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第3話:追うものと追われるもの。反乱の真の理由。

……思い浮かびません。

 今俺は、要塞内の街をソフィアと一緒に歩いている。ソフィアが街に用があるらしく、それの同伴としてだ。ちなみに何故俺が同伴者かを説明すると、


 シェリス様 「ソフィアといてやれ。今戦時中だし。トチ狂った阿呆がいるかもしれないからお前護衛な」

 俺     「把握。けど城内の不穏分子の探索と排除は終わってないの?」

 シェリス様 「今やってる。まだ裏切り者が居るかもしれないし。けどまだ完全じゃないからお前盾になれ。傷一つ負わすんじゃねーぞ」

 俺     「ああ、彼女を守るのはいいが――――別に、一緒に逃げてしまっても構わんのだろう?」


 というやりとりがあったからだ。嘘だけど。けど大体そんな感じ。ギャグマンガ…………。





 さて、そんなこんなで二人で歩いている。デート……といえなくもないのだろうか? それはともかくとして、俺は凄い噴水を発見することとなった。噴出している水が、3秒間隔くらいで、赤くなったり青くなったりと、様々に色が変化しているのだ。かなりの色の種類があるが、すべて透明感の有る色なので、きらきらと光を反射して凄く綺麗だ。


「あ、あれはなに?」

「あれは魔晶を使って、水に色を付けているんです。台座に魔晶がはめ込まれていて、それによって色を変えたりしています」


 ファンタジーだ。いや、分かってたけどさ。しかし綺麗だな。ああいったものを元の世界で作ろうと思うと、どれくらいお金がかかるのやら。

 ちなみに今俺達は公園のベンチ(木製)に座っている。街中は、今が戦時中だということを忘れてしまいそうなほどに平和だ。周りの人々も、少し見てみた市場も活気に溢れている。しかし、戦時中……か。 そもそも、どうしてこの戦争が起こったんだ?


「そういえばさ、ソフィア」

「はい、なんですか?」

「どうして、戦争が起こったの…………?」










 ――――そして話を要約すると、こういうことらしい。

 事の発端は、能力も無いのに自尊心だけは高い、某公爵家(ソフィアの、ライトアーシェント家ではない)の人間が、貴族というだけで今以上に厚遇されるべきだという考えをぶち上げ、それに少なくない貴族の人間が団結、彼らの主張を認めようとしない王に反発。


 じゃあ戦争だ!←今ここ





 馬鹿かよ…………。

 どういった頭をしているのだろうか? 個人的には上に立つ人間が優秀なら別に貴族という階級があっても良いと思うけど、無能な貴族とか最悪だろ……。




 ん?



 いや。

 それはおかしくないか? 自分達の血統が尊いと思っているからこそ、彼らは傲慢なのだ。

 つまり貴族というのは血統を重んじる、と言うことだ。その血統を重んじる彼らが……「王」という、血統で言うならば最上級の人間に対して反旗を翻すのは……。自分達の地位の、彼らが思っている正当性を失わせることにならないか?


「ねえソフィア、一つ疑問なんだけど」

「はい、何ですか?」


 今の考えを説明。


「ああ、それはですね……」


 なにやら言い淀むソフィア。ううん、これは国家機密と言うことなのか? 俺はあくまで傭兵みたいなものだし、それに対してソフィアは公爵令嬢。なら俺たちが共有できる情報に限りはあるか。


「ああ、言いにくいなら良いよ? 守秘義務とかあるんだろうし」

「いえ、そう言う訳じゃないんですけど……」


 きょろきょろと辺りを見回すソフィア。そんなソフィアに和んでいると(萌えていたのかもしれない)、ソフィアが何かを見つけたらしく、ちょっとこちらへと言って俺の手を引いて歩き出した。


 そうして俺たちがたどり着いたのは、少し歩いたところにあった倉庫。積み上げられた木箱と、壁に立てかけられた材木が一杯並んでいる以外は、特に何も無い場所だ。一体ここに何があるというのだろうか?


「ここなら大丈夫でしょうか……」


 しばらくソフィアはそのまま辺りを見回し、人気が無いことを確認すると、ちょっとお耳を、といって傍に寄ってきた。そして俺の耳に手をあて、小声で話し出した。


「口外しちゃだめですよ? 実は本当の理由……つまり、一部の貴族が血統を無視してまで反乱を起こした理由があるんです。

今、皇帝陛下は病に臥せってらっしゃいます。そして医者の見立てでは、もしかしたら危ういということなんです。そうなると後継者が問題になるんですけど……更に権力を握りたい貴族の一部が、シェリス様はまだ成人していない、だから我らが代わりに……と言って、反乱を起こしたんです。今は更に大きな権力、つまり王権を合法的に手に入れるチャンスなので、その人たちはもう暴走状態なんです。理性的な思考など出来るはずもありません」


 うっはぁ……。なんかディープな話だな。皇帝陛下崩御の危機、んでもって上層部の暴走か……。確かにこれは、人目の付くところでは話せない内容だな。


「なるほどね……理解したよ」


 なんだかな……。


 と、少し暗い――――深刻な沈黙が漂う中、俺は懐かしい生物を見つけた。こういうところや家の屋根裏に生息する、絵だと妙に可愛いあれ。そう、ねずみさんです。

 そしてそのねずみは隠れようとしているのか……頭の側を木材と木材の間に突っ込んでもぞもぞしている。妙におかしくて、ソフィアにも声を掛けた。


「見てみなよソフィア。ねずみは隠れてるつもりみたいだけど、尻尾が隠れてないよ」


 見てよあれ、という意味を込めていう。ああでも、女性はこういう生き物は嫌いかな?

