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終わりの始まり


「東京に行くことになった」

と言われた。「えっ?えっ?」と返すのが精一杯だった。東京に私も行きたいと思った。別に求められてなくても。大して大事にされてないのにバンドマンを追っかけて東京に引っ越して行った友達もいた。でも彼女は自由で私は不自由だった。東京に行くならば親に黙って家出するしかなかった。そんなことをすればデリケートな親がどうなるかは目に見えていた。私には手枷足枷がついていて長めの鎖で動けるので、うっかり自由だと勘違いしそうになるがこういう時に自分に自由はないと認識するのだった。

そんな話は彼には一切してないししてはいけないと思っていた。前に「一人暮らししないの?」と言われたがそういう理由でしたくても出来なかった。


(第一、求められてないし)


「えー!えー!そうなんですか、、そっかぁ、、ではまたこっちに来たら遊んでくださいー」と伝えた。我ながらあほみたいだなと思った。

本当に私のことなんて、どーでもいいんだなーと思った。私が淋しいかろうが苦しかろうが関係ないんだなーと思った。何より彼はまったく淋しくないんだなと傷ついた。


「一人で仲良くなったつもりになんかになって、勘違いして馬鹿すぎるだろ私」電話を切ってからそう呟いて泣いた。


彼が東京に行ってからも携帯代は払い続けた。もらってる給料からならそこまで大変ではなかったし彼と繋がりが切れる方が怖かった。

そして陽気なメンタル落ちらしく精神的尻軽を発動させてまた他のバンドを見に行きだした。友達とはしゃいだり色んな人と話したりすることで精神を保っていたように思う。


こちらにいる頃は電話中に聞こえる鍵を置く音とか聞くのが嬉しかった。

東京に行ってからは逆にそういうのが辛かった。


電話して「撮影中」と言われて「ごめんなさい」と電話を切ろうとすると「いいよ、大丈夫」と言われて嬉しかった。


誰かと仲がいいとか、仲が悪くなったとか聞くのが嬉しかった


好きな曲というかキャラクターがあって「それが好きなんです」と伝えると次のライブでやってたりして嬉しかった


もう遊んでくださいなんて言わなくなった。それでも良かった。だってそんな長生きするつもりないし世界は息苦しいし、これぐらいの喜びがあってもいいじゃないかと思った。


「あんた貢いでるの?」とデリケート時期の母が言った。

驚いて「そんなわけないやん!なんでそんな馬鹿なことせなあかんねん」と笑いながら否定した。(お願いだから、そこまで奪わないでよ

お母さん)と思った。


ある日、会社に父から電話が入った。母が交通事故に遭って救急車に運ばれたと。病院に駆けつけると別人になった母がいた。母は手術は成功したが一ヶ月ほど安定せず高熱を出しては生死を彷徨う日々が続いた。


「お母さんが死ぬかもしれない」と思った。


私が浮ついた気持ちで人を好きになんてなったからこんなことになったのだと思った。私のせいだと思った。

母が持ち直し落ち着いてきた。

私は彼に携帯代を払うのをやめようと思った。母は介護が必要になるかもしれないし会社は辞めなきゃならないし、そうなったら、もう支払えない。だけど、辛くて仕方なかった。「もう、それぐらい許してくれよ、取り上げないでよ」と思った。


私は賭けに出ることにした。

一度、携帯代を払うのをやめて、それでもまた彼が連絡をくれるなら東京で夜の仕事とかして暮らそうと思った。求められなくてもいいしどうせ長生きするつもりもないし。その時は申し訳ないけど家族は捨てようと思った。

何が正しいとか間違ってるとかどうでも良かった。ただ好きだった。


「交通事故に遭っちゃって」

「え?大丈夫?」

「あ。私じゃなくて母が」

「良かった、、あ、、良くないか、、」

(私を心配してくれるのね、と思った)

「それで、ちょっと今の仕事辞めないといけなくて。それで仕事◯月でやめるので◯月までしか払えなくて。

だけど、母が落ち着いたらまた仕事見つけてまた払えるので、、そしたら、また、また」

そのあと何を話したかは覚えていない。


約束の最後の月に「これで最後になるけど、また仕事見つけるのでまた」と伝えたように思う


「明日で携帯を返すから」と電話がかかってきた

「また必ずかけるから。今まで出してもらった分も何倍にもして返すから」と言われた

「返さなくていい、、」と伝えた。「また必ず仕事見つけるので電話くださいね」と伝えた。

「うん、必ずかけるから」と言われた。信じたいと思った。信じて、家を出て東京に行きたいと思った。


次の日の夜に電話をしたら「現在使われておりません」とアナウンスが流れた。泣いた。涙が止まらなかった。

(お母さん、どうして?)と思った。




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