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信じることにした


私はただ信じることにした。電話は必ずかかってくると。彼のバンドのライブがテレビで特集を組まれていた。私が行ってたライブだ。録画して何回も見ようと思ったけど、むしろ彼が遠くなった気がして1回しか見れなかった。


(どう、やり過ごそう?)と思った。彼と電話で話すのが当たり前になっていた。今は、それが出来ない。最初に出会ったときに書いてもらった友達ノートを引っ張り出した。彼の好きな本が書いてあったから買って読んだ。

彼が気になるバンドが書いてあった。見に行くことにした。母は持ち直しつつも生活するにはリハビリが必要で入院が長くて私がすることは、そこまでなかった。正直、あまり母の側にいたくなかった。祖母も来てくれたので私は最低限、必要なことだけした。


それから彼のバンドも紆余曲折あり解散するのだと雑誌で知った。だけど新しいバンドをするのだと知って胸を撫で下ろした。私は彼のファンなので音楽を続けることが嬉しかった。ライブもするらしく春にはこちらにもツアーでくると知った。(その日なら電話来るかな?)と思った。でも携帯ないかもしれないしという逃げ道は作った。ライブは見に行った。電話は、かかってこなかった。信じてていいのかな?と思い始めた。友達のバンドマンの彼氏に彼が携帯を持ってるか聞いてもらった。持ってると言われた。ショックを受ける私に友達は「さすがに悪いと思ったんじゃない?」と言った。友達は私を心配してくれたように思う。だけど自分の心が収集がつかなかった。


彼の新しいバンドがアルバムを出すとかで東京で握手会をやると知った。正直、あの頃の母のことはあまり覚えていない。でも母に強くぶつかられた記憶がないから当時の私は何とかうまくやっていたんだろう、私は無事に東京の握手会に参加していた。


行く前に彼に渡す手紙を書いた。お金を入れた記憶もあるし夜の仕事して東京行こうかな?と書いた記憶もある。あとは電話番号が改変?されて番号が変わるからみたいなニュースがあったから変わったらこの番号みたいなことも書いたような。


握手会だと思ってたんですよ。私。なんとトークイベント付きだったんですよ。しかも狭い会場で!握手会ならサッと行ってサッと帰れるのにトークイベントだと座りながらみんなで話を聞くわけですよ。それはさすがに!!きつい!!しかも割と長い時間で!サービス精神多め!!私はひたすらバレないように一番後ろで一切顔を上げずに下を向いてやり過ごした。


やっと握手会の時間になり、私はまるで交通誘導をするかのようにファンの皆さまを前に前に誘導し、ちゃっかり一番後ろに並んだ。(申し訳ないけど私、必死なんで)と思った。何回も鏡をみて髪をなおして近付く順番にハラハラしながら、ついに私の番になった。申し訳ないが他のメンバーは緩やかに済まさせて頂き、彼の前に来た。


私を見て彼は「ふっ」と笑った。手紙を渡した。彼は渡した手紙を下に置いて手を差し出してきた。握手をした。手に力が入らなかった。頭が白くなってぼぉーとした。自分がどんな表情をしていたのかわからなかった。


次のメンバーが心配そうに私の顔を覗いてきた。自分が心配されるような顔をしてるんだと気づいて慌てて必死に微笑んだ。もう帰りたかった。残りのメンバーと握手して足早に会場を後にした。


(あの笑った意味はなんだったんだろ?)


当日泊めてもらう友達になんで東京に来たのか聞かれたので正直に答えると「あほやなぁー」と言われた。

電話はかかって来なかった。


そのあと彼が昔の悲しい恋愛の曲だと新しい曲を出していた。(寂しいけれど今の自分じゃ伝えられない)というような曲だった。私のことかと思ったけど記憶を辿ればそんな私を必要としてる感じはなかったし私のことではないなと思った。むしろ、そんな曲を作るほど好きな人がいたのかと落ち込んだ。でも自分のことだと思いたい自分もいて心がグチャグチャだった。


小中不遇劣等感女が鎌首をもたげてきた。「お前が選ばれるわけないだろう」ザクザク刺されているようだった。

私は私を責めた。泣いて泣いて泣いて排水溝にこのまま溶けて流れてしまいたいと思った。食事も出来なくなって痩せていった。


そのあと、また彼が恋愛の曲を出していて、それは初めて部屋に遊びに行った日を思い出す曲で、だけどやはり私は必要とされた感じがなかったので、別に好きな人がいたのかと落ち込んだ。結局、私は何も彼に求められてなかったと思った。


前のバンドの解散のときにも最後に彼が恋愛の曲を書いていて、そのときは電話が来ると信じていたので私のことだったらいいなぁと思っていた。しかし、直接会いに行って連絡が来ない今となっては、それすら恥ずかしい妄想な気がして私は私をめちゃくちゃに責めた。


それから彼にコンタクトを取ることを諦めた、というか、また無かったことにされたらもうどう生きていいかわからなかった。地元にライブに来たときだけライブを見に行った。泣かないようにしなければと思ったけど泣いてしまって後ろの方にいた。

「僕、(地元)大好きなんですよ」という彼の台詞が痛かった。みんな愛されてていいなぁと思った。

私はかなり病んでいた。

地元のライブに行くのと雑誌を読むのと。あとは、ひたすら彼を待った。


このままだとメンタルが壊れると思ったから他のバンドのライブに行きまくった。メンタルぐらい壊してしまいたかったけどデリケート親がいるので私まで壊れるわけにはいかなかった。つくづく自分を蔑ろにしていたと今となっては思う。

当時の友達が羽振りが良くて一人でライブに行きたくないからと無職の私をライブに誘ってくれた。私も日雇いの派遣とかやりながら、なんとか気をそらして生きていた。


ある日の夜中に非通知で永遠に電話が鳴った。最初は「彼かしら?」と思ったけど。

切れても何回もかかってくる。怖すぎてむしろ出たほうがいいかと出てみたら男の人だった。

「電話番号書いたでしょ?」

「え?誰?書いてないけど」

「電話番号、書きすぎて覚えてない?」

「いや、本当に書いてない、あ。アンケートのこと?」

(書くわけないだろ、こっちは彼を待ってんのに!)

「誰かわからない?」

(ライブに行き過ぎてマジで誰かわからん、、)

「◯◯さん?(彼の名)」

(絶対に違うけど、万が一も考えて)

「違う、わからない?」

永遠にその話が続いた。正直、昔の私ならホイホイとついて行きそうなもんだったが彼のこともあり、もうバンドマンにはこりていたのと、何かの間違いで彼の耳に入ることは避けたかったので、そっとお断りをした。


考えてみれば非通知で数十回もかけてくる奴は相当やばいので(最終的に電話番号わかったけど)絶対に関わってはいけないタイプだと思う。ある意味私は彼に護られたと当時は思った。彼のこと以来、私はバンドマンと個人的にどうこうなりたいとは一切思わなくなった。

でも今思えば、私を護ったのは彼ではなく私自身だったんだな。当時の私グッジョブ!よくぞ!ありがとう!である。



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