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どうやらこの世に未練があるとケサランパサランになるらしい

作者: 昼月キオリ

第一話 最愛の妻

最愛の妻が病気で亡くなった。まだ34歳だった。

娘のカンナはまだ8歳になったばかり。

だが、娘は俺よりもずっとしっかり者だ。

妻が亡くなった日はわんわん泣いていたカンナも、次の日からは笑顔を作っていた。

俺なんてずっと塞ぎっぱなしだというのに。

本来なら父親である俺がしっかりしていなければならない立場なのに。

カンナは沈み込んでいる俺を慰さめるように寄り添ってくれた。

この子は本当に妻に似て優しい子だ。

さすがにいつまでもカンナに心配をかけるわけにもいかない。

カンナだって本当は物凄く辛いのを我慢しているだけで平気なわけがない。

早く俺が立ち直ってカンナを慰めなきゃ。

しかし、しっかりしなくてはと頭では分かっていても心は追い付いてはくれず、

2か月経っても俺はこんな調子で前を向くことができなかった。


そんなある日のこと。

カンナが小学校から帰ってきた時、肩の上に白くてふわふわした浮かぶ物体を見つけた。

父「カンナ、肩に何か付いてるぞ」

父は娘の肩に付いているものが埃か何かだと思ったらしく、それを取ろうとした。

しかし、それを止めたのは他でもない娘だった。

カンナ「だめ!!」

カンナはバッと後ずさる。

父「カンナ、どうしたんだ?パパはカンナの肩にほこりが付いてるから取ろうとしただけだよ?」

カンナ「これはほこりじゃないの!ママなの!」

父「カンナ・・・何言ってるんだ?」

カンナが何を言っているのか正直分からなかった。

だが、カンナはまだ8歳。ママがいなくなって寂しくないはずがない。

その寂しさゆえに混乱しているのだろう。

カンナには"しっかり者"なんて言ったが、それは大人側が都合の良いように取ってつけた言葉。

肩に付いた白いふわふわ。よく見ると綿毛のようにも見える。正体は分からないけど、カンナはママだとそう思いたいんだ。

だから俺は無理矢理それを取ろうとはしなかった。

カンナの気が済むまでそのままにしようと思った。

しかし、次の日もまた次の日もそのふわふわとした物体はカンナの肩の上に浮かんでいる。

気が付けば一月ほど経っていた。

その頃になると俺も白いふわふわに対して違和感なく過ごすようになっていた。

慣れとは恐ろしいものだ。


それから二週間ほど経った頃。

カンナが熱を出して寝込んでしまった。

父「カンナ、パパ買い物に行ってくるけど大人しく寝ているんだよ?」

カンナ「パパ、買い物一人で大丈夫?」

父「こんな時までパパの心配してくれるなんてカンナは本当に優しい子だなぁ」

情けない気持ち半分。嬉しさ半分だった。

買い物から帰って来るとカンナはスヤスヤと寝息を立てていた。

カンナの寝顔を見ながら食事は何にするか、と考えていると・・・。

いつもならカンナの肩の上に浮かんでいる白いふわふわが顔の近くに移動していることに気付く。

カンナの寝相か?それとも風で動いた?いや、この部屋の窓も扉も空いていなかったのにそれはあり得ない。

まるでその白いふわふわに自分の意思があるかのように見えた。

次の瞬間、白いふわふわがパッと消えた。

父「?」

俺が不思議に思いながら消えた場所をじっと見ていると、薄っすらと人の姿が現れた。

徐々に顔がはっきり見えてくる。

妻だ。

妻はこちらを一瞬見た後、カンナの方へ視線を戻し、優しい表情でカンナの頭を撫でる。

父「ママ!」

俺は近寄ろうとしたが、俺の手が妻に届く前にスッと消えてしまった。

代わりに、さっき消えたはずの白いふわふわが存在している。

その時、カンナのあの言葉を思い出す。

"これはほこりじゃないの!ママなの!"

もしかして本当に?この白いふわふわは妻なのだろうか?

