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第0.5話:力と現状、存在理由

ご指摘があった、銀也君が魔法を覚えるまでと、能力判明の回です。

 ソフィアを助けた次の日、俺は野営地にて彷徨っていた。そう、今俺はソフィアを見失い、当ても無く光を探す旅人と化していた、とでも言えば格好が付くだろうか。実態は単なる迷子。マイマイ。

 まあ、これはこれで楽しいので、よしとする。軍隊の野営地っぽいものなんてめったに見る機会はないし。今は戦時中なんだとかで、ある物は全部本物らしい。

 …………いやしっかし、ここどこなんだろうね? こんな形態の戦争をする地域がまだ残っていたのだろうか?







 彷徨っていると、俺はなにやら怪しげな練習をしているらしき一団を見つけた。

 話を聞く限り、どうやら新人研修? みたいな物のようだ。新米に先達が教える。それはごくごく普通のことで、何も問題も違和感もない。


 ――――そう、その教えているものが超常現象で無いのなら。


 新人とおぼしき人が目を閉じ集中し始めた数秒後、彼の前の空間が歪んだ。そして徐々に光が発生し始め、最後には30cmほどの球と化した。え、あ、何事!? 


「よし、それを解き放つのだ。」


 と、先輩らしき人が言うと、彼はその超常現象を開放し、






 その光弾は、こちら目掛けて真っ直ぐ飛んできた。






 …………え?







 まさかの不意打ち。光の弾が現れるというスーパー時空に呆然とし、当然のように心構えが無かった俺が回避できるはずも無く。そのまま弾は俺に直撃し、


 ――――――――粒子となって霧散した。


 …………あれ? 不発弾? なんだったの今の? CG……じゃないよな? 

 けど何だろう、何か「力」のようなものが俺の体に入ってくるのが分かった。それも含めて一体何事? 訳が分からない。

 混乱する俺そしてこちらを向いてポカンとしている二人。唐突に時間の流れが止まった。そして再び時間を動かしたのは、その二人の一言。


「「ま、魔法吸収能力…………!?」」


 え、何それ? いや、魔法って、何言ってんの?








 要約すると。

 俺は「魔法吸収能力」なるものをもっているらしく、かなり珍しいらしい。なんでも魔道師の天敵だとか。ただ、吸収できる魔法には限界があるらしく、注意が必要とのこと。見切りを間違えれば、魔法のダメージをそのまま直接食らうらしい。

 そしてどうやら、俺は莫大な魔力も持ち合わせているらしい。しかしながら――――


「どうやら、魔法として外部に生成する才能は無いようです……」


 哀れみの視線が痛かった。







 そう、俺は、「魔法を外部に生成できない」らしい。

 今のところ唯一使えそうなのは、「身体強化」のみ。これは魔力を直接体に、「内側から」作用させるので、俺にも使えるとの事。

 ちょうど先ほどの魔力弾を撃てるようになるまでが新人さんの課題だったらしく、そのあと先輩さんは俺に付きっ切りで「身体強化」の使い方を教えてくれた。いい人や。

 通常魔力を感じるまでにかなりの月日が掛かるらしいのだが、俺は先ほど「吸収」して魔力が体に入ってくるのを感じていたために、5回ほどの挑戦で魔力を使えるようになり、20回もする頃には「身体強化」を、ある程度の出力でなら自由自在に使えるようになっていた。

 そうして収穫を手に入れた俺は、表面上は平然としながら礼を言ってそこを去った。








 …………………………はは、何の冗談だ。魔法? そんでもって吸収能力? どこのファンタジーだよ? あるわけないだろう、そんな――――。


 昨日、刃を向けられて感じた恐怖とは違う感情が、胸の内を占める。眼に見えるもの全てが酷く現実感の無い、夢幻かと思える。笑い飛ばせればどれだけ良かっただろう? おかしなことを言うな、と怒鳴れればどれだけ良かったろう? しかし昨日の体験と、そして今日の魔法。目の前で起こったことが、実際に体験したことが、全て真実なのだと何よりも雄弁に語っていた。


「ちくしょう……」


 異世界。認めたくないその事実が、俺に圧し掛かる。足元がぐらつき、視界が揺らぐ。世界どころか、自分さえ希薄な夢幻に感じる。そのままその重さに抗えず――――あるいは、抗おうさえしなかったのか、膝を付きそうになったところで――――――――


「ギンヤ、どうしたんですか……?」


 その声が、支えてくれた。


「ソフィア……?」

「はい、私ですけど……って、どうしたんですか!?」

「え、何が……?」

「凄く顔色が悪いです……どこか具合が悪いんですか?」


 心配そうな表情の中の双眸に涙を浮かべ、ソフィアが崩れそうな俺の身体を抱きとめた。暖かく柔らかい。波打つ茶色の柔らかな髪から、芳しい香りがした。彼女はここにいるのだと、五感全てが認識した。 俺にとってこの世界がどれだけ希薄でも――――今この瞬間、この少女だけは確かな現実だった。


