休みの日の事件 1
題名にあるとおりスピンオフ作品です。そのため、本編をお読みになっていらっしゃらない場合は、本編をお読みになることをおすすめします。そうでないと、内容が分からないと思います。
一応、読めはしますが、どういうことかな? という部分がかなりあるのではないでしょうか。
そんなこんなで、ロルはなんとか国王軍になじんでいった。
そして、驚愕の事件が勃発。シークにしてみれば、事件だった。前代未聞の事件。
国王軍の休みは、十日に一回の休みの他に、長期の休みが半年に一回ずつある。そして、時と場合によっては、給料を返上すれば二十日を限度に休みを貰える。二十日、というのは遠方で身内が亡くなった場合、などがあるからである。
その半年に一回の休みがきた。
シークは春入隊で、指導の教官もずっと春入隊の者は秋に帰るという回転で日程が進む。これから上に昇進すれば、その限りではなくなるし部署によっても異なるが、そうでない場合は、春と秋に長期の休みを貰える。
新兵達も初めての休みだった。気をつけて帰るように、と色々と注意をしてから帰した。シーク自身も報告書の提出など、さまざまな用事を済ませてから、帰宅した。休みの初日、新兵達を朝から帰しても、教官が帰るのは夕方になってからである。
訓練は一度、全国の新兵がサプリュに送られて行われる。国王軍が設立された当初は、それぞれの地域で行われたようだが、実力にばらつきが出ることが分かり、サプリュに送って訓練することになった。
そして、訓練が終わって一般兵に昇格すると、サプリュに住んでいる兵士は、自宅から通うことが定められた。いくらでも寮の部屋を確保し、食費などを減らすためである。
ただ、教官やその他の役職にある者達はその是非ではない。寮に住み込みである。シークも教官なので寮住まいだった。片づけてから部屋を後にする。
まだ、日差しが残り日も長い。表門からではなく、裏門から屋敷に入る。
「お帰りなさい。ようやく、休みですか。」
門番をしている使用人が声をかけてくれる。
「ただいま戻りました。お疲れ様です。」
「お帰りなさい、シーク坊ちゃん。」
古い使用人はみんな、坊ちゃん嬢ちゃんだ。
「お帰りなさい、シークさん。」
そんなに親しくないというか、古い人達ほど砕けられない使用人達は、ヴァドサ家の子供達を“さん”付けで呼ぶ。それが一番無難だからだ。挨拶しながら、広い裏庭を歩いてようやく玄関に至る。
「お帰りなさい。」
シークが帰ってきたという連絡を受けて、幾人かの使用人達が出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。」
「荷物を持っていきましょう。」
礼を言って鞄を預ける。教官になると休み中も仕事がある。訓練の進め方を、考えておかなくてはならないからだ。新たに訓練が始まる六日前には提出しておかなくてはならない。つまり、教官になると休みは他の隊員より、六日短い。六日前から実質仕事が始まり、軍に行って事務仕事などをするのだ。
「シーク坊ちゃんのは重いねぇ。」
古株の女中のロナが笑う。
「重いなら別に持っていかなくても。」
「なあに、大丈夫ですよ。それより、足を洗って下さい。ギーク坊ちゃんは午前中に帰ってきてますよ。」
一つ下のギークを含めた一つずつ下の弟達三人も春入隊だ。ヴァドサ家からシークに続いて毎年、一人ずつ続けて四人入ったので、ちょっとした噂になった。みんな十五歳の一発入隊だったから、コネだと悪口を言う人がいたくらいだ。従弟達も入っているので、結構な数である。
「シーク兄さん、お帰りなさい。」
パタパタと軽い足音がして、一番下の妹が廊下を走ってきた。シークとは十三歳差である。この時、八歳だ。
「ただいま、カレン。」
カレンは嬉しそうにシークの首に抱きついてきた。
「カレン、ごめん、先に足を洗わせてくれ。今、つけたところだから。」
「うん。布巾、取ってあげる。」
カレンは使用人が持っていた布巾を取り上げて、手渡してくれた。
「ありがとう、助かるよ。」
「うん。へへ。」
ちょっと礼を言って褒めただけで、嬉しそうに笑う。シークは足を洗って拭くと、靴を揃えて家に上がった。
ヴァドサ家では土足で家に上がらない。そもそも、サリカタ王国は土足で上がらないのだ。元々、草原に住んでいた頃は、絨毯の上に座っていた。
しかし、気候の変化によって雨が多くなると、草原で絨毯の上に座って暮らせなくなった。そこで、兄弟族の森の子族のように、定住して高床式の家に住むようになった。土足で家に上がると家中が泥だらけになるため、靴を脱いで上がるようになって今に至っている。
ただし、いくつかの例外がある。王宮だ。王宮ではすぐに行動できないといけないので、王や王族が居室に入る所で靴を脱き、室内履きで暮らす。大貴族など、大きな屋敷がある所や施設を持つカートン家などでは、この方式を採っている。
軍の寮では、室内履きと外履きとある。すぐに履き替えられるように靴をきちんと管理することになっている。
「カレン、大きくなったな。」
半年近く会っていないので、成長具合が分かる。カレンに言って頭を撫でてやると、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
「ねえ、シーク兄さん、後でお馬さんごっこして。」
「お馬さんごっこ?」
シークが聞き返した時、廊下の向こうから母のケイレがやってきた。
「いけません、カレン。」
「母上、ただいま戻りました。」
急いでケイレに頭を下げる。ヴァドサ家が古い名門だと言われる理由はあった。まず、礼儀にうるさい点である。親子の間でも敬語が基本だ。さすがに兄弟間ではそこまでではないが、長男には敬語である。軍の同期の友人達に家でのことを話したら、物凄く驚かれて、普通だと思っていたことが違うのだと初めて知った。
ちなみに兄弟が多いので、単純に“兄上”が長男のことを指す。後は○○兄さんで区別する。
「言ってるでしょう。国王軍の兵士の兄さん達に、お馬さんごっこをさせてはいけません。」
「…はい。」
カレンは唇を尖らせながらも小さな声で返事をした。シークは後でこっそり、してあげてもいいなと思う。一番下の子達には可哀想だと思うからだ。毎日、一緒にいれるわけでもない。
「シーク、父上のほか、皆さんがお待ちですよ。ご挨拶に行ってらっしゃい。」
「はい。分かりました。」
「みんな、武道場に行っちゃうの?」
カレンは不満そうだ。
「カレン、後で遊んでやるよ。」
「シーク、甘やかしてはいけません。カレンは毎日、ギーク兄さん達に遊んで貰っているんですから。」
物語を楽しんでいただけましたか?
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語