表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素晴らしき哉(かな)異世界辺境生活  作者: 富士敬司郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/27

第11話:盗っ人

 家を建てることになった。

 エリシアがログハウスの作り方を知っていた。

 俺は憤慨した。


「流石にそれは酷すぎじゃないか?」

「酷いって何が?」

「くっつかないでも寝られるような家を建てられるのを秘密にしていたことだ」

「あたしのこと、嫌い?」

「いや、そういうわけじゃなくてな」

「ならいいじゃないの。あたしも訊かれなかったから答えなかっただけだしーー」


 女王候補というのはこれほどしたたかでないと生きていけなかったのだろうか。

 とにかく広場の隅にある木々を使って家を建てることにした。


「年単位で乾燥させなきゃ、というあなたの話だったけど、あたしの魔法で確認した限り、すでにカンカンに乾いているわよ。どういうワケでそんなのがここに山ほどあるのか分かんないけど」


 それを迅く言ってほしかった。

 まあ、仮にそれを知っていたとしても、ログハウスの作り方を俺は知らないので、どちらにしても彼女に全面的に頼ることになっていたわけだが。


 広場のスペースは結構なエリアがすでに池と畑と木材に取られている。

 作った時は結構広いと思っていたのだが、テントや倉庫まで建てているので、建屋を作るとなると、敷地は意外に狭くなる。

 今は2人しかいないのでそれでも問題ないが、人が増えたら敷地を増やすことも考えておかなくてはならない。


 生活、就寝スペースもそうだが、倉庫もかなりいっぱいだ。

 鼠害、虫害なども考えて、高床式の倉庫が欲しい。

 保存も考えて、地下室なども作りたい。

 今はいいが、いずれは敷地を思いっきり拡げる必要がある。


 家づくりは結果から言えばあっさりできた。

 作業時間はわずか1日。


 根っこや枝葉を手刀で切って建材を作り、後はエリシアの指示に従って積み上げてゆくだけ。

 流石に『巨人の力』だ。

 腕力をほとんど必要としない。

 でかい発泡スチロールでおもちゃの家を建てているような感覚だ。

 それでいて、完成した建屋は、俺のキックを受けてもびくともしなかった。


 他人の指示でやるとなると、多少は歪みや失敗が出てくるものだが、なぜか俺の手足は誰かが操作しているかのように自動的に動き、非常に緻密かつ正確に作業した。

 俺の力は俺を作業名人にしてくれてるのかもしれない。

 道具を作ってる時にもいつも思っていたが。


 余ったスペースを活かして、ちょっと大きめの地下室も作った。

 これはスコップで掘った。

 キックで壁を固めて完成だ。

 土の中は結構冷えているので、腐りやすい作物や肉などを入れる。


 ちなみに、エリシアは1人で家を建てた俺の腕前に目を丸くしていた。

 普通の人間と思ってたなら、そりゃ驚くか。


 作業時間がかなり短く済んだので、さっそく食糧の在庫を運び込む。

 ここでちょっとした異変に気付いた。

 食糧が予測よりも減っているのだ。


 もちろん毎日2人で消費し続けているので、在庫が減るのは当たり前だ。

 だが、それよりもずいぶん迅いペースでなくなっている。


 カウントし直すと、野菜はほぼ計算通りだったが、肉がかなりの勢いで減少していた。

 毎日狩りをしているので、肉に困ることはない。

 何なら野菜と果物だけでも暮らしていける。

 ただ、単純に、肉だけ減ってることだけが気になる。


「誰かが食べている……?」


 それはスライムでもエリシアでもない。


 スライムには熟しすぎた野菜や腐り始めたものを食べてもらっている。

 それで足りないという不満も今のところは出ていない。


 そもそも彼らの主食は森の落ち葉や木の実だ。

 足りなければ勝手に森へ入っていって、思う存分食ってくる。

 俺のところにいるのは主に水関係の需要の方が大きい。


 肉に関しては、さきに述べた通り、人間の不食部分を好み、俺たちの食うような可食部分はほとんど食わない。


 エリシアは俺と一緒に食事をしているので、食べ過ぎることはない。

 それに、彼女は最初こそ野菜を腹一杯食べたが、普段は少食だ。

 腹が空けば倉庫から勝手に持っていってくれ、と言い含めているが、3食食べられるだけでも充分なようで、食事面の不満は出ていない。


「エリシア、お前さんは肉ばっかり食べるか?」


 訊いてみた。

 彼女はふるふると首を横に振った。


「美味しい野菜がいっぱいあるのに、肉ばっかり食べないわよ。そりゃあ、少しは食べるけど、普段の食事以上に摂ることはないわね」


 ちなみに彼女は王国にいた頃も、肉より野菜や木の実を中心に食べていたという。

 エルフは草食なのか、と思ったが、彼女自身が肉よりも野菜、木の実好きというだけで、肉好きのエルフも他にいたという。


「肉は食べるっちゃあ食べるけど、こっち、つまり王国ね、森の外はあんまり美味しい獲物がいなかったし、肉食の亜人も多かったし、そういうのと分け合う意味もあったから、肉はあんまり食べてなかったわね。あとあたし自身がどっちかってーと野菜や果物好きだったから。今の食事に不満はないわ。何かあったの?」


