第5話:死に至る模擬戦は最早実戦だと思う
とりあえず、この話で主要人物は出揃ったかな、という感じです。
ちょっと展開が早いかな、とは思うのですが。
しばらくは主要登場人物が増えない予定(あくまで予定)ですので、
大目に見ていただければ幸いです。
連合、というものがあったらしい。シェリス様たちのシルヴィア王国と、隣のバリツ皇国からなる二国連合。
その話を聞いたとき、貴族連合(反乱軍ね)と王国の戦乱に乗じて、漁夫の利を狙われないかと俺は思っていたのだが――――この二国は心の底から仲が良く、皇国の皇帝は反乱軍決起の報を聞くと即座に皇女に兵を任せ、帝国の応援に向かわせたらしい。
そして今日、そのバリツ皇国の皇女と増援が、この要塞に到着するらしい。らしい、というのは全部ガルフさんからの受け売りだからである。
「しかし、皇女ですか。向こうも子供が二人しかいないのに、そのうちの一人をよく戦地に向かわせる気になりましたね?」
「それはお互い様だ。向こうも2年前に国内でちょっとしたごたごたがあった際、シェリス様自ら皇国に向かわれたからな。臣下としては気が気でないが」
そう言って苦笑するガルフさん。それはそうですよね、万が一にも怪我をしてはいけない人間が戦場に出るんですから。
「まあ、そんなシェリス様だからこそ兵が付いて来るわけだが」
「その辺のバランスの取り具合ですよね」
そんな風に和やかに男2人で会話する。ソフィアはシェリス様&ルーミィとその皇女のお迎えに行ってるが、護衛の俺はお留守番なのだ。
しかし、しばらくぶりに男だけでの会話だな、などと考えていると。
「しかし、お前は体を動かしておいたほうが良いぞ?」
「へ? なんでです?」
いたずらっぽくガルフさんはニヤリと笑い、
「向こうの皇女さまはシェリス様以上に武人の血が強くてな。お前の話をシェリス様やルーミィ、ソフィア様がしないとは考えられない。そうなると…………」
「そう、なると…………?」
やばい、めっちゃヤナヨカン。
「どう考えても、模擬戦をさせられるだろうよ」
人生終了のお知らせですね、わかります。
「何で、一般人の俺が……………………」
いやね、前にも言ったけど、俺扱いが最強人間クラスにされてるんだよね。そしてそれがそのまま向こうの皇女様に伝わって、それを聞いた皇女様の武人の血が燃え尽きるほどヒートして、俺に模擬戦を挑んでくぁwせdrftgyふじこlp…………!
落ち着け俺。KOOLに、いやCOOLになるんだ。冷静に。冷静に、冷静に、冷静に。
とりあえずプランを考えよう。
1、逃げる。→ソフィアに呼ばれたら出て行かざるを得ない。却下。
2、いえ、俺弱いですよ?と、正直に言う。→何故か聞く耳を持たれない気がする。
3、諦めて戦う。→オウフ
以上、星宮銀也の素敵な考察でした。あれ、その結果俺詰んでね? 気のせいかな、まともな結果が出ない。ま、まあ、模擬戦だし、戦時中だし、そんな怪我するようなことはしないよね。
しないよね?
うん、当然しないよね。ああびっくりしたなあもう。俺の早とちり、うっかりさん。うふふ。
「そんな風に考えていた時期が俺にもありましたぁーーーーーー!」
着弾。着弾。着弾。轟音。着弾。轟音。着弾…………!
直径50cmクラスの魔法弾が雨霰と飛んでくる。とりあえず、持ち前の身体強化で間一髪避けているが、直撃したらあの世に直行しそうだ。吸収しきれないレベルの魔法だし。
「く、流石、あの2人が口を揃えて高く評価するだけのことはある! 凄まじい速さだな…………!」
なんか皇女様が言ってるけど、轟音でまったく聞こえませんぜダンナ!
「だが、これならどうだ!」
ちょ、増えてる増えてる、魔力弾増えてるから!
もうらめぇぇ、逝っちゃうぅぅぅぅぅーーーーー!
どうしてこうなった、どうしてこうなったぁぁーーーー!?
