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或阿呆の一日

作者: 後藤章倫

ー都会の子は鼠と闘うのだー


ボヤッと目が覚めると、遠くで汽笛が聞こえた。それは通学で使ってる一番列車のもので、それを布団の中で聞いた俺は、それに間に合う筈もなく、ラジカセの再生ボタンを押す。

「ドゴスカドゴスカゴーン、くぅおおおおぉぉぉ、やっぱ朝イチGBHは効くわぁぁ。にしても赤ちゃんとはいえ人間を襲う鼠ってどんなんや?」

とか思いながら頭も目覚めてきたんで二階の自室から下の台所へ行くと、テーブルの上に弁当が用意してあった。普通ならここで母ちゃんにクレームを入れる。

「なんで起こしてくれんかったんや?汽車に乗り遅れたやんけ!遅刻するやんけ!」

とか言ってたのは、もう数ヶ月前の事。

「何回起こしゃ起きるんじゃダボが、もう知らんぞ、勝手にせぇよ」

となった次第。しゃないから愛車MBX50で行くしかないやんけ。最寄りの駅から2キロ以内に自宅がある者はバイク通学が禁止されている。


ー「己は良いんかい」とは言えないー


だらぁ、つってブゥイーンとバイク走らす@田舎道。

「やっぱバイクはエエのぉぉ。ブゥイーン」

すると前にトロトロ走る250ccが見えた。

「なんやアレ?遅っ、まさかの法定速度ちゃうんかい?阿呆やなぁ、原チャで追い抜いたろケケケ」

ブゥイーンからブゥイーーーーーンとスロットルを回し、その250ccを追い抜き様に「亀ぇ」と叫んぶと、250ccのライダーがフルフェイスの中から睨みを効かせていた。スロットルを回す手がフニャっとなり減速。終わった。ライダーは生活指導の教師である谷口だった。

「おはよう。お前バイク通学の許可ないよな?」

「おはようございまする。ウィ、ムッシュ」

「なんでバイク乗っとん?」

「かくかく然々、なんか知らんけど今朝、汽車来たなぁて思ってたら、なんか知らんけど汽車が駅を通過致しまして、そんで、でも学校行かんなんしょ?寸でしゃゃないから、こうして嫌々ですねバイクで、はい」

「嘘こけダボ、ちゃんと駅に停まったわ、どうせ寝坊したんやろが、お前んちとうち近いやんけ」

つことはよ、あんたも最寄りの駅から2キロ以内やんけ!あんたはバイク良いのんか?

とは言えず、そのままとりあえず学校行って生徒指導室へ直行する羽目に。


ー廊下はよく滑りますー


生活指導の谷口は午前中、受持ちの授業がないらしく、俺に説教を重ねた。それから反省文も書かされ、何故か便所掃除までやらされて、生徒指導室から解放されたのは昼休み近くだった。

とりあえず自分の教室へ行き弁当を食う。食うとったら、どこから聞きつけたのかニヤニヤしながら俺のとこに数人が寄ってきた。

「おめでとう!停学やろ?謹慎何日や?」

みんな満面の笑みだ。そんな顔を見て、なんかやっぱムカついてきた。たーにーぐーちーのガキャー。とここで怒りを表してみても、谷口先生は生活指導部の中では若い方かも知れないけんど、柔道部の顧問であって到底太刀打ちは出来ない。

は!とそこで閃いた!

「な、ちとオモロイ事思い付いたんやけんど、プッ、やるやろ?」


昼休みも終わろうとしていた頃、校内放送がはいる。

ピンポンパポーン♪テニスコートの真ん中に250ccのバイクを止めた人、速やかに退かしてください。ピンポンパポーン♪

それを聞いた何人かの生徒がテニスコートに目をやると谷口先生のバイクがテニスコートの真ん中に鎮座していた。

ピンポンパポーン♪暫くしてまた放送。

「谷口先生、谷口先生、テニスコートからバイクを退かしてください」

職員室の窓から数人の教師がテニスコートを見ている。テニスコートからバイクのフロントが職員室を見つめている。気付いた谷口先生がテニスコートへ。笑いが止まらん、ケケケケ最高。

さてそれからブゥイーン!俺はMBX50で校内へ乗り込む。50ccなのに学校の中へ入ると、壁や天井に反響してエンジン音がゴツくなる。そして職員室前の廊下へ。

ブゥイーンブゥイーンとスロットルを捻っているのに、その音はブゥオンブゥオンと低音を響かせ堂々たるものだ。

「ではサイナらっきょ」

この廊下を突き抜け、そのまま帰宅。

するつもりだったのに、いざ走り始めると滑る。上手く進めない。それでもどうにか走行している時に職員室の入口の引き戸がガランと開いた。只でさえ走りにくい廊下なのに、職員室の引き戸が開いたせいで、そのままMBXで職員室へ突っ込んでしまった。終わった。←本日二度目