 だったらソフィアには悪いことをしたかな……。

 そんなことを思っていると、後ろから何やら物音がした。反射的に振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、物騒な格好をした男たち。お世辞にも堅気の人間には見えない。


「何か用ですか?」


 俺には、こんな人たちに付け狙われる覚えがないんだけど……言い訳が出来る状況ではなさそうだ。とりあえず警戒のため、デカイ態度で臨んでおく。


「ライトアーシェント家の娘だな。おとなしくその女を渡せば、危害は加えない」

「そう言われて渡したら、俺凄い外道だよね……」


 こいつら……不穏分子の残りか? 随分いるじゃないか、しっかりしてくれシェリス様。しかし、月並みな台詞だな……。はいどうぞお納めください! とでもやれと? ふざけんな、俺の存在理由を奪うな。

 殺人と言う禁忌を犯してまでも守った俺の存在理由だ、渡しはしない。

 (しっかり腕につかまってて。いや、むしろ……。

 ごめん、非常事態だから。さりげなく俺にしっかりしがみついて)

 ソフィアを受け渡す、ねえ? あはは、面白いなそれ。

 出来るわけ無いだろ……? とはいえ、それを正直に言って引くようには見えない。だから闘争するか逃走するかなんだけど……ソフィアをかばった状態で戦うのは避けたい。  

 よし、逃走決定。

 プランは決まった。とりあえず魔力での高速移動で出口まで一直線にいって、あとは人の多いところに逃げる。それでいこう。警備兵だって存在するのだし……何よりもソフィアが居る。安全第一だ。


「抵抗するなら…………!」

「ひっ…………」


 ソフィアが指示通りしがみついてくる。柔らかい、じゃなくて。

 そういう思考回路はシャットアウト。…………意外に余裕あるのかな、俺?


「渡さないなら、実力行使だ。――――――――行け!」


 応、行ってやんよ!

 そう気合を入れて魔力を足に込め、飛び出そうとした瞬間。


 つるっ


 ちょ、床すげえ滑る!


 芸人のベタなリアクション張りに後ろ向きにこけそうになった。しかし、すでに俺は止まれない。既にその体勢のまま空中に居たからだ。周囲の景色が流れていく中、せめて後頭部からの転倒は防ごうと、横にいたソフィアを正面から抱きかかえるように、体を強引に横向きにする。


 結果、意図せずにドロップキックの体勢で、俺は高速移動する羽目になった。そしてそれがもたらしたものは――――


 グチャッ!


 異音と、踵に感じた嫌な感触だった。俺の視線の先では、顔面から血を噴出して倒れていく男の姿。かなりスプラッタだ。吹き出す血はお世辞にも綺麗とは言えず、先ほど見た噴水とは比べるべくもない。まったく意図しない結果を招いてしまったけれど……まあ、一人戦闘不能に出来たから儲けものだ! ポジティブに考えよう。

 っと、見てないで逃げないとな。とりあえず、


「走って!」


 ソフィアを先に逃がさないといけない。あ、ソフィアって意外に足速いんだ。運動は苦手ってわけじゃないのね。

 そしてソフィアが出口から出た事によってそして男たちも我に帰ったのか、我先にと俺(正確にはソフィア)を追って出口に殺到する。やばい、俺も逃げないといけないな。最悪、狭い出口でなら1対1で戦えるし。

 そうして、俺も出口から出ようと思った瞬間に、再びそれは起こった。



 つるっ



 またかよ! 勘弁してくれ、芸人でもないのに天丼なんて!


 しかし、今は別に魔力を込めていない上、きっちり地に足が着いていたので、手を振り回すと楽にバランスが取れた。しかし、そこで振り回した手が一本の材木に当たり――――


 ガラガラガラッ!!


 ――――轟音を上げて、連鎖的に材木が倒れ始めた。そしてそれは男たちを蹂躙し、ついには倉庫の出入り口をも塞いでしまった。どうやら俺は、図らずも撃退に成功したようだ。


 まあ、結果オーライ……か?