Side:ルーミィ
目の前では、見方によっては一方的な模擬戦が展開している。事実、ソフィア様は心配そうにオロオロするばかりだ。
「少し落ち着きなさい、ソフィア」
苦笑しながらシェリス様が言う。正直、私も同感だ。
「けれど姫様! あのままではギンヤが…………!」
なるほど、武人でないソフィア様にはギンヤが危ないように見えても仕方がないか。
「ご安心ください、ソフィア様。今は、圧されているのはギンヤではありません」
私の言葉に、訳が分からない、とばかりに目を白黒させるソフィア様。
「むしろ焦っているのは、シンシアの方ですね」
シェリス様が模擬戦から目を離さずに言う。確かに、今のギンヤの姿を見逃すことは武人として許されぬ。
「表情を見てみなさい、ソフィア」
「表情……ですか? …………あれ…………?」
「気付きましたか?」
「は、はい。確かにシンシア様が焦っているように……?」
そう、今シンシア様は、傍目にも分かるほど焦っていた。それは仕方がないだろう。というか、私もあの立場なら焦りを顔に出さない自信が無い。
「シンシアの攻撃は、全てギンヤに『紙一重で』避けられています」
極限まで攻撃を引きつけ、無駄を削り落とした最小限の動きで回避する。その、「武の極み」とも言える事を、ギンヤはあの数の魔力弾相手にやっている。それもその魔力弾を放っているのは、「バリツ皇国の戦姫」と称されるシンシア様だ。
並大抵ではない……どころか、正直な心境を吐露すれば、ありえない。余りにも非常識すぎて、実は全て偶然ではないのかとさえ思えてくる。
果たして私は、彼が牙を剥いたとき、一体どれだけの時間が稼げるのか……。
そのような事が起こらないことを祈るしかなかった。決して姫様を守ることを諦めなどしないが――――だけどそれでも、自信は無かった。
Side:銀也
ヤバイヤバイヤバイ。もう何回死んだじいちゃんが見えた事か。まったく皇女様は攻撃の手を休める気配がないし、正直もう俺の体力の限界だ。冗談抜きに、このままではそろそろ死ぬ。理不尽だ。理不尽だぞクソッタレ。ソフィアを守って、とかならともかく……なんで味方に殺されなきゃならん?
……本気で腹が立ってきた。行き過ぎたパニックは、そのまま攻撃性と変化する。今の俺の状態は、まさしくそれだった。俺の中で、一瞬にして強大な敵は憎むべき怨敵と化した。
――――上等だよ、クソオンナ――――――――!
もうこれ以上逃げていてもジリ貧だ。覚悟を決め(自棄になったとは言わないで)、俺は、込められるだけの魔力を足に込めた。
狙うは、定番の高速突撃。そして標的はあのトリガーハッピーそこのけのバーサーカー皇女様。通るかは分からないが……それでも何もしないよりましだし、こっちの射程外と言う安全圏からチマチマやってくる相手の度肝を抜いてやりたい。
全力全開、
ゲキガン・フ○アー!!!
込める思いは、「少し、頭冷やそうか……!」
――――――――そして俺は、光になった。
まあ、結果だけ見るなら。
危うく、光どころかお星様になっちゃう所だったけどね。名字通り星の宮に住む人になっちゃうところだったよ。
……えへへ☆
Side:シェリス
模擬戦は実戦さながらの緊張感に支配される中で続いている。シンシアが撃ち、ギンヤがそれを紙一重で避ける。この二国でも――――いや、世界といっても差し支えないだろう――――最高クラスの戦いを、シルヴィアもバリツも関係なく、全員がただ固唾を飲んで見守っている。
瞬きをすれば、その間に終わっているかもしれないほどの戦い。
私達は、例外なく目の前の戦いに呑まれていた。だからこそ、誰も気付かなかった。
――――――――既に、闘技場の魔力障壁は壊れて意味を成しておらず。その結果魔力弾は緩やかに、しかし確実に建物自体にダメージを与えていた。そして遂に耐え切れなくなった天井の一部からシンシアの頭上に向かって、巨大な破片が落ちてきていたことに。
ギンヤの雰囲気が、突如一変した。明らかに、シンシアに攻撃の意思を発したのだ。今まで回避に徹していたギンヤからの攻撃の意思。それは遊びは終わりだとでも言うような意思表示。