子どもの方が霊感があるとも言うし、カンナにはこの白いふわふわが妻に見えているのかも。

何故こんな姿をしているのかは分からないけど。


カンナ「パパ!さっきママがね、頭を撫でてくれたんだよ!」

お粥を食べながらカンナは嬉しそうに話し始めた。

父「そうか、それは良かったね」

カンナ「あー、私の話信じてないでしょ!?」

父「いやいや、そんなことはないよ、パパにもね、ママの姿が見えたんだ」

カンナ「え!本当!?パパにも見えるようになったの?」

父「ああ、いや、見えたのはさっきだけで今見えるのはその白いふわふわだけなんだけどね」

カンナ「そっかぁ」(しょぼん)

父「カンナにはママに見えてるんだろう?」

カンナ「うん、ずっと見えてるよ!」

父「そうか」

父はそう言うと切なげに微笑みながらカンナの頭を撫でた。

本当に妻がそこにいるんだな。

俺はようやく白いふわふわの正体が妻だと気付いた。


後日。カンナを連れてショッピングモールに行った時。ガス漏れによって爆発が起きた。

ドオオォン!!!

大きな爆発音の数秒後。

ジリリリリ!!

館内の火災報知器が鳴り響いた。

館内放送「火事です、至急避難して下さい、繰り返します、火事です、至急避難して下さい」


「おい、今もの凄い音がしたぞ!!」

「何かが爆発したらしい!!」

「火事だって!!早く逃げなくちゃ!!」

「皆んな逃げろー!!」

パニック状態になった客達は慌てて逃げようとする。

「おい、押すな!!」

「うるせえ!さっさと出ろ!!」

警備の人「皆さーん!危険ですから慌てずに並んで外に出て下さい!!」


俺とカンナはトイレに行っていた為、逃げるのが遅れてしまった。

父「館内放送からまだ少ししか経っていないのにもうこんなに火が・・・」

カンナ「さっき、爆発が起きたって誰かが言ってた」

父「ああ、もの凄い音だったからな」

カンナ「ゲホゲホ」

父「カンナ!大丈夫か?絶対にパパから離れたらダメだよ」

カンナ「うん」

父はカンナの手を握る。

早くここから逃げなければ二人とも焼け死んでしまう。

出口の方へ向かおうとするが、そこはすでに火に包まれていた。

父「くそっ!出口が・・・」 

焼けた衝撃で建物がこちら側に向かって崩れ落ちてくる。

カンナ「きゃ!!」

父「カンナ!!」

父は思わずカンナを庇おうと抱き締めた。

が、衝撃と痛みが全く無い。

父「え・・・」

目を開けるとそこには白いふわふわが崩れ落ちて来た建物の前にふわふわと飛んでいた。

何故か崩れかけていた建物がギリギリのところで止まっている。

"早く逃げなさい"

一瞬聞こえた妻の声。

俺は振り返る余裕もなく無我夢中でカンナを抱えて外に出た。

二人が無事に逃げたのを確認すると白いふわふわはパッと消えた。

消防士「大丈夫ですか!?」

父「はい・・何とか・・」

カンナ「ゲホゲホ」

父「カンナ、大丈夫か?」

カンナ「うん」

消防士「煙をかなり吸っているみたいなので病院に連れて行きましょう、もちろんお父さんもちゃんと検査を受けて下さいね」

父「はい、ありがとうございます・・・」


話によると、先に逃げていった人達の中にはパニックになった人だかりで怪我をした人も多くいたそうで、

逃げ遅れたことでかえってカンナが怪我をせずに済んだのかもしれない。

大人でさえ怪我をするような状況。

カンナのような小さい体ではパニックになった大人達に押されて転んだり突き飛ばされたりされたら軽症では済まなかった。

そう思えているのも妻が助けてくれたおかげだ。


病院で検査を受けた結果、二人とも異常はなかった為、すぐに帰宅できた。

しかし、あの白いふわふわはカンナの肩の上から消えていた。

"早く逃げなさい"

