ぷろろうぐ・始まり始まり。
改訂版です。多分に批判があると重いますが、真摯に受け止めていきたいと思います。
始まりは唐突だ。いや、本当に。
「なんじゃらほい」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は部屋でぐうたらしていたと思ったらいつのまにか見知らぬ場所に居た』
な…何を言っているかわからねーと思うが、俺も何をされたかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか幻覚だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
……いや本当、何処だよここ。俺は、つい今の今まで部屋でぐうたらしていた筈なんだが。具体的に言うと、黒歴史を思い出してベッドの上で悶えていた。積年の中二病と真っ向から衝突し敗北。いや、嘘だよ? それはおいといて――――さて、どんな状況だこれ?
突然変化した状況を把握すべく、落ち着け落ち着けと念じながら(効果があるのかはさておき)周りを見渡してみた。無機質な壁。木製のデスク。同じく木製の本棚に、テレビとパソコン。そのような俺の部屋にあった筈のものが、此処には何も無かった。
その代わりにあるのは、古ぼけた石の壁、火が灯って光を放つ松明、そして女の子と、おそらくは兵隊と思われる、武装した厳つい男たち。
…………待て待て待て。だいぶ色々とおかしいけど、それでも一番最後のはおかし過ぎるだろ。何時代の人間……というか、その武器本物ですか?
そんな異質な集団が俺を囲んでいた。正確には、俺の隣にいる女の子を囲むように半円状に、だけど。
…………あれ? ここは何処? 君は誰? 俺は星宮銀也だよ。
っと、真っ白になってる場合じゃない! 一瞬で環境が変わった……これはドッキリか? いや、俺の周りにはこんな手の込んだ悪戯をする奴はいない。それにメリットがない。とりあえず、状況確認が先決か。周囲には槍と鎧で武装した兵隊、数は50か60人ほど。そして女の子。ここはとても落ち着いて物事を考えられる環境じゃないな……。
「ああ、億劫だ……」
その上、なんか武装軍団は敵意バリバリだし。何これ、この女の子が追われてる感じなのか? それはともかく……切り抜けなきゃならないにしても、人数が問題だな。もしも戦うとして、経験上武器持ち相手ならやれて3人。これはかなり上手くいっての話。それも武器が殴打武器かつリーチも短く、使う人間がそれ用の訓練をしていない場合。今回みたいに槍だの剣だのの使い手で、かつ訓練された本物の兵士なら……1人と1対1でやって勝てたら良い方だろう。っていうか怖い、刃物がこっちに向いてるって超怖い! 隣の子もめっちゃ怯えてる……って、こんな可愛い子にそんな物騒なもの向けて怯えさせてんじゃねぇよ! いや、そもそも女性に何たることを!
そんな義憤に狩られた俺は、一歩前に出て女の子を背中に庇った。俺のその動きに警戒レベルを上げたのか、敵意を向ける全員の視線がきつくなったのを感じた。
素で泣きそうになった。
怖いものは怖いですよ、ええ。こんな考えでもしていないと、やっていられない……というか、完全に呑まれそうだ。
「貴様、何者だ!」
「あんたたちこそ誰だよ」
隊長と思わしき男に怒鳴られたが、人に名前を尋ねるときは以下略。
とりあえず圧されたら負けだ、不敵な態度で威圧しろ。状況はまったく分からないけれど、少なくともかなり危険だということはわかる。このままじゃ終わるなら、打開策を探すしかない。その為の時間を稼ぐには、少しでも「得体の知れない存在」として俺を認識させる必要がある。いろいろ考えるのはその後だ。
「おとなしく、その女をこちらに渡せ!」
「聞けよ人の話」
そして自分の質問が答えられてないのに次の話に行くとか、馬鹿なの? なんなの?
まあ、俺が何者かなんていうのよりは、彼らにとってこの少女を捕らえる方が大事ということだろう。とはいえこの子を渡したところで俺が無事でいれる保証はないし……何よりちょっとそれはド外道過ぎる気がする。というか震えている可愛い女の子をそんな風に扱えるわけが無い。う、ううん、本当にどうしよう。正直詰んでる気も……。
だめだ、それでは死を待つのみだ。殺気と言うのか、物騒な感じがピリピリと肌を差している。気を取り直し、再び状況確認。今の俺に武器はない。相手は槍に、鎧。補助として剣も持っている。環境は、特に何も無い石の部屋。そして出口は相手の背中側。これだけ見ると本当に詰んだようにしか見えないな……。
だけど、そう。それでも危ない目に遭っている女の子一人守れないなら……俺が武道や格闘技をやってきた意味が無い。それは俺の半生を否定するもので――――そんな事を認めるわけにはいかなかった。
思い出せ……『目に見えるものだけが全てとは限らない』。師匠の言葉だ。
(ねね、ちょっとちょっと。言葉通じる?)