そしてそれに気付かぬシンシアではない。直ぐに魔力弾を撃つのをやめ、剣を構えた。
直後に放たれたのは、引き絞られた矢を――――あるいは肉食の猛獣を連想させる、とてつもない突進力と速度を兼ね備えた一撃。
――――――――けれどそれは、シンシアの頭上に向かい放たれた。
シンシアの命を刈る断頭台の刃の如く落下する、巨大な石片に向かって。
…………あの後。シンシアを守るために大怪我を負って気絶したギンヤは、直ぐに医務室に運び込まれ、治癒魔道師たちによる治療を受けた。
ギンヤも咄嗟に破片に気付き、失念していたのであろう。ギンヤの突撃は諸刃の剣、衝突する相手が人間以上の硬度を持っているならば、自分もただでは済まない事を。
あるいは、分かっていてやったのか。そのような行動も彼なら有りうる。
「しばらく、彼を戦には絶対に出さないでおきましょう…………」
彼をまだ失うわけにはいかない。少なくとも今のところソフィアを二度救っているし、何より彼に死なれると兵の士気が下がる。王女としてはそれは避けたかった。
…………そして、まだ誰かに言うわけにはいかないけれど。
個人としても、彼の身体は気がかりだった。
<2日後。医務室のベッドにて。>
Side:銀也
何という格好悪いことをしたのだろう。穴があったら入りたい。とんでもない強さの羞恥の感情を抱え、俺はベッドで悶えていた。
込める魔力の加減を失敗し、まさか皇女の遥か頭上に向かい突撃ラブハートしてしまうとは。というか冷静に考えれば分かるだろう……そもそも鍛錬時でさえ狙ったところに行くのはそう多くないのに、頭に血が上ってる状態で魔力を込めたら加減が出来ないことくらい。
それはさておき……何故か俺は皇女の命を救ったことになっているらしい。何度も何度も、何っ度もバリツの人達に感謝された。なんでも降ってきた天井の破片を俺の突撃がブチ壊したとか。
ごめん、それ勘違い。
なんてことも言えず、俺は冷や汗を流しながら苦笑するしかなかった。その冷や汗も、怪我を耐えるように見えたらしく、大げさに心配された。なんだこの連鎖。
その後も俺が目を覚ましたことを聞いたソフィアが泣きながら突撃してきたり、ソフィアの両親も、シェリス様やルーミィもなんか凄く心配してくれたりと、色々大騒ぎだった。最後の二人は微妙にクールぶってたけど……割と他者からの心配には、俺敏感なのよ? シンシア(命の恩人に様など付けて呼ばせるわけにはいかないと、本人からこう呼ぶように言われた)も丸1日俺につきっきりでいてくれたらしいし。 ある意味では彼女が全ての元凶なんだけど……それでも正直、申し訳ない感情で一杯です。シンシア、意味は『誠実』だったか。確かにあのあとの態度は誠実の一言に尽きる。名は体を表すというが……こちらにもそういう言葉はあるのだろうか? ソフィアは『知恵』か。頭はいいよね、あの子。時折無鉄砲だけど。シェリス様やルーミィ、ガルフさんはわからない。元になっている単語がそもそも英語で無い可能性もあるので、知らないだけかもしれないが。
それはともかくとして……。自爆に加え、更に羞恥心を煽るのが…………。
「こ、これは黒曜卿、おはようございます!」
「黒曜卿! もうお怪我はよろしいのですか?」
この「黒曜卿」なる称号。なんでも、俺の髪と瞳の色、それから「邪を打ち破る守護」という黒曜石の石言葉に基づいて、付けられた異名らしい。いや、黒曜石の黒って真っ黒だよ? さすがにそんな髪や瞳の色はしてないと思うんだけど……。
なんというか、ねえ? 俺も男の子、そういうものに憧れていた時代がありました。ナイフに、包帯、ブラックコーヒーに、etc……。けど実際、ここまで背筋が痒くなるものだとは思わなかった。あ、ちなみに今は別に無理してる訳じゃなくてブラックコーヒー大好きです。
度重なる不運と悪意なき口撃によって憂鬱になった俺は、包帯の巻かれた身体を引きずってたどり着いたベランダで空を見上げながら、某執務官の言葉を思い出していた。
「人生、こんなはずじゃなかった事ばっかりだ…………」
本当に。
個人的にかなり書きたかったお話。楽しく書かせていただきました。
感想や批評、大歓迎です。お待ちしています。