妻が助けてくれた。

カンナ「パパ、ママが消えちゃった・・・」

父「ママがカンナとパパを守ってくれたんだよ」

父は泣いている娘を力強く抱き締めた。

俺は泣いているカンナを抱き締めながら静かに泣いた。


数日後、俺とカンナは妻のお墓にお礼を言いに行った。

父「ママ、ありがとう、君のおかげでカンナも俺も無事に逃げられたよ」

カンナ「ママ!ありがとう!!」

その帰り道。

いつもはわがままを言わないカンナが珍しくパフェが食べたいと駄々をこねたのだ。

そんなカンナの姿を見て嬉しさのあまり、いつもなら食べない自分の分まで頼んでしまった。

カンナ「ごちそうさまでした!」

父「え!?カンナ、完食できたのか?凄いな」

パパはまだ半分しか食べれてないのに。

カンナ「ふっふっふー、ママとよくスイーツ食べ放題に行ってたからね!」

父「え!いつの間に!?どうしてパパを誘ってくれなかったんだい?パパは寂しいぞ・・・」

カンナ「だってパパ甘いものいっつも食べないじゃん!

付き合わせるの悪いからってママ言ってたよ」

父「ぐ・・・確かにあんまり食べれないけどさ・・とほほ」

正論を言われ何も言い返せない父。

その後、カンナの応援でなんとか食べ切ることができたが、夕飯が入らなくなってしまった。

カンナ「パパ、具合悪いの?」

父「いや、今日はパパお腹が空いてなくてさ」

カンナ「ふーん」

カンナはというといつも通り夕飯を食べていた。

娘のたくましさを目の当たりにした父なのであった。




第二話 喧嘩した恋人

付き合っていた彼女が交通事故で亡くなった。

大学一年の時から付き合って三年、時々喧嘩はするものの楽しい日々を送っていた。

一番の心残りは喧嘩をしたまま彼女との別れが来てしまったこと。

またすぐに仲直りできるだろうと安易に考え、彼女を放っておいた罰かもしれない。

泣いていたのに。

一緒にいるのが当たり前だと思っていた。

明日も明後日も変わらずに笑ったり泣いたり喧嘩したり仲直りしたり。

そうやって二人でいる時間を紡いでいけると思っていた。

でも、現実はそう甘くはなかった。

こんな事なら些細なことで喧嘩なんかせず、仲良く過ごしていれば良かった。

いや、そもそもあの日、すぐに俺が悪かったと抱き締めて謝っていたら・・・そんな後悔ばかりが頭の中をぐるぐると巡っていた。

バカだな、今さら後悔したって遅いだろ。

俺は目の下に大きなクマをこしらえ、覇気のなさを象徴するがごとく背中を丸め、トボトボと街を歩いていた。コンビニに弁当を買いに行く為だ。

白いふわふわが体にくっつこうとしてきた。

俺は咄嗟に振り払おうとしたのだが・・・。

カンナ「だめ!!」

三國(みくに)「え??」

いきなり背後から子どもに「だめ!!」っと声をかけられ一瞬、時が止まった。

父「すみません、娘が・・・」

カンナ「お兄ちゃん、そのふわふわさん取っちゃだめだよ!」

父「こらこらカンナ、お兄さんを困らせちゃダメだろう?」

三國「いいんですよ、君、どうしてこれを取っちゃだめなのかな?」

三國は少しかがみながら話を聞いた。

カンナ「だってそのふわふわさん、お兄ちゃんの彼女だから!」

三國「え?・・・」

父「カンナ・・・今見えてる人はどんな人なんだ?」

カンナ「えっとね、髪は肩くらいまで長くて水色のワンピース着てるよ!あ!髪に赤いリボンが付いてる」

三國「・・・それは、間違いなく俺の彼女です」

最初は半信半疑だったが、この子が言う特徴は紛れもなく彼女のものだった。

父「そうだったんですね・・ひょっとして彼女さん」

三國「はい、先日、交通事故で亡くなりました」

父「そうですか・・実は俺と娘も、数ヶ月前に妻を亡くしたばかりなんですよ」

三國「そうだったんですね・・・」

父「あの、もしよろしければ公園で話しませんか?」


