ロル少年 2
座っている者達だけが、五番寮の者ということになる。
「つまり、お前らが五番寮の者ということだな。オスターと同じ部屋の者は?誰だ?」
ニヤニヤ笑いばかり浮かべて返事もしない。
「もう一度聞く。オスターと同じ部屋の者は誰だ?」
五番寮の者は誰も返事をしなかったので、シークは五番寮以外の新兵の一人に命じた。
「お前、一番から六番寮の寮長を全員、呼んで来い。寮長がどこにいるか、分かっているか?」
その新兵はロルよりしっかりしているらしく、はい、とすぐに返事をした。
「寮が並んでいる区画の一番手前に、寮長達の会議室などがあります。そこで今は寮長会議をしているはずです。」
「その通りだ。一番から六番までだ。呼んでこい。ヴァドサ・シークが呼んでいると言え。ここから走って行けば…そうだな。三百数えるまでには行って戻って来れるだろう。それまでに来なかったら、新兵達が数人、骨折しているか何かなっていると思え、と言え。」
新兵の少年が目を丸くした。
「行け…!」
シークが短く命令すると、彼は慌てて走って行った。
「五番寮、起立…!」
もう一度、シークは命じた。ようやく、一人二人が起立した。
「もっと、早く、起立!」
さらに、二、三人が立ち上がる。
「さっさと立て!起立!」
徐々に立つ人数が増えていく中、最後まで五人の若者達が立とうとしなかった。態度の悪い少年が二人と、シークより年上の新兵が三人。
シークはその五人の目の前に立った。
「聞こえないのか?立て。起立!」
「…聞こえてますって。」
ようやく、態度の悪い一人が答えた。へらへらしている。シークは教官の中でも忍耐強い方である。他の教官だったら、とっくに足か手が出ているだろう。そのシークの額に青筋が浮かんだ。
「ほう。聞こえているなら、なぜ、立たない?」
「立ちたくないからだよ。あんたの言うこと、聞きたくねぇし。」
「俺達より、年下だろ。」
「教官なんて、偉そうにしてるけど、本当に強いのかよ。」
シークは怒りを抑え、彼らに聞いてみた。
「では、座れと言ったらお前らはどうする?」
一瞬、顔を見合わせた彼らは、へらへら笑いながら、二人が立ち上がろうとした。その瞬間、シークは続けざまに二人を地面に投げ飛ばした。
何が起こったのか分からず、態度の悪い残りの三人は地面に倒れた二人とシークを見比べた。他の新兵達も同様に固唾を呑んで見守っている。その視線がこっちに向いているのは分かっていた。
「…な、何しやがるんだ!」
威勢の良い一人が向かってこようとしたので、シークはすっと腕を出した。指で相手の額を弾く。
「!」
相手は後ろにすっとんで額を抑えた。
「…いっってぇぇ!」
「な、何だよ、何したんだよ、この野郎!」
他の二人にも同じ、デコピンを食らわした。同じように痛がる。その時、足音が地面の軽い振動と共に走ってくる音がしたので、シークは立ち上がった。
「ヴァドサ教官…!お呼びだと言うことで参りました…!」
寮長達が急いで並んだ。寮長は大抵、訓練を終えて、一般兵に昇格した者の中から選ばれる。転がっている新兵達を見て、寮長達の間に一気に緊張感が高まった。
「お前達、新兵に軍の規律や生活について、きちんと指導したんだろうな?」
「はい…!一応、伝えてあります。」
ほとんど全員が同じように唱和する。新兵達が寮長達の緊張具合に驚いている。
「その割には、だらだらしているな。特に五番。さっそくいじめだ。新兵の運動着を隠し、その上、先輩に当たる者もいじめに加担するという状況のようだ。五番の寮長はアクト・ナブだな?どういうことだ?」
名指しされたアクトは、震えながら一歩前に出た。
「申し訳ありません!私の指導不足です!」
勢いよく頭を下げる。新兵達の名前を見ながら、納得した。サリカタ王国一古い銀行のトベルンク家の分家の息子と、宝石商ジンナ家の傍系の息子がいて、金持ち同士気が合ったらしく、さっそく取り巻き連中を作ったようだ。二人ともシークより年上の若者達である。だから、寮長でさえ馬鹿にされて、規律が行き届かなかったらしい。
「…くそ、なんだよ、お前。」
投げ飛ばされた後に、ようやく起き上がった青年が毒づいた。どうやらコネで入ったらしく、体力が全くなってないようだ。
「トベルンク・ミコーは誰だ?お前か?」
「…く、違ぇよ、そんな間抜けな名前…!」
「…間抜けで悪かったな。」
デコピンで額を抑えていた青年が不服そうに答えた。
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星河 語