第22話 戦えば僕が勝つ
「天光様には会えなかったでしょ?」
ユキミと合流した三人はココロも入れて五人で『桜定食』で食事をとった後に『天光』への謁見に関して話し合っていた。
「ユキミは知ってたの?」
「うん。説明するよりも実際に聞いてもらう方が早いと思ってね」
「天光様は『ジパング』の民にとって象徴であり希望なのです。『妖魔族』の驚異より今日まで私達が生きて来られたのは、天光様の庇護によるもの。簡単に会うことは出来ません」
ココロが補足する。
「“眷属”の紹介なら会えるって聞いたぜ?」
「それはほぼ無理だと思ってもらっていいよ。彼らは僕達とは違う存在だ」
「ソノ『妖魔族』ッテ奴デスカイ?」
「違います、ゴーマさん。天光様――【始まりの火】の“眷属”の方々はその『火』を直接宿す者達。火へ薪をくべつつ、大きくなり過ぎないように抑える役目を担っているのです」
「臣下……と言うワケではないの?」
「天光様は一度、代替わりをしてるんだ。今の天光様は二代目で【始まりの火】としてはまだまだ未熟な段階らしい」
「らしいって……詳しく知らねえのか?」
「代替わりが行われたのは今より千年の以上前の事です。当時の詳細な記録は『宵宮』に保管されていますが、私達に伝わるモノはお伽噺の形が主なのです」
『天光』、不死の山にて『空亡』を見下ろす。
光を見上げるは無限の妖魔。『空亡』を崇拝し、民を食らう深淵の種族。
『天光』と共に『空亡』と向かい合いしは、不動の侍と極風暴雷。
深淵へと飛び込む光は輝きを失うことなく、『空亡』を深淵の奥地へと封じ、妖魔達はその威光を前に“大森林”へと消えた。
しかし、その戦いで勝利したのは『空亡』だった。
かの化生は『天光』へ“夜”を植え付けたのだ。
それは呪い。年々力を増し、いずれは『天光』を呑み込む。さすれば二度と『ジパング』に光は残らない。
『天光』は次の世代に『ジパング』を託し、呪いを“終焉の火”で己と共に消し去った。
『空亡』の楔は消え去り、『ジパング』は新たな『天光』が宿す“火”に祷りを捧げる――
「つまり、今の『天光様』ってのは先代よりも未熟って事か?」
「僕達も年に一度の『天光祭』で、御尊顔を拝見する程度で直接話した事は無いんだ」
「過去の記録では『空亡』を封じた後も、『妖魔族』による『港城下』への侵攻は『百鬼夜行』と言う形で度々行われてきました」
『宵宮』には『ジパング』が本日に至るまでの物語を事細かに残している。だが、民へ流れるのは大半が『物語』としてだった。
「『ジパング』は戦いの歴史なのね」
「ある意味、戦時中かな。代替わりした後100年程は『宵宮』を狙った『百鬼夜行』が絶えず行われたみたいだけど、侍と“眷属”が全て退けたらしい」
「侍ト“眷属”ッテ奴ラハ、ソンナニ強インデスカイ?」
「並みの『妖魔族』は“侍”が歩いているだけで道を開けます。“眷属”の方々に対しては、決して視線を向けてはならないと言われる程に恐れられているそうですよ」
「ココロ船長は『妖魔族』に知り合いが居るのか?」
「『魚水家』は『河童』の一族と仲が良いのです。彼らとの交流は代々の習わしですので」
「『妖魔族』ッテノハ、危険ジャ無インデスカイ?」
「皆が皆、人に害を及ぼすワケじゃない。『百鬼夜行』に参加する『妖魔族』はいずれも過激な思想を持ち、ソレに感化された者達だけさ」
『空亡』が自らの四肢と認める程の『四妖魔』は今も尚、“大森林”で己の派閥を維持しながら虎視眈々と機会を伺っている。
「これまでの歴史で『妖魔族』は『宵宮』の壁さえも触れた事は無いって伝わっている。これは多分、誇張じゃない」
「ええ。ヤマト様やスサノオ様と向かい合えば誰しもが戦うことを無意味と感じるでしょう」
「ユキミとどっちが強いのかしら?」
「お、そりゃ気になる対戦カードだな」
「ソリャ、ユキミノ旦那デショウ。デスヨネ?」
ゼウスの素朴な疑問に、アランとゴーマも乗ってくる。ユキミは――
「そうだね。きっと『ジパング』に居る内はあの方々とは戦う事さえも無意味だと考えてたと思う。でも、今は違う」
【武神王】と言う、強さの極致を目の当たりにした今のユキミの視点はヤマトとスサノオも相対出来る存在として認識していた。
「戦えば僕が勝つ。でも、“眷属”の人達を『御前試合』で指名するには、もっと『ジパング』で活躍して実力を示さないと駄目だ」
「『御前試合』?」
「天光様の前で、行われる果たし合いの事です。とても名誉な事なのですよ?」
「お、それ使えんじゃね?」
アランは『天光』と会う為の策として『御前試合』が利用できないか考えた。
「アランさん達の事情は知っていますが、『御前試合』は現実的では無いでしょう」
「何故?」
ゼウスの問いにココロは今、『ジパング』で起こっている大きな二つの事案に関して説明する。
「『冬将軍』と『次郎権現』。今、“眷属”の方々は『港城下』を滅ぼしかねない、それらの事案に五年前から手を割いているのです。その為、彼らの邪魔をすることを『ジパング』の民は誰も望んでいません」
「むしろ、批難されるかもね。だから“眷属”の方々への接触も『御前試合』の線は無しで考えよう」
お国事情なら、しゃーねーか。とアランは頭の中で考えていたプランの幾つかを消す。
「…………」
「どうしたの? ココロ船長」
ゼウスは何か思い当たる様子のココロを見る。
「いえ。もしも、天光様に会いたいと言うのでしたら、“先生”にお話を聞ければ可能かもしれません」
「え? ココロ、ハク先生って『港城下』に戻ってきてるの?」
ユキミは驚く。他三人は、誰? と首を傾げた。
「“眷属”の【宵宮の医者】白士先生です。一ヶ月ほど前に『ジパング』全土を脅かす“汚染”を処理して『港城下』の診察所に帰って来ているそうです」
ココロは町中で聞いた話を皆に伝えた。