公園のベンチ。

三國、カンナ、父の順に座る。

父「俺は坂田です、あの、あなたのお名前を伺っても?」

三國「はい、俺は三國と言います」

父「この子は娘のカンナです」

カンナ「よろしくね!!」

三國「よろしくね、カンナちゃんって言うのか、可愛い名前だね、あの、カンナちゃん一つ聞いてもいいかな?」

カンナ「なーに?」

三國「こんなこと子どもに聞くのもどうかと思うんだけど彼女は今どんな顔してるかな?

俺たち、喧嘩したままこんな事になっちゃったからやっぱり怒ってるよね?」

カンナ「ううん!彼女さん、すっごく優しい顔でお兄ちゃんのこと見てるよ!ほんとにお兄ちゃんのこと大好きなんだと思う!」

三國「え・・そう、そうか・・・そうか、ぐすっ」

カンナは泣いている三國にハンカチを渡した。

三國「ありがとう・・君は強い子だね、自分だって辛い状況なのに俺なんかのことを気遣ってくれて・・」

父「ええ、本当に、恥ずかしながら俺は妻が亡くなってからずっと塞ぎっぱなしでした、でも、この子のおかげなんですよ、俺が立ち直れたのは」

三國「そうだったんですね、優しい子だね、カンナちゃんは」

カンナ「えへへ!」

褒められたカンナな嬉しそうに笑った。

三國「そういえば・・俺、白いふわふわを見たの初めてなんですけど、もしかしてお二人のところにも現れたんですか?」

父「はい」

父は事故に合ったこと、妻のおかげで助かったことを話した。

三國「そんなことがあったんですね・・・」

父「妻が守ってくれたんだと思います、もしかしたら、俺だけじゃ頼りないと思っていて、白いふわふわの姿になってまで娘のそばにいてくれたのではないかと思っているんですよ」

三國「そうですね、まさかこんな不思議なことが自分の身に起こるなんて思ってもいませんでした」

父「俺もです」

三國「ありがとうございます、この白いふわふわは大切にするよ」

父「はい」

三國「じゃあ、お兄ちゃんはそろそろ帰るね、カンナちゃん、ありがとう、君のおかげで救われたよ」

カンナ「あ!待って!あとね、彼女さんがお兄ちゃんに一言だけ言いたいことがあるみたい!」

三國「え?何だろう」

カンナ「コンビニ弁当はたまににしなさい!だって!

お兄ちゃんの体のことをすっごく心配してるみたい」

三國「そうか・・そうだよな、スーパーで野菜と肉を買って帰るよ、教えてくれてありがとう」

いつもなら彼女にうるさいなって言い返していた俺もこの時ばかりは素直に彼女の言い分を聞き入れることができた。


そう言って歩き出した三國さんの背中は最初の時とは別人のようにピッとしていた。

父とカンナは三國の背中を見送る。

カンナ「お兄ちゃーん!またねー!」

三國は振り返ると小さく微笑みながら手を振った。



後日。買い物をしにカンナと街に出かけた時のこと。

父「ん?あれは三國さん?」

大変表現し難いのだが、三國さんは何かの力に逆らうように(?)歩いている様子だった。

三國「ぐぎぎぎっ(歯を食いしばっている)、何故だ、ラーメン屋に向かおうとすると体が急激に重くなる・・・俺は今日はラーメンが食べたい気分なのに!!ぐぬぬっ」

※三國はラーメン屋に行きたい。

亡くなった彼女(三國には何も見えていない&聞こえない)「だめよ!昨日もラーメン食べてたでしょう?今日は野菜を食べなさい〜!!」

※彼女はそれを阻止したい。

三國「いーやーだー!!」

父「・・・カンナ、あれは一体どういう状況なんだ?」

娘よ、早急に通訳を頼む。

カンナ「えっとねー!お兄ちゃんはラーメンが食べたいみたいなんだけど、彼女さんが昨日も食べたんだから今日は野菜を食べなさいって怒ってるの」

父「な、なるほど・・・」

でも、三國さん心なしか少し楽しそうだ。

もしかしたら彼女の仕業だと気付いているのかも?


