ロル少年 3
「ジンナ・ミルドはお前か?」
態度と口の悪い青年が悪ぶって偉そうに頷いた。年上の若者だがシークにしてみれば、いかにも子どもっぽくておかしい。
「ああ、俺だよ。悪いかよ…! へっ!」
「ああ、悪いな。態度も口も悪い。しっかり、一から教えないといけないようだ。」
シークの答えにミルドは、ふん、と横を向いて座り込んだ。
「それでお前ら、なぜ座っている?さっきから、ずっと立てと私は言っているはずだが。」
指摘すると、態度の悪い少年二人は立ち上がった。
「もう一回、投げ飛ばされたいか?」
「へん! 何が投げ飛ばすだ。俺が誰だか分かっているのか?ジンナ・ミルドだぞ。あのジンナ家の血筋なんだぞ! 偉そうにしても、後で泣きをみるさ。泣きついて申し訳ありませんでしたって、言ってきたって知らねぇぞ!」
シークはため息をつくと、アクトを呼んだ。
「ナブ、やっていいな?」
「私には指導しきれないので、教官にお願いします…!」
半泣きでアクトが頭を下げた。きっと、寮長のアクトがミルドにやられたのだろう。
「ジンナ家だかなんだか知らないが、ここがどこだか分かっていないのはお前のようだ。」
シークは言って、ミルドの胸ぐらを掴んだ。
「なんだよ、やる気か! この…」
ミルドが最後まで言わないうちに、投げ飛ばした。地面に転がり、さっきより強めに地面に叩きつけたので呻いている。
「……くそぉ、ヴァドサ家の野郎って馬鹿じゃねぇのかよ…! ふざけ…!」
「まだ、無駄口を叩くか。知らないぞ、骨が折れても。一応、手加減してやるが。」
「! ぎゃ! ぐぁぁ!」
シークがちょっと強く柔術技で腕を絞めると、ミルドは大げさに喚いた。
「偉そうな割に大げさだな。かなり、手加減してやってるぞ。それで、何だって? さっき、なんて言おうとしていたんだ?」
わざと聞き返してやる。
「…く! ぐぅぅぅ!」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ミルドは呻いた。
「無駄口を叩かず、言うことを聞くか?」
とりあえず、ミルドが頷いたように見えたので、手を緩めてやった。とたん、唾を吐きかけてきたので、シークは容赦なくミルドを寝技で締め上げ、あっという間に気絶させた。
立ち上がると命じる。
「水を持ってこい。」
寮長達が「はいっ!」と返事をして動き出す。新兵数人を連れて、特にアクトが大急ぎで走って行った。桶に数杯、水を持って戻ってきた。
「目覚めるまでかけろ。」
シークの命令で気絶しているミルドに水がかけられる。少しして、ミルドが目覚めた。
「目覚めたようだな。起きろ。立て。」
ミルドが今度は、素直に一応立ち上がった。
「座れ。遅い、やり直しだ。」
ミルドが睨みつけてくるので、すかさず、投げ飛ばした。もちろん、軽く手加減はしてやる。それでも、水でぬかるんだ地面に投げ飛ばされて、泥まみれになった。
「立て。」
さっきよりは早かったが、まだ遅い。
「もう一回やり直し。座れ。」
まだ、ふて腐れて動きが鈍いので、足技で転がした。
「立て。」
ようやく、まともに立ち上がった。だが、まだまだだ。
「座れ。」
座る時もようやく、自分で座った。
「立て。」
何回か繰り返し、とりあえず普通くらいになった所で、他の態度の悪かった四人も加えて起立の練習をさせた。ジンナ家の息子でも容赦なかったので、他の新兵達の動きは良かった。トベルンク家の傍系の息子も文句を言わなかった。計算が立つらしく、言うことを聞いた方がいいと判断したのだろう。
「よし、ようやく他の者達と合わせられるな。」
一番から六番までの寮の新兵達を立ったり、座らせたりするだけで、結構、時間はかかる。だが、これが肝心なのだ。一番最初が肝心だ。
「ナブ、運動着に着替えに行ったオスターとヒルメが遅すぎる。おそらく、運動着の隠し場所を探し出すのに手間取ってるんだろう。予備の運動着に着替えさせ、二人を連れてこい。」
「はい、分かりました…!」
アクトは大急ぎで走って行く。その間に、シークは新兵達に並ばせる訓練を始めた。
「一列縦隊に整列…!」
バラバラで動きが悪い。
「やり直し! もう一度ばらけろ! もっと早く動け…!」
「一列縦隊に整列…!」
シークは整列をさせた後、広場を走らせ始めた。その間に、呼んだ寮長達を集める。
「お前達に聞く。ナブはジンナ・ミルドにやられたのか?」
彼らは気まずそうに顔を見合わせた後、頷いた。
「そうみたいです。ナブの実家は店でしょう? トベルンク・ミコーとつるんでいたから、まずかったみたいです。トベルンク・ミコーは入隊前に、国王軍の関係者の情報を見ていたみたいで、どうも、店やなんかの関係者の家計状況とか、把握しているらしいんです。」
シークは眉根を寄せた。
「…まさか、大量の情報になるはずだ。全部覚えているのか?」
「分かりませんが、少なくともナブの実家の店のことは分かっていたようです。言うことを聞かなかったら貸さないぞと言ったらしくて、そうなれば、ナブの実家の店の状況が悪くなります。」
まずい状況だ。つまり、トベルンク家は国王軍も自分の思い通りに動かせるよう、頭のいい親族の若者を国王軍に入隊させたことになる。
「本当の話か?」
「はい。本人に聞けば分かると思います。」
「つまり、トベルンク・ミコーは入ってすぐに、つるんで都合のいい駒として、ジンナ・ミルドを仲間にし、他に手足を見つけ、寮長のナブを抑えたと。
そして、ジンナ・ミルドの自尊心を満足させ、味方につけておくために、一緒になってオスターをいじめることにした。そういう状況だということか?」
寮長達は顔を見合わせた。
「…そこまでは…分かりませんが。」
「だが、起きている状況とお前達の話を合わせれば、そういうことになるぞ?」
その時、アクトに連れられて、ロルとラオが戻ってきた。
「ただ今、戻りました。遅くなって申し訳ありません…!」
アクトの声にロルとラオも一緒に頭を下げた。
「分かった。オスター、ヒルメ、お前達も一緒に走れ。」
「はい。」
二人を走りに合流させ、その間にアクトに確認すると、そうだということだった。
シークはもちろん、そのことを上に報告した。上は受理したものの、問題はなかったことにされた。
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最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語