休みの日の事件 8
説明し終わった時、廊下に足音が響いてきた。
「あー、やっぱりいない…!邪魔しに行ったらだめじゃない…!」
引き戸を開けた音の後に大きな声が聞こえた。さささ、とやってきて、シークの部屋の前に立つ。
「失礼します…!」
大きな声で訪ったが、戸は開けっぱなしだったので、誰が来たか分かっている。シークにとりついている子供達がびくついた。怖い姉の登場だ。シークの妹、十二歳のリランだ。
「リラン、久しぶり。落ち着いて。大丈夫だから。」
シークが振り返って言うと、
「…お帰りなさい、でも、シーク兄さん、帰ってきたばかりなのに、しかも、お客さんがいるのに、五人の子達の相手は疲れるでしょ。他の兄さん達がいるっていうのに。シーク兄さんのところばっかりに行くんだから。ダメじゃないの…!」
一気に何倍も返ってくる。
「リラン姉さんこわい。」
「こわい、こわい。」
「おにみたいだもん。」
「いっつも怒ってるの。」
「おにー。」
「おにー、おにー。」
シークがいるので、いつもよりは叱られないと思っている弟妹達が、ここぞとばかりに言い返す。
「こら、お前達もリラン姉さんの言うことを聞きなさい。リランも大丈夫だから、ゆっくりしたらいい。いつもお前が苦労しているんだから。」
シークが諭すとふう、とリランは息を吐いてうつむいた。
「でも……やることない。やることっていったら、剣術の練習か子守だもん。それ以外をやれって言われてもできない。」
同年代の子供達も、近くにはあまりいない。リランの年代の子供が近所にもいなかった。唯一手習い塾にいた友達は、引っ越してしまった。
「そうか、姉さん達は歳が離れているし、ミーナも引っ越してしまったから、友達がいないもんな。」
リランはそこにしゃがむと、かがみ込んで頷いた。普段、頑張って我慢しているので、緊張が解けたのかリランは泣き出した。
「…シーク兄さんしか…分かってくれない。大変なのに、みんなわたしがやって当たり前だって思ってるの。」
「な…そんなことはない、リラン。」
ギークが慌てて言う。
「リラン、お前もこっちへおいで。」
「…でも。」
「そこにいたら同じだ。入って戸を閉めた方がいい。」
シークが言うと、リランは腕で涙を拭きながら、中に入って戸を閉めた。戸の近くに座り込む。いつも怖い姉が泣き出したので、弟妹達が困った様子になっている。シークは左手でそんなリランの頭を撫でてやる。
「よく頑張ってるよ。」
するとリランは声を出して泣き出した。よほど我慢していたらしい。
「…ありがとう。シーク兄さん。」
しばらく泣いていたリランは、涙を拭いて顔を上げた。
「…行かないと。」
「もう、行くのか?」
「だって、ご飯の準備に行かなきゃ。」
「そうか。指を切ったり、怪我をしないようにな。」
「うん。」
すっかり立ち直ったようだ。シークはリランの顔を見て確認した。リランは立ち上がると、弟妹達に言い聞かせる。
「いい、お客さんがいるんだから、シーク兄さんを困らせたらだめなんだからね。隣のナーク兄さん達の所に行きなさい。」
「……えー、やだー。」
「ナーク兄さんは、本ばっかり読んでてつまんない。」
「イーグ兄さんは、遊んでくれてもつまんない。なんか、つまんない。」
ティーク、カレン、テラからダメ出しが出される。
「ギークは?」
シークが尋ねると、ちら、と子供達は見てから小声で答える。
「…だって、ギーク兄さんはこわいもん。」
「怖い?」
「うん。」
弟妹達に一斉に頷かれ、ギークはため息をついた。
「ああ、悪かったよ。シーク兄さんみたいに子供達にモテないもんで。私のことを怖がる割に、リランの言うこと聞かないよな、お前達。もう少し、リランの言うこと聞けよ。リランの言うこと聞かないで、騒いでいるから注意しに出て行くんだろうが。
怖い兄さんが出て行くのが嫌だったら、リランの言うことを聞くんだな。」
三歳のゼノと五歳のダレスは、まだ我関せずという感じでシークの膝の上に座っているが、背中のティークと両脇にいるテラとカレンは、ギークの言い分に押し黙った。
「とにかく、シーク兄さんとお客さんに迷惑をかけたら、ダメなんだから。」
リランは言い聞かせて立ち去ろうとしたが、はっと思い出した。
「大変、パレン姉さんの薬を持って行かなきゃ。」
パレンは十四歳の妹だ。病弱で子供の頃から、ほとんど寝たきりである。
「パレンの具合はどうだ?」
「…あんまり良くないかな。シーク兄さん、様子を見てきたら?私がここにいるから。」
ギークが提案した。つまり、それくらいパレンの具合は悪いのだ。
「お前達、お利口さんにしていろよ。」
シークはゼノとダレスをギークに渡し、ティークを降ろしてカレンとテラの頭をぽんぽんと撫でる。
「オスター、すまないな。」
ロルをシークは振り返って謝った。せっかく来たのに、構ってやれない。
「…いいえ。おれの方こそすみません。」
休みでも忙しそうだと思ったのだろう。ロルは慌てて言った。
「私がロル君と話しているから、大丈夫だよ。結局、まだ、パスージの話を聞いてないし。」
「うん、分かった、頼む。リラン、私がパレンに薬を持っていくから。」
ギークに言った後、リランにも言う。
「分かった、ありがとう、シーク兄さん。」
「わたし、先に行って、台所のみんなに言っておくね。」
「ああ、頼む。」
「うん。」
リランは先に出ていった。
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最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
星河 語