三國「あれ?カンナちゃん!と坂田さん!ヘルプヘルプ!」

こちらに気付いた三國は二人に大声を掛け手を振った。


・・・。


三國「あー、やっぱり彼女のせいだったのか!

どうりでラーメン屋に向かおうとすると何かに引っ張られたみたいな力が働くから変だとは思ったんだよなぁ・・・」

やれやれと三國は頭を掻いた。

父「彼女さんは三國さんの体が本当に心配なんですよ」

三國「いやー、それは分かりますけど食べたいもの食べたいじゃないですか!」

父「はは、まぁ若い時はそうですよねぇ、俺も食事に気を使い始めたのは結婚してからでしたし」

三國「塩ラーメン食べたかったのに・・・」

父はぽんっと手を打つ。

父「そうだ!三國さん!今日家で塩鍋を作ろうと思っていたんですよ!一緒に食べませんか?」

三國「え・・・い、いいんですか!?」

父「カンナはどうかな?」

カンナ「うん!お兄ちゃんも一緒に食べよー!」(にっこー)

三國「天使か?」(真顔)

カンナ「あ!でも、冷蔵庫の中、確か空っぽだったよね?」

父「さすがカンナだね、冷蔵庫の中を把握してるなんて、じゃあ買い物しに行かないとね」

三國「あ、あの!俺も手伝います!重いものは任せて下さい!これでも力はある方なんで!」

父「ありがとうございます、じゃあお願いしようかな」


買い物中。

父「えーと、鶏肉とキャベツと・・・」

カンナ「パパ!鍋の素買わないと味がない鍋になっちゃうよ!」

父「あー!そうだったね、ありがとうカンナ」

三國「フッ」

父「?どうかしましたか?」

三國「ああ、いえ、なんだか二人のやり取りが微笑ましいなと思いまして」

父「そ、そうですか?いやー、娘は妻に似てしっかり者なんでいつも助かってますよ」

カンナ「だってパパ放っておいたら大変なんだもん!ママも言ってたよ、パパは手のかかる子どもみたいだって」

父「え、おいおい、そんな話ママといつしたんだい?」

カンナ「んとねー、カンナが5歳の時かな?」

父「やれやれ、困ったなぁ・・・」

三國「きっと奥さんも坂田さんのことが放って置けなかったんでしょうね」

父「ははは、そうかもしれないですね」

 

