おかあさんがいない件
自宅近くの借りている駐車場での出来事です。
用事を済ませ、帰宅しようと車を駐車場に仕舞おうとした時でした。
私が使ってる駐車場の車止めに、子供がちょこんと座っていました。
ランドセルを背負い、何となく悲し気な雰囲気を持つ、少女のようでした。
頭が痛くなりました。
何故?
どうして?
何でだ!
空いている駐車場は他にもあり、寄りにもよって何で私が使っている駐車場の、それも車止めに座っているんだ?
近くには公園もあり、ベンチもあるのに。
私は思考する。
選択肢は三つ。
1.どういてくないかと声を掛ける。
2.無言で車を止める。
3.見なかったことにして、街を一周する。
4どうしましたかと、.声を掛ける。
1.は、何となく冷たいので却下。
2.は、事故になったらまずいので却下。
3.は負けたような気がするので、やはり却下。
となると、4.の声を掛けるしかないか。
私は道路に車を止め、少女に声を掛けた。
なるべく、静かに、落ち着いた感じで。
「どうしたの?」
少女は顔を上げた。
少女は車止めに座っていたので、一応少し腰を屈めたものの、それでも上から声を掛けることになった。
驚かなければいいと思うが、意外な返答に驚いたのは私だった。
「おかあさんいない」
「へ?」
「お母さんいない!」
いや、聞こえなかったんじゃなくって、と思うものの、こちらの返答を待たずに少女は畳みこむように話し始めた。
「わたし、すてられた」
「え?いや、そんなこと」
「すてられた!」
どうしよう?子供と話す際は否定はダメだけど、肯定も出来ない話しだ。
「わたし、いらないこなんだ」
「ええっと、ね」
「すてられた。わたし、いくとこないよ」
ああ、どうしたらいいだろう。
早く家に帰りたいのに、何でこんなことに。
だいたい、これは子供あるあるの話しだ。
親に捨てられた、本当の親じゃないという思い込みというか、妄想というか。
反抗期の前段階にある、自立心を養う通過点のようなものだと思うけど、それを何で赤の他人である私が悩まんといかんのだ?
「おかあさんいなくなった」
「そんなことは」
「いないの!」
「ああ、はい」
いかん、肯定してしまった。
さて、私は思考する。
1.逃げる
2.助けを呼ぶ
3.家に連れて行く
4.警察に保護してもらう
1.はあり得ないし、トラウマになる。
2.は、そもそも誰を呼べばいい?知らんよ、こんな時に頼りになりそうな人なんて。
3.は論外だ。未成年のそれも少女を家に連れ帰るなんて、一般的に誘拐になる。
4.も本来なら論外だ。警察を巻き込むなんて、きっと大事になるし、後でこの子は親に怒られるだろう。
「う~ん、う~ん」
私は腕を組み、うんうん唸ってしまった。
少女はこの人頼りないと判断したのか、また静かに俯いてしまった。
そんな悩んでいる時だった。
「あれえ、どうしたの?」
「あ、おばさん」
え?誰?
「どうしたの」
「おかあさんいない」
「あらあら」
「おかあさんにすてられた」
「あらあら」
このまま静かに消えたいところだけど、肝腎の駐車場に少女やプラスするところのいわゆるおばさんに居座られたままなんだけど。
それに何と言うか、疎外感が半端じゃないんだけど。
もしかして、私が見えないとか?
「あの~」
「ああ、はい」
「この子のお知合いですか?」
「お隣の子よ」
「ああ、そうでしたか。それは良かった」
本当に良かった。
「警察に保護してもらおうと思っていましたよ」
「何よ、大げさね」
「ええ、本当に」
ならさ、とっととこの場所空けてよと思ったけど、静かに待つことにした。
「じゃ、お母さん帰ってくるまで、家に行こうか」
「うん」
二人は手を取り合い、この場から立ち去った。
私は半ば茫然としながら、二人を見送ることになった。
「とりあえず、解決でいいかな?」
私は路駐してある車を駐車場に仕舞い、急いで帰宅することにした。
時期が冬とは言え、牛乳などを買ったので、早く冷蔵庫に仕舞いたかったからだ。
「なんか、疲れたなあ」
今日も日が暮れる。
そう感じた冬の、夕方での出来事でした。
あれから、少女は無事に母親と再会出来たのだろうかと思うものの、まあ普通に再会し、恐らくは言い合いになっているでしょう。
言ったの言わないだのと。
どうせ水掛け論になるでしょうが、それもまた、ひとつの経験になります。
報連相の大事さを、これで学んで欲しいと思いました。