 まあ、ソフィアも俺も無事だったんだ。それに万一に備えて、まだこの周りに敵が残っていないとも限らない。城に帰るまで警戒を怠ってはならないな。


「早く城まで逃げよう」





 





Side:ソフィア


 私は、ギンヤにこの戦争が起こった理由の一部を話しました。正直自分達の国の恥部を語ることになるので、物凄く恥ずかしかったのですが……事情を理解した後のギンヤの様子を見ると、やはり呆れているようです。

 まあ、それも当然です。私も父様から話を聞いたときは、開いた口が塞がりませんでした。

 本来、貴族は国を守り、民に良い治安や政治を提供する代わりに養ってもらっている立場の人間。所謂非生産階級であり、民の皆さん無くしては存在できない人間です。それを、彼らは……厚かましいにも程があります。


 しかし、ギンヤはこの理由では、反乱の起こりが説明できない事に気付いてしまいました。なので、私は本当の理由……というか、今の状態を説明することにしました。

 人に聞かれてはならないので、人気のなさそうな場所を探します。すると、ちょうど少し遠くに使われていなさそうな倉庫を発見しました。そこでなら話せるかと思い、ギンヤをそこに連れて行きました。



 そして私は、今の状態を説明しました。その直後は、重い沈黙が漂います。無理も無いです、この話はそれだけ深刻な話なのですから。


 しばらくして、ギンヤが唐突に口を開きました。しかも口元に笑みまで浮かべて、です。今の話に、そんな笑えるような箇所があったでしょうか……? しかしギンヤが口にした言葉は、意表を突くものでした。


「見てみなよソフィア。ねずみは隠れてるつもりみたいだけど、尻尾が隠れてないよ」


 この状況にはそぐわない、あまりにも意味深な言葉。それについて疑問を投げかけようとすると、後ろから――――つまり私たちが入ってきた道に、突如剣や短刀で武装した男たちが現れました。驚いて身を固くする私を尻目に、ギンヤはいつものように余裕の表情です。ネズミ、とはそういうことだったのですか。では、初めからギンヤは、彼らに気付いていた…………?

 いえ、そういうことなのでしょうね。ただ単に正面からやりあうだけでなく、そういったことにも気付けるなんて……本当に凄い人です。


「何か用ですか?」


 ギンヤは、あまりにも普段通り。私も最初は恐怖を感じましたが、直ぐに隣に誰がいるのかを思い出しました。何せ、私の隣に居るのは特務魔道師すら打ち倒す存在なのですから。そのギンヤが腕を私に差し出しました。意図は分かりませんが……彼の様子を見ていると、段々と緊張が解けていきました。



「ライトアーシェント家の娘だな。おとなしくその女を渡せば、危害は加えない」

「そう言われて渡したら、俺凄い外道だよね……」


(しっかり腕につかまってて。いや、むしろ……。

 ごめん、非常事態だから。さりげなく俺にしっかりしがみついて)


 し、しがみつけ、ですか。つまりギンヤに抱き着くと言うこと。いえ、緊急事態ですものね。仕方ない、そう、仕方ないんです。羞恥心だの慎みだの、そういったことは二の次なのです。

 私は誰に言い訳しているのでしょう……? 不毛ですね。


「抵抗するなら…………!」

「ひっ…………」


 怖がる振りをして、ギンヤに抱きつきます。実際に怖いですが、しかしそれは刃物が向けられたことによる本能的なもの。恐怖は感じても不安は感じません。それより、前回の戦場でも抱きついてしまったときに思いましたが、ギンヤは着やせするタイプのようです。抱きつくと、意外とがっしりした、筋肉質な身体である事に気付きます。


 わ、私は何を、考えているのでしょう…………? いけません、こんな時に!


「渡さないなら、実力行使だ。――――――――行け!」



 そういって、男たちが近づこうとして――――


 私は初めて、空を飛んだ。



 ギンヤが魔力を足に纏い、一瞬で相手に肉薄。それには当然、くっついていた私も一緒です。

 そして、その勢いのまま、ギンヤは飛蹴りを放ちました。ギンヤの踵が唸りを上げて、真ん中で出口を塞いでいた男の顔面にめり込みました。


 グチャッ!


 果物が潰れたような異音が響き渡り、男は戦闘不能になりました。私は武術のことは良く分かりませんが、あれを受けて立てるとは思えません。事実、もうその男は立ち上がってきませんでした。


「走って!」


 着地直後、ギンヤの指示に従って全力で出口に走ります。私は無事に出口にたどり着きました。そして、ギンヤはどうかと思って振り返ると、ギンヤは出口で1本の材木を手で払ったところでした。何をしているのかと言う疑問は一瞬で崩壊しました。ギンヤが倒した材木が引き金となって、周囲の材木のほぼすべてが崩れ落ちました。そしてその材木が落ちる先は、出口に殺到していた男達の頭上。


「…………あ」


 男たちは足を止め、呆然と頭上を見上げることしか出来ず――――立ち尽くす男たちの上に、大量の材木が降り注いだ。





 ギンヤはこの街を知りません。いつあのような戦術を組み立てる時間があったのか――――そんな時間はギンヤが彼らの存在に気付いてから、そしてあの男たちとの会話中、それしかありません。つまり気配に気付いた後、短時間で会話しつつ、あれだけの戦術を組み立てたと言うことになります。

 それを成し遂げた人は、速く城まで逃げようか、と警戒しつつも何でもないように言ってきます。


 やっぱり、凄いです…………。この人に対抗できるのは、隣国のシンシア様か、この国のヴィロゥ将軍くらいのものではないでしょうか…………?



貴族と言うものには、割と私も偏見持っているかもしれません。

このお話の貴族は、だいたいこんな感じです。

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