・・・。


買い物後。坂田家帰宅。

三國「お邪魔します!」

父「散らかっていてすみません」

三國「いえいえそんな!俺の部屋よりずっと綺麗ですよ!」


父「よし、カンナ、さっそく作ろうか」

カンナ「うん!」

三國「え、カンナちゃんも料理作れるの!?」

カンナ「うん!えっへん!」

カンナは両腕を腰に当ててみせた。

父「はい、揚げ物系はカンナにはまだ禁止しているんですが、それ以外は一緒に作ってますよ」

三國「こんな小さいうちから偉いねぇ・・俺も見習わなきゃな」

カンナ「お兄ちゃんも毎日作ってたら慣れるよ!」

三國「そ、そうかな?」

カンナ「うんうん!」

三國「あの、俺も何か手伝える事ありませんか?」

父「いえいえ、その気持ちだけ取っておきますよ、今日はお客さんとして招いてますから、

ゆっくりしてて下さい」

三國「分かりました、ではお言葉に甘えて」

今度お返しにお菓子を渡そう。

カンナ「はい、お茶!」

三國「ありがとう・・・じーん」


三國は父とカンナが料理をする姿を見ていた。

二人のやり取りはなんとも微笑ましいものだった。

時折、カンナちゃんの鋭いツッコミが入りつつも料理は無事に完成した。

坂田さんは天然なところがあるらしい。


カンナ「できたよ〜!!」

父が鍋掴みを付けて鍋を運ぶ。

三國「うわー!めちゃうまそー!!」

父「暑いので気をつけて下さいね」

三國「はい!」

カンナ「じゃあ二人とも手を合わせてー!」

三國&父「は、はい!」

カンナちゃん、本当にしっかりしてるなぁ。

カンナ「頂きまーす!」

三國「頂きます!」

父「頂きます」

三國「んー!うまーい!!」

父「うまいだって、良かったなカンナ」

カンナ「うん!!」

こうして三人は小話をはさみつつ、鍋を平らげた。

三國「ほんっとにありがとうございました!!」

父「いえいえ、喜んでもらえて良かったです」

カンナ「また一緒に食べようね!!」

三國「うん!ありがとうカンナちゃん!」

カンナちゃんまじ天使!!




第三話 孫の応援団

大好きだったおじいちゃんとおばあちゃんが死んだ。

死因は飛行機の墜落事故。

おじいちゃんとおばあちゃんは二人でよく旅行に出かけていた。

まさか旅先であんなことが起きるなんて・・・。

もう少しで大学卒業だねって話していたばかりだったのに。


母「元気出しなさい、あんたがそんなに落ち込んでいたらおじいちゃんもおばあちゃんも安心して天国に行けないでしょう?」

父「そうだぞ、そろそろ就職活動が始まるんだ、気をしっかり持ちなさい」

(あざみ)「はい・・・」

母と父は厳しい人だ。

反対におじいちゃんとおばあちゃんは優しかった。

幼い頃から私の逃げ場になってくれていた。

私が家に遊びに行くと、いつも私が好きなチョコレートケーキを出してくれた。

私の愚痴をいつまでも笑顔で二人はうんうんと聞いてくれた。

私はそんな二人が大好きだった。


大学の帰り道。

大学生活もあと僅か、か・・・。

就職活動か・・・気が重いなぁ。

お母さんとお父さんもこんな時くらい私に優しい言葉をかけてくれたっていいのに!バカバカ!バーカ!!

私が空に向かって心の中で暴言を吐いていると・・・二つの白いふわふわとした謎の物体が落ちてきた。

その白いふわふわは私にくっ付こうとしていた。

びっくりした私は咄嗟に振り払おうとした。

三國「あ!ダメ!それ取っちゃ!」

薊「え?・・・」

三國「あ、ごめん、急に大きな声を出して」

薊「あなた誰?」

三國「俺はみくに!桃兎(とうと)大学の四年生」

薊「隣の大学ね、私、あざみ、苗字よ、杏蜜(きょうみつ)大学四年」

三國「そうなんだ!まさかのお隣さん!」

薊「それで、さっき言ってたこれのことなんだけど」

三國「そうそう、あのさ、不謹慎なこと聞くけどもしかして薊の周りに亡くなった人いる?」

薊「え、どうしてそれを・・・」

三國「話すとすげー長くなるんだよなぁ、カフェかなんかで話さない?あ、ナンパじゃないからね?」

薊「え、ええ・・・分かったわ」

いつもの私なら男の人に声をかけられても無視していたけど、この人の話の続きを聞きたいと思った。

だってこの人の肩の上にも私と同様に白いふわふわとした綿毛が浮かんでいたから。

私とは違い、ひとつだけだったけど。


カフェ。

三國は今まで自分の身に起きたこと、カンナちゃんの話を薊に話した。

三國「こんな時、カンナちゃんがいてくれたら詳しく状態を話せるんだけど・・・上手く説明出来なくてごめん、信じられないかもしれないけど全部本当なんだ」

薊「そう・・・あなたの話、今すぐ信じろと言われても正直できないわ」

三國「だ、だよね・・・」

俺だってカンナちゃんが説明してくれてなかったらこんな話信じられないもんな・・・。

薊「でも、あなたの言う通りだったらいいわね・・・」

薊は遠い目をしながら窓の外を見た。

三國「薊・・・」


その日の夜。

薊の部屋。

薊「ねぇ、あなた達は本当におじいちゃんとおばあちゃんなの?」

二つの白いふわふわは両肩から離れようとしない。

一つは左肩。もう一つは右肩。

この白いふわふわ、たんぽぽの綿毛なのかな?

