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ゴブリンと叡智の少女  作者: 古河新後
序章 叡智を求める者たち
13/21

第13話 これで俺達はこの世界で“家族”になった

「じゃあ、僕もそれに便乗しようかな」


 アランとゼウスが【創世の神秘】を求めて世界を回ることを決めた様子を見て、ユキミも二人に歩み寄る。


「君たちの側に居る方が強くなれそうだ」

「ゼウス、アイツはヤバいヤツだ。あんまり信用するな」

「やだなぁ、僕はただ“強く”なりたいだけさ。ソレ以上でもソレ以下でもない」

「価値観がイカれてやがるぜ」

「ふふ。貴方が来てくれるなら心強いわ、ユキミ」


 ユキミの実力は『エルフ』達との戦闘でゼウスも認知済みだった。


「オレモ一緒ニ行クゼ」


 ゴーマはピッ、と親指を自分に当てる。


「ゼウスヨ、オ前ハ危ナッカシイカラナ。オレガ側ニ居テヤラネェト」

「本当!? ありがとう、ゴーマ!」


 ここ一番のゼウスの笑顔にフッ、とゴーマは笑う。


「なんか、イラって来たのは俺だけか?」

「早速、嫉妬をするのは止めなよ。少なくともゼウスがこうして笑ってられるのはゴーマがキッカケだったハズさ」


 ユキミの言葉にアランも、やれやれ、とゴーマとゼウスを見て嘆息を吐いた。


「旦那方、出発スル前ニ、一ツ決メトク事ガアリマスゼ」


 ゴーマは重要な面持ちで告げる。ゼウスは、何かしら? と首を傾げた。


「オレ達ノ序列デサァ」

「は?」

「どういう意味だい?」

「どういう事?」


 その意図はゼウスも読み取れなかった。ゴーマは続ける。


「何カ物事ヲ決メル時ニ全員ガ、バラバラニ意見シタラ判断ガ遅レル場合ガアリヤス。今マデハ各々デ自分達ノ世話ハ出来キヤシタ。ケド……コレカラハ、ソウモ行カネェデス」


 ゴーマは今後はゼウスを護る関係から個人個人で動いては危険だと告げる。ユキミはそんなゴーマの意図を察した。


「そうだね。僕達は各々の分野に特化してる。状況によってはゴーマの意見を優先する事があるかもね」

「面倒くせぇな。別にその都度、動けば良いだろ」

「旦那方……ゼウスハ“家族(ゼファー)”ヲ失イヤシタ。ダカラ、オレガ助ケニナッテヤリテェ。ケド……腕ップシジャ護レナイ」

「ゴーマ……」


 ゼウスはゴーマを見る。

 ゴーマは真剣にアランとユキミに自分の本心を告げた。


「オレニハ妹ガ居ヤシタ。虫ケラミタイニ殺サレチマッテ……」


 妹が殺された時、殺した奴は笑っていたがソレに対して怒りも恨みも湧かなかった。

 自分達『ゴブリン』はそういうモノなのだと言う事を“理解”し全てに対して諦めたのだ。けど……


「ゼウスニ出会ッテ、ソレジャ駄目ダト気ヅイタンデス」


 今度こそはどんな事をしてもゼウスだけは護ってみせる。


「オレハ、ゼウスヲ護ル為ナラ命ハ惜シクネェ!」

「駄目よ! ゴーマ……そんなことを言わないで……貴方の命は(わたくし)と変わらない。貴方が死んだら……(わたくし)は……」


 ゴーマの決意に対してえぐっ、えぐっ、と涙ぐみ始めるゼウス。ゴーマは、泣イテバカリダナ、オ前ハヨー、とゼウスの頭を撫でた。

 その様子を見てユキミは微笑んでいると、アランが前に出た。


「ゴーマ、お前。ソレ本気で言ってんのか?」


 小柄なゴーマをアランは見下ろす。その眼は今までのゴーマの生き様からしたら、あまりにも“お前らしくない”と言う疑惑を含んでいる。


「アランノ旦那。オレハ騙シタリ、欺イタリシテ生キテキヤシタ。ケド、コレダケハ譲レネェッテモノモアルンデス」

「…………」


 アランは『エルフ』達がゼウスに向かった時に、ゴーマが逃げずに彼女の前に出た時の事を思い出した。


「ったく……お前にそこまで啖呵を切られたら俺の顔がねぇじゃねぇか」


 アランは腰のナイフを抜くと、胡座を掻いて座り、自分の手の平に浅く血が出る程度に傷つける。


「これは俺の家に伝わる“家族”の契りだ。お前も傷をつけて俺の手の甲に重ねろ」


 そう言って鱗のある手の甲を出すアランはゴーマにナイフを手渡した。ゴーマは迷い無くナイフで手の平を切ると、アランの手の甲に重ねる。

 すると、更にその上から同じ様に手の平を切ったユキミが重ねた。


「僕もこれは必要な繋がりだと思ってる」

「ユキミノ旦那……」

「へっ、そんくらいの理性がお前にも残ってたんだな」

(わたくし)も」


 その三人の一番上にゼウスの一番小さな手の平が乗せられた。

 四人の血が滴り一つの雫になって地面に落ちる。


「これで俺達はこの世界で“家族”になった。種族も血も関係ない。互いを支え合い、共に笑い、共に悲しみ、共に生きる」


 アランの言葉に全員が手を離す。

 俺達は他人じゃない。

 そう感じさせる瞳と、手の平に残る傷を見てゼウスはこの瞬間は決して忘れる事がないと感じた。






「それじゃ正式に“家族”になったワケだし早速決めようか」(ユキミ)

「何をだ?」(アラン)

「誰が長子なのか、だよ」(ユキミ)

「オレハ譲リヤス。トテモジャネェケド旦那方ヲ下ニハ見レネェ」(ゴーマ)

「はい! はい、はい! (わたくし)――」(ゼウス)

「じゃあ、僕は次男でいいや。アランが長男やってよ」(ユキミ)

「ジャア、オレハ三男デ」(ゴーマ)

「お、いいのか? 弟共、コキ使ってやるぜ!」(アラン)

「はい! (わたくし)! (わたくし)が――」(ゼウス)

「うん。僕は自分の研鑽で忙しいから、全体を見る長男は厳しいかな。ほら、長男って家長でしょ?」(ユキミ)

「あ! テメェ、そう言う事か! テメェが長男やれ!」(アラン)

「よろしく、アラン兄さん」(ユキミ)

「頼ミマスゼ、アランノ兄貴」(ゴーマ)

「クソッ! お前ら……俺を兄貴って言うな! これが条件だ!」(アラン)

「ささやかな抵抗だね」(ユキミ)

(わたくし)! (わたくし)が長女やるわ!」(ゼウス)

「「「お前は末っ子だ」」」(アラン、ユキミ、ゴーマ)

「ぶー! なんでよー!」(ゼウス)


 両手を上げて怒るゼウスに三人は、ははは、と笑った。

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