休みの日の事件 7
三人は一緒に廊下を歩き、ロルは物珍しそうにきょろきょろしていた。特に渡り廊下に驚いていた。
「…こ…これは、何ですか?家の中に橋?」
シークとイーグは苦笑いした。
「確かに、言われてみれば橋かもしれない。」
「シーク兄さん、この子、面白いね。」
恐る恐る渡っているロルにシークは思わず言う。
「大丈夫だ。壊れたりしない。」
「でも…床はぴかぴかだから、歩いたら、足の跡がつきます。靴下をはいていても。」
「いいんだ、気にしなくていい。どうしても気になるなら、明日、掃除を手伝ってくれてもいいんだぞ。」
シークの言葉にロルが顔を上げた。
「教官も掃除するんですか?」
「もちろん。家にいる間は誰でも掃除してる。」
シークの代わりにイーグが答えた。
「…誰でも?」
「そうだ。父上も母上も掃除する。」
シークの答えにロルは目を丸くした。
「えーと…教官の父ちゃんも…あ、父上様もですか?」
イーグが吹き出した。
「おい…。」
シークがイーグに一言言っただけで、イーグはすぐに察した。
「分かってるよ、シーク兄さん。ごめんな、馬鹿にしたわけではないんだ。誰かさんに似ている気がして。」
「……。」
首を傾げているロルの隣でシークは少し、憮然とする。イーグにロルに似ていると言われて、自分はこんなにのんき者ではないはずだ、と心の中でシークは否定した。
三人が廊下を歩いていると、部屋の中からひょいひょいひょい、と頭が出て来る。弟妹達だ。いちいち紹介しながらようやく自分達の部屋についた。
「どうぞ、私の部屋だ。イーグ、ありがとう。」
「うん。何でも無いよ。じゃ、ゆっくりね。」
イーグはシークとロルに言うと、隣の部屋に戻っていった。
「…あのう、お邪魔します。あのう、ごめんなさい。」
ロルは恐縮している。
「オスター、さっきも会ったが、こちらは私のすぐ下の弟のギーク。こちらはロル・オスターだ。」
「よろしく、ロル君。さっきは笑ってごめん。」
「あ、その…いいえ。」
恐縮して突っ立ったままのロルを、奥に座らせるとシークは戸を閉めてロルの向かいに座った。
「ギーク、ごめん。」
「うん、事後承諾だな。でも、いいよ。その子、面白いから。それで、どこの出身かは分かった?」
「たぶん、パスージだ。」
シークの答えにギークが目を丸くした。
「へぇ、凄いなシーク兄さん。よく導き出したね。」
「よく話を聞いたら、昔の街の名前を知っていた。」
「そうなんだ。パスージってどんな所?」
シークが答えずに黙っていると、ようやくロルは自分に振られた話なのだと気が付いた。
「…え?」
「はは、だから、パスージってどんな所?南部の方の出身の人って、あんまりいないんだよ。私の同期にもパスージ出身の人はいないし、スージもいないかな。プーハル出身の人はいるけど。」
ギークにもう一度聞かれて、ロルは固まってうつむいていた顔を上げてシークを見上げた。
「オスター、ここは別に軍じゃないし、気楽にしていい。足だって胡座でいい。」
「は、はい。あの、弟さんも国王軍にいるんですか?」
「あのね、弟さんはたくさんいるから。私はギーク。名前で呼んでくれるとありがたいよ。」
ギークに言われて、ロルは恐る恐る頷いた。
「…えーと、ギークさんも国王軍にいるんですか?」
「うん、そうだ。」
「みんな、そうなんですか?」
ロルは考えながら聞いている。
「もしかして、何人もいるから混乱してる?シーク兄さんは五男だけど、五、六、七、八まで続けて一歳違いで全員、国王軍に入隊してる。」
「へぇ!そ、そんなにたくさん、入隊しているんですか…!?」
ロルはびっくりした声を出している。
ロルがギークと話している間に、シークは体の向きを変えて引き戸を開けた。
「誰だ、様子を伺ってるのは?」
開けた途端、ととと、と小さな足音が複数する。同時に小さな頭がいくつも引っ込もうとした。
「逃げなくていい。おいで。」
「ほんと?」
「おいで。」
シークが手招くと弟妹達と姪甥達が、とことこやってきた。
「シーク兄さん、お帰り。」
「うん、ただいま。みんな、元気にしてたか?」
「うん。」
カレンのすぐ上の九歳の弟のティーク、カレンにテラ、テラの弟達のダレス五歳ととゼノ三歳だ。ちょろちょろ入ってきて、五歳と三歳はシークの胡座の膝の上に座って収まる。ティークは背中に負ぶさり、カレンとテラは右腕と左腕の中に収まった。
あっという間に子供達だらけになったシークを見て、ロルが絶句している。
「…教官のお子さん達ですか?」
一瞬、みんな言葉を失う。子供達も何を言ってるんだろう、ときょとんとしている。ギークが吹き出した。
「さっき、紹介しただろう。弟、妹、それと甥と姪だ。こっちの膝の上の二人が甥で、左腕が姪、右腕にいるのが妹で、背中にいるのが弟だ。」
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星河 語




