アラクネ……エルダーアラクネに男はいないのか?」

 女性ばかりで旅しているのが気になって訊いてみた。


「男ですか? いませんよ?」

 お、まさかの単性生殖?


「いえ、男はいないんですが、オスはいるんですよ」

 どういうこと?


「オスはこう、小さくてですね」

 レメは20センチぐらいの大きさを指で示した。


「そこに生えていてですね」

 生えているって、やはりアレがか?


「あたしたちが増えたいな、と思ったら、その辺の適当なオスをとっ捕まえてですね」

 まさか……。


「普段は形や大きさにこだわりがあるわけではないので、その辺のものをとっ捕まえて好きな時にするんですが、たまに物好きがいて、好きな形や大きさを見つけて、飼って育てるんですよ」

 レメは気恥かしそうに赤面した。

 俺も顔が熱くなった。

 流石にそれは……言いにくかっただろう。

 答えてくれて感謝だ。


「済まない、変なことを訊いてしまった」

 素直に謝る。


「いえ、増える時にはここを使いましてね」

 彼女は服の上から人間の股に当たる部分を指差した。


「もし、救世主様がお使いになるとしたら、不可能ではないんですよ。人間の形は知っておりますので」

 わあ、爆弾発言!


「よろしかったら、あたしたちの誰でもお使いになっていいんですよ」

 9人がそれぞれ赤面しながら頷いた。

 エリシアがむっとした表情になって、俺の腕に絡みついた。


「い、いや、相手はしなくていいから!」

 慌てて否定する。

 すると、何人かが残念、という顔になった。


「変なことを訊いた! とりあえず今は相手しなくていいから! 大丈夫だから!」

「今は、ということは、いずれ、ですね。では、お使いになりたいと思ったら、誰でもいいので、お声をかけてくださいね。どの娘を訪問しても、準備させていただきますので」


 全員が頷いた。

 まるで最初から決めてあったかのように。

 いつの間にそんなことを話し合ってたんだ。


 地雷を踏んだ。完全に踏んだ。

 そんなつもりはなかったのに。

 今はまだ自重しているからいいが、いずれ彼女たちの方から迫ってくるだろう。

 エリシアも自分の部屋があるにもかかわらず、夜は俺に引っ付いて離れない。

 手を出さないのは、俺の理性がひたすら頑張ってるからに他ならない。


「果たして耐えられるんだろうか」

 そうでなくても、エルダーアラクネはエリシアに負けず劣らずの美形ばかりなのだ。

 上半身のスタイルも良い。

 下半身は異形だが、見慣れると艷めかしい色つやをしている。

 ツヤツヤの脚は思わず触ってみたくなる魅力がある。


 頑張れ俺の理性。

 頑張れ俺の自制心。

 できれば間違いを侵しませんように。


 集落に男が欲しいな、と思った瞬間だった。


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