(は、はい。なんですか?)
後ろの可愛い子――――いや、この状況でさっきから何を、と言われるかもしれないが、本当に可愛いのだ、この子。服こそ少し汚れているが、ふわふわした綿菓子を連想させる長い茶色の髪と、気品溢れる優しく儚げな風貌。若干潤んだ琥珀色の瞳が俺の心臓をスナイプショット。正直詩織レベルの美少女である。タイプは違うけど、世界にはまだまだ俺の知らない美しいものが眠っているようだ。よきかなよきかな。
それは置いておいて、その子とぼそぼそ会話する。相手はなにやら内輪で話し始めたようで、こちらへの注意が疎かになっているから、会話にはうってつけの機会だ。敵を前にして一体何をしているのやら、見当も付かない。いや、こちらとしては有難いけれど。
(俺たちの背中側の壁って、どう?)
(えっと、石の、普通の壁です)
(ヒビとか入ってたり、色が変わってたりしない?)
(えっと、色が少し変わってて、ヒビも入ってます……)
OK、運が良いことに目に見えるもので希望が見えてきたぞ。可能性が無いわけじゃない。例え無くても、作り出して見せる。かなり賭けになるけど……だからどうした。
(俺が合図したら、その壁に向かって走って)
(え、はい!? わ、わかりました…………)
やらないよりはましだしね。とにかく行動しなければ活路は見出せない。成功しなかったら……これは考えないようにしよう。
さて、やってみますか。
足元に落ちていた、拳大の石――――この部屋は少し崩れていて、出口が出来ているわけではないが、壁の破片は落ちている――――を武装軍団に気付かれないように拾った。
軍団はいまだ懸賞金か何かの配分を話しているのか、内輪で揉めている。その軍団を尻目に俺は覚悟を決めて、心の中でタイミングを測る。
失敗は許されない。チャンスは一度だけ、その一度をモノにする。もしモノに出来なかったら……だから考えるなってば! 今はとにかく生き残れ!
(カウントスタート。3……2……1!)
「ゴーーーーーー!!」
合図と同時に、石を投擲。狙いは、壁に立てかけてあった松明。
狙い通りに着弾。そして松明は落下し――――兵隊の衣服に着火した。
うあ、え、ちょ、直撃させる気は無かったよ!? 物を目の前に落とされると、無意識に一歩下がるでしょ!? それが欲しかっただけなんです、事故だから恨まないで!
「あ、熱い熱い、消してくれぇ!」
相手が着ているのは、鎧以外は単なる布の服。見たところ相手に遠距離武器は無かった。槍の間合いの長さは確かに脅威だが、この距離ならいける。そもそも武装というのは機動力を落としてしまうものだ。
突然の出来事――――俺自身予期しないことも起こったので、俺も混乱の極致にあったが――――に場が騒然となった瞬間、俺も背中を向けて走り出し、
「ホアタァァァァァ!」
加速力と全体重を乗せた、ブ○-ス・リーの真似の飛蹴りを壁の弱そうな部分に見舞う。崩れろ、崩れろ! もしこれで崩れなかったら、どちらにしろ詰みだ!
しかし、ここで更なる問題が発生した。
予想以上に壁が脆く(ぶっちゃけハリボテ、紙レベルの固さだった。元々緊急脱出用のフェイクだったのだろうか)、衝突では勢いを殺してもらえなかった俺はそのまま壁を突き抜け、新たに現れた隠し通路とおぼしき通路の壁と情熱的なキスを交わしそうになる。
ファーストキスが壁と言うのはごめん被りたいので、あわてて体勢を立て直そうとして、壁の下においてあった桶を盛大に蹴飛ばしてしまった。その桶の中にはなんか入っているようだったので、必死に女の子に中身を掛けないようにあがく。
動け、動け俺の足ぃィ! 空中でバタバタする人間、という珍しいものがそこに現れた。幽霊の正体見たり枯れ尾花、不審者の正体見たり自分自身。けど笑わないで欲しい。必死なんだ、うん。
なんとかその努力が実ったのか、女の子にはその液体は掛からなかった。そしてその液体は、盛大に今まで俺たちがいた部屋に飛び込んで――――――――
部屋の内部を、一気に燃え広がった炎が占めた。
……………………どうして、こうなった?
