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第7話:はじめてのおつかい、はじめてのおるすばん

とりあえず一応は、銀也君の近接能力発揮の回。

彼も地道に強くはなるんです。

 要塞内のお留守番と治安維持を任されました。銀也です。

 いや、実のところは敵が攻めて来たんだけどね? 先日の自爆によってまだ体が本調子でないと判断された俺は、シェリス様に留守番を言い渡されました。

 それはともかく、今俺は街に居る。理由は服とか色々な日用品の買出しのため。

かなりの量になってしまったので、城まで届けてくれるとの事。まさかこの時代に宅配サービスが存在するとは。いや、世界違うから厳密には過去じゃないけどさ。











「ここはどこだ」


 迷った。気を抜くと、すぐこれだ。まあこの世界での「ぎんやくんはじめてのおつかい」だ、この程度は許容範囲だろう。ちなみにあの番組、あの年頃の子供を持つ親は泣きながら見るらしいね。真偽の程は定かじゃないけど。

 まあいい、適当に物音を探しながら歩くさ。特に何時までに帰って来いと言われている訳でもない。護衛としてそれどうなのよという声が聞こえてきそうだが、ソフィア自身にしばらく危ないことはするな、と言われてしまっているので、護衛すらさせてもらえないのさ。鍛錬は「仕方ない人ですね……」って感じだったけど。個人的にはソフィアが傷つけられると俺の精神がその倍は傷つくので、護衛していたいのだが。


「しっかし、何というか…………」


 今の俺の状態を考えると、仕事してないのに給料を貰ってる状態だ。偶然シンシアを助けることになった時に謝礼として貰った金もジャラジャラある。金貨がザックザク。使い道がない。どうしようか。もっとお金貯めて何かしようかな。


 そんなことを歩きながら考えていると、なにやら物音が聞こえた。

 物音がするということは、きっと人が居る。やったぜ、この迷路から脱出だ! 

 そう思って、俺は音のする方向に駆け出した。

















Side:城下町のとある少女


 私と妹は、ある男に追われていました。

 名も知らぬ男。下卑た視線を向けながら、突如路地裏を歩いていた私たちに襲い掛かってきました。

 妹はまだ幼く、明らかに男の興味は私に向いている様子。せめて妹だけは守ろうと、妹に衛兵さんを呼んでくるように言い、私は一人で追われることを選択しました。きっと妹が衛兵さんをすぐに呼んできてくれるという希望を頼りに。





 しかし、そう上手くはいかず――――もともと男と女では、身体能力に差がありますし――――もう駄目なようです。ついに私は袋小路に追い詰められ、伸びてくる男の手を絶望しながら見つめるしかなかったのです。

 そんな時、男の後ろから誰かが駆けてくる音が聞こえました。衛兵さんか、と私は希望を持ち直したのですが。

 そこから出てきたのは、私より一つか二つ年下と思しき少年。今、男は獣欲によって狂っています。更に、男の手にはナイフ。関係ない人を巻き込むわけにはいかないと、大声を上げました。


「来てはダメ!逃げて!」


 しかし、現実は無情。むしろ私の声で男に少年の存在を認識させてしまった。自責の念と恐怖に駆られる私から目を逸らして、男はナイフを右手にその少年に襲い掛かり。


「――――――え?」


 男のナイフを持った腕が少年に防がれると同時に、男は顎に何か打撃を貰ったようです。そのままうめき声も上げず、地面に崩れ落ちました。目の前……というには少々距離がありますが、その少年を私は感嘆の意を持って見詰めました。ナイフを相手に、自分から飛び込むなんて……なんて勇気のある人なのでしょう。下衆が、と男に向かい吐き捨てるように言った少年は、私のほうに来て


「大丈夫ですか?」


 と、なんでもないように声を掛けてくれました。私はそれで、目の前の現実をようやく認識し――――助かったのだと思い、泣き崩れました。










 そうして泣き止んだ私に少年はハンカチを差し出してくれたり、背中をさすってくれたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれました。そして私が落ち着いた後、多くのバタバタという足音が聞こえてきました。衛兵さんが来てくれたようです。そうして妹を先頭に衛兵さんたちが駆け込んできて、目の前の光景に目を点にしました。そんな衛兵さんたちに少年は、


