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第1部最終話:麗剣帝

これにて第1部閉幕。

 反乱は終結した。これにより、シルヴィアの止まっていた時間は動き出す。

 しかし戦士達には休息も必要だ。今しばらくは時間が止まったまま、国は勝利の美酒に酔うことになるだろう。


 しかし、それはあくまで兵士や民のみ。統治する側の人間達は、既に次を見据えて動き出していた。













「――――以上です。このように明後日には、陛下はシェリス様に帝位を譲られることとなります」


 シルヴィア王都。王の居城の会議室では、これからの国を担う中核の人間が一堂に会していた。

 各大臣や今回王家側についていた上級の貴族達。現在はライトアーシェント公爵が進行役となり、禅譲についての議論が行われていた。


「ご苦労様です、公爵。何か質問や異論のあるものは?」


 次の王――――私の言葉に対して、一つ上がる手があった。


「…………どうぞ。ジグラット伯」

「は。やはり、ヴィロゥ将軍と暗殺者の恩赦には、納得がいきません!!」

「……何度言えば良いのです? それについては、もう決まったことです。暗殺者の少女は洗脳されていましたし、将軍は情報をこちらに流すために向こうについたに過ぎない。これでどう彼らに罪を問えというのですか」

「しかし! それでもやったことがやったことです!」

 

 はあ…………。

 私は表情に出さず、心中でため息を吐いた。公爵も無表情だが、あれは相当に苛々しているだろう。ガルフやルーミィは目を瞑って腕を組んでいるが、爆発寸前なのは明らかだった。

 このジグラット伯は、正直相手側についてくれたほうが有難かった。百害あって一利なしを地で行く人物なのだ、実際。今回だって、まっとうなことを言っているように聞こえても、心の中では軍権の多くを陛下から預かっていたヴィロゥが妬ましくてしょうがないのだろう。


「兎にも角にも! 将軍だけでも処刑すべきです!! 示しがつきませんぞ!」


 将軍に対象を限定している時点で貴方の内心は明白です愚か者! そして示しがつかないのは貴方の態度ですこの低脳――――! 既に決まったことに対して、真に国を思ってならともかく、己の自尊心を満足させるためだけにぐちゃぐちゃと――――――――!!


「……………………はぁ」


 しかし、その良く動く舌は、一人の少年が漏らした多分に苛立ちを含んだため息によって凍りつくこととなった。

 全員の視線が、そのため息の主に注がれる。言葉すら発することなく邪魔者を黙らせたその少年――――ギンヤは、静かな声でゆっくりとジグラット伯に言葉を放った。


「…………少々落ち着かれたほうがよろしいかと」

「くッ…………」


 その声は、決して大きくは無かった。しかし、その普段より低く怒りを孕んだ声は、口だけの小心者を屈服させるには十分だった。

 当然だ。他人を羨んで、血統を自慢することだけを考えてきた人間と、常に最前線で戦って勝利を収めてきた、反乱鎮圧最大の功労者とでは、立っている場所が違いすぎた。


「……では、この件についてはもうよろしいですね?」

「…………はっ」


 随分と苛立たしげな様子を見せる伯爵だったが、その場にいる伯爵以外の意見は一致していた。

 即ち――――『苛ついているのはこちらだ』と。

 結局そのあとは順調に進み、明後日に正式に帝位譲渡、ということとなった。

 ギンヤは、伯爵を黙らせた後は、口を出さずに目を閉じていた。何も言わなくても、私たちが助けて欲しいときは助けてくれ、大丈夫と思ったら見守ってくれる。自身はシルヴィアの人間ではない、だからこそ、これには余り口を出さないほうがいい。そう聡明なギンヤは考えたのでしょう。ここまでの姿を見せられて、もう彼を疑う必要は無いのかもしれませんね……。

 とりあえず……よくやってくれましたギンヤ。








Side:銀也


 うう……ああ……眠い、疲れた……死ぬ…………。

 いくらなんでも……スパルタすぎるよ……将軍……………………。鍛えてくれとは言ったし、それなりに覚悟はしていたけれども…………人間には物理的限界があってですね…………。

 俺は今……なにやら重大な話し合いの席に……います…………。今の俺は…………かなりのグロッキー状態で……かゆ……うま…………じゃなくて…………辛いです…………。

 そんなときに……ヒステリックに叫ぶおっさんとか……もう……勘弁してくだしあ……。

 ため息も……出てしまうというもの……だって……男の子だもん…………。


「はぁ……………………」


 おお……? なんか黙ったぞ……やったね……。勝利ッ……! 圧倒的……勝利ッ…………! 何に勝ったのかとか……お前が一体何をした、という意見は無視して……この機会を逃さず……諭すのだギンヤ…………!


「…………少々落ち着かれたほうがよろしいかと」


  やった……。黙った……! 俺は……自由だ……! さあ……後は、話をまともに聞ける状態じゃない俺を邪魔するものは無いだろう…………。俺は、運命に勝ったのだ……!


