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第12話:上を向いて歩こう。

本当に何を書けばいいんでしょうね。

「はぁっ、はぁっ、はあっ……! ぜぇッ……!!」


 門から入るのももどかしく、城の壁を突き破ったあげくに中の壁すらブチ破って俺は皇帝の寝室に突入した。騒ぎを起こしてしまったことについては申し訳なく思うが……それでも、結果的には皇帝を救えたので、そのあたりはせめてプラマイゼロにして欲しい。


「お、おお、助かったぞギンヤ君……」

「い、いえ…………」


 しかしギリギリだった……暗殺者がまさに皇帝に襲い掛かっているところに俺は突入した。その勢いでナイフを振り上げていた暗殺者に偶然突撃、結果的に一撃ノックアウト。しかし、もしこの突撃が皇帝に当たっていたらと思うとぞっとした。人間、焦っても常識は投げ捨ててはならないな…………。


「お、お怪我はありませんか…………?」

「ああ、おかげでなんともない。本当に助かったよ……」

「し、しかし、警備体制は、見直したほうが良いですね……」

「……まあ、今は反乱もあって戦力が分散してしまっているからな。ある程度ここが手薄になるのは仕方あるまい。既に私よりもシェリスのほうが重要人物だしなぁ」

「そ、そういう問題じゃ、ねーでしょう…………。もっと、自分を大切にしてください……」


 本当に頼むから。そしてようやく衛兵たちが騒ぎを聞きつけてやってきたようだ。


「城内、警備薄いよ、何やってんの!!」

「も、申し訳ありません!!」


 ついつい衛兵たちに某艦長のノリで怒鳴ってしまったが……今回ばかりは許されるだろう。


「た、頼みますよ、本当に…………! っていうか、なんで扉の前に警備がいないんですか! おかしいでしょ!?」

「は、はい!」

「ああ、まあその辺りで抑えてくれギンヤ君。とりあえずそこの少女が私の暗殺を実行しようとした。牢に入れておいてくれ」

「か、かしこまりました!」


 そして暗殺者の少女を縛り上げて、数人の衛兵が連れて行った。今は衛兵が二人、俺と皇帝が部屋にいる。


「……はあ。まあ、とりあえずは、ご無事で何よりです…………」

「……ああ。重ねて礼を言う。ありがとう」

「はい。……まあ、次からは警備に期待と言うことで……」


 一件落着して気が緩んだせいか、急激に疲れが押し寄せてくる。

 (あ、まず……)

 意識を保てない。視界に靄がかかる。

 (魔力切れかぁ……)

 ……まあ、本当に今回は頑張ったし。もう、ゴールしてもいいよね……。

 (とりあえずは、皇帝の無事を喜ぼう……。それに収穫もあったし………)


 分かった気がするぜ、黒い魔力の発現条件…………。

 (けどとりあえず、今は…………)


 全てを後回しにして……眠ってしまおう。


 (おやすみ、なさい…………)


 お疲れ、俺。


 暗転。



 


 5日後。


 シェリス様たちが王都に凱旋してきた。既に使者を出して皇帝の無事は伝えてあるので、心配事が無くなったシェリス様は堂々とした態度で帰還した。

 (……シェリス様は自分をまだまだ未熟とは言っているけれど。実際大したものだよなあ……)

 俺より1つか2つしか違わないだろうに……あの姿勢。まさしく王にふさわしいだろう。

 (こっちの人たちは凄いよなあ……)

 自分のやるべき事を、全身全霊でこなす。本来は、至極当然のことなのだろうし、こちらの皆はそれをやはり当然と捉えていて、自分が凄いとか頑張っているという意識はないのだろう。けれど……。

 (カッコいいなあ、ちくしょう…………)

 自分のやるべき事に真剣に向き合う姿は……こうもカッコいいものだったのだろうか。


 自分を封じ込めて、善政を敷いていた皇帝。

 それを受け継ぎ、また発展させるべく常に国と民の事を考えて努力するシェリス様。

 それを全力で支えるべく奮闘するルーミィやガルフさん、公爵。

 俺としてはやり方自体は認められないけれど。自身の命と、それより大切な名誉を投げ捨てて……反逆者と言う汚名を背負ってまで国に尽くそうとした将軍。

 友と自国の為に、皇女と言う立場でありながら、常に自身の命を賭して最前線で戦うシンシア。(これは少し自重しろ、と思わなくもないが)

