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番外編1

 投稿遅れて申し訳ありません。今回の地震に伴う色々で手間取りました。

 このような時に小説書いていて良いのかなとも思いますが、出来れば自分達は普段どおりに(様々な意味でですね。物資をいつも以上に買わないことなども含めて)いようと思います。

 なので色々意見がある方はいらっしゃると思いますが……とりあえずはそういったことです。

「やはり活気があるな……良い街だ」

「そうだね。バリツの帝都はどんな感じなの?」

「ううん、そうだな……負けてはいないが、勝っているとも言い難いね。治安はあちらのほうが良いが、民の笑顔が多いのはこちらかな……」

 

 ああ、そういう視点で見るか。シンシアも次の統治に関係あるだろう人間だ、そういう視点で見てしまうものかもね。


「そういった統治者目線ではなくて……シンシア個人としてはどう?」

「私個人かい? …………なら、やはり慣れているからか、あちらのほうが好きだね。もっとあちらの方が空気がきっちりしているというか……」

「ふむ。シンシアは根っからの軍人気質なんだね」

「まあ、育ちが育ちだからね。……そういった女は嫌いかい?」

「大好きです」

「そ、そう……」


 目の前の皇女様は頬を染めた。照れ屋だねえ。そういうきっちりした芯の強い人は大好きなのですよ。

 今俺たちは二人で街を歩いている。ソフィアを含めたシルヴィア首脳陣は大会議中で、暇をもてあましたので出てきたのだ。俺は出なくていいらしい。ま、一応は他国の人間扱い? だしね。ただ、かと思えばソフィアが出ないような会議に出たりもするので……本当、立ち位置が良く分からない。

 ちなみにアーシェはお昼寝中。寝る子は育つのだ。


「……何か考え事かい?」


 シンシアの声に意識が浮上する。ううん、暇つぶしに付き合ってもらってるのにこういうのは良くないな。反省反省。


「ああ、ごめん。付き合ってもらってるのにね」

「いや、それは気にしないでいいよ。それで、何を考えていたんだい?」

「ううん、いや、なんというか……。自分の立ち位置をね」

「……ああ、なるほど。確かに君はよく分からない位置にいるね」

「そうなんだよね。安定しない居場所に、よく分からない情勢。頼れるものはなんなのか……」

「――――――――少なくとも、ソフィアは信じてあげなよ」

 

 急に真面目な顔と口調になるシンシア。その雰囲気に釣られて、俺も足を止めてシンシアのエメラルドの瞳を直視する。取り巻いていた喧騒が、どこか遠くなっていった。


「彼女は君を守ろうと必死だよ。公爵は娘を守るための駒と思っている部分が少しはあるだろうし、シェリスやルーミィ、ガルフ殿は立場上素性の分からないものは疑わなければならない。命を賭して戦った君としては腹立たしいかもしれないけれど……それでも、ソフィア以外の人は確かに君に完全に心を許しているわけじゃない」

「……そりゃあね。権力の中枢に位置する人間の周りに、正体不明の人間が出れば疑うものだろう」

 

 それが普通だ。それについては、別に腹立たしいとは思っていない。それはそれ、これはこれなのだ。異世界人と言うことを話さない俺にも非があると言えるだろうし。


「けれど、ソフィアは違う。彼女は全面的に君を信じている。彼女だけはきっと、君の事を丸ごと受け入れているよ」

「……それをシンシアが言う?」

「………………どういうことだい?」

「君だってさ。ソフィア並みに信じてくれてるじゃんか」

「ああ、そういう意味か。それはそうさ。命を助けてくれた相手をいつまでも疑うことは義に反するからね」

「…………その考え方は、少し危ないんじゃないかな?」

「それは分かっているさ。少なくとも、仕組まれたものについてはその限りではないよ」

「ならいいんだけど」


 俺は自分で言うのもあれだが、そういった……信頼や敵意といったものには敏感なのだ。シェリス様たちはなんだろう、敵意と言うには弱すぎるかな。警戒……というレベルでも最近はなくなってきた。強いて言うなら俺の素性などについて素朴な疑問を持っている……というレベルか。なんにせよ、そこまで強い敵意ではない。


