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休みの日の事件 3

 渡り廊下を渡りきって、母屋から離れの自分達の部屋に向かう途中で叔母のガルシャと会った。

「シーク、お帰りなさい。教官の仕事は大変ではないの?」

 母ケイレの妹のガルシャは、ヴァドサ家にずっと住んでいて家のことを手伝っていた。父から(きび)しく指導を受けるシークに対して、いつも気にかけてくれるし、久しぶりに会うと嬉しそうに笑顔を向けてくれる。

「叔母上、ただいま戻りました。」

「疲れたでしょう。それで、仕事は大変ではないの?」

 なぜ、父にしろ叔母にしろ、今日は仕事のことを聞いてくるのだろうか。

「大変な所もありますが、やりがいはありますし、楽しい所もあります。」

「楽しい?」

「はい。私が教えたことをみんなが身につけて、できるようになっていく所を見るのは、楽しいです。」

 叔母はシークの答えに笑顔を向けた。

「そう、それなら良かった。まだ、若いのに教官の仕事について、大変ではないかと心配していたの。案外、シークには合っているのかもしれないわね。」

 ガルシャの言葉にシークは(うなず)いた。

「…確かに叔母上の仰るとおり、そうかもしれません。案外、私に教官の仕事は合っているのかも。」

「それにしては、さっきは落ち込んだような顔をしていたけど。」

 鋭い叔母の前で隠し事はできなかった。子どもの頃からそうだった。

「…父上のことです。なぜ、私には会議に出席するように言って下さらないのでしょうか?私は挨拶に行きはしますが、後の会議には出させて貰えません。」

 一瞬、鋭い目でシークを見た叔母だったが、直後にふふ、と吹き出して笑った。

「シーク、あれは会議と言っても、雑談しているだけです。あんなのに出たって眠たくなるだけです。大勢の前で居眠りするくらいなら、自分の部屋に戻って休んだ方がゆっくりできるでしょう。

 お義兄様は、お前が弟達よりも、遅くまで仕事をして帰ってきたばかりだと分かっています。ですから、お前がゆっくり休めるように、下がりなさいと言ったのですよ。」

 叔母に言われても、心のどこかで納得できない部分もある。だが、今日の場合はそうかもしれない。

「そうでしょうか…。」

「そうですよ。ほら、そんなことで悩んでいないで、早く着替えなさい。」

「はい。」

 シークは板戸の廊下を歩いた。板戸の廊下は冬や大雨、強風と言った天気の時以外は、開けることになっている。廊下から自分の部屋のしきりの引き戸を開けて中に入った。シークの部屋は一つ下のギークと共同で使っている。

 剣帯を解き、剣を剣置きに置くと、マントを取り帯を解いて着替え始めた。制服を脱いで着替えていると、どやどやと足音が賑やかにしてきて、弟達がどっと戻ってきた。

「兄さん、また、開けっぱなしで着替えてる。」

「だって、誰もいなかった。閉めたら暗くなるから。」

 二歳下の弟のナークに注意されて言い訳すると、三歳下の弟のイーグが笑った。

「そういう所がのんきなんだよな、シーク兄さんって。まあ、女中さん達がうっかり来たら困っちゃうから、閉めといた方がいいよ。」

「ああ、そうか。気配がなかったからいいやって。」

 シークは言いながら、誰もいないことを確認してから閉めた。ナークとイーグが隣室から首を出してそれを眺める。

「なんで、誰もいないこと確認して閉めてんのさ?」

「いや、ギークも来るかもしれないから。」

「ああ、そっか。この間、後ろ手に閉めてギーク兄さんの顔挟んで怒られてたもんね。」

 隣同士で板一枚隔てているだけなので、会話が出来る。中着を着て帯を()めていると、ギークが戻ってきた。引き戸を開けるなり、困ったような表情を浮かべて言った。

「シーク兄さん、表にお客さんだよ。」

「え、来客?」

「うん。門の所でさ、門番のおじさん達が困って、たぶん、シーク兄さんのところに来たんだろうからって、声をかけてくれって。」

 シークは首を(かし)げた。

「誰だろう。」

 言いながら急いで上着を着た。

「訓練兵だと思う。なんか、ヴァドサ殿はいますかって言ったらしくて。ここは全員、ヴァドサ殿だって言われて、半泣きで教官はいますかって言ったらしい。」

 なんとなく、誰か分かったような…。

「もしかして、シーク兄さん、誰か分かったの?」

 ギークが面白そうに聞いてきた。

「ああ、たぶん。そんなことを言いそうなの、一人しかいない。」

 シークが廊下に出ると、ギークもついてきた。表に出て行くと、なにやら玄関に至るまでの庭の途中で、使用人達が困って立ち尽くしていた。

 ヴァドサ家には玄関の横にいくつかの取り次ぎ用の小部屋がある。そこは、行商人とか、簡単な用事、すぐに済む用事の人と対面する小さな客間だ。応接間に通すほどの用事でない場合に使う。そこに使用人達が通そうとした所、庭の途中で家に上がって何かするほどの大した用事じゃないから、ここでいいとか言い出したらしい。

 ヴァドサ家は大きいので、その大きさに恐れをなしたようだ。気圧されてしまったのだろう。


 物語を楽しんでいただけましたか?

 最後まで読んで頂きましてありがとうございます。


                               星河ほしかわ かたり

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