Side:ソフィア
逃げ切れなかった。絶望の中、私に向けられる殺意が実体を持ったような槍の穂先を見詰める。戦う力を持たない私は、必死に逃げて、逃げて、逃げ続けました。それでもその努力は無駄で、ついに出口の無い部屋に追い詰められてしまいました。兵隊に追い詰められた私は、まさしく絶体絶命。しれず、涙がこぼれそうになった。
頭に浮かぶのは、優しい父様と母様、屋敷の使用人、親友の姫様。
(ごめんなさい、私はここで、お別れみたいです。)
そうして、最後は公爵家の者として、誇り高く散らなければならないと覚悟を決め、槍の穂先から視線を兵達に向けたとき――――
私は、「彼」が隣にいることに気付きました。
身長は、私よりは高いものの、男性としては平均程度。いや、平均より低いかもしれない。けれど、夜の闇を凝縮したかのような、深い黒色の髪と瞳。そして、それとは対照的な白い肌。
この状況にありながら、不敵に反乱軍を見据える、覇者の雰囲気。
その威厳と相反する、穏やかで優しい、木漏れ日のような雰囲気。
正直に白状すると、私は生まれて初めて、人に見惚れた。外見が綺麗な方は貴族階級なら大勢いらっしゃいますが……そういうのとは何かが違います。
しかしそれも束の間、呆けている私に向かって、彼は指示を出した。素性も知れないのに、不思議と信用できる彼の指示に従った私は、驚くべきものを眼にすることとなります。
裂帛の気合と共に彼が壁に飛蹴りを叩き込む。すると、壁がなんと紙のように破れ、隠し通路であろう通路が出来た。壁を、魔力も使わず破壊するその力。それに驚く私を、更なる驚愕が襲いました。
とび蹴りの姿勢のまま、空中で手足を動かして巧みに体勢を整えると、彼は器用にも足で隠し通路に置いてあった桶を引っ掛けて持ち上げ、後ろにいた私に一滴もその中身を掛けることなく、桶と中身を先ほどまでいた部屋に叩き込んだ。
そして次の瞬間、今まで私たちがいた部屋に一気に炎が充満した。
それで私は理解しました、あの桶の中身は油だったのだと。
一瞬で隠し通路を見破り、それを利用できるように壁を壊す。そして、僅かなタイムラグを生じさせることも無く、蹴りの体勢のまま油を部屋に叩き込み、反乱軍の一人に付いていた火種を拡大させ、反乱軍を全て戦闘不能にする。中はほぼ密閉された空間だ、燃え移るのは一瞬だろう。少なくとも、足止めとしては完璧でしょう。
なんという、洞察力と判断力。そして、力と技を兼ね備えた人間なのだろう。果たして、果たして。このような人間が存在したのでしょうか。
私は、まるで御伽噺の中の英雄に出会った気がしたのでした。
そしてその考えは間違いでなかったことを、彼はこの先証明していくこととなる。今にして思えば、これが全ての始まりだったのです。
Side:銀也
結局、あのまま一瞬で火が燃え広がったのか、兵たちは追ってこなかった。その建物を出て、女の子(ソフィアというらしい。うん、名前はヨーロッパ系なのに言葉は通じるんだね。何か不思議だ)に誘導されるまま、俺は何か軍隊の野営地と思しきところに連れて来られた。いや、さっきの兵士やソフィアの服装といいこんな光景といい……何時代だ? いや、そもそもどこだよここ。
少し宛がわれたテント(天幕と言うのだろうか)にて待機していると、軽やかな足跡と共に金色の弾丸が飛び込んでソフィアにタックル、もとい抱きついた。
「ああ、ソフィア、無事だったのですね!」
目の前で抱き合うソフィアと、弾丸改め金髪と藍色の目をした美少女。この子も妙に美少女である。いや落ち着け、妙なのは俺の日本語だ。しかしビデオカメラが無いのが悔やまれる。携帯……は、ない。なにしろ部屋でゴロゴロしてたら俺Inアンノウンフィールド、だったしなあ。
「本当に良かった、良くぞ無事で……」
涙を流す金髪さん。本当に嬉しそうだ。うんうん、良かったねえ。もらい泣きはしないけど。男の子ですから、涙は見せません。意地があんだよ、男の子には! ……誰に言っているんだろう、俺。