「あ、これ変質者、というかただの下衆です。牢屋に叩き込んでください」


 と言いました。すると、衛兵さんたちは、


「こ、黒曜卿!?」

「ではこれは、黒曜卿が…………」


 唖然とした様子で、男と少年を見比べます。しかし、この少年は「黒曜卿」という、どうやら身分の高いお方だそうです。


「……ああ、詳しい話は後で。とりあえずこいつ持ってってもらえますか? 見てると殴りたくなるので……」

「か、かしこまりました!」


 衛兵さんたちは一斉に敬礼し。男を連れて行きました。残ったのは私に抱きつく妹と私、そして「黒曜卿」というお方。その黒曜卿は、私に抱きついて泣く妹を優しげに見つめていました。気のせいでしょうか、その目には涙が光っているように見えました。

 見ず知らずの私を助けてくださったことといい、私の無事を泣きながら喜ぶ妹を見て目に涙を浮かべたり。なんだか、凄く優しい方みたいです。

 いけない、お礼を言うのを忘れていました。



「あ、ありがとうございました!」

「いや、城内で事件が起きた場合、今は私が責任を持って処理しないといけないので。やるべき事をやっただけですから、そこまで恐縮されても……」


 やはり、治安維持の責任者、ということはかなり地位の高いお方なのでしょう。

 しかし、「やるべき事をやった」なんて。貴族の方は、犯罪を解決する代わりに見代わりを求めることも少なくないのに、なんと高潔な方なのでしょう。


「で、ですが……」

「まあ、納得いかないのなら、そのお礼は受け取っておきますよ。さて、家まで送ります」

「い、いえ、そこまでして頂く訳には……」

「家に無事送り届けるまでが私の仕事です」


 あ、あう。折れてくれそうにありません。


「でしたら、御願いします……」


 本当にここまでして頂いて、なんとお礼を言ったらいいのか…………。



















Side:銀也


 声の発信源にたどり着くと、そこには何やら怯える少女と、ナイフ片手に息を荒げてその少女を追い詰める男という図。

 ええー、もしかして俺、事件現場に遭遇ですか? えっと、「家政婦は見た!」じゃ、なくて。

 「姉さん、事件です!」って、ボケてる場合じゃない!

 幸い変質者の注意はこちらに向いている。ついでに敵意とナイフもね! 街中で危ないもん振り回してんじゃねぇよ!ここは路地裏だからいいとか、そういう問題じゃないんだよ!


 ナイフが真っ直ぐ俺の顔面目指して突き進んでくる。舐めんな、こちとら道場で散々師範に武器格闘仕込まれてるし、実際に訓練された兵士とも命の取り合いしてんだ。もう今更ごろつきのナイフ如きじゃ緊張すらしないっての。
















 ごめんなさい、嘘つきました。流石に恐怖は感じます。

 振り回されたナイフではなく、前に飛び込んでそれを持つ腕を左腕で防ぐと同時、顎に前進した勢いを乗せた右掌底を叩き込んだ。クラヴマガという護身術のバースティングという技術だ。攻防一体は理想だよね。

 いい具合に入ったようで、男はうめき声も上げず崩れ落ちた。ひょろひょろして身長が俺と変わらないくらいの男だったので、ウエイト差は明白だった。だからこそ一発で失神させることが出来たのだけれど……これが大柄な男だったらこううまくはいかなかっただろう。

 あーよかった。格好付けといて負けてたら、俺かっこ悪すぎるわぁ。それにこの女性を軽んじるわけではないけど……今のところソフィア以外を守った結果で死ぬつもりはない。

 しかし、なんというか……


「下衆が」


 女性を無理矢理手篭めにしようとか、死刑でいいと思う。今回は現行犯だから、冤罪の可能性ゼロだし。

 まあなんとか女性が泣き止むのを待っていると、衛兵さんが来たので、引き渡す。

 ていうかやめて、「黒曜卿」とかマジ止めて。去り際に「流石黒曜卿だ……」とか呟いていかないで。 泣きそう。っていうかもう既に俺涙目なんだけど。黒歴史を思い出させるな。