ーまっすぐな道でさみしいー


午前中よりもガチ目な説教を受ける。生徒指導室へと入って来たのは、先の谷口とシャガだった。シャガはヤバかった。入学当時、上級生がその先生の事を釈迦と呼んでいて、尊い方なのかと思っていたら、全然違っていた。釈迦ではなくシャガ。何故にシャガかと言うと、ちょくちょく語尾にシャガが付くのだ。だからまぁ面白おかしくシャガと呼んで楽しんでいるかと言えばそうではなく、シャガにシャガなどと言おうものなら大変な事になる。シャガは、この人マジで教師なの?と言いたくなるような人物で、シャガの前で生徒の人権など存在しない。シャガに話は通じない。そして鉄拳制裁は当たり前の冷血人間なのであって、そのシャガが目の前に現れた。終わった。←本日三度目


もう書く事も尽きた反省文を書きながら、まだ耳の奥からキーンという音がする。シャガは手加減を知らない。シャガと向かい合った矢先に「なにやりよるんシャガァァァ」とビンタを喰らった。シャガは怒鳴るだけ怒鳴って生徒指導室を出て行き、またもや説教をする谷口の声も聞こえない程頭がクラクラしていた。生徒指導室にキツめの顔をして父親が入ってきたのは、そんな時だった。

谷口に頭を下げる父ちゃん。それを見て、ちとやりすぎたなと初めて反省した。当然MBXは学校へ没収され、父ちゃんの運転する車の助手席でバツが悪かった。線路沿いの真っ直ぐな道に差し掛かる。回りには何もない。田や畑だけがあって道を遮るものも無い。フロントガラスを見つめながら、まっすぐな道でさみしいと思った。山頭火もこんな感じやったのかな?←そんな訳はない。


ーキショー


帰宅して父ちゃんの説教が始まると思っていたら、意外にも少し笑ったような表情で「もうあがん事はすんなよ」とだけ言って仕事へ戻っていった。なんかラッキー。母ちゃんは冷めた目で俺を見て「ダボ」と言った。

なんもする事はなくても、こういう時は一応机に向かうべきだと思い、そうした。其処らにあった文庫本をサラサラと捲る。いつもなら最初の頁で読む気は失せるのに、カクンカクンと読み進めた。その章を読み終わり、想像する。想像は更にひろがり、変な方向へと向かう。

カブトムシでもカナブンでもセミでも、くるりとひっくり返すとお腹のとこに足が六本うねっている。良く見ると足の付け根のとことかグロい。そのグロいところを本体からスゥーっと削ぐ。削がれた六本の足のついたグロいものを机の上に置くと、体液でもってピタリと付く。そうやってカブトムシ、カナブン、セミを次々とやっていくと、机一面それで満たされる。本体は床にあってセミなどは飛び立って窓から出た個体もあったけど、バランスを崩して直ぐに地面へと落下した。カブトムシたちは恨み眼でこっちを見ていたけど、それらも順に絶命していき体液で床を染めていた。机の上で暫くうねうねやっていた足も動かなくなり、気色悪いものが一面に張り付いている。

「うげーキショ」となって目を覚ましたのはその机の上だった。とっくに日も暮れ、お腹がグルっと鳴った。


     ーメシ食うなー


 町蔵がそう言って此方を見ているけど、食うわ。エエ匂いがする。これは肉味噌炒めやな。

「あ、明日から暫く弁当要らんよ」

そう言うても母ちゃんはフライパンを振っていて返事はない。火を止めて、皿に移しているタイミングでもう一度。

「明日から」

「わかっとるわいダボ」

全体的に怒っとるな。ま、そらそうか。黙ってゴンゴン食う。肉味噌炒め→めし→肉味噌炒め→めし→味噌汁→めし→肉味噌炒め→めし→味噌汁と繰り返して完食。旨かった。

「ごっそうさんでした」

そそくさとまた自分の部屋へと逃げるように帰る。


    ー悪の権現と豚饅頭、またはその世界ー


 白衣を着た教授の講義が続いている。

「肉まんと豚まんの違いはな、これな、これこそは一緒なのですよ皆さん。悪ㇼーやっちゃのうアレ、只、そういうものの中にですね、偶に、はい、居るのよ。権現はんがね、居ますのですよ奥様オホホホ」

この教授は何を言うとるのやろか?

「そういうもののグローバル化とでも言いますか、世界が広がっておるのDEATH」

訳わからんから、こっそりウォークマンでGBH聞くかぁつってスイッチオーン。ズコダコズコダコカンカンカンカンきったー!やっぱ講義中はGBHに限るわぁぁぁ。講義は続く。

「えっとねぇ、ピザまん言うてねぇ、まんやのにピザて言い張るのんがあってねぇ、その権現がカレーまんの怒りに火をつけて、ハートに火をつけて爆発しました。爆発してまいました。バゴーンて。いや、焼きそばちゃうよ」

CITYBABY! CITYBABY! CITYBABY! ATTACKED BY RATS でもリベンジするのやもんな。

もう教授の声は聞こえない。姿も見えない。頭の中がGBHで満たされていく。深く深く。くぴー。


                 〈就寝〉←〈了〉




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