「この方に助けていただいたのです、姫様」
……ほわっつ? ひ、姫様? なるほど……この金髪さんはプリンセスらしい。たしかに、なにかすごい気品っぽいものが漂っている気がしないでもない。ソフィアも似た感じだけど。
「そうですか、あなたが……。私の親友を救ってくださって、ありがとうございます」
礼を言われても、俺はソフィアに着いていっただけだし。むしろ、俺のほうこそ助かった。部屋がこんがり大炎上、エマージェンシー119コールしたのは偶然だし…………。
「いえ、俺は何もしてません。むしろ、助けられたのは俺の方です。それに、王族の方が、無闇に頭を下げるべきではないと思います」
何かの本で、指導者は頭を下げるなって書いてあった気がする。とりあえず、この言葉への対応でこの子が本当に姫様なのか確かめられるかも……。
「確かにそうですね。ですが、シェリス・シルヴィア個人としては礼を言わせてください」
決定、この人本物。良い子や……。俺の中の姫のイメージって、こう、高飛車で、「私のために死ねる事を光栄に思いなさい愚民ども!」って言ってる感じだったけど。こんな良い子が嘘を言っているわけが無い!
「では、その礼は、受け取っておきますね」
俺、何もしてないけどね。なんとなく、この姫は受け取るまで引き下がらない感じがしたので、一応受け取っておく。しかし、もっとこの姫とソフィアは再会を喜んでもいい気がしたので、俺は適当に野営地の見学の許可を取り、その場を去った。
空気が読める俺、カッコイイゼ。なんてね。
…………いや、それはともかく、ここどこだよ?
Side:シェリス
ソフィアが無事に帰ってきた。その知らせを受けた私は、いてもたっても居られず、天幕を飛び出した。そうして見たのは、少々煤や埃に汚れながらも、目だった怪我もないソフィアの姿。反乱軍にソフィアが追われていた、と聞いたときは血の気が引いたが、こうして無事で居てくれた。それが嬉しくて、ついつい落ち着きが無い行動に(王族があの行動は無いでしょう、私)出てしまった。
そしてひとしきり再会を喜び合ったあと、ソフィアを助けてくれたという、髪や瞳の黒と白い肌のコントラスト、中性的な顔立ちが美しい青年に礼を言った。
「いえ、俺は何もしてません。むしろ、助けられたのは、俺の方です。それに、王族の方が、無闇に頭を下げるべきではないと思います」
頭を下げる私に対して、青年はそう答えた。
明らかに彼が居なければソフィアは無事ではなかったというのに、「自分は何もしていない」という謙虚さ。公爵令嬢であるソフィアを救ったのだから、恩賞を請求することすら可能なのに。
そして、王族である私を、穏やかに諭すような発言。まるで、彼自身が王族であるかのような言葉の重さ。聞いたこともない言葉だったが、その言葉は偉人の書に記されていてもおかしくないほどの言葉だった。だからだろうか、ひどく自然にその言葉は私の胸に落ちた。
その後しばらく彼と会話をし、彼は行く当てもない人間(というか、ここがどこかも分からないらしい。更に言うなら見たこともない服装はともかくとして、裸足で居る人間は少々何か事情があるでしょうし)らしかったので、ソフィアも交えて話し合い、彼を保護することに決めた。仮に彼が何者であっても、親友が助けられた礼をしないのは王族としても人間としても許されることではない。
しかし本当に、彼は何者なのでしょう。どこから来てどのような人物で、何を考えているのか。会話をしていても時々はっとする様な事を言いもするかと思えば、少々常識はずれなことも言う。彼と言う人物がまったく掴めない。まったく分からないことだらけだけれど、それでもただ一つ思った。そしてそれはきっと、ソフィアと同じでしょう。
彼は優しくて、信じられる人なのだと。
もっとも、今はまだ――――完全に信じるわけには行きませんが。
はじめまして、Mikageと申します。
素人です。処女作です。文才無いです。よって駄文です。
それでも良いという方、どうぞ暇つぶしして行ってくださいませ。