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第2部第4話:固まる足場、乱れる心

お久しぶりです。仮復活?とでも言えばよいのでしょうか。本格的な復活でないのは、まだ更新が一ヶ月に一回とかになるかな、といった状況だからです。それでもやる気が戻ったので戻ってきました。


お待ちいただいていた方がいらっしゃったら、大変お待たせいたしました。再びよろしくお願いします。

 ―――――――星宮銀也は、異邦人だ。





 実際のところは、国が違うなどと言うものではなく、彼は住んでいた世界すら違う人間だ。

 彼が世界を超えた人間であると言うことを、彼の周囲は知らない。彼は別の国の人間だ、というだけの認識に留まっている。それは当然だ。

 姿形がまったく同じものを前にして、それが自分達が居る世界とは別の世界の存在だ、などと誰が思えるだろう?

 

 ところで話は変わるが――――彼がシルヴィアと言う国に出現し今に至るまで挙げた功績は、どれほどの物だろうか? 

 敵地から公爵令嬢を助け出し、攻撃魔法や防御魔法が使えないにもかかわらず、敵の心の支えの一つであった特務魔道師を薙ぎ倒した。

 戦況を崩壊させかねない裏切りを未然に防ぎ、同盟国の皇女の命を、その身を挺して救った。一般民衆や女子供の混じった部隊に対し、その大将のみを討ち取って見せた。

 世界最強といわれる将軍から、正面からの一対一の戦いで勝ちをもぎ取った。そしてそれに付随し、当時の国王の心を救った。同時に国王の命を暗殺者の手から守ってみせた。


 彼の功績を列挙してみれば、何の冗談だ、と思うような離れ業の羅列となる。これがもしシルヴィアの人間が行ったことであれば、その人物は高い地位と役職を与えられ、名実ともに英雄と認められただろう。

 しかし、現実はそうではない。星宮銀也は異邦人だ。それも、<素性が知れない>というレベルの、だ。そのような人物に、地位や役職は与えられない。それは当然だ。

 では、金銭はどうか? 実を言えば、これも与えにくい。彼は功績を挙げすぎたからだ。彼のやったことを国内の人間がやった功績として――――国内の人間への報酬と同等かつまともに評価した場合、その金額が莫大になってしまう。シルヴィアの国庫にかなりの損害を出す上、やはり素性の知れない人間に莫大な金を渡すというのは、賄賂などに悪用される可能性も考えるとこれまた危険な行為なのだ。



 ではどうするべきか? 排斥するか? しかしシルヴィア首脳陣の中で、これは真っ先に却下された。その理由は、人道上の問題ではない。

 その理由は、仮にそれを行おうとした場合――――シルヴィア側の被害も甚大なことになるだろうからだ。

 一つ目の懸念事項は、彼個人の武力。かの世界最強を正面から打ち破れる人間だ、それを打倒せんと思うのなら、果たしてどれほどの犠牲を許容しなければならないのだろうか。

 正面からではなく暗殺という形を取ろうにも、向こうにはアーシェと言うそちら側の「天才」が居る。子供とはいえ単体で王城の警備を出し抜き王の暗殺直前まで行けた人間だ、当然そのようなものに対する対抗手段も持ち合わせているだろう。彼女は仮に彼とシルヴィアが対立するというなら、彼の側に真っ先につく人間だろう。それを考えれば、まともにやり合おうとは思えない。

 もう一つの理由は、彼の人望と国の面子の問題だ。彼はシルヴィアの中でも兵士や平民の中では中々に人望が厚い。彼が居たから内乱が早く収まった、血が更に流されずに済んだ――――そう考えられてもいる。その功労者を無碍に排斥しようとするならば、まず人望を集め国の基礎を固めることが重要である現在において、つまりは全く害にしかならないことをしなければならなくなる。功績を挙げすぎた人間を謀略により排斥するというのは古来より使われてきた方法だが、それを行ってなお国として安定できていた国は、国の中の結束が強かった国だ。それが圧倒的な力による恐怖政治でも、まとまりはまとまりだ。今のシルヴィアは、その力が無い。ただ単に逆効果なだけとなる。




 では、結局シルヴィア首脳陣は彼に対してどういった処置をしたか。それは排斥とは対極的な、しかしまた古来より使われてきたもう一つの手法――――囲い込みだ。

 排除できないのならば取り込む。それは当然の帰結であった。

 具体的な方法としては、王家と公爵家と言う二台巨頭の庇護を受けさせることによって、彼の気分をいたずらに害しようとする輩に対しての牽制を行う。また、十分な地位や褒賞を与え、

人間なら多かれ少なかれ持っているだろう欲を満足させる(最も、今回の対象である彼はあまりそういった欲が無い人間のようだったから、効果の程は不明だったが)。

 それが今現在取れるベストな方法だろう、とシルヴィア首脳陣は結論を出して実行した。


 その判断はどうやら早速功を奏したようだった。賄賂や不正が発覚し地位を追われた『元』警備隊長とその取り巻きたちが、彼の逆鱗に触れる前に事態を沈静化させることに成功した。

 彼が王家と公爵家の庇護下に置かれたことは近日正式に国中どころか同盟国であるバリツに広く布告される。その上、今回起こった小競り合いは、多くの兵士達が目撃している。

 それは多く噂される話となるだろう。従ってその事実を知らずに彼に手を出す愚か者はいなくなり、逆にその事実を知って尚彼に手を出そうとする、出せる人間は国内には今のところいない。

 不安定で揺らいでいた彼の立場は、これにて固まったのである――――――――






 



 というのが、今までギンヤを除いて何回も行われた会議での決定でした。そして今回、ギンヤには自分が王家と公爵家の庇護下に置かれた真の理由が話されることはありません。

 ただ、あなたは庇護下に置かれました、と。それだけです。私は説明役を命じられましたが、教えてよいのはそれだけです。

 それについて理解は出来ます。しかし、納得は出来ません。なぜ、まだギンヤはここまで危険視されるのでしょうか? 