 しかし、そうであっても……決して頼れるような味方ではない。少なくとも、俺にとっては。ソフィアが絡んできたりすれば話は別なんだろうけど……やれやれ。いっそシンシアが皇女であるバリツに亡命したほうが気楽かもしれない。コネと言うこともあるし、バリツの兵士の人たちはシンシアの命を救った(らしい)俺にはかなり好意的にしてくれているし。

 まあ、多分ソフィアがいる限り俺がシルヴィアを離れることは無いだろうけれど。

 

「それはそれとして……人目はどうにかならないものか」

「無理だろうね、こればっかりは。君は一般兵士や市民から絶大な支持を持つ『黒曜卿』だし、私は私で同盟国の王女であると顔が知れている。流石に注目されないのは無理と言うものだよ」


 苦笑した後、訓練ごっこでもしていたのだろう(あるいは本気で訓練していたのか)、木剣を持った少年少女達にシンシアが手を振った。すると子供達が大喜び。


「武を志す人には大人気だね、シンシア……」

「あはは、こんなのでよければいくらでも見本にしてくれ。ほら、君もやってみるといい」

「ほむ……?」


 俺がやっても……ねえ? 誰だあいつ、ってなるだろうに。


「いいから、ほら」

「ううむ……ほいさ」


 真似してみた。すると今度は更にえらい勢いで嬉しがり始めた。ええ、これは一体……?


「君は君が思っている以上に有名だよ。一騎打ちでヴィロゥ将軍を破った実質最強の将だとね」 「ええー……」


 過大評価にもほどがある。あれはまあ、なんというか……一時的な暴走と、被害を受けた草原のアシストによるものだ。


「そういえば……その、答えづらいことなら答えなくても良いのだけれど……」

「ん? なに?」

 

 そこでシンシアはしばらく躊躇う様な素振りを見せた。


「……君のあの、将軍との戦いで見せた魔力は…………」


 来たか。

 正直、今まで突っ込まれなかった方がおかしかったのだ。あれは、一応自分なりに発動条件が分かっているような気がするけれど……シンシアが聞きたいのはそういうことじゃないだろう。

分かっていることは話すべきなのかもしれない。けれど……


「ごめん。言いたくない」


 我ながら驚くような硬い声が出た。けれどそれは当然だ。あんな……あんなモロに中二病なものについて説明するなどっ……! 


「す、すまないっ……」


 それによってシンシアが気まずそうな顔をしている。本当にごめん。けどあればっかりは…………。



 何故俺にあんなものがあったのかは不明だ。だから答えたくないというのも正しいし、答えられないとも言える。ただ分かっているのは、あれは俺が嫌な想像をした時……それも、相当に精神的ダメージを負うような代物によって発動するようだということだけ。    

あれは確かにかなり強力そうで、使えれば相当に戦力の強化が見込めるだろうけれど……。

 (そんな身を切るような真似できるかよ…………)

 真性のどMでもない限り、あんなのはごめん被るだろう。半端じゃないのだ、あの精神的ダメージ。陰鬱な気持ちと激しい鼓動をしばらく引きずってしまうほどに。元々俺は精神的には打たれ弱いのだ……勘弁してください、本当。


 これならいっそ煩悩で強くなるゴーストスイーパーの能力の方が、個人的には羨ましい。

 ただ、もし本当それを使わなければならないのなら――――それを使うことに躊躇いは無い。上手く想像できてしまえばの話ではあるが。そうなると普段からそういったイメージトレーニングをしておいたほうが良いのだろうか。こんな自爆能力をいつでも使おうと思えば使えるように……か。そうなると毎日毎日甚大な精神的ダメージを受ける必要が……? それもそれで…………ねえ?