 今はまだ、実際に何かは出来ないけれど……それでも人一倍の優しさで民のことを考えるソフィア。

 いや、向こうの世界でもそんな人はいたか。幼馴染の詩織はシェリス様のように努力していて、その姿が凄く魅力的だった。


 (俺もああなりたい。こんな皆と対等なんだと、胸を張れるくらいになりたい)

 俺が出来ること。そんな本気で頑張っている人たちを、支えるために出来ること。

 (……………………とりあえずは)

 強くなりたい。精神的にも、肉体的にも。どこまで出来るかはわからないけど、でも…………。

 俺も、自分のやるべき事に、真摯に向かい合おう。

 (そうなると……ここはやっぱり覚悟決めるか)


 俺はシェリス様たちに歓声を上げる民衆の中から出て、目的となる場所に向かった。

 いい加減、前に歩き出すために。











「…………やれやれ。それで、後はゆっくりと余生を楽しもうと思っていた俺を卿は引っ張り出したわけだな?」

「ええ。そっちにとっても、国にとって使える人間が増えるのは悪いことじゃないでしょう?」

「やれやれ、存外強かだな。いや、今更か…………」

「……それについては反論したいところですが……まあいいです」


 姿勢を正し、しっかりと前の人物を見据えて協力を要請する。


「俺の願いの為に……俺を鍛えてください、ヴィロゥ将軍」

「――――いいだろう。だが、甘くはないぞ?」

「望むところです」

「そうか。ならば、俺が持つ全てを卿に伝えよう。しかし分かっているな?力は所詮――――」

「力に過ぎない。そして武を振るうものは、自身が相手を力で屈服させ、自身の願いを押し通す――――最低な人間になることを覚悟しなければならない」

「そうだ。極端な話、力ずくで女を犯す男。数を頼りにして弱者をいたぶり、自らの欲望を満たすもの。俺たちはそやつらと同じ人種なのだ。力で欲望を押し通す――――そんな薄汚れた存在だ。

それでも、それを理解したうえで、尚この道を進むというのだな?」

「はい。それが、俺が選んだ道です」

 

 じっと、強い目でこちらを見下ろすヴィロゥ将軍。その威圧感に下がりたくなるが――――だけどここは、抗う場面だ。

 

「決して、その力によって屈服させられたものは、卿を許しはしないぞ?」

「もとより、許しなど請うつもりはありません」

「そうか。ならばその在り方は――――」

 

