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ゴブリンと叡智の少女  作者: 古河新後
序章 叡智を求める者たち
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第2話 ゴブリンのゴーマ

「エグサ。長の求める様な書物はあったか?」

「見たことの無い物はあったが……娯楽書籍の類いだ。知識に刺激を与える物ではない」

「前より10年は時を置いたが……やはり、低俗な種族にはこれが限界か」

「一旦、戻って長の指示を仰ごう。この街に“質”は期待出来ない」


 エルフ達は街の本屋や雑貨店を周り、物珍しい知識の書物を求めていたが、何度か訪問する内にそれらも枯れてしまった。


「エルフノ旦那方」


 そんなエルフ達へゴーマは声をかける。

 この街のどの存在よりも汚ならしいゴーマの登場にエルフ達は嫌悪感を露にした。


「珍シイ本ヲ探シテルッテ聞キヤシタ。一ツ、コイツヲ買ッテ八クレネェデスカイ?」


 ゴーマは古めかしく鍵と端に割れた宝石がついた分厚い本をエルフ達の目の前に差し出す。

 鍵の着いた本をこの街で初めて見たエルフ達はソレに興味を示した。


「良いだろう」


 そう言って、エグサは一つの宝石を投げ捨てた。


「ソイツと交換だ。鍵も含めてな」


 その宝石はゴーマが今まで見た中でも一番価値のある物だとわかる。目測でも売れば金貨50枚は下らないだろう。


「ヘヘ……毎度」


 ゴーマは本と鍵を置くと、宝石を手に取りそそくさと去って行った。


「外の世界にはあんなのが居るんだな」

「ちょっと鳥肌が立った」

「エグサ、良かったのか?」


 エグサは本と鍵を拾い上げて布でくるむ。


「せめて何か持って帰らなくてはな。我々の噂もあんな存在にまで認知されている様だ。しばらくはこの街を避けるように長に進言しよう」


 短い期間で俗世に関わり過ぎた。そう判断したエグサは最後の手土産としてゴーマの持ってきた本を選んだのだった。


「帰るぞ」


 四人のエルフは帰路につく。





 エルフ達が森の獣道へ入り、悟られずに追跡する事は困難になる程に離れた場所から、ゴーマは彼らを追跡(・・)していた。


「本当ニ、見下シテクレルト、ヤリ易イゼ」


 ゴーマの手には魔力を込めれば短い光の線を出す宝石が握られている。これは、片割れの宝石の位置を示す効果のある鉱石だ。


 ゴーマが良く使う手で、パーティーなどで彼が囮にされたり、取り残されても無事に帰還できるのは、これを利用しての事だった。

 パーティーの荷物か主要人物にコレを仕込む事で、どこにいても帰還できるのである。


 今回は適当にこしらえた、本に取り付けた壊れた宝石に模した片割れを追跡しているだ。


「ダイブ深イ所マデ行キヤガルナ」


 種族柄、夜目は利く。なるべく茂みの音を立てない様に光線宝石の指し示す方向を頼りに進む。

 森はどんどん深くなる。ソレに伴って、文明の遠ざかる原始が顔を出し、数多の魔物や巨大な虫などが蠢いていた。


 しかし、ゴーマにとってこれらの脅威をかわすなど朝飯前。もっと酷い状況下に突き落とされた事もある。パーティーメンバーから。


「――オ?」


 夜に追跡を初めてから朝日を感じるほどに光線を頼りに深緑を進み続けると、澄んだ空気が鼻に入ってくる。


 慎重に茂みを抜けたその先は大きく陥没した大地の底で文明を形成するエルフ達の街が存在していた。






「ただいま、帰りました」


 エグサは遠征隊を率いる狩人頭であり、今回の収集物を長へ手渡しに最も大きな建物に顔を出す。


「その様子だと、実入りは無さそうだな」

「既にここらの書物や歴史は粗方調べつくしました。残ったのは低俗な娯楽書物程度です」

「ふむ。この鍵付きの本は何だ?」

「下の下より提供されたモノです。何もないよりは良いかと」

「ふむ」


 長は鍵を取ると本を開けようと鍵穴へ。


「……エグサ。これは鍵が合わん」

「え? そんなハズは……っ……」


 ゴーマから一杯食わされたとエグサは頭を抱える。


「申し訳ありません。提供した者を始末して来ます」

「よい。これらは全てゼウスの元へ運ぶ。何がキッカケで己を思い出すかはわからんからな」


 長のあまりにゼウスに対する執着にエグサは思った事を尋ねた。


「差し出がましいのですが……本当にゼウスは『叡智』を持っているのでしょうか?」

「疑うのか?」

「かの者を鳥籠へ幽閉し、早100年あまり……未だ何も知らない童子のままです」

「大地が丸いと言ったのだ」


 長はかつて、エグサと同じことを思った。しかし、ゼウスがふと言った言葉に確信を得たと言う。


「この世界で大地が丸い事を知るのはエルフでも一部の者のみ。しかし、ゼウスは鳥籠から見える僅かな夜空の星の動きを見て、我らの踏みしめる大地が球体である事を口にした」


 大地が丸い事はエルフ達も長年かけて調べあげた事であり、ソレによって多くの事を優位に運んでいる。


「反応を与えれば間違いなく覚醒する。それが何になるのかは解らないが、その時に我々の制御下でなければならない」


 彼女が『叡智』だった頃、エルフ達は手が出せなかった。その理由はいくつもあるが、今はこの場に制御出来る段階で拘束が成っているのだ。


「エグサよ、疑うな。我々は後に『創世の神秘』を全て手に入れる」

「はい」


 世界にはエルフにしか解らない事がある。

 『創世の神秘』。それは世界を構築する五つの神秘。それを手に入れる事が出来ればこの世界を完璧にコントロールする事が可能なのだ。


「この下等で溢れた世界を正しく導くのが我々(エルフ)なのだ」

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