 じゃあ……俺は寝ます。おやすみ…………。ごめんなさい……真面目な話し合いで……洒落にならないことは分かってるんだけど…………意識が保てません……お許しを…………!





 




 結局、会議終了直前に俺は目を覚ました。そのまま解散した流れで、ソフィアとシンシア、アーシェのところへ向かう。最近は4人でお茶をしたり町に出たりすることが自然になっていった。

 ソフィアやシンシアは、妹が出来たようだと喜んでいた。皇帝の命を狙った元暗殺者だと知っても、態度が変わることは無かった。まあ、洗脳されていたことにしてあるしね。

 それに、事実今のアーシェにもう殺意は無いし。無害な存在……どころか、暗殺者やら罠やらにやたら敏感な、一種の猟犬と化している。超絶ハイスペック裏工作カウンターヒューマンウェポンアーシェ。語呂悪いけど、マジぱねぇです。

 彼女が早々に馴染んだ理由としては、まだ10歳くらいの子をそうそう憎み続けられないというのもあるだろう。お菓子をはむはむ食べる姿に、あのシェリス様やルーミィすら溶けていたからなあ。萌えは世界を救うね、うん。

 そんなことを考えていると、皆が集まっている場所にたどり着いた。


「やっほー」

「あ、おかえりなさいギンヤ」

「遅かったな。会議が長引いたか?」

「ああうん、そんな感じ」


 実はほとんど聞いてなかったから……内容あんまりわかんないや♡


「…………おかえり」

「はい、ただいま」


 駆け寄ってきて、ぽふ、と足に抱きついてくるアーシェ。何この可愛い生き物。

 ちなみにアーシェ、というのは元の世界で言うタンポポのことを言うようだ。灰色の髪はともかく、金色の瞳は確かにそれっぽい。ちっこくて可愛いし。


「……それで、どうなったギンヤ?」

「シェリス様の即位式は明後日。予定に変更は無いよ」

「……そうか。彼女も、本当の意味で国を背負うのだな…………。私は弟が居るし、私自身がそういった立場になる可能性は少ないだろうな」

 

 何やらシンシアが感慨深げだ。ううん、けどそれはちぃと違いますぜダンナ。


「国はみんなで背負うものだと思います、シンシア様」


 ソフィアに一票。何も、一人が全部背負い込むわけではないんだ。

 王様をみんなで支えて……それがきっと、家臣とか、そういった人たちなのだと思う。


「……そうだな。その通りだ」


 柔らかい表情で、シンシアはアーシェの頭を撫でた。くすぐったそうだが、アーシェも僅かに頬を綻ばせる。

 それにソフィアの手が加わった。俺の手も加わった。

 今度は、アーシェもはっきりと微笑んだ。













 新皇帝即位当日。群集が押し寄せる中、ついにその人が姿を表した。

 被った王冠よりも豪奢な金髪を靡かせ、一歩一歩威厳に溢れた姿勢で歩を進める。藍色の瞳は真っ直ぐ前を見詰め、国のあるべき姿を映し出していた。

 爆発していた歓声は、彼女が姿を現した途端に一瞬で静まった。彼女が掲げた右手にあるのは、王家に伝わる宝剣、天剣「シルヴィアエッジ」。磨きぬかれた白銀色の刀身が、光を反射し煌いた。

 そして頭上に掲げた剣を、右斜め下に振り下ろし、新皇帝は誓いの言葉を紡いだ。









『親愛なる我が民の皆……私が、新皇帝シェリス=シルヴィアです。

 いまだ一人前とは言えぬ私が帝となることに、不安を覚える者も少なくないでしょう。

 確かに私は、未熟な身です。色々と至らぬ点もあるでしょう。

 しかし私は、それを許してくれとは言いません。

 要望があれば、設置された上申箱に投書しなさい。

 不満があれば、堂々と意見しなさい。

 私が失敗を犯したのなら、大声で罵りなさい。

 あなたたちの夫を。子供を。戦争に引きずり出すときには、この命すら狙いなさい。

 それら全てについて、私は決してそれを罪には問いません。

 それら全てを受け止め、私は平和をもたらしましょう。

 わが身朽ちるまで――――髪の毛の一本から爪の一枚まで、我が愛しきシルヴィア、そして我が愛しき臣民に捧げましょう。

 皆の幸福と安寧を実現することを確約し――――ここに私は即位を宣言します』




 シルヴィア暦138年、5の月太陽の日。

 第5代皇帝、『麗剣帝』シェリス=シルヴィア即位。

 後にシルヴィアの金剛統治時代と評される、平和な時代が幕を明けた。





 しかし、その平和に至るには――――多くの犠牲を必要とした。








最終回っぽい……? いえ、まだ続きます。

しかしある意味での1区切りですね。

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