 ええ、分かっています。

 訳の分からないまま、こちらの世界に放り出されて。一人の女の子に出会って、人の命を奪って。その殺人に感謝されて。

 守りたい人たちが出来て。助けたい人たちが出来て。俺が心からやりたいと思うことが出来た――――。

 だから、一歩を踏み出そう。道は既に決まったのだから。ならいい加減、歩き出さなきゃいけないんだ。


「『悪』。俺は、悪で構いません。恨みからも怒りからも憎しみからも、もう俺は逃げません。

流れる血と奪う命を対価とし、俺は自分の満足を得ます」

「その意思、確かに承った。ならば俺は、卿から剥奪する光を代償に――――――――


――――――――自身の欲を力で満たす、悪として卿を造り上げよう」


 そして、剣と拳が交わった。






 それは、一つの醜悪な誓い。

 ある屋敷の中庭で行われた、人でなしたちの約束。

 血で汚れた師匠と、血で汚れることを望む弟子の誓い。

 力ですべてを押し通す――――そんな存在をまた一人生んだ瞬間。

 そんな醜悪な契約の儀式を囲む景色は――――――――皮肉にも、優しい光と緑で満ちていた。









 ――――――――こうして。


 俺は光を差し出して、その代わりに力を求めた。


 血を流させて血で汚れ、そしてその代わりに血を流させない、そんな存在になろうとした。


 傷つけることを、壊すことを、殺すことを躊躇わない。だけど傷つけさせない、壊させない、殺させない――――そんな矛盾した存在になろうとした。


 悪で構わなかった。存在価値など無くなっても良かった。


 俺自身が、俺が最も嫌う存在になっても――――それで良いのだと。


 それが望んだことなのだと――――醜悪な俺は胸を張った。

 それは嫌だと――――汚れたくない俺は首を横に振った。

 それを実現させるのだと――――醜悪な俺は叫んだ。

 そんなことはあってはならないと――――汚れたくない俺は呟いた。



 もう戻らない。これが俺の道だ。

「その通りだ」と――――2人の俺が同時に笑った。









「…………それで、この状態ですか?」

「少々張り切りすぎましたな。ははは」


 正式に恩赦を告げるために軟禁中のヴィロゥ将軍を訪れた私たち(私、ルーミィ、陛下)は、地面にうつ伏せに倒れて痙攣している黒い鎧を見ることとなった。


「う……腕が……感覚、な……もう、む…………」


 助けを求めるように伸ばされた右腕は、ガクガクと震えている。というか全身がガタガタピクピクしていて……なんというか、正直…………。


「面妖な…………」

 

 隣のルーミィが漏らした呟きに、私は心中で盛大に頷いた。


「あかん……ほんまにもうあかん…………いってまうでぇ…………」


 よく分からない言葉を呟きながら、ギンヤは震え続けている。陸に打ち上げられた魚を髣髴とさせる黒い鎧は、事情を知らないものが見たら衛兵を呼ぶこと間違いなしの怪しさを放っている。一瞬ルーミィは剣を抜きかけていましたし。


「ほれほれ、どこに行こうというのだ? そこに行くのは置いておいて、とりあえず次のメニューだな。ほれ、立て立て」

「お、おおう………………」


 フラフラビクビクしながら立ち上がるギンヤ。う、動きが、気持ち悪…………。


「……シェリス様。御気持ちは分かりますが、さすがにそれはこやつが不憫ですぞ」


 私に向かって、ヴィロゥが諭すように言った。た、確かに、失礼かもしれませんが……。


「ほれ、次は持久走だ。とりあえず王都の周りを10周。行って来い」

「ういーっす…………」


 おぼつかない足取りでギンヤは走り出した。先ほどまでの様子では、王都を10周というのは無理なのでは……?


「……出来るのですか?」


 ルーミィも同じ疑問を抱いたようだ。


「いえ、無理でしょう」


 即答だった。


「……無理なことが分かっているのに?」

「限界だと思ったところからが真の鍛錬なのですよ。さて、アーシェ」

「…………なに?」


 ヴィロゥの声に答える幼い少女の声が、背後から聞こえた。 え、な、いつの間に背後を!?

 ルーミィもまったく気付かなかったようで、動揺を露にしている。そんな私たちに目もくれず、ヴィロゥはアーシェという少女に言った。


「ギンヤは7周くらいで倒れるだろうから……見ていてやってくれ」

「! …………分かった」


 そして次の瞬間にはいなくなっていた。灰色の短いツインテールの少女の影は、既に無い。


「…………今の少女は一体……………………?」


 なんという隠密行動能力だろう。あのような人間は見たことが無い。


「先ほどの子は、私を暗殺しようとした子だ」

「「なあ…………!?」」


 陛下の言葉に、ルーミィと二人して絶句した。い、今の子が……!?


「反乱に関わったもので、現時点で生きているものについては恩赦。そうなると、あの子も該当したのだよ」

「な、なるほど……」


 し、しかし……。


「まあ、良い子だぞ。あの子は、暗殺者として育てられた、普通の子だ。まあ最も、ギンヤ君に懐く速度は異常だったがなぁ。彼は子供に好かれるようだ」

「そうですか…………」


 色々と言いたいことはあるが……正直、殺されかけた陛下が孫を見るような目であの子を見ているので、もう何も言えません。

 そして私たちは、そのアーシェと言う子に連れられた衛兵達が倒れたギンヤを運んでくるまで、談笑していたのだった。



 ――――――――なんなのでしょうね、この状況は?

強化フラグ。けれど、そこまで強くはなれません。それをしてしまうと、勘違い要素が……。ああけど、政治的なもので勘違いさせればいけるか……?

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