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素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


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第13話:治療

 アラクネたちは沈鬱な表情のまま、言われるがままに俺の後をついていった。

 松明でアラクネたちの残した足跡を辿りながら、急がないように歩いて行った。

 先導はエリシアが務めた。

 彼女は暗視能力があるという。

 こういう時にそういう能力があると強い。


 誰もが蒼い顔をしながらついてきている。

 それは処刑場に引っ立てられる死刑囚の如し。

 盗みの罪を問われると思ってるのだろうか。


 家に到着すると、レアを寝かせて、俺はさっそくトマトを取りだし、彼女に食べさせた。

「……甘い」

 レアがか細い声を上げた。

 ビタミンCはイチゴにも多く含まれてるので、それも食べさせた。

 甘さが良いのか、彼女は少し笑顔を作った。


 ただ、衰弱しきっているので、多くは食べさせられない。

 衰弱している時に大量に食べさせるとショックで死んでしまう、というのは、歴史を知っている者なら常識だ。


「レモンがあるなら、それを絞って飲ませるのが一番なんだがな」


 レモンの木は育ちきってないので、とりあえず当面はトマトとイチゴを交互に食べさせることで様子を見ることにした。

 少なくとも肉を食わせるよりかは健康にいいだろう。


 他の娘たちも極端に衰弱してそうなので、鍋を用意し、水にジャガイモとニンジンをすりおろして、肉を少し入れて、塩で味付けし、形がなくなるまで煮続けた。

 良い匂いが家の中に充満する。

 エリシアもお腹を押さえて食べたそうにしているが、これはアラクネに食べさせる分だ。

 お前さんは普通に好きなだけ野菜を食ってなさい。


 台所はないので、煮る場所は囲炉裏だ。

 ログハウスの中に焼く場所を設置して、その中に灰を敷き詰め、他に火が行かないように囲ってある。

 本当は台所を作ろうとしたのだが、スペースが実質2人分しかないので、後回しにした結果だ。


 レア以外のアラクネには外で待ってもらっている。

 初夏の陽気で本当に良かった。

 寒空だったら虫の部分が大変なことになっていただろう。


 スープがくったくたに煮えたのを見て、皿に取り分け、外のアラクネたちに配った。

 彼女たちの腹が、ぐぅ、と鳴って、皆が赤面した。


 彼女らはしばらくスープを見つめていたが、意を決して、ぐい、とそれを飲んだ。


「……美味しい」

「温かい……」

「身体に染み込みそう」

「塩っ気が美味しい」

「塩味、かなり久しぶりだから、ほっとするわ」


「おかわりもあるぞ」

「……おかわり」

「あたしも」

「食べ過ぎちゃダメよ。お腹がぱんぱんに膨らむと健康に悪いからね」

「知ってる。ごはんをしばらく食べてない状態で急にたくさん食べると、死んじゃうんだよね」


 彼女たちもそのくらいの知識はあるらしい。

 それを見越してのスープだ。

 身体に悪いことはないだろう。


 夜を徹してスープを提供し続け、夜が明けた。


 畑を見ると驚いた。

 昨日まで中途半端な育ち方をしていたレモンの木が育ちきっていて、山のように実がうなっている。

 俺が強く望んだから急に生えたのだろうか。


 とりあえず、実をいくつかもいで、バケツに絞って水を加え、それをレアに飲ませた。

 少しずつ飲ませて、窒息させないように留意する。

 死んでもらっては困るので、一応様子を見ながらの補水だ。


 ついでに他の娘たちにも同じものを飲ませる。

 一人が壊血病に陥ってるなら、他の娘も顕著な症状こそ出ていないものの、限りなく極端なビタミン不足に陥っている筈だ。


「酸っっっっっっっぱい!」

「でも、安心できる味」

「身体に染み込みそう」

「救世主様、この飲み物は何ですか? 今まで味わったことのない味なんですが」


 救世主様と来た。

 確かに夜中に突然やって来てメシや果物を与える者は救世主に見えるか。


「まあ、お前さんたちに必要なものだ。しばらくそればっかり飲んでおけ。身体にいい筈だ」


「肉じゃないけどいいのかしら」

「まあ、救世主様がそう言うなら、そうするけど……」


 レモンは覿面てきめんに効いた。

 数日間飲ませ続けると、レアの症状が治まり、出血もしなくなってきた。

 他の娘たちもスープとレモン汁をしばらく飲ませ続けた結果、顏色が良くなり、少しずつ笑顔を見せるようになった。

 『奇跡』のお蔭もあるのかもしれない。


 さらに数日経つと、レアもスープを飲めるまでに復活し、起き上がれるようになった。

 驚くべき回復力だ。

 元々体力はある方なのかもしれない。


 他の娘たちはすでに固形物を食べられるようになっている。

 数日後にはレアも固形物を食べられるだろう。

 作物は充分あるので、皆が飢える心配はない。


 アラクネたちはひとまず安心だが、俺にとってマズい部分もある。

 それは、アラクネたちの上半身が裸というものだ。

 髪の毛が長いのでそれで胸が隠れているが、何というか、先っぽがたまにまろび出て、いちいちエロい。


 俺がじっとそれを見つめていると、エリシアがむっとした表情で俺の頭をぐい、と引っ張って、自分の胸に抱き寄せた。

 もしかして、嫉妬しているのだろうか。


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