「ソフィア……」

「はい、なんですか?」


 酷く心配そうな顔で、俺を覗き込む少女。ああ全く、俺はこの子に何を言おうとしているのか…………。


「ソフィアは、ここにいるんだよね?」


 その、あまりにもおかしな問い。何を馬鹿なことを言っている、と一笑に付されてもおかしくないその問いに、ソフィアは何か感じるところがあったのだろうか。クスリとも笑うことなく、真顔で俺を見詰めて、


「はい、私はここに居ますよ」


 そう答えてくれた。


 そしてそれが――――今の俺が一番欲しかった答えだった。












 嗚呼。

 神様とやらがいるとするなら、何故俺をこの世界に引っ張り込んだ?

 何故俺だった。何故いきなり命の危険を味あわせた。何故助けた。何故異世界なのだと認識させた。何故――――


 ――――――――俺とこの少女を引き合わせたのだ。


 話を聞いてしまった。戦時中なのだと。戦なのだと、命を奪い合うのだと。倫理も道徳もその瞬間には無いのだと。

 無視すればよかった。俺には関係ないと、陣を出て行ってしまえばよかった。引止めはされないだろう、俺は無関係なのだから。命を賭ける、そんな場所に俺が居る必要は無いのに――――――――。







 出会ってしまった。出会ってしまったのだ。よりによって、片方の陣営の人間に。戦う力を持たない、優しく、そして決して戦から逃れられない地位の少女に。何かあったときにこの子は暴虐と陵辱の限りを尽くされてもおかしくは無い、そんな存在なのだ。そんな無力で危険な少女が――――その少女こそがよりによって、俺のこの世界での存在意義になってしまったのだ。その少女こそがよりによって、俺に生の実感を与えてくれたのだ。


 吊り橋効果。刷り込み。知っているとも。だけどそれでも、敵も味方も分からぬこの状況で、唯一の実感なんだ。俺はここに居て、この世界が確かなものだと証明するのは……この少女以外に無いのだ。俺が俺であり続けるには、確かな俺であるためには。

 

 この少女を守り抜かなければならない。この少女の傍に居なければいけない。そのためには戦に赴き、命を掛け続けるしかないのだ。そうやって、この子を守り続けるしかないのだ。





 それを理解した俺は、もう何も出来なかった。もう――――――自身の死の危険から目を逸らすことは、この子の危険から目を逸らすことは、俺でなくなることと同義なのだと、悟ってしまったから。


 (畜生…………)


 分かってしまった。分かってしまったのだ。事実上俺に選択肢は無く――――それが茨の道であることを。縋り付くように、助けを求めるように俺はソフィアを強く抱き返し――――――――



 涙が一滴、頬を伝った。












Side:ソフィア


 何がなんだか分からない。それが、ギンヤの状態を見た私の正直な感想でした。

 顔は青褪め、足元はおぼつかない。その表情は悲壮感に溢れ、まるで親と永遠に離別した迷子のよう。昨日見た強く大きなギンヤとは、全くかけ離れた姿。けれども不思議とそれに違和感は感じませんでした。強いギンヤと弱いギンヤ、私はその両方を見たに過ぎない……驚くほど冷静に、私は目の前の光景をそう受け止めました。

 今にも倒れそうなギンヤを抱きとめる。男性に触れるなど滅多に在りませんし、そういう意味では緊張してもおかしくなかったのですが――――そんな気は欠片も起きませんでした。非常事態だったからでしょうか? 支えなければならない、その衝動に突き動かされ、私はギンヤを抱きとめていました。

 ギンヤは男性で、しかも服から露出した前腕を見る限り、健康かつ筋肉質な男性です。なのにそのときのギンヤは、酷く軽く感じました。まるでよりどころの無い、ここに存在していないような――――そんな不吉な感覚。


「ソフィアは、ここにいるんだよね?」


 突如として放たれたその問いに、私は胸が高鳴りました。とはいってもそれは心地よいものでは決してありません。今私はギンヤをここに居ないように感じていたのですから――――ギンヤと私が違う所に居るのなら、ギンヤにとっても私をここに居ないように感じているのかもしれません。俯いたギンヤの表情は、こちらからは分かりません。しかし私の腕と胸の中で感じた、ギンヤの体のかすかな震えを感じたとき、自然と言葉は流れ出ていました。


「はい、私はここに居ますよ」


 それは救いになったのだろうか――――そうであれば良いな。その私の言葉を聴いたギンヤは、痛いほどに私を抱き返し。その頬を、透明な涙が伝いました。その、一種弱さの象徴である涙を見ても、決してギンヤを情けないと思うことはありませんでした。


 今のギンヤが泣くのは、何故か必要とも必然とも感じましたし、何より――――私も原因不明の感情で、涙腺を決壊させていたのですから。







 心情描写ってやっぱり難しいです。

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