 はあ、とついため息をひとつ吐いてしまった。それは喧騒に紛れて、消えていった。


 正体が分からない、反乱軍の背後に居た敵。安定しない居場所に、精神を削る発動困難な、切り札とはいえない不確定な手札。そして隣で沈んでいるシンシアへのフォロー。やることや考えるべきことは山積みだ。


 とりあえずは……最後のものから片付けますか。










 王都の中心に位置する庭園では、多くの人が思い思いに平和を満喫していた。出来ればこの光景が日常になってくれればいいと、切に思う。それがきっと、死んでいった兵達の望みだろうから。反乱を起こした貴族? あんなやつらの願いなど知らんよ。俺は誰かの思いを踏み躙って、誰かを幸せにすることを選んだのだから。敗者には文句を言う権利が無い。そしてそれは、いつか俺が敗者になったときにも当てはまることだ。そんなのは御免だ。だから俺は俺が敗者にならないために、俺が文句を言いたくなるような未来を生み出さないために、今までも殺して――――そして、これからも殺し続けるのだろうか。


「……ねえシンシア」

「うん? なんだい?」


 隣で自然が溢れる光景を優しげに見詰めるシンシア。彼女もまた、この世界での俺の大切な人で、幸せになって欲しい人の一人だ。


「シンシアは、今…………幸せ?」


 唐突な俺の問いかけ。なんかあれだな、「あなたの幸せを祈らせてください」というような宗教勧誘?を思い出した。怪しいな俺……。


「そうだね……概ね、かな」


 少し頬を染めながら、悪戯っぽく笑ってシンシアは答えた。……い、今、ハートにキュンって来た! 元が異常に良いだけに、この破壊力。シンシア……恐ろしい娘ッ……!!









 気を取り直して。概ねとはどういうことだろう?


「何か足りないものがあるの?」

「ああ。大抵の人がきっと、皆して欲しがるものだよ」

「へえ……。正直な話、シンシアは大抵のものを手に入れている気がしたけど」


 優れた容姿、高貴な家柄。武の才能。この世界なら、完璧といえるのではないだろうか。気を許せる友人は少ないかもしれないけれど……シェリス様にソフィア、ルーミィだっているだろうし。

 まあ、人それぞれ幸せは違うだろうしね。シンシアには欲しい幸せがまだあるというだけなのだろう。


「そっか、まだ欲しいものがあるんだ」

「うん、まだあるね。あと一つ」

「そう。それって何か、教えてもらうことが出来る?」

「ううん…………。まだ、決心がつかないから内緒だ」


 決心とな? ううん、予想もつかないな。まあいいけど。


「もしさ」

「うん?」

「もし、それの為に俺に出来ることがあったら言ってよ。出来るだけのことはするから」


 その、自分でも少々気恥ずかしい発言に――――シンシアは噴出した。


「うう、確かに自分でもクサイ台詞ではあったと思うけど、そこまで笑わないでよ……」

「い、いや、すまない。あはは…………」


 そうして、しばらくシンシアは笑い転げていた。あー恥ずかしい…………。

 ただ、気恥ずかしいけれど、これは本心だ。シンシアに限ったことではなく、俺の周りに居る人たちには幸せになって欲しい。

 そして欲張りかもしれないし、そんなことを願う資格があるとは思わないけれど、それでも俺は先程も思ったとおり、こうも思ってしまう。

 俺が踏み躙った、(あくまで善良な)人たちの願いも、出来るだけ叶ってくれと。


 夕日が世界を優しく照らす中、シンシアがそろそろ帰ろうといった。俺はそれに頷いた。黄金色の庭園の出口で、俺は一度だけ振り返った。












 庭園に溢れる平和な光景を目に焼きつけ、願う。



 願わくば――――この平和のために犠牲になった人たちの命の対価として相応しい世にならんことを。




まあとある日の一コマ、ですね。次はソフィアverも書きたいな……。

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