「あ、あの……」


 んお? 何か被害者が話しかけてきた。


「あ、ありがとうございました!」


 90度に綺麗に曲がったお辞儀をしてくる。腰痛めそうだけど大丈夫かなあ。


「いや、城内で事件が起きた場合、今は私が責任を持って処理しないといけませんから。

やるべき事をやっただけですので、そこまで恐縮されても……」

「で、ですが……」

「まあ、納得いかないのなら、そのお礼は受け取っておきますよ。さて、家まで送ります」

「い、いえ、そこまでして頂く訳には……」

「家に無事送り届けるまでが私の仕事です」


 家に帰るまでが遠足です!って訳じゃないけど。いや、俺自身人のいるところに行きたいし。


「でしたら、御願いします…………」


 よっしゃ、ミッションコンプリート!















 そうして何とか城までたどり着いた。長かったぜ……。しかし流石異世界、ただの買出しがナイフ相手の格闘になるなんて。

 兵隊の集まっているところに行くと、シェリス様やシンシア達が帰ってきていた。どうやら勝ったらしい。皆無事で良かった。


「あ、ギンヤ。何か変わったことはありませんでしたか?」


 いきなり答えにくい質問ですね、シェリス様。迷子になんかなってません。なってないったらなってない!


「いえ、特には」


 迷子になったことなんて言えるか!


「そう、ですか。ならば良いのですが……」


 よし。とにかく話を逸らせ。

 

「ええ、特にはなかったです。それで、シェリス様達はお疲れでしょう。あとは城内にいた人間に任せて、ゆっくりお休みください」


「…………そうですね。そうさせて貰います。では、御願いしますね。ルーミィたちもゆっくり休んでください」

「「かしこまりました」」

「そうさせてもらうよ」


 上はガルフさん&ルーミィ、下はシンシアの台詞。しかし、皆して何故苦笑しているのだろう。もしかして、迷子になったこと、ばれてる?


 そうして、皆は休みに行った。その背中に、迷子になった事がばれているのではないかという俺の心配の視線を受けながら。













Side:シェリス


 とくに大きな被害も無く、今回の戦いはこちら側の勝利で終わった。

 そして帰還した私達は、城内で何か無かったかを、担当の衛兵から受けた。


「そうですか、そんな事が……」


 暴漢が一人の少女を襲う事件があったという。しかしそれは、ギンヤによって被害が出る前に防がれたそうだ。


「報告は以上です」

「わかりました。ご苦労様、下がって良いですよ」

「はっ!」


 そうして私達は、当事者であるギンヤに何かあったかを聞いたのだが。

 

「いえ、特には」


 帰ってきたのは「何も起こらなかった」という台詞。はて……ギンヤが暴漢を退治したことを、なぜ隠す必要が?


「そう、ですか。ならば良いのですが…………」


 しかし、その疑問は、次のギンヤの一言で氷解した。


「ええ、特にはなかったです。それで、シェリス様達はお疲れでしょう。あとは城内にいた人間に任せて、ゆっくりお休みください」


 ――――なるほど、そういう事ですか。

 ギンヤは疲れているだろう私たちに、余計な心労を与えまいと、己が功績を挙げた事件さえも隠すのですね。私たちに言えば恩賞を与えられるであろう事はわかっているだろうに……それよりもそれを聞くことによって生じる私達の心労を気遣いますか。


「…………そうですね。そうさせて貰います。では、御願いしますね。ルーミィたちもゆっくり休んでください」

「「かしこまりました」」

「そうさせてもらうよ」


 ガルフやルーミィ、シンシアも答えに行き着き私と同じ答えに行き着いたようで、苦笑している。本当に、どうしてこの人はそこまで他者を優先するのでしょう。そんなことをされたら、王女としてまで彼を懐に入れてしまいたくなるというのに。それが狙いだとしたら、大したものです。


 そうして私達は、戦いの疲れを癒しにそれぞれの部屋へと向かった。 

 背中に、誰よりも優しい少年の、労わりが篭った心配の視線を受けながら。

 

次は、ソフィアも出しますね。

しかし一応ヒロイン候補なのに。

戦場に出るとソフィアは出番が無いので、日常パートで優先して出さないと……。

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