 俺は頷く。

 彼女の顔が少し険しくなった。


 ちなみに森の外では、王国にいても通常は1日2食、飢饉の時は1日1食ということも珍しくはなかったらしい。

 ちょっと記念になる日で3食プラスおやつ。

 それで充分だったという。


 そもそもエルフは粗食に強いらしい。

 あんまり食事の内容にもこだわらなかったそうだ。

 肉も食うが、主な焼き方は塩をこれっとばかりに振りかけて、表面が焦げるまで焼くやり方。

 そして中心部を切り取って食う。

 「無駄だなあ」と思ったが、どこでもそんなものだったらしい。

 この世界には料理という概念が乏しいようだ。


 ここの野菜はそんな習慣を吹っ飛ばすくらいには美味いので、3食きっちり食べる。

 今は俺の作る、野菜と肉をほどよく煮込んだスープが特にお気に入りとのことだ。


 そんな彼女が嘘をつくとは思えない。


「誰かがここに肉があるのを知って、盗んでいる……?」


 野生動物ではない。

 倉庫はテントから分かりやすい位置にあった。

 敵意なり害意なりがあれば家の中からでも分かるので、俺ならすぐに判別できる。


 それとも、そういう害意のないモンスターなのだろうか。

 それにしては、盗み方がキレイすぎる。


 この森にいる動物の食性が俺の知っている世界のそれと大きく違うことは理解しているが、盗み方に関しては大差ないと思っている。

 食うだけ食って荒らし回る。

 野菜も食って食べ散らかす。

 そんな感じ。


 しかし、当の盗っ人は野菜には一切触れずに、キレイに肉だけを持ち去っている。

 そんな器用なことができるだろうか。


 調べると、倉庫の周辺に森から足跡がついていた。

 熊なりウサギなりの足跡ではない。

 細かい穴が無数についている。

 しかも結構深い穴だ。

 言うなれば……虫?

 しかもかなりの重量の虫だ。


 肉食の虫なら当然この森にもいるし、実際に遭ったこともある。

 ただ、その性質は野生動物とそう代わりはない。

 そんな彼らがここまでキレイに盗むだろうか。


 急いで全部の肉を地下室に移した。

 いつも置いてある場所からなくなっていれば、異変に気付くかもしれない。

 動物か盗っ人かを判断するのはそれからだ。


 そうすると、確かに数日間は盗難はなくなったが、今度は地下室から盗まれるようになった。

 しかもかなりの量だ。

 執拗に肉だけを狙っている。

 野菜には目もくれていない。


 今度は消費量を細かくチェックしていたので間違いない。

 肉がなくて困ることはあまりないが、こうなくなる量が多いと、自然というよりかは人為的な何かを疑いたくなる。


「エリシア以外にこの村の存在を知ってる住民がいて、執拗に肉だけを狙っている?」


 それにしても、肉以外が盗まれなさすぎる。

 人間に似た種族なら野菜も盗っていってしかるべきだとは思うのだが。

 いや、野菜も盗んでくれれば万事OKと言ってるわけではないのだが。


 スライムに監視を委せることにした。

 俺たちで監視してもいいのだが、今のところ2人しかいない上に、普段はお互い探索に出ている。

 俺は他の村がないか確かめるために。

 エリシアは薬の材料となる野草を見つけるために。


 2人しかいないので、総ての探索をやめて常時監視というのもキツい。

 それに、徹夜までして見つけたいほどに激怒しているわけではない。

 理由を知りたいだけだ。


「倉庫や地下室に異変があったら知らせにきてくれ。追いかける必要も阻止する必要もない。ただ見つけたら報告してくれるだけでいい」


 そう言うと、スライムたちは「よござんす」という風に一斉に頭を下げた。

 想像以上に知能は高いのかもしれない。


 監視開始1日目は何も起こらなかった。

 2日目も何も起こらなかった。

 このまま3日目以降も何も起こらないのだろうか。


 すると、4日目の夜に、スライムたちが戸を叩いて家へ知らせに来てくれた。


「誰か倉庫に来ているよ。何か盗んでそうな感じだよ」

 はっきりそう言ってるわけではないが、そう取れるジェスチャーを彼らはした。

 急いで倉庫に辿り着くと、地下室に通じるドアが開放されていた。


 やはりこの場所に知性体なり何なりの存在がいる。

 ドアを開けるのは高等技術だ。

 それなりの知性がないとできない。


 俺はだんだんと腹が立ってきた。

 盗んだことに対してではなく、俺に何も言わなかったことに。

 事情を言えばいくらでも融通できたのに、それをしなかったことに。


 欲しいのは交流であって、争いではない。

 せっかくのチャンスをふいにされたことに、俺は憤慨した。


 松明をつけて倉庫周辺を照らし出す。

 普段の灯りはエリシアの発光魔法に頼っているが、今は少しでも明るい方がいい。

 2人で松明を持って、足もとを照らした。


「やはり足跡らしいものがついているな」


 以前のケースと一緒。

 細かくて深い穴。

 数が多く、単独犯でないことがうかがえる。


 地面を松明で照らしながら、その後を追っていった。

 足跡ははっきり残っており、森の中へと続いていった。

 暗視能力のない俺でもはっきり見える。


 盗っ人追跡が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