調べてみよう・・うーん、たんぽぽの綿毛よりモッサリしてるというかなんというか、

それにたんぽぽの綿毛だとしたら丸い塊のまま飛んでくるのは変よね、

風に飛ばされてきたら小さいタネになってくるはずだし。

あれ?このイラスト、似てる。ケサランパサラン?

未確認生物。幸せを呼ぶ妖怪とも言われている。

はー、そんな訳ないじゃない、私、疲れてるのかな・・・。

そう思いながらこの日は眠りについた。

二つの白いふわふわが薊を見守るように飛んでいた。


後日。

三國「あ!あざみー!」

街で私を見かけた三國が大声で私を呼び、手を振った。

隣には一人の男性と女の子が立っていた。

もしかしてあの子が例のカンナちゃん?

私は三人の元へ向かった。

三國「久しぶりー!」

父「どうも、初めまして、坂田です」

カンナ「私カンナって言うの!よろしくね!」

薊「あざみです、カンナちゃん、よろしくね」

カンナはじーっと薊の方を見た。

薊「あの、カンナちゃん?どうかした?」

薊はカンナの背丈に合わせてかがむ。

カンナ「うんうん」

三國「カンナちゃん、ひょっとして何か分かった?」

カンナ「うん、このお姉ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんがね」

薊「!」

カンナの口からおじいちゃんとおばあちゃんという単語が出てくると思っていなかった薊は一瞬反応した。

カンナ「お姉ちゃんのことをずっと応援してるんだって!しゅーしょく?かつどん?頑張ってって」

薊「・・・」

父「就職カツ丼??カンナ、何だいそれは?」

三國「坂田さん、たぶん就職活動のことです」

三國はサッと手を使いながらこそっと教えてくれた。

父「おー!なるほど!」

坂田さんの天然は相変わらずだな。

薊「そうだと思います・・・」

三國「今は辛いと思うけど、お互い、就職活動成功させてありがとうって言いに行こうぜ!」

薊「そうね、いつまでもぐじぐじしてるわけにもいかないわね」

カンナ「よく分からないけどしゅーしょくかつどん頑張ってね!」

薊「カンナちゃんありがとう」

三國「薊!今度美味いもんでも食べに行こうぜ!」

カンナ「あれ?お兄ちゃんの彼女さん急にほっぺが膨らんでる!どうして怒ってるんだろ??」

三國「え」(ドキッ)

薊「ふふ、彼女さんに悪いから今は辞めておくわ」

"今は"

三國「そうだな、けど、街中で見かけたら話し相手くらいにはなってくれよ?俺が寂しいからさ」

"俺が"

薊「ええ、分かったわ」


半年後、二人は無事に就職活動を終えた。

三國は彼女のお墓参りに来た。

無事に就職活動が終わったことを伝えた。

三國「なんとか就職できたよ、ありがとな」

三國の肩の上に白いふわふわはない。

三國の彼女は、三國が面接に向かう途中、足を滑らせて階段から落ちそうになるのを止めた為消えた。

"おめでとう"

風に乗って彼女の声が聞こえてきた。

三國「へへ!また来るぜ!」

三國は少し照れたように人差し指で鼻の下を掻くと歩き出した。


ところ変わって。

薊は祖父母のお墓参りに来ていた。

薊「おじいちゃん、おばあちゃん、私ね、就職活動上手くいったよ、応援してくれてありがとう」

薊の肩の上に白いふわふわはいない。

薊のおじいちゃんとおばあちゃんは、薊が通勤途中で交通事故に合いそうになるのを止めた為消えた。

""おめでとう""

風に乗って祖父母の声が聞こえる。

薊「おじいちゃん、おばあちゃん、また来るね」

すっかり元気を取り戻した薊は力強く歩き出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] とっても優しいお話に心温かくなりました。
2024/06/29 23:42 退会済み
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