 確かに、大きすぎる力は国にとって危険――――ですが、それを恐れて過度に警戒しようものなら、忠誠心が強いほどその者はやる気をなくしてしまうでしょう。

 私は、臣民としてそれを危惧します。勿論、個人としても、大切な人に対しての仕打ちには納得行きません。

 


 






 しかし――――私は、その意見を表明することが出来ませんでした。臣民としての提言さえも。それは、果たして私にそのようなことを主張する資格があるのか――――それが分らなかったからです。

 陛下も、ルーミィも、ガルフ隊長も、お父様も……あの場にいた皆は全員、今まで自分の何かを犠牲にして国の為にそれぞれの戦場で戦ってきました。

 私は、そのような人たちの決定に異を唱える資格があるのか……それが、分らなかったのです。私があの会議の場にいたのは、ただ、今のところギンヤに最も近い国内の人間というだけの理由であり、『私自身』が必要とされたわけではありません。今の私には、何かを言う資格など、きっと――――――――。


 思考に沈んでいきそうな私を、ギンヤの声が引き戻す。


「ふーん、まあ、色々と了解。まあ、本当はもっと裏のごちゃごちゃした理由があるんだろうけど、まあいいや。それは別に俺に関係ないし」

「…………」


 ギンヤは頭の回転が速い。あの歳でいやなかなか、とあのお父様も陰で褒めていたくらいだ。だから今回も本当は大体のことを察しているに違いない。

 けれどそれを自分には関係ないと言い切ってしまう。それは、おそらくは自信の表れ。何が降りかかろうと、全て対処尽くして排除尽くしてみせる――――そんなことを迷い無く言い切れる、芯の強さ。

 おそらくこういった面が人を惹き付け、そして恐れさせるところなのでしょう。


 ですが、同時に彼は非常に脆い一面を持ち合わせていることも知っています。それは当然です。強いだけの人間などいません。だから彼の心の弱いところを守れるように――――そう、思っていました。



 けれど具体的に、自分が何をしてこれたか……それを考えてみれば、結局何も出来ていません。いえ、してこなかった、とさえ言えるでしょう。勿論機会が無かったということもあります。

 しかし、そもそも――――私が彼をそう支えられる状況と言うのは、彼が揺らいでいるときです。それを考えれば、支えたいと望むのは揺らいで欲しいとも取れます。なんて浅ましく身勝手な願いでしょうか。

 自己嫌悪が身を蝕みます。 

 けれど――――そう。けれど。けれどそのような自己嫌悪に浸っていて良い訳は、そして資格のあるなしを恐れて発言しなくて良かった訳はないのです。

例え陛下やお父様たちに叱責されようが――――命を賭けて力になった人たちにさえ信頼して貰えずに、一人孤独に佇む目の前の人を、私は支えなければならなかったのに――――――――!


「わたし、は、…………」

「……? ん? どうしたの?」

「わたしは……」


 視界が霞む。私は泣こうとしているのでしょうか? それこそまさか……そんな資格があるとでも? 





命を助けられて。


何度も助けられて。


心すらも助けられて。


何もかもを助けられているのに――――何も返せていない。


何も出来ずに、無力なままで、なのに――――今もなおこうして、弱さを見せようと?


 感情を押し殺す。それを、目の前の彼に見せてはいけない。


「……ソフィア?」

「はい?」


 きょとん、と。そう見えるように。心を隠しながら振舞う。


「どうかしましたか?」 

「……ん、いや、なんでも」

「どうしたんですか? 変なギンヤですね」


 くす、とわざと微笑む。感情に蓋をして。内心を殺して、「わたし」を偽って演技をして。それは、こんな私を大事にしてくれる目の前の彼への、更なる裏切りだ。しかしそれでも、もうこれ以上彼に弱さを見せてはならない。

 もう彼に甘えてはならない。それは、絶対に、許されない。

 




 ――――だけど。

 だけどこれ以上いたら、きっとまた私は彼の優しさに溺れ、そして甘えてしまう。

 そんな私は、今、ここに居てはいけない。だから、彼の目の前から、私は居なくならなければならない。





「っと、それでですね、説明が終わったら、私も行かなければならないところがあるので……」

「……ん? ああ、了解。気をつけて行ってらっしゃい」


 こちらを気遣ってくれる、合いも変わらず優しい言葉が、胸に棘となって刺さる。優しいまなざしが、穏やかな声が、暖かな雰囲気が、全てが私の胸に痛みを走らせる。









 だけど私は――――その痛みも見せずに、また微笑んで一礼し――――ギンヤに背を向け逃げ出した。


 









 そして全力で走りながら、私は他人事のように考えた。

 













 <こうして、何も弱音を吐かず、強くあれば、いつか………………。>

若干欝展開?入ってます?


でもきっと、あのお方なら何とかしてくれます。ただ剣振って魔法撃つだけの人じゃないので。

以降若干、ソフィアとあのお方中心のお話になるかと思います